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花火師アギタの逃走記《ピロウトーク》  作者: 烏賊ミルハ
第一章 ~爆弾男の受難~
46/49

チェックポイント⑦

 (ここは……どこなのだろう)

 セイヴは素直にそう思った。


 手足を鎖で縛られ、どこかわからないところへ閉じ込められていて――それと自分と同じような状態の人間が何人かいる。わかっているのはそれくらいだ。一瞬だけビットレイが現れれ、その瞬間に真隣りの女が消えた気がするが――それが関係していないという事はないだろう。


 暗い部屋。


 恐らく無線をよこしたオズマという男が関係しているのだろう。様々な単語とその解説をした後に『盗奪者フィリバスター』と言うと、次の瞬間にはすでにここにいた。

 このままでは確実に良くない。彼の推理では、彼は肉体そのものを移動させてられているわけではなく、人格を奪われてしまっている。言い方を変えれば、精神と肉体を引きはがして、精神の方をこの空間に閉じ込めている。

 そしてこの能力を使った人間はあのオズマという男。彼を攻撃していることを考えれば、少なくともセイヴの味方ではなく、つまりライマインの味方ではない。しかしあまりにもライマインの内情をオズマ、またセイヴが知らないライマインの深い事情まで口にしていた。嘘の情報かもしれないが、話の整合性は取れているため頭ごなしに否定は出来ない。

 つまり、オズマはライマインに深くまで関わっており、しかしライマインに対して敵対心を持っている、と考えられる。


 (『反ライマイン』……ということかな)


 そういった勢力が存在しているという噂を、以前に聞いた事がある。ライマインにいる『ゴシップ・マスコム』という妄神の能力によって集められた情報なので、ある程度は信用できる。


 そして忘れてはならないのは、ピロウはライマインの所有物であるという事だ。


 ライマインが総力をあげて探している少女を、反ライマインであるオズマが逃がすわけがない。そのために全力を尽くすというのなら、精神の抜けたセイヴの身体を放っておくことはないだろう。

 一瞬だけこの部屋にビットレイが現れ、隣の女が消えた、というのは『精神が入れ替わった』と考えていいのだろう。ビットレイが精神を抜かれ、代わりに隣の女の精神が、抜け殻となったビットレイの肉体に入った。それでいいはずだ。


 オズマは精神を抜いた人間に、この空間にある人格を操ることができる。

 それが出来て、セイヴの身体を使わない理由がない。


 言ってしまえば、セイヴはピロウの事などどうでもいい。アギタの事もどうでもいい。

 ただ、もしセイヴの肉体を操っている精神が、ビットレイを殺してしまえば、それは何よりも『やり直し』が効かない。


「それだけは……避けなくちゃ、ね」


 仕事に関しては相当にストイックな彼ではあるが、それ以上に自分の信条を大切にしている。

 ビットレイが死ぬなんてことがあってはならない。

 若干の変態性欲があるものの、彼のビットレイに対する愛情は本物であるのだ。その愛を守るためならば、ひいてはビットレイを守るためならば、ライマインへの反逆さえもいとわない。


 普段から――不断からそのように考えているセイヴではあるのだが、この場合は更にその感情は強くなる。


 『砂漠の五人』

 『パラノイアオブパラノイア』

 『裏切り者』

 『インサニティ』

 『安全毛布』

 『因果鉄道』

 『六人目』

 『ピロウトーク』 


 オズマが言っていたそれらの言葉と意味には全くもって興味はなかった。確かに全てセイヴの知らない情報であったが。

 しかしその次の言葉は違う。


 『死体計画』


 その言葉と意味だけは聞き逃せなかった。


 『七騎ボディーズ』の存在意義そのものが危ぶまれるその計画だけは止めなくてならない。いや、他の機械人間サイボーグはどうなってもいい。だがビットレイがそれに巻き込まれる事だけは避けなければならない。


「ビットレイ……あの子だけは、絶対に……!」


 体を縛り付ける鎖が忌々しい。

 今すぐにでも自分の身体に戻ってビットレイに事実を伝えたい。ビットレイを守りたい。絶対に死なせたくない。


 『やり直し』のできない結果になんて、絶対にさせない。

 たとえ彼自身がやり直しのできない状況に陥ろうとも。
















「今、セイヴが視界に……!」

 ハーウェイと背中合わせのビットレイは思わずそう口を開いた。

 突如として、セイヴが視界の端に現れたのだ。


 すると次の瞬間にはセイヴの姿は消え、また別の場所から彼が現れた。

「また移動ッ」

 言った直後に、また彼女の視界からセイヴが消え、別の場所から現れた。


 直後、セイヴが別の場所に出現。

 するとまた別の場所に移動した。


「おいビットレイ。これは――」

「はい。大量の復活地点を移動しています。連続瞬間移動とは、また恐ろしい能力の使い方をしますね」

「これでは反応しにくいな。『三重破拳フィストフィート』で無敵状態になってから少し歩いて探すか?」

「……いえ。作戦上はここにいて問題はないはずです」


 そうこう言っているうちに、セイヴの復活スピードはどんどん上がっていき、視界に複数の残像が出来るまでになった。恐らく体の向きなどを計算して動きの最適化をしたのだろう。ビットレイは動きを目で追おうとするが、途中から遅れが起きる。セイヴの瞬間移動の速度は既に眼球の速度を超えているのだ。

 途中からは推進装置の動きも加わっていた。復活した瞬間に推進装置でその場から動いて、『復活地点と重なっている状態では復活できない』という制約を避けている。一見ひと手間かかっているように思えるが、その動きが、彼の駆動の不規則さに拍車をかけさせ、更に視界が荒らされる。


 数人の――否、十数人のセイヴが視界に現れては消えてを繰り返す。

 と、突然セイヴの姿がすべて消えた。


「いや、上だ」

 言ってハーウェイは空を見、腕をあげる。

 ビットレイも上を見ると、セイヴが腹を重力方向に向けながら、頭上五、六メートルから落下してきている。


 この状態であれば、ハーウェイ達の周囲のどの復活地点でも復活できる。しかも先ほどのような盾の防御も推進装置で避けられてしまうだろう。


「これで終わりです……か?」


 ビットレイは顔を上に向けながら、近くの海面に視線を移す。

 そこには二つの脱出ボートがあった。


「ハーウェイ、来ましたよ!」

「ああ、ボートだな」

 二人ともが、アギタの放した脱出ボートに気付く。


 そしてハーウェイが続けて、

「アギタ、いくぞおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 割れんばかりの轟声をあげた。


「今更何を」

 頭上のセイヴが遂に口を開く。余裕の表れなのだろう。

 その次。

 次の瞬間だった。


 ハーウェイ達の足場が消えた。


 体が宙に浮く感覚。


 しかし真に驚いているのはセイヴだっただろう。

 彼から見れば、先程まで視界に二人の人間と甲板があったのが、一瞬で甲板が消えたのだ。


 甲板が消えた――違う。


 足場である船そのものが消えていたのだ。


 あまりに予想外過ぎて、セイヴには理解できなかっただろうが、空を見上げるハーウェイとビットレイには事態が呑み込めていた。


 見上げる視線の先。

 百メートル近い上空。


 そこに『逆さまの船』があった。


 それと、そこから伸びる光の輪が、その目にしっかりと映っていたのだから。


 (『閃血輪サークリング』……うまくいったのですね)

 ビットレイは満足げにほほ笑む。


 すべてアギタの作戦通りである。


 アギタはまず、セイヴが脅威である理由を考えた。

 例えば、推進装置や高い判断能力はあまり大きな弊害にはならない。

 特に洗脳されたセイヴの判断能力はあまり高くない。現にビットレイは単独で脳天を破壊するまでに至らせた。

 そしてその事実は同時に推進装置の脅威の低さを示している。少しバランスを崩しただけで使う事を忘れる推進装置であれば、元々正面から戦う気のないアギタにとって、言ってしまえば『あってもなくてもいいもの』なのだ。


 しかし『永劫点チェックポイント』は違う。死んでからでも発動できるこの能力は、体の方向と位置の制約を覗けば、どこへでも復活できるほぼ無敵の能力なのである。むしろ推進装置は『方向と位置』の問題を解消するためだけに付けられたのではないかと思われるほどだ。


 ここで一つ考えてみよう。

 『永劫点チェックポイント』はセイヴが復活地点を作ることによってそこへ移動できるわけだが、一体その復活地点はなにを基準にしてその場でとどまっているのか。


 例えば、もし空間座標そのものに復活地点を設けているとすれば、動き続ける貨物船はすぐにその地点を後方へと追いやってしまう。そうならず、しっかり甲板の上で復活できているということは、その線はないという事だ。

 すると、復活地点は船という物体に固定されているのだという推測へ自然にたどり着く。ここまでくれば結論は早い。


 船に復活地点が固定されているというのなら、その船を取り上げてしまえばいいのだ。

その発想をもって立てられた作戦は、ビットレイたちが時間を稼いでいる間に『閃血輪サークリング』で船を空高くにあげてしまおう、という何ともおおざっぱなものであった。

 そのためにビットレイたちを使ってセイヴを甲板に留め、またアギタが船に触れて、かつて触れたバイクも一緒に『閃血輪サークリング』で飛べた時のように『それを自分が持っている』という感覚を持ってから『閃血輪サークリング』を使ったりしたのだが――実際、奇跡的な成功を見せた。


 だが作戦はまだ終わっていない。

 ビットレイは足の推進装置で上昇し、両手から出した刃でセイヴの両胸を突き刺す。推進装置でセイヴに逃げられないようにするためである。


 しかしそれで推進装置そのものを抑え切れるはずもなく、セイヴは両手足の推進装置を使おうとしている。


 が、また次の瞬間。

 空高くの船から、鼓膜をつんざく爆音が辺り数百メートルに響いた。


 『ブラッドビート』だ。

 船と一緒に移動したアギタが使ったのだ。


作戦を決めた時にビットレイたちはギターに複数回触れておいてあるために、彼女にとってはブラッドビートはただうるさい爆音なのだが、セイヴにとってはそうはいかない。


 空気を通じてウン百の音の波がセイヴを襲う。

 そして全身から力を奪う。


 セイヴの、推進装置を使おうとした手足の緊張が解けるのが見て分かる。

 眼の色が変わるのも、わかった。

 先ほどまでの呆気にとられた表情ではなく、どこか余裕を持ったセイヴ自身の眼だ。セイヴにかかっていた洗脳がブラッドビートを浴びて、洗脳元に脱力の影響が行き、たまらず洗脳元が能力を解除した、といったところか。


 腹に刃を突き刺した状態でビットレイはセイヴに話しかける。

「セイヴ、セイヴ! 戻ってきたのですね!」

 完全に敵対していたはずなのに、いざ戻ってきてくれるとビットレイは喜びを隠さずにはいられなかった。そこには『七騎ボディーズ』としての仲間以上の何かがあった。

「……ビット、すまなかったね、手間かけさせて」

 そんなビットレイを目の前にして、アギタが指先すら動かせなくなったほどの脱力を抱えているはずのセイヴが、小さくではあるが声を出した。


 その声は、確かにビットレイに届いていた。


「私は、貴方を尊敬していました。それを今は――――」

「悔やまないで。そして僕の事はすぐに忘れるんだ。そうやって、やり直していきなよ」


 セイヴの声はとても優しく、また策に嵌めようという悪意もない。悟ったような言葉の一つ一つがビットレイの心に響いた。


「さあ、お別れだ。最後はそこのハーウェイ君が決めるんだろう?」

「セイヴ……貴方は、ほんとうに、真に尊敬できる人でした」


 ビットレイは片手を真下に伸ばし、その先に盾を召還する。その先にはハーウェイがおり、作戦通りハーウェイはその盾を掴む。と、ビットレイはその盾を真上に振り上げてハーウェイをセイヴの真上に移動させる。

 その様子を、セイヴは微笑みながら見ている。


「……ビット。僕は君に会えて幸せだった。こればかりはやり直したくはないね」

「私は、こんなことになるくらいなら、出会いからやり直したいです……!」

「そんなことは言わないでくれ。君に腹を貫かれるのも、そう悪い気はしない――――ただひとつだけ、言わせてほしい」

 セイヴは、満面の笑みを浮かべ、


「ありがとう」


「…………ッッ!」

 言葉を返そうとした瞬間、ビットの身体が大きく振られ、上空へと吹き飛んだ。ハーウェイが盾を上空に投げ飛ばしてビットレイを上空へ避難させるための、れっきとした作戦のひとつではあったのだが、この時ばかりは彼女はこの作戦内容を恨んだ。


 徐々に離れていく彼の後姿を見る。

 その背中からは、何も読み取ることは出来なかった。

 ただ、吹き飛ばされる瞬間に、


「『死体計画』にだけは気をつけて。そして、絶対に死なないで」


 距離的に届くはずのないセイヴの言葉が、不思議と耳元に感じられた。






「これで、ここには僕と君だけになったね」

 大きな声を出せないはずのセイヴが、そう言ったのを、ハーウェイは確かに聞いた。

 ビットレイを投げ飛ばした勢いで、逆に真下へ推進力を得たハーウェイはセイヴにぶつかり、そのまま海面へと近づいていく。本来ならセイヴの言う事は何も聞かずにそのまま殴り飛ばすはずだったが、セイヴの予想外の言葉に、殴り飛ばさずにそのままぶつかってしまった。


「君の拳は強いね。君の全てがそこに詰まっている。だから最期にそれで僕を落としてほしい。それでおしまい、やり直しなし」

「それくらい、分かっている」

 セイヴの言葉で、ハーウェイは拳を構える。彼がモテるすべての力を全身からかき集め、腕の筋肉を伝わらせ、指の一本一本に破壊力を充満させる。


 それを見、セイヴは屈託なく笑い、

「ビットの仲間になってくれてありがとう。そして――拳の護り手(フィスター)に、目一杯の幸のあらんことを」

「――言われるまでもない」


 ハーウェイはセイヴの背中に拳を叩き込んだ。


 超高速でセイヴの肉体は墜とされる。

 空を切る音と、音の壁を超える剛力。

 一点に束ねられたエネルギーを叩きつけられたセイヴはビリビリと空間を震わせながら、海面を突き抜け、海中へと落ちていった。


「『爆撃ボミング――――――機人ランチャー』あああああああああああああああああああ!!!!」

 遙か空の船からアギタの絶叫が聞こえてきた。


 と同時に海中に黒い影が現れた。それは直後に赤と黄の塊へと姿を変え――

 半径十五メートルの爆発を起こした。


 膨大な熱量と体積の膨張で周囲の海水が持ち上げられ、大気中に爆散する。セイヴの肉体がこの凄惨な暴力に耐えられるはずがない。

 ここまでが作戦。四人の誰かが欠けていてもここまで完璧な成果は挙げられなかっただろう。


 『君の拳は強いね。君の全てがそこに詰まっている』


 セイヴの言葉がハーウェイの脳内で繰り返される。今の今まで闘っていた敵のはずだというのに、セイヴの言葉の一つ一つが彼の心に突き刺さっていた。否、突き刺さったというより、むしろ何かを得たといった方が言葉としては正しいかもしれない。


 新たな名を欲し、新たな始まりを刻もうとした彼の心は、確かに変わろうとしていた。


「俺も、変わる時か」


 そう言ってハーウェイは片腕を海面に伸ばす。

 海が抑えつけられなかった爆熱が、やがて彼を包んだ。

 しばらくして煙が薄まると、そこには、いつもと変わらない様子を見せる、広大な海だけがあった。


「…………セイヴ。ビットレイのことは任せろ。だから安らかに眠れ」


 『三重破拳フィストフィート』を発動し終えたあとも、ハーウェイは腕を海へ伸ばし続けていた。


 それは正しく、セイヴに向けられたものだった。



  チェックポイント――――了


  次回:ピロウトークとジャックデイズ①

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