シンデレラ
『昔々、あるところにリラと言う美しい少女がいました。
幼くして母を亡くし、優しい父も再婚後にすぐに旅立たれ、意地悪な継母と義姉に苛められながら健気に日々を暮らしていました。
ある時、お城で王子様のお妃様を決める舞踏会が開かれることになりました。
めかし込む継母達を尻目に留守番を言い付けられたリラ。
言い付けられた家事を終え、今頃は舞踏会が始まる時間かと溜め息を漏らすと、リラの目前に光が集まり、やがてそれは人の形へ変わりました。
それは精霊の一柱。リラの勤勉を知る彼女は、リラに美しいドレスと硝子の靴を与え、舞踏会を楽しむように言うのです。
憧れの舞踏会に紛れ込んだリラは王子様を始め、多くの貴族の興味を引きました。
しかし、リラに与えられたドレスは精霊の作った仮初めの物。
日付が替われば、失われる物だと精霊にも忠告されていました。
夢の時間に心踊らせたリラでしたが、その忠告も覚えていたので日付が替わる寸前に会場を抜け出しました。
言いすがる王子様に後ろ髪を引かれていた彼女は階段に片足の靴を忘れながら…。
寝ても覚めてもリラの美貌が忘れられない王子様は国中に触れを出します。
この靴に合う女性を連れてこいっと。
その命を承った兵士は国中を探し回り、遂にリラを探し出しました。
リラと再会した王子様は彼女をお妃として暮らしましたが、元から頭が足りなかった王子様が市生の娘を妃にしたのです。
その政務は空回りを続け、遂にクーデターから処刑されることになりました。
リラもまた王子を貶めた悪女として長くその名を語り継がれるのでした。
終わり』
真赤 23日
「なにこれ?」
床に落ちていた紙を拾ったアリスが首をかしげつつ問い掛けてきた。
「紙の知名度や需要を上げるために用意した童話のボツ稿だ」
「これって、シンデレラの話だよね?
主人公がリラって名前だけど」
「元々、シンデレラの主人公はリラだぞ?
灰被り姫とも訳されているだろ?
あれは『灰にまみれたリラ』或いは『砂まみれのリラ』と言う意味を与えられた『サンド・リラ』を『シンデレラ』と固有名詞扱いで訳したせいだ」
「つまり、これはシンデレラの童話?
結末がブラック過ぎるけど…」
「ああ、書いていて違和感があったのでボツにした」
「やっぱり童話の終わりは『めでたしめでたし』だもんね」
「こちらが書き直した物だ」
『…王家の最後の恩情である舞踏会での妃選びを最悪の形で終わらせた王子は病気療養と言う建前の元に別荘に軟禁。
妃と言う名目の子守りとなったリラは、良い暮らしと『愛に殉じる美しいお妃様』と言う名誉を与えられ、それなりに幸せに暮らしました。
めでたしめでたし』
「…って、何処がめでたいの!」
読み終わった途端に修正版を床に叩き付けるアリス。
「何を怒っている?」
「これはシンデレラでしょ?
継母達に苛められる可哀想な女の子が幸せになる。素晴らしい童話の代表でしょ?」
「貴族って地位が風化した地球ならともかく、この世界であのレベルの話は現実味がないと笑われて終わるぞ?
俺の婚約でも分かるだろうが、王候貴族の婚姻ってかなり難しい問題だ。
バカは論外として、王妃が賢すぎてもダメ。家柄が低すぎても高過ぎても問題になるし、派閥関係の調整もある」
「賢すぎてもダメって?」
「王妃と言うのは国のナンバー2だろ?
王より賢い王妃なんかは国が割れる原因になる。
社長と副社長で対立して業績を落とす企業なんて前世じゃ珍しくもなかった。
それを踏まえてこの王子の扱いはどうだ?
更に言えば、リラの継母は連れ子有りで再婚しているし、どう見ても貴族じゃない。
政商と呼ばれる貴族や王族と取引のある商人だろうな。
そのレベルを宛がわれる王子だぞ?
完全に要らない子だろ?」
「それは…」
「後、リラだけどな。
貴族なら家を奪おうとするのも分かるが、政商クラスの商人だと仮定すると見た目の良い女なら、コネ作りに最適な駒だろ?
継母は意地悪をしているんじゃなくて厳しく躾ていただけじゃないか?
それを親バカな父親に甘やかされたダメ娘が苛められたと勘違い。
商人で美しい娘なら絶対に舞踏会に連れていくが、マナーがダメダメだから、留守番させられたと言う落ちだろう。
……そんなダメ女を舞踏会へ送り込む魔女。こいつ実はライバル商会の手先か?
或いは国に恨みを持つテロリスト」
「いやぁぁ‼」
俺の考察を遮って耳を押さえて首をふるアリス。…夢を見過ぎだろ。
「ちょっと!
何事よ‼」
「どうしたの?」
扉を力一杯開けて入ってきたのは、リムとルシアの2人組。俺の世話とかで忙しいアイシャが一緒でないことが多いせいで頻繁にコンビで行動している婚約者達だった。
「紙を広める為に前世で読んだ童話をアレンジしたら、内容が酷いとダメ出しされただけだ」
「…何やっているのよ」
「どんなの?
私も見せて?」
現状のくだらなさに呆れたリムを後目にアリスから受け取って読み始めるルシア。
リムも内容が気になるのか横から顔を覗かせる。
「……これは酷いわね」
「あれ?
リムもそう思う?」
「ええ、こんな穀潰しに伴侶を与えて軟禁なんて何処の楽園よ?
多分、13歳位で病死するんじゃない?」
「ルナブラット王家だと15歳位で剣一本持たせて追い出される位だと思うなぁ。
ルナライト家と違って王家は分家制度を認められないし」
「あら?
始末しないの?
後々継承権を主張してくると面倒よ?」
「魔族だとこういう子は側妃にしか産まれないわよ?
正妃の子供は国中の侯爵に鍛えられるし、こんなこと言っている余裕はないと思う。
仮に産まれたら、即伯爵家と交代ね」
「継承システムが成熟していて羨ましいわね。
13歳で棄てるにしてもそこまでに使った税金が戻ってくる訳じゃないし、勿体無いのよね」
……怖っ!
ファンタジー世界のリアル王族ってマジで怖い。
そう言えば、ファンタジーの代表格、悪徳貴族って実はリアルでは成立しないんだよな。
あのガムト家も領民には普通に慕われていたから、あの地を新たに統治している騎士が領民の統制に苦労しているくらい、悪徳貴族はあり得ない。
例えば、50人の兵士が4交代、200人体制で守る中規模都市が魔物に奪われたとする。
それを再建しようとすれば、100人の6交代600人くらいの兵力を都市の跡地に常駐させ、それに供給する食料の補給線の確保が必要になる。
まずはベースとなる移送隊に800人くらいで再建予定地が供給元の都市から1日離れる毎に維持兵力として800人くらいか?
つまり供給都市から3日離れていれば、必要な兵力は800足す2400の3200人。
その規模の大兵力を数年ほど維持。
総人口10万人位の大国でも、人口の約4%を生産者から消費者へ変更となれば、余裕で国庫が傾くだろう。
だからって放置出来ない。そうすれば魔物に負けた。その国に自分達を庇護するだけの能力がないと公言しているような物だし。
そんなことになる原因は間違いなく即行で排除される。
主人公の出番なしだな。
と言うか成り上がりとかである。解放した土地の領主になるのって、仕事を増やした主人公への制裁じゃないか?
テメーのせいで危険な仕事が増えたじゃねえか!
自分で後始末しろ‼
って、無言の抗議だろ?
普通なら頓挫するけど、それで損するのは主人公だけ、億に一の確率で上手く行ったら、国は税金を貰えて万々歳。
異世界行くなら、絶対に冒険者1択だよな。
……何で俺次期領主やってんだろ?
リムとルシアのダメ出しを修正しながら、疑問を深める今日この頃だった……。




