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花火師アギタの逃走記《ピロウトーク》  作者: 烏賊ミルハ
第一章 ~爆弾男の受難~
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ファイバー・ワーク④

「ビンゴだねェ!! それじゃあ女の子の奪い合いといこうかァ!!」

「奪い合いなんてしねえよ!」

 アギタは構えた銃の引き金を引く。


 対するチートは口の中に仕込んでいた鉄球を舌の上に乗せ、口を開くと同時にシールド状に展開した、銃弾を跳ね返す。

「効かないね! 一体今までの譲歩で何を学んだのやら! 全ッ然ビンゴじゃないよ!」


 チートの煽りに、しかしアギタは口では答えない。彼には一つの策があるからだ。

 逃げるための策が。


「『爆撃機人ボミングランチャー』!」

 アギタは上空高くに爆弾を召喚した。そしてピロウを脇に抱え、銃でチートを牽制しながら後ろへ走る。このまま逃げていればいつかは何処かにたどり着く。その場しのぎではあるが、その場さえしのげない策よりは、こうして逃げに徹する方が得策だとアギタは考えたのだ。

「あれがさっきまでバカスカ出てきてた爆弾か! まさか本当に突然出てくるなんて!」


 チートは鉄球のシールドを壁に、後方にある自身のバイクに向かって駆け寄り、金属部分に触れた。


「しかし無駄だね。『孤細工ファイバーワーク』」


 瞬間。バイクの腹の一部が地面に向かって伸びた。その勢いは伸びた部分を砂漠に突き刺させ、ハンドルを掴むチートごと自重を押し上げた。


 一秒でチートは高度百五十メートル――爆弾の元へたどり着く。

 そして、爆弾に右手を添えた。


「爆弾は返すよ!」


 ――孤細工ファイバーワーク


 百五十メートルという距離があるにも関わらず、その残酷な言葉はアギタによく聞こえていた。

 (まさか、奴は爆弾を伸ばすつもりか!?)

 アギタの理解と同時に爆弾の先端が伸び、砂漠の大地にぶち当たった。


 爆発が巻き起こる。

 空間を裂く爆発音。膨大なエネルギーの発生。爆心地より放出される殺人級の熱風。砂を消し飛ばし空気を燃やし尽くす暴風が射程範囲ぎりぎりのラインで背を向けるアギタまで一瞬で到達する。


「くっ……ピロウだけはッ!」


 アギタは脇に抱えたピロウを身体の前で抱き自身の身体で包み込んで、外部からの接触を断たせる。

 極大の熱量を持った爆風がアギタの背を焼く。服は焦げ散り、皮膚は溶かされる。更に風の勢いで前方に吹き飛ばされた。


 声すら出せない。ただ歯を食いしばって耐えるのみだ。地面に叩きつけられ、吹き戻しの風に背中の傷をえぐられる。


「――ハァ。大丈夫か、ピロウ」

「だいじょう……ぶ」

 その言葉を聞き、アギタは両腕の力を抜く。ゆるんだ腕からピロウがするすると抜け出す。包み切れなかったパジャマの端々が焦げ付いており、足の所々にも火傷の跡があるが、生きている事にとりあえずアギタは安心した。


 だが、問題はここからだった。

 チートを倒す術が思いつかない。


 金属を召喚する『爆撃機人ボミングランチャー』と金属を自由自在に扱う『孤細工ファイバーワーク』とでは、あまりにも相性がはっきりし過ぎている。


「逃げる事さえ……ままならないのかよ」

「はっ! よくピロウちゃんを守ってくれたね。なかなかビンゴだ」

 上空高くのチートは、爆発によってバランスを失ったバイクから手を離した。チートの身体が宙に放り出され、やがて落下を始めた。そして地上数メートルまで近づいたところでポケットから鉄球を取り出し、地面に向かって伸ばした。鉄球が地面に突き刺さると、今度はチートが持っている側の端が縮むように変形させ、地面へとの距離も縮めて華麗に着地した。


 吹き飛ばされたチートのバイクが、地に伏すアギタの頭上五メートルに落下する。砂のクッションで大破はしなかったが、ハンドルやタイヤは潰れ、使い物にならなくなっている。


 アギタとチートの間は約四十メートル。しかし、その距離はチートが一歩一歩アギタに近づくにつれて短くなっていく。どうしてか、不死の解除圏内に入ろうとしているのだ。

「爆弾も伸ばすなんて……強すぎるだろうがよ……!」

 呟くアギタの傍らにはピロウが立ち、少しずつ近づいてくるチートを睨みつけている。気力のないピロウの瞳に敵意が宿るのを見たのは、アギタにとってこれが初めてだった。


 (――――――――――ん?)


 いや。

 おかしい。何かがおかしい。

 アギタは、チートの能力を知ってから今この瞬間までの間を思い返し、そして一つの違和に突き当たった。


 確かに。


 確かに、爆弾の表面は金属だ。伸びるのは納得できる。


 だが、爆弾に入っていた『火薬』や液体まで一緒に伸びている、というのはおかしくないだろうか。


 爆弾そのものを伸ばして爆破させたというのなら、中身、例えば火薬も一緒に伸びているはずだ。だがチートは触れた金属を好きな形に変形させる能力と言っていた。それはつまり。


「アイツが嘘ついてるって事だよな……」


 思えば、チートの行っていた譲歩は明らかにやりすぎだった。自分の武器まで捨てて、能力まで明らかにして、何がやりたいのか分からない。何が彼をそこまで駆り立てるのかが理解できなかった。


 アギタは残り少ない手持ち時間で推理する。


 本当の能力とは違う能力を教えるメリットは、一体どこにあるのか。金属を変形させることは少なくとも可能だ。その上で爆弾の中身の金属以外も伸ばす事が出来る。


「金属だけでなく、別の物体も伸ばす事が出来るのか?」

 それ以上の能力を、チートは持っているかもしれない。だが、その点だけを考えれば。アギタとって策がないわけでも無かった。

 だがそれを行うには、アギタは怪我を負いすぎた。肉体の背面を焼かれた人間が――歩く事すらままならない人間が、敵を倒す策を実行することができるだろうか。


 ただし、あくまで動けないのはアギタである。

 ピロウは健在だ。


「アギタ……敵、迫ってきてる」

 ピロウがアギタの瞳を見つめる。

 彼女を使えば、アギタの突破策は成り立つ。動ける人間がいればそれで成立するのだ。

 問題は、アギタの目的が『ピロウを守る』という点であるという事であった。


 彼は白衣の男と闘った時に、衝動的とはいえピロウを盾にした自分を責めている。守るべき対象を盾にして闘うなど本末転倒。アギタはそう考え、故にアギタとチートの間にピロウが入るのを嫌った。

 自分の為に。

 罪悪感から逃れる為に。


 (ピロウの力を借りるわけにはいかない。自分の力で、なんとかしなくちゃいけないんだよ……)


 アギタは大きく深呼吸してから、ピロウに視線を向けた。

「ピロウ、お前は逃げろ。三十メートル離れればお前は不死を得る。チートは俺が足止めする。だから――逃げてくれ」


 どうにもならない状況でも、アギタはその信念を曲げるわけにはいかなかった。それはピロウを孤独にしてこれからも襲い掛かってくる追っ手から無防備にさせてでも、この想いは譲れなかった。


「俺が爆弾を乱発すれば、ヤツの能力でも完璧に突破するのは難しいだろう。相手も俺が捨て身で爆撃するとは思っていないはずだ」

「アギタ」

 ピロウが、逃げの策を練るアギタの顔の前でしゃがむ。


 そして、頬を叩いた。


 あまりにもか弱く、手を添えるのとほとんど変わらない。が、アギタが受けた衝撃は、背中を焼いた爆風よりも強かった。


 呆気にとられるアギタに、ピロウは更に語りかけた。

「アギタ……私は、捕まりたくない。だから私も、アギタを守りたい。互いに……守りあっていきたい。逃げ続けるには、それが必要だと……思う」

 ピロウが捕まらないためにはアギタが必要で。その為にはアギタが死んではいけない。

 それは至極当然の事だったが、アギタの心を再度揺さぶった。自分の罪悪感に蓋をする為に守ろうと誓ったアギタが、初めてピロウの素直な気持ちを知った瞬間。


「私にできることがあったら、なんでも言って」

「――ピロウ。もう一度誓わせてくれ」


 アギタはまたも大きく深呼吸した。しかしそれは他人を救う策を言う為ではない。

 他人と自分を救う策を言う為。

 ピロウを守り、自分も守る為。


「俺――アギタは、ピロウを、そしてアギタを守る。二人とも守ろう」

「……うん。私も同じ」


  アギタはピロウのその言葉を聞き入れ、口元をわずかに緩ませた。

「それじゃ、一つ頼むぞ」


  焼かれた上着からハンドマシンガンの弾倉を取り出し、ピロウに手渡す。

「これで、どう、するの?」

「なぁに。ちょっと体力を使うとは思うが、俺も手伝えたら手伝うから。先にやっておいて欲しい事なんだ」


 アギタはハンドマシンガンを取り出し、決意を強く固める。


「バイクのガソリンを、砂にこぼしてほしい」




 次回:ファイバー・ワーク⑤

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