強くなるには?
自室の片隅。
小さめのテーブルに置かれた箱をじっと見つめ、蓋に手を掛け、…戻す。
「フォル様? いい加減諦めてはいかがですか?」
4回目に蓋から手を離した俺に見兼ねたアイシャが声を掛けてきた。
「…だがな。
あの爺様からの贈り物だぞ?
5歳児に護身用と称して長剣贈ってくる物騒な!」
「次期当主として立派になって欲しいと言う親心ですよ、きっと…」
アイシャ、将来の義祖父をたてたいのだろうが、そう言うセリフは目を逸らすと逆効果だぞ。
「……まあ、特殊な武器とかで強くなれるならそれに越した事はないか。
流石に昼間は堪えた」
「あれは相手が悪過ぎますよ
彼女は、シリア・ミュート。
この国でも最高クラスの剣士です」
「いくら最高クラスと言っても同い年位の少女を相手に手も足も出なかったんだぞ?」
そう。先程までいた冒険者ギルドで俺は試験官を名乗る少女相手に完敗した。
袈裟斬りから横へ薙ごうが変則的に切り上げようが余裕綽々でかわし、10合を越える剣撃を繰り出してなお、剣で受けさせる事すらかなわなかった。
挙げ句、一応剣術レベル2で申告しておきますが、あなたは剣より長柄の武器の方が向いていますよ。と忠告までされた始末だ。
「あの、大変言いにくいのですが、彼女は草妖精ですから、あれでも成人していますよ?
確か、クライム様と同世代だったと記憶しています」
「つまり、三十路過ぎ?」
「肯定はしますが本人の前では言わないで下さいね?
わりと深刻に命の危機ですから」
うん。勝てなかったのは経験の差と言う事だな。
…これから20年修行して彼女の領域まで届くかどうかは別としても。
「じゃあ、この箱は開ける必要ないな!」
「……普通に私の忠告無視ですね。
そもそも、シリア様に勝てるかどうかは別にしても、ガーランド伯の贈り物をそのまま放置は問題があります!」
「分かっている。
だからこうして机に出したんだ」
そもそも物騒な物を贈ってくるのは問題じゃない。それと一緒に掛けられるお前が次期ルナライト伯爵だと言うプレッシャーがきついだけなんだから。
「ですから諦めて下さいと先程から申しているではありませんか…」
「はいはい、…これはペンダントか?」
そこそこ大きい箱に大量の布が敷かれ、その上に黒曜石のような石を嵌め込んだ銀細工が置かれている。
銀細工の端は金色のチェーンが付いているからペンダントで間違いないと思うが?
「そのようですが…」
隣から覗き込んでいたアイシャも歯切れが悪い。今までに比べれば、遥かに誕生日プレゼントらしいのだが、それ故に逆に不安になる。
あの爺様が普通のプレゼントを贈るのか? と。
「ひとまず、ガーランド様のお手紙の方を読みますね?」
「頼む」
「では、『親愛なる我が孫、フォルセウスへ
まず、10歳の誕生日おめでとう。
今までとはかなり違うプレゼントに戸惑った事だろう?
だが、今日のプレゼントは君が生まれた時から決めていた物だ。
これまでのプレゼントは君の好みが分からないから実用性を考え、武具を贈ってきた…』」
「爺様、意外とまともだった…」
「ですね。…続けますよ? 『しかし、今回は君が無事10歳の誕生日を迎えた事を祝ってこのペンダントを贈ると決めていた。
我が伯爵家が初代魔王陛下の娘であり、2代ボージュ様の妹君が興した家である事は知っているだろう。
初代様は、為政者として兄王を超える才を持つ始祖シンシア様が王権を望めば、国が荒れ、最悪他国の侵略を招くと危惧した。
それ故に、本来なら公爵の地位を与えられるべきところが、伯爵と言う低い地位とされた。
そんな我が伯爵家だからこそ、我が家には初代様から2つの物を与えられている。
その内の1つ、ルナブラッド王家以外で唯一を冠する家名ルナライトは君が成人した暁に贈るつもりだ。
そして、もう1つの継承物がこのペンダント、《魔星宝シャルフィーテ》だ。
故にこれを次期当主フォルセウスに贈る』…だそうです」
「シャルフィーテ? …聞いたことあるか?」
「…いいえ。
しかし、この話の通りであれば、これは初代魔王陛下より下賜された秘宝と言うことになります。
他種族には知られていないものであっても不思議ではありませんよ?」
「それもそうか。しかし、これが秘宝ねえ? ッツ!」
「フォル様?!」
触った瞬間に力を吸われるような奇妙な倦怠感を感じた俺にアイシャが大声をあげる。
「大丈夫だ。けど、初代魔王の秘宝と言うのは伊達じゃない。
面白そうだぞ。これ!」
「お願いですから、こんな物騒な物で喜ばないでください!」
アイシャの哀願を聞き流しつつ、これの使い方を考える。
…ふむ。面白い。