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花火師アギタの逃走記《ピロウトーク》  作者: 烏賊ミルハ
第一章 ~爆弾男の受難~
42/49

チェックポイント③


 (『砂漠の五人』『死体計画』『因果鉄道』『ピロウトーク』……一体何を言っているのでしょうか)

 微かながらも意識を取り戻していたビットレイは、何やら呟くセイヴの後ろ姿を見、とてつもない違和を感じ取った。

 セイヴが変態であることは文字通り身を持って理解している。が、その後ろ姿は明らかにビットレイの知っているソレではなかった。


 彼の持っていた積極的変態性はどこかへ消え去り、彼の持ち合わせている、任務に対する優秀さと一種の冷酷さがその分を埋めている。そういう風に見えた。

 その上、セイヴは自らを『ジルドー』と名乗っていた。

 まるで何かが取りついたようだった。


 と、セイヴはビットレイの方に歩き始めた。

 ビットレイの頭の上で止まる。彼はビットレイを溺愛しているので殺されることはないだろうが、ラトにしたように全身を縛られるくらいのことはされてしまうかもしれない。


 自身のプライドを固めていると、また一つ異変に気付いた。

 セイヴの眼には、彼の血が通っていなかった。


「どう……したのですか、貴方は」

「ジェンツとストゥープは消滅した。『死体計画』にはもう空きがない。多少未熟ではあるが、始めよう」

「死体計か――?」


 ビットレイが聞き返す。

 しかしセイヴが刃で振りかざした時点でそれは無意味だと悟った。

 ビットレイは『双盾王ストリーキング』の盾を柵にひっかけ、彼女自身の体を床をするように動かす。

 一瞬前に彼女の喉のあった位置に刃が突き立てられる。


 (危なかった……本当に危なかった)


 ビットレイは体を起こし、片手と両かかとから刃を出す。

 とりあえず臨戦態勢に入ってみたが、彼女は状況を掴みかねていた。

 細かく言うなら、セイヴの変容ぶりが掴みかねていた。

 絶対に自分は殺されない。それは平穏しか知らない一般人が考えているようなソレではなく、戦場に身を置く彼女が、セイヴという人間をよく知ったうえでの思考であった。

 しかしセイヴは今、確実に彼女を突き刺そうとした。


「貴方は……一体どうしてしまったのですか」


 セイヴはビットレイの言葉を無視して刃を構える。


「私を殺す気なのですか」


 とりあえずその事実だけを口に出して確認し、ビットレイも覚悟を決める。


「まさか機械人間サイボーグ同士で、本気で殺しあう時がくるとは、思ってもみませんでした」

「殺しあうために生まれてきたのにか?」

「……どういう意味ですか?」

「『死体計画』。全てはそこにある」

「だからそれは!」


 言い終わる前にセイヴは推進装置でビットレイに急接近した。


「『双盾王ストリーキング』!」

「『永劫点チェックポイント』」


 互いに能力を発動し、直後にビットレイの盾とセイヴの刃がぶつかり合う。

 直後、セイヴは推進装置で真横に移動した。対するビットレイは盾を動かしてセイヴが近づいてこないように防ぐ。

 セイヴは再度推進装置を使い、円を描くようにしてビットレイの真後ろに移動する。それに追従させるようにビットレイも盾を真後ろへと移動させる。


 瞬間、ビットレイの正面にセイヴが帰ってきた。注意を背後へ動かしてから『永劫点チェックポイント』で正面に戻ってくる。なんとなくではあるがセイヴの能力を理解したビットレイは、セイヴが能力をそのように利用することは読めていた。

 ビットレイは右手を前に出して二つ目の盾を展開した。


 盾と刃が二度目の衝突を起こす。

 しかしセイヴは目の色を変えずに跳び上がり、盾の上に立った。推進装置を細かく連続使用できるからこその芸当である。


「ですが、盾を動かす時間は稼ぎました」


 ビットレイは伸ばした腕を真上に伸ばしてセイヴの乗せたまま盾を真上に動かす。また背後の盾も真上へと移動させ、二つの盾でセイヴは挟もうとする。

 脳天めがけて盾が襲ってくるのを察知したのか、セイヴは刃をしまって両腕を頭の上で待機させる。

 そしてその両手で盾を受け止めた。


(本気で潰そうとする盾を受け止めるだなんて……『三重破拳フィストフィート』ぐらいしか出来ないものだと思っていましたが)


 ビットレイはセイヴの手を注視する。

 すると、肘の辺りから何かが噴射されているのに気付いた。


 (まさか肘にも推進装置が……!?)


 ビットレイはぼやけた意識でハーウェイとの戦いの顛末を見ていたので、セイヴが推進装置の連続使用可能であるのは、多大な警戒をはらうべきことであると感じ取っていた。

 しかし、まさか腕からも出せるとは思いもしなかった。戦闘狂のストゥープあたりが欲しそうな機能である。

 絶対であると思われた盾とその圧力を拮抗させている。

「ま、まだまだです!」

 ビットレイは、真上より少し前の位置で盾からの攻撃に耐えるセイヴに膝を向けた。

 脚の中で撤甲榴弾を装填させる。

 そして膝から銃口を出すと同時に弾丸をセイヴに撃ち込む。


 直後、セイヴは推進装置を最大出力で使った。

 盾と盾の間が大きく開かれ、その隙をついてセイヴは跳び上がり、そこから更に空中で片足だけ推進装置を使って体を回転させた。


 そして体が先程能力を発動させた方を向いた瞬間、能力を使ったのか、またも一瞬でビットレイの前方三メートル付近に移動した。


 (今の回転には、一体何の意味が?)


 能力を使うのなら、盾に挟まれた状態で使った方が不意を突けるはずだというのに、どうしてわざわざ盾から逃れ、体を回転させてから能力を発動させたのか。

 疑問に思うビットレイをよそに、無表情のままセイヴは彼女に接近せんとする。


 しかし。

「――残念ですが、もう終わりです」

 彼女が言った瞬間。

 セイヴの足元の床が爆発した。


 アギタの起こすソレほど大規模ではなく、しかし機械人間サイボーグにも効くぐらいには威力をもつ『爆発』は、セイヴの足を確実に削り取った。


 ビットレイの計算通りだった。

 セイヴに当てると見せかけて自身の盾に弾を当てたのも、そうして発生した跳弾を利用しセイヴが能力で返ってくる場所辺りに弾を飛ばしたのも、思い通り。


 だが悦に入る暇はない。

 体勢を立て直す時間を与えてはならないだ。


 すぐさまビットレイは推進装置を使ってセイヴに高速接近し、その勢いでセイヴの腹に刃を突きたてた。それを受けてセイヴは自分から一二歩下がる。


 (推進装置を使う気ですか!)


 セイヴが逃げようとするのを察し、ビットレイはすぐさま踏み込み、セイヴの足を踏んでコンマ数秒だけ回避行動を制限する。

 するとセイヴも逃げられない事を察したのか、ビットレイに対抗して刃をふるった。


 互いの刃が一瞬で何度も交わり合う。


 丁々発止。


 時に火花さえ散らしながら、しかし確実にビットレイが圧していた。

 ビットレイは足に仕込んだ銃も使い始めた。大量にばらまかれる銃弾が、いくつかがセイヴに弾かれいくつかがセイヴの身体に突き刺さる。


 寸秒に満たない激攻の応酬。

 そして果てに。


「これで終いです!」

 ビットレイは手からギロチンを出してセイヴの刃を弾く。その隙をついて刃を振りかざし、


 ずぶりと。

 刃をセイヴの腹に突き刺した。


 力を込めて今一度押し込むと、刃はセイヴの腹を貫通し、先端が彼の背から出てくる。

 突き抜けた瞬間の、抑えられていた力がすっと抜ける感覚。


 ビットレイは刺した刃を抜き、間髪入れずに胸部を中心に乱れ斬ると、今度は体を回転させ、遠心力で勢いを得た二つの刃で今度はセイヴの顔を切り裂く。

 鼻先から両こめかみにかけて豪快に。


 そしてとどめに両手の刃をすり合わせ、二つともを脳天から全力で振り下ろす。

 刃はセイヴの脳天を割り、喉で止まるまで派手に切り裂いた。

 一瞬の静寂の後、厭に無機的な赤色の血と機構からのオイルとが混ざって、おびただしい量を空へと噴き上げた。

 セイヴが体勢を立て直すより早く速く――一般人には反応すらできないほどの連撃を叩き込んだビットレイは、血とオイルを浴びながら長く細く息を吐いた。


「……貴方の事、一応は尊敬していたのですよ」


 ビットレイは手の刃を収納し、何となく空を見上げる。

 突き抜けるような空と禍々しく澱んだ赤が混ざり合って、どこまでも複雑な気分になる。


「『死体計画』……他にも色々と聞きたいことはあったのですが、やっぱりやり直しはききませんね」

 自然と頬が緩む。

 目の前で凄惨な姿で立っていたセイヴがその場で倒れる。


 セイヴは死んだ。

 これであとはこの船に任せるだけ――


 思った瞬間。


 背中を誰かに切り裂かれた。


「がふッ……」

 意識ごと削り取られる中、背後に視線をやる。


 そこには初めに意識を刈り取った、刃を振り回す無傷のセイヴがいた。

 まさか、とビットレイは戦慄した。

 ビットレイの真後ろは位置は、刃を振り回しながら『永劫点チェックポイント』を発動した場所であった。

 しかし彼女が戦慄したのはその点だけではない。


 今のビットレイの真後ろの地点で発動した後にもう一度発動していながら、刃を振り回した状態に戻ってこれているということは、『永劫点チェックポイント』は能力を発動した地点に戻る能力――それはそのままの意味で、『最新の地点でしか復活できない』などという縛りはないのかもしれない。


 しかも死んでからでも戻ってこれている。


「それでは、まるで無敵ではありませんか……」


 過去に設定した地点に好きな時に戻れる上、死すらもなかったことにしてやり直せる能力『永劫点チェックポイント』。

 そしてセイヴは推進装置を何度でも使える機械人間サイボーグ


「まだッ……まだまだです!」


 ビットレイは倒れかける体を、床に盾を突き立ててなんとか耐える。

 そして両手を後ろに伸ばし、ギロチンを持っているだけ乱射した。

 しかしセイヴは推進装置ですべて避け、船内への扉へと移動した。


「…………」


 セイヴはひびの入った腕の刃を自分で破壊し、その中で一番大きい刃の欠片を口でくわえた。


「まだ、戦うのですか……」

「それが七騎ボディーズの生きる理由。運命を以って産まれ、戦って生き、死してニルグラム様の糧となる」

「ニルグラム……能力開発担当が関係あるのですか」

「死体になれば全てわかる」


 そう言ってセイヴはまた刃を構える。

 来る、と。そう思ったその時、セイヴに無線が入ったのか、耳に手を当てて無言で誰かの声を聴いている。

 今のセイヴは無防備なので、今が攻め時である。

 そのような考えは愚の骨頂。いくらでも『永劫点チェックポイント』でやり直されてしまう。それ以前にセイヴも攻撃が来ることを予測していないわけではない為、馬鹿正直に突っ込んでしまえばカウンターを取られる可能性もある。


 (……『永劫点チェックポイント』でやり直される?)


 セイヴの能力は『永劫点チェックポイント』。死すらもやり直せる能力。ビットレイの推測では、いくら死んでもやり直せる。


 (なら何故、ビットレイは私の背後で復活した時の、私のギロチンを避けたのでしょうか)


 いくらでも復活できるのであれば、ギロチンでもなんでも喰らっても問題はないはずだ。

 そう考えると、他にも疑問点が見当たる。

 刃を振り回している状態へ戻ることができるのなら、何度も連続で能力を使って、何十回も切り刻めばよいではないか。

 それなのに何故一回しか使わなかったのか。


 (完全に無敵な能力、というわけでもなさそうですね)


 しかし、それでも今までの能力の使用から相当に強い事は充分に理解できている。その上、能力を一回しか使わせなかった『制約』の詳しいところも全く分かっていない。

 考えている間にセイヴが膝を曲げ、推進装置で接近する準備をし始めた。

 ビットレイが『双盾王ストリーキング』を発動しようとしたその時。

 爆音と共に船が大きく揺れ、がくん、と傾いた。


「な……何事ですか!?」

 船員を甲板にあぶりだすための爆発より明らかに強い衝撃。

 それは恐らく、船への実害さえも伴っているものと思われた。


「でも、一体何の為に……!?」


 だが、おかげでセイヴの姿勢が崩れた。

 隙を逃さずビットレイは推進装置で放置されたピロウの方へスライド移動する。

 ピロウは微かに意識を取り戻しているらしかった。


「ピロウ!」

 ビットレイの叫んだただ一単語でピロウは手を天に伸ばす。その手をビットレイは高速移動しながら掴み、

 その勢いのまま自ら船の外へと跳んだ。

 ピロウを抱きながら、ビットレイの体は水面へと近づいていく。

 しかし決して慌てず、真っ逆さまの視界で船の側面にある、船室へと繋がる窓を確認した。


「ピロウ、あの窓です」

 ビットレイが言うと、ピロウの足元を通過うする巨大な光の輪が出現した。

 光の輪はビットレイが指定した窓を通っている。


「『閃血輪サークリング』」

 ピロウが呟くとビットレイの視界が一気にぶれる。

 次の瞬間には窓へとたどり着いていた。

 ビットレイはすかさず壁を割り、落ちる前にピロウと共に中に入る。

 部屋の中には、アギタのバイクと、それについている輸血パックがあった。


「これで避難完了ですね」


 『閃血輪サークリング』でセイヴを船外へ吹き飛ばしても良かったが、光の輪が出現した時点でセイヴは推進装置を使って輪から離れるので、やはり自分に使って一旦非難するのが得策であると思われた。

 ビットレイは輸血道具をバイクから取り出し、チートに教えられた通りに輸血行為を行う。

 チューブを繋ぎガーゼを貼り、毛布の上にピロウを寝かせる。


「これで一応は大丈夫。あとは船内にアギタがいるはずですが……」


 このままピロウを放置しておくのは少々不安ではあるが、船内には自分とピロウとアギタしかいない。もしかしたらハーウェイも来ているのかもしれない。

「……いや、違う」

 この船は自動操縦ではあるが、手動に切り替えた時のために操舵室に常に人がいるはずだ。

 それに、甲板に並べられた大量の死体の中で、船員の制服があまりにも少なすぎたような気がする。

 もしかすると船内で生きているものがいるのかもしれない。


 敵か一般人か。

 確かな事は言えないが、どちらにしろピロウを目撃されてしまうのはあまり好ましくない。

 敵に見つけられれば連れ去られる。一般人であったとしても、今のピロウに下手に手を出される可能性がある限りは、たとえ船員相手であっても百パーセントの信頼は出来ない。


「……少し待機しておきますか」


 部屋に置かれた、質素な椅子にビットレイは腰を下ろした。

 こんこん、と。

 早速誰かが部屋を訪ねてきた。


 ビットレイはいつでも能力を使えるように警戒しながら扉へ近づく。

 そして、小窓を覗き込んだ。


 その先には、海軍服の男がいた。




  次回:チェックポイント④

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