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花火師アギタの逃走記《ピロウトーク》  作者: 烏賊ミルハ
第一章 ~爆弾男の受難~
35/49

ファイバーワーク⑥

「よう久しぶりだなァ爆弾少年! いやあホントなつかしいというか何というかとりあえずオレの財布を返せコラ!」

「うるせえ!」

 服屋に入るや否やマシンガンの如く言葉を放つチートを、アギタは後頭部を殴って動きを止めさせ、ハンドマシンガンを口に突っ込んで黙らせた。

「出会いがしらにうるさいなぁお前は! こっちはピロウが危篤で気が立ってんだ」

「へへへ。まぁ落ち着こうぜ。こんな危険なモノなんてしまってさ。『孤細工ファイバーワーク』」


 口を満足に閉じれないチートが器用にそう言うと、口に突っ込まれた銃口がひん曲がり、そのまま伸びてアギタの額にコツンと当たった。

「……能力は健在ってわけか」

「そりゃもう。いつでも毎日絶好調だ! お前のせいでライマインに解雇されたから収入は少ないけどな!」

「だったら今回の依頼もこなしてくれるな」

「もちろん!」

 チートは両手を広げながらピロウに近づく。


 (本当にアイツ大丈夫なんだろうな?)

アギタが電話でチートに伝えたことは、『ピロウが失血で死にそうだ。俺の血でいいから輸血してくれ』というそこに至る過程をすべて省いた説明だった。それだけでチートが事態を理解してくれているのか、正直なところアギタは不安だった。

 そんな気持ちをよそに、チートは一本の針を取り出し、

「それじゃあ開始だ。アギタ、こっち」


 アギタに手招きをした。アギタがおそるおそるチートに近づく。

 その瞬間、チートの持つ針が伸び、アギタの腕に刺さった。


「な、何を!?」

「ただの採血、大丈夫だ」


 言ってからチートは大きな袋を取り出し二秒待ち、

「『孤細工ファイバーワーク』!」

 能力を発動させた。

 アギタの腕に刺さった針のもう一端から血が勢いよく出る。


「血を変形させて一気に出すから、覚悟しとけよォ!」


 針の穴から吹き出す血は袋の中に入り、あっという間に量が増えていった。


「じゃ、次はこの血をピロウちゃんに移すぜ」

 チートはまた二秒待ち、能力を発動させてまた別の針をピロウの腕に伸ばす。それから更に二秒待ち、血を針に流し込みはじめた。


 五秒流し込んでは二秒待ち、また五秒流し込む。

 その繰り返しでピロウの身体にはアギタの血が満ちていった。


「――――よし、こんなもんだな!」

 チートは自信満々に言って、最期にピロウに突き刺した針を抜き傷口にガーゼを張った。


「あとは、移した分血の減ったアギタなんだけど、まあこっちは妄神の回復力で何とかなる!」

「そうか……ありがたいな」

「いいってことよ! それより依頼金の話なんだけど」


 おおそうだ、とアギタはポケットから財布を出し紙幣を何枚か出した。


「これくらいでいいか?」

「そうそうこれくらい……ってこれは元々オレの財布だ!」

 思いのたけをぶつけながらチートは『孤細工ファイバーワーク』で針を平たく伸ばしてアギタの頬を叩いた。


「別にいいだろ。借りたんじゃなくて奪ったんだし。お前だって了承してただろ」

「そうだけどさ……そうだけどさ!」

 チートは背を逸らして過去の過ちに悶絶する。

「そこの少年は誰だ。俺は知らないのだが」

 ハーウェイが服屋の中に入ってくる。あいかわらず片腕はなくしたままだが、切断した足は完全に生えていた。


「そいつも妄神なのか、アギタ」

「前に話したチープトリック。あの油断してやられたヤツ」

「おい爆弾少年! この大男にそんな話し方をしてたのか!? それ以前にお前に仲間が出来たのか!?」

「ハーウェイだ。よろしくな」

 ほとんど動じずハーウェイはチートに手を伸ばす。それにチートは笑顔で手を取って答えた。

ビットレイはそれを見、アギタの横に立った。


「アギタ少年、あの男は」

「さっきハーウェイに言った通り、チートって奴だ。地方ここの妄神でこの前までライマインで雇われていた便利屋だ」

「彼も仲間ですか」

「いいや違う。ただ敵でもない。ここで資金を全部使って護衛役として雇えればいいんだけどな。残念ながらそこまで金はない」

「そうですか。それは残念ですね」


 ビットレイは思いつめたような表情をする。

 彼女としては、善悪の判断をするまではアギタに死んでもらっては困るのでなるべく護衛の仲間が必要となる。

 その点で、せっかくの強力な仲間候補が仲間になりにくいという事実は落胆するほかなかった。

「そういえばビット、お前足の銃弾は補充されたのか?」

「ビット?」

「そっちのほうが言いやすいだろ。そんな悪いか?」

「悪くはありませんが……しかし最初からその呼び名というのは」

「悪くないならいいじゃないか。少なくとも『悪』じゃないんだろ」


 ビットレイは答えない。が、その意味は確実彼女に伝わっていることだろう。


「悪くないことから探していこうぜ。今はそれで充分だろ」

 アギタは壁に寄りかかって目を閉じる。

 そしてビットレイはやはり口を開かなかった。

 ただ、少しだけ頬が赤らんでいた。


 もちろんこの場の誰もそれを見ていない。

 本人でさえも、だった。















「私たち『七騎ボディーズ』は、ライマイン直属の機械人間サイボーグ部隊で、主に七人で構成されています」

 すっかり落ち着いた服屋内で、ビットレイは説明を始めた。何故かチートも一緒になって聞いていたが、別段聞かれて困る話でもないので誰も追い出すようなことはしなかった。


「七人って事は、ジェンツとストゥープの分を抜けば生存しているのは五人ってことか。いや、ビットの分も考えれば敵は四人だな」

「別に私は味方になったわけではありませんが……そうですね。しかし『七騎ボディーズ』は基本的に一人一人で動くので、部隊というくくりは無いに等しいです。ただの機械人間サイボーグの集まりと考えてもらっていいです。仲間の事を考えていたのはジェンツと私だけでしたし」

「少し質問をいいか?」

 ハーウェイが口を開く。


「その機械人間サイボーグというのは、妄神になってからなるのか、それとも機械人間サイボーグになってから妄神に目覚めたのか、どっちなんだ」

「前者です。ライマインは妄神の才能があるものを集め、彼らの研究所で妄神に目覚めさせてから、更にその中で選ばれた七人が機械人間サイボーグにされます。ストゥープは自分で機械化を希望したそうですが」


 ビットレイは話を続ける。


「実を言うと、『七騎ボディーズ』を始めとするライマインの組織には私にもわからない点が多いのです。同じ『七騎ボディーズ』でも、能力の詳細どころか能力名すら明かさない者もいるほどです。というより、私が能力を詳しく知っているのはジェンツだけです。他は能力名か、本人の名前だけ。ストゥープの能力も噂でしか聞いたことがなかったんです」

「分かる範囲で教えてくれ。ハーウェイも知りたいだろうし」

 アギタがそう言うと、ビットレイはレジに置いてある紙とペンをとり、何かを書きはじめた。

 やがて書き終わるとビットレイはそれをアギタに渡した。ハーウェイとチートもそれをの覗き込み、店内で見ていないのはアギタの背中で寝ているピロウと、既に内容を知っているビットレイだけだった。

 紙には名前と能力名が箇条書きにされていた。




    屈服のストゥープ  『暗落椅子バズビーズチェア

    撤回のセイヴ    『永劫点チェックポイント

    逆墳のジェンツ   『火炎枢ビフォアバーナー

    絶壁のビットレイ  『双盾王ストリーキング

    回転のクォンタム  ???

    ???       『腐導冥王ケム・トレイル

    ???       ???




「なんだ、結構わかってるな」

「全員顔だけなら知っていますから。名前がわからないメンバーも、『腐導冥王ケム・トレイル』の人は大型の老人、七番目の人はオカマっぽかったというのは覚えています」

「オカマって……機械じゃないのかよ」

機械人間サイボーグといっても半分は一割か二割は生身ですから。それに、オカマというのもセイヴよりはマシです」

 ビットレイは大きな溜息をつく。


「そのセイヴっていうのは誰だ? ビットと仲が良いのか?」

「……正直言って、セイヴの事は何も話したくありません」

「そう……なのか」

 アギタは何かを言おうとしたが、ビットレイの表情は、本当に嫌な時のソレだったので、深く追求するのは躊躇われた。


「そういえば、一緒に旅する仲としての自己紹介はまだでしたね」


 ビットレイは巧みに話題を逸らす。


「そういやそうだな。俺はアギタ。花火師だ」

 アギタはそれにわざと乗っかった。これからの事を思うと、ビットレイの機嫌を損ねることは死に直結する可能性があると考えたのだ。

「ハーウェイだ。よろしくな」

 それらの思惑を察したのかただの純粋か、ハーウェイも素直に自己紹介を行う。

 ビットレイはホッと、先ほどとはまた違う意味を持った溜息を吐く。そして、


「私はビットレイ。これから善悪の判断の為、旅に参加させていただきます。どうかお見知りおきください」


 照れたような笑顔を見せた。














 さて。輸血行為の依頼を受けたチートだが、友人としてのよしみだと言ってカンパで港までの護衛も行ってくれた。アギタは友人になった覚えはないのだが。


 そんな便利屋のおかげか、アギタ達は大きな弊害に出会うことはなく、二日の行進の果てに、大陸にいくつかしかない港『ナイブラス港』に着いた。


 アギタの作業場では考えられないほどの湿気と、澄んだ空気が鼻をさす。

 しかし、アギタはそれどころではなかった。

 彼自身の問題ではない。

 一行の中でほぼ確実に海を見たことのない男――ハーウェイが問題だった。


「これが海! 海海! おおおおお、うみ! おおおおおおお!」

 ハーウェイは岸壁のふちに立ち、果てなく広がる海に向かって感動していた。例によってのカルチャーショックである。彼の隣ではビットレイがハーウェイの暴走を何とか抑えている。

 それを遠目に見ながら、アギタはチートからあるものを受け取っていた。二日の旅路の中で用意したものだったが、この場で渡すのが一番であるとアギタには思われた。

 そのブツとは……


「ほら、爆弾少年。輸血パックだ」

 チートは血を密閉した袋を三つ、計五リットルの血液を冷水袋に入れた状態でアギタに渡した。

 全てアギタの血液である。

 これからの旅で、アギタ達が師匠の下でピロウを保護下につくまえに『閃血輪サークリング』を使った場合の血液で、当然アギタは輸血のための技術をチートから授かっていた。血管の位置や針の刺し方、消毒方法と輸血ペースも全て教えてもらっている。


「保存のきく濃厚赤血球系な。昔はRCCなんて言ってたヤツ。オレの技術があれば一気に注入できるんだけどな。普通の輸血だったら280mlで一時間がベスト」

「こんなところまで世話かけてすまないな」

「アフターケアまでバッチリなのが便利屋BINNGOだからな! 今後もよろしく頼むぞ!」


 チートは自信満々に高笑った。


 それからテンションの少しおかしいハーウェイをビットレイが抑えながら、その二人が先に大型船に乗った。東の大陸に向かう船で、航海日数は十六時間で、ハーウェイの船酔いが唯一の不安だった。

 アギタもピロウを背負いながら船に乗り込もうと足を踏み出す。


「それじゃあな、チート」

「おう! あ、そうだ。ちょっと耳貸してくれ」

 何かを思い出したような口調でチートは小さな声で言う。言われるがままにアギタはチートに耳を寄せる。

するとチートが真剣な声で、

「こっちには二度と戻ってくるなよ、『魂爆弾アギテーション』」

「――は?」

 一瞬耳を疑う。

「んじゃこれが最後のお別れだ! 向こうでも何とかやれよ!」

 チートはまたいつもの声に戻り、親指を立てた。先の言葉について聞きたかったが、あまりのチートの変わりように何も言えず、バイクを押しながらアギタとピロウも船に乗り込んだ。


 しばらくして、遠くまで響く汽笛と共に船は東の大陸へと動き出した。

 何もかも幾分順調。

 ただアギタは、チートの残した、『魂爆弾アギテーション』」という言葉に、妙な胸騒ぎを覚えていた。



 ――クッソヨエエナ。コンナヤツラスグニコロセルゼ。


 ――クラエヨ、『アギテーション』。



「はっ!?」

 高らかな汽笛の中で、アギタは脳に声が響くのを聞いた。


「アギタ! 早く上がってこないか!」

「上は気持ちいいですよ、アギタ少年」

 先に行った二人が、声だけでアギタを呼ぶ。


 ピロウもアギタの服のすそを引く。

「……いこ」

「ああ――そうだな。行くか」


 アギタはピロウの乗ったバイクを押しながら、無理やりに階段を上る。


 やがて汽笛はやみ、代わりに今まで隠れていたエンジン音がやってきた。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 アギタ達の乗った船出航の三十分前。

 三人組の男達がナイブラス港のバーで暇をつぶしていた。


 一人は腰まで髪を伸ばし、百九十に届かんとする身長にすらツーサイズは大きいコートを着たキザっぽい男。

 一人は五体それぞれにヘッドホンを付けたサングラスの短髪男。

一人は研究者風の丸眼鏡にオールバックを決めた男。


 三人で円テーブルを囲んでいる。


「オイオイオイオイ、ホントに来るんだろうな目当ての男とやらはヨ!」

 ヘッドホンの短髪男が踊りを決めながら研究者風の男に訊く。腰にギターケースを下げており、一端は地面に触れて黒の塗装がはがれかけていた。


「合っておりますよ。ワタクシの計算は間違ってなどいません。まあここから先はセイヴ様の自由なので、ワタクシは一切の責任を負いませんがね」

「いや本当に助かった。まさか大陸移動しようとしてるなんて思わなかったから、これだけで満足さァ」


 研究者風の男の忠告に、セイヴと呼ばれたキザっぽい男はうっとりとした表情で答える。

 しかしそれは研究者風の男に感謝しているからではない。

 セイヴはポケットから出した一枚の写真を眺めてそれに心底酔っていたのだ。

 写真に写っているのはビットレイ。


「アぁ、仲間だった君は美しかったけど、裏切った君も負けず劣らず美しィ。しばらく会えなくて寂しかったから、この機会に一気に僕の者にしてあげるさァ」


 惚れ惚れとする声で変態じみた発言をしてから、セイヴは写真に口づけをし、席を立って船に向かった。


「じゃあミーも行ってくるわ。俺のリズムの前じゃ、みんな骨抜きだぜ」

 その後をヘッドホンの男が踊りながら続く。





 研究者風の男だけが取り残された。

 男はしばらく静止した後、酒を一杯口に含んでから、


「アギタ君、でしたかね。彼がそんな名前で東の大陸に行くとは、なんと奇妙な巡り合わせでしょうか」


 ぽつり呟き、一人下を向いて溢れ出る笑いをかみ殺していた。




  次回:ハイウェイ・ヒプノーシス①

次の投稿は遅れるかも。

すんません。

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