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花火師アギタの逃走記《ピロウトーク》  作者: 烏賊ミルハ
第一章 ~爆弾男の受難~
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ファイバー・ワーク③

前回までのあらすじ:逃げてたら バイクを切られて 大ピンチ

 


「クソッ! 相当な下衆野郎だなゴーグル野郎!」

 ゴーグルの男の策に、アギタは同時に関心もしていた。確かに標的を確実に殺そうというのなら、自分が安全な範囲で相手するのが最善策だ。そして、アギタ自身にとっての最悪の策でもある。彼がどれだけ攻撃しようともゴーグルの男は傷さえも消滅させ蘇り、再び攻撃を開始するのだろう。

 この状況を、果たしてどうやって突破しろというのか。


 ゴーグルの男は片手で持っていた銃を両手で持ち、じっくりと照準を合わせる。そして引き金に指をかけ――――

 アギタの前にピロウが立ちはだかった。


「なっ、ピロウ!?」

「向こうの目的は……私。こうすれば……向こうは、撃ってこない」

 ピロウは両腕を揺らしながら両脚を棒のように立てながら――つまりは気力の抜けた立ち方をしていた。しかしそれだけでも、白衣の男の時にでもそうだったように、少女の捕獲を目的としているであろうゴーグルの男に対して効果は絶大だった。ゴーグルの男は銃を構えたまま二発目を撃たずに静止している。

「これで……大丈夫」

「大丈夫だと? ピロウ、お前は守られる側なんだぞ!」

 そう言いながら、同時にアギタは何より自分自身を一番責めていた。ピロウを守ると誓ったはずなのに、いざとなると逆に守られてしまう。それは自分の罪悪を抑えつけていた蓋を剥がされるのと同じ事で、込み上げる白衣の男の最期の光景ヴィジョンに気が狂いそうになる。

 (どけ。どいてくれ、ピロウ)

 心では拒否していても、体がどうしても動かない。アギタは、自分の弱さを心底実感する。

 その時、遠くにいたゴーグルの男がよく通る声でアギタ達に話しかけた。


「おおぉーい、そこの二人聞こえるかァー!? 聞こえてる前提で話しちゃうからな! いいよなァ!?」


 あまりにも軽い調子の話し方に拍子抜けしてしまう。アギタが聞こえていると返事をすると、ゴーグルの男は大きく笑った。

「良い返事だァ! オレは『チープトリック』っつーんだけど!! みんなからはチートって呼ばれてる! そんでもってオレが今銃を撃っていないのは、交渉しようと思ってるからだ! 聞いてくれるな!?」

「うっせーな……」

 アギタは銃を持っていない方の手で耳の穴を塞ぐ。それほどチープトリック――通称チートの声は大きく、一人でも活気に溢れていた。


「それで! 交渉の内容だけど、オレはピロウちゃんにそこをどいてもらいたいんだ! だからそうしてもらうために、これから色々譲歩していこうと思う!」

「譲歩?」

「そう、譲歩だ! いいかー?」


 譲歩。

 それがどのような面で行われるのか、今のアギタには正確なところは解らないが、とりあえず聞いて損はないと判断される。アギタが了承すると、チートは再度笑い声をあげた。

「それじゃ交渉開始だァ! んじゃまず、この辺からいくぞ!」

 そう言ってチートは構えていた銃から両手を離した。銃が砂漠の大地に落ちるとボスッ、と間の抜けた音が鳴る。続けて上着を脱ぎ、その場で大きく振ると、四丁のマグナムが落ちた。更に上着を叩く、と同時に大量の手榴弾と弾倉が現れ、それもまた砂の上に落とされる。しまいには靴まで脱いで裸足になってしまった。


「これで目立った凶器は全部だ。じゃあ次行くぞ!」

 チートは今度は両手を上げて降伏のポーズをとりながら全身を始めた。一歩一歩アギタ達に近づく。銃を構えるアギタなど意に介さずに、どんどん進む。


 そして、遂に三十メートル圏内に足を踏み入れた。


「これでオレの不死は解除された! これが第二の譲歩だ!!」


(こいつ、正気か?)

 アギタにはチートのせんとすることが理解できなかった。立ちはだかるピロウをどける為だけに武器を捨て、不死まで解除した。譲歩というにはやりすぎだ。その上結果ピロウは動かないというのも十分ありえる――むしろそう考えるのが順当でさえあるのだ。リスクに対してリターンが起こる確率が低すぎる。


 裏がある可能性が濃厚になってきた。

 アギタは砂の上に横たわる自分のバイクを見る。後輪がまるで豆腐のように綺麗に切断されている。


 この攻撃に関しては、いまだ有力な情報は得られていない。


 それならば、チートをこれ以上近づけるのは逆に危険だ。そう考えたアギタはチートに話しかけた。

「おいチート! こっちからひとつ要求させてもらおうか!」

「いいぜ! 大体の要求には答えていきたいと思ってる」

 チートは快く了承した。


「それじゃあ、二秒だけ目を閉じてくれ」

「OK。二秒だな!」


 要求通り目を閉じるチート。


 それを確認したアギタはチートに発砲した。なるべく足を狙い、命を奪わないように気を使いながら。


 しかし発砲音が響いた瞬間、挙げられたチートの指と指の間から突然銀の光沢をもった液体が現れ、彼の前で巨大な円に変形した。そして、その巨大なシールドに銃弾はことごとく跳ね返される。


「なっ!?」

「はは、不意討ちなんて卑怯だな! だがその意気やよし!」


 液体のシールドは形を変えないままやがてその場で倒れる。その先には降伏のポーズをとるチートが無傷で立っていた。


「お前、何だ今のは!」

「今のか? じゃあ能力公開が第三の譲歩だな!」


 チートは挙げた手の甲をアギタ達に向ける。水かきの部分に一センチ大の鉄球がくっついている。両手合わせて六個。親指と人差し指の間の分は両手とも欠けていた。


「それじゃいくぜ!」


 その言葉を合図に、鉄球の一つは細く長く変形し、鞭のようにしなりながらチートの体すれすれの部分で暴れ始める。残像さえ見える速度で鞭は空気を切って音を鳴らす。それに合わせて足元の砂も舞っていた。


 しかしそれはたった数瞬の出来事で、三秒後には鞭は鉄球に戻りチートの水かきに収まっていた。


 正に瞬間芸。アギタは呆気にとられた。


「これがオレの能力『孤細工ファイバーワーク』だ! 『触れた金属を好きな形に変形させる能力』。発動時間は五秒で、インターバルは一秒! 自分の近くなら変形の精度は高いが、距離が伸びると全然駄目だ! だから遠くを攻撃する時はこうやって……」


 チートは『孤細工ファイバーワーク』を使い鉄球を変形させる。鞭より更に細くなっていき、遂に視認すら困難となる。


 そして次の瞬間、中空で巨大な金属板が出現した。


「糸みたいに伸ばして、標的に刺してからこうやって四角形を作って切断するんだ! お前のバイクのタイヤを切ったのはコイツだ! そしてコイツも捨ててやる!」

 チートは指を大きく広げ、鉄球を地面に落とした。これですぐ用意できる武器はなくなった――はずだ。

「どうだ、これでもまだ足りないか!」

「…………クソッ」


 正直なところ、アギタは困っていた。今はピロウが盾になっているので孤細工ファイバーワークの攻撃を行えない。もしそれがなくなれば、チートは攻撃を始めるのだろう。


 アギタにとってピロウは命綱であり、しかし彼自身の約束を潰す槌でもあった。


  アサルトライフルで打ち抜いた人間たちの姿が。ハンドマシンガンで貫いた人間たちの姿が。自ら命を絶った白衣の男の姿が。フラッシュバックで全てが鮮明に蘇る。網膜に映る光景よりも強烈に、状況判断の思考よりも衝撃的に。


 そして、伸ばせなかった手が、ピロウの肩に、ゆっくりと乗った。

「アギタ……」

「どいてくれ。俺はお前を守ると誓ったんだ。守られてんじゃ、駄目なんだよ!」

 アギタはピロウを横にどけ、一歩前に出る。


 これで盾はなくなった。


「ビンゴだねェ!! それじゃあ女の子の奪い合いといこうかァ!!」

「奪い合いなんてしねえよ! 端っからオレの側だ!」

 アギタは構えた銃の引き金を引いた。






  次回:ファイバー・ワーク④

メタリカメタルカと丸被りでした。今気づきました。(三月十三日)

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