第1戦
第2章の視点人物は死村 ??です。
終末世界の最前線で戦うギシンの生き様、
そして戦う理由をぜひご覧頂ければと思いますm(__)m
―――○○年○○日○○時、異世界からの災厄は日ノ本○○県○○市○○地区に降り立たん。
その背には四枚の羽根が燦然と輝き、放たれる業火によって彼の地は煉獄へと導かれん。
終劇の書 第954章19節
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ビィーッ!!ビィーッ!!ビィーッ!!
けたたましい警報音が鳴り響く。
オレは寝ぼけ眼で、枕元にあったデジタル時計を引き寄せる。
0時24分。
……チッ、まったくこんな夜中に攻め入ってくるたぁ、本当に空気の読めねぇ無粋な獣だ。そんなにオレ達を滅ぼしたいのかい?
だったら仕方ねぇ。返り討ちにして、あの世にお帰り頂くだけだ。
オレは勢いよく跳ね起きると、ハンガーから愛用の皮ジャンを引っ掴み、胸ポケットからグラサンを取り出し装着する。
「うっし、準備万端だ!! どっからでもかかってきやがれ!!」
寝起き十秒で全ての準備を整え、さらに気合まで全開に出来るのは、別にオレがギシンだからって訳じゃねぇ。ただこのオレ様がとにかく凄すぎるだけだ。
「ねぇケ……K・S」
横で寝ていたステディの舞子が、毛布の中で身じろぎする。
毛布の上からでもその肢体が描きだす曲線は、ふるい付きたくなる程エロかった。
へっ、どうやら寝起きでオレ様の雄姿を見たもんだから、ウットリしちまってるようだな。ちょっと吊り上がった猫目が、熱を帯びたようにオレを見つめていやがる。
「なんだ? 惚れ直したか?」
「バカ、パンツくらい履いてからイキがりなさい」
ん?
オレは自分の股間に目を向ける。
おっといけねぇ。
どうやらここにも空気の読めない獣がいたようだぜ?
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「……ブリーフィングは以上になります。何かご質問は?」
作戦会議という名の拷問がようやく終わりを告げる。コイツ等はオレ様の貴重な時間を奪って、何がしたいんだ?
「……要はよぉ。一時間後に、伊豆高原に出没するクソケダモノヤローを、オレがやっつけるだけの話だろ? 作戦なんていらなくねぇか?」
「財団本部から送られてくる予言書の情報では、勝敗までは記述されていません。だから、我々現地の財団員が全力でギシンをサポートする規則になっているんです」
まったくご苦労なこって。
「別に、お前ら雑魚がいくらいたって役にたたねぇよ。それより依代をもっとよこせ」
依代―――
それは終末獣の攻撃をかく乱させる力を持つ、デコイみてぇな物体。
なんでそうなってんのかは全くわかんねぇが、財団本部から各地の戦場へと定期的に支給されてる。一説によると、慈恩のババアがその製法を伝えたオーバーテクノロジ―っつう話だが、それも眉唾だな。
「……残念ですが今回確保できた依代は三体だけです」
チッ、役にたたねぇな。
「あ~、まぁそんだけありゃ十分だろ。うっし、じゃあちょっくら行ってくっから、お前らはここで大人しく待ってな」
「しかし」
「シャラップッ!! 口ごたえすんじゃねぇ!! テメェ、オレ様を誰だと思っていやがるんだ? 言ってみやがれ? ただし選択肢を間違えたらタダじゃすまさねぇからな、コラ?」
頭の禿げ上がった財団員は、一瞬だけ悔しそうに顔をゆがめて。
「ケ」
「あああん!!?」
迂闊に口を滑らせかけていた。
「……K・S様です」
危なかったな。そうだよ。オレ様を呼ぶときはイニシャルじゃなきゃ承知しねぇ。
「それで?」
「さ、最強にして唯一無二の神威の持ち主、終末獣撃退スコア№1のK・S様です」
まあいいだろ。ギリギリ及第点をやるぜ。
「ケッケッケッ、分かってりゃいいんだよ。ならお前ら雑魚どもは大人しく、この基地でママのオッパイでも吸って待っていやがれ!!」
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十分後、オレは舞子の運転するジープの助手席にいた。
「……まったく素直じゃないんだから」
「あぁん?なんのことだ?」
「隠さなくたっていいよ。皆を巻き込みたくなかったんだろ?アンタの本心なんて手に取るように分かるんだから。ギシンってのは案外お人好しなんだね」
……何かスゲェ勘違いされてる。
この女は体は極上だが、オツムの方はそうでもねぇらしい。
「ケッ、訳わかんねぇことばっかり言ってると、ケツ揉むぞ」
「いいよ。好きなだけ揉みな」
「……口の減らねぇ女だ。悪いがこっちから願い下げだ。戦いの前は気を散らしたくねぇ」
「今さら尻一つで動揺するタマかい?」
お前の尻ならあるいは、な。
「……アンタも人並みに緊張するんだ」
それ以上余計な気を回されたくなかったから、オレは舞子を無視するために窓の外に目を向ける。
空気が澄んでるせいか、夜空にはアホみてぇに星が瞬いていやがった。
星空の下でのバトル、へっ、なんだか最高にシビれるシチュエーションじゃねぇか!!
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「うっし、もういいぜ。とっとと消えな」
終末獣の出現予測ポイントに到達したからもう、コイツには用はねぇ。
オレはとっとと舞子を追い返す。
「バカ言わないで。まだ全部の依代を設置できてないし、戦いだってモニタリングしなきゃいけないわ。それに帰りの足は必要でしょ?」
殊勝な心掛けだな?
オレが完全勝利するのを微塵も疑ってねぇのは、高ポイントだ。
それに知ってもいやがる。
オレの傍が世界で一番安全だということをな。
全く、女ってのは合理的なイキモンだ。
なら、とっとと終わらせてまたヒィヒィ言わせてやるとするかっ!!
……それにしても依代、か。
オレはジープの荷台に一つだけ残っている大型のジェルミランケースの事を考える。
一体、中身はどうなってやがるんだろうな?
まあ、開けたら効果が無くなる玉手箱っつうから、あえて開けて見ようとも思わねぇがよ。
だが否定はしねぇ。現にコイツには何度か世話になってる。
それにオレは使えるものなら、なんでも遠慮なく使わせてもらう主義だ。
終末獣からしたら、こんな代物が人間側にあるのはズルかもしれねぇが、知った事じゃねぇ。
なんせ、ズルはばれなきゃズルじゃねぇんだからな!!ケッケッケッ!!
「ん?…………おいでなすったか」
んな事考えてたら、何の予兆もなく、いきなり空に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
そしてその中から、美的センスの欠片もねぇ珍獣がゆっくりと姿を現しやがった。
蛾の幼虫のようなサイケデリックな配色に、怪獣そのものの体躯。だが顔はあれだぜ、コブだらけの深海魚ときたもんだ。
本当にお前が友好を求めに来た隣人じゃなくて、破壊を主目的とするバケモノでよかったと心の底から思う。
もし、お前らと仲良くしなきゃいけねえなんて羽目になったら、ストレスフルで今ごろオレはおっ死んでるだろうからな!!
……おっと、そうだ。
消えないうちに一応、羽の枚数でも勘定しとくか。
終末獣が出現した際に、その背後には輝く羽が観測される。
ソイツはものの数秒で消えちまうから、急いで数えねぇといけねぇ。
たしかさっき聞いた予言では羽の枚数は…………………ん?
六枚?
なんか多くねぇか?
「バルバロス級……気をつけて」
わぁーってるつうの。
羽の枚数で終末獣の大体の強さが把握できる。
えっーと、たしかバルバロス級は・・・・
まあアレだ。必要ねぇ知識ってのは総じて身につかねえモンだ。
オレは舞子のありがたい忠告を無視して、ナメくさった態度で出現した終末獣に近づいていく。
おお、デケーな。三十メートル級か。
ヤツは無防備に近づいてくる人間に気付くと、威嚇するように雄たけびを上げた。
その衝撃で周囲の樹が燃え落ち地面に亀裂が走る。
アァン!?
オレは速攻でイラついた。
テメエなめてんのか?
何、他所様の世界の物理法則無視してやがんだよ!?
音で物燃やしてんじゃねぇクソが!!
どうやらコイツにはこの世界のルールってヤツを、叩き込んでやらなきゃいけねぇらしい。
「テメェナメてんじゃねぇぞっ!!!」
オレは凄みを効かせてクソケダモノヤローを恫喝する。
「グギャオオオオオン!!」
対抗するようにヤツも再度、雄叫びを上げる。
アァン?
何だ?テメェ・・・・まさかこのオレと張り合おうってのか?
上等だっ!!
どっちが格上かたっぷり思い知らせてやるぜっ!!!!
「調子のっってんじゃねぇぇぇええええぇええぇえぇよおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「グギョオオオオオォォァオォォォンンン!!!」
「うっっっっっせぇぇぇぇぇぇぇんだよぉぉぉぉぉこのクソケダモノヤローがよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!」
「グギョォォォォォォォアアアオォォォォアオアオオオオォォォォォォォン!!!!!」
「そぉぉぉぉぉぉぉんなぁぁぁぁぁぁぁぁもぉぉぉぉぉぉぉんでぇぇぇぇぇぇビぃビぃるぅと思ってんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!ゔぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁえぇぇぇぇぇぇぇぇあああぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁうぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃらぁぁぁぁぁぁぁらぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃらぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃどぅぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「グ、グギョン」
ふっ、勝ったな。
「なに遊んでんのよ・・・・」
どうやら今の高尚な戦いは女のオメーには分からなかったようだな。
見な。アイツはすっかりオレ様の脅威に気付いて臨戦態勢だぜ?
終末獣の胸部が激しく明滅し、エネルギーが充填されていくのが見て取れる。
あと数秒もすりゃ舞子もウットリの極太レーザーがあのクソケダモノヤローから発射されるって寸法だ。
なら、そろそろこっちも準備すっか。
オレは長年バトってきた経験から、ヤツらの事を大体把握している。
終末獣の攻撃は二パターンしかねぇ。
イテェか、イタくねぇかだ。
オレの神威、攻守壁なら痛みなんて感じねぇ。
直径数センチから数キロメートルの範囲でコントロールできる見えない防御壁がオレを守り、その接触面に触れたモノは削り取られながら消滅するっ!!
攻守ともに優れた最強の神威だ。
これで地獄送りにしてやったケダモノどもは数知れねぇ。
テメェは今宵、オレの生贄になるんだよっっ!!
オレは大地を踏みしめ神威を発動させた!!




