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花火師アギタの逃走記《ピロウトーク》  作者: 烏賊ミルハ
第一章 ~爆弾男の受難~
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ストリーキング⑦

 アギタは疑問を抱いていた。

 接近戦において彼が『爆撃機人ボミングランチャー』を使うことは出来ないことは知っているはずだ。

 彼が使える有効武器は銃器のみ。それも機械人間サイボーグには効かない。それはビットレイ自身が一番よく知っているはずだ。


 それなのに何故、アギタの銃撃に対して盾を展開して防御したのか。

 復讐の鬼であるビットレイは、しかし行動そのものは合理の塊だ。そんな彼女がわざわざ盾を使ったのには意味があるはずだ。


 例えば攻められたくない場所があるとか。


 ストゥープと闘った時、足元への攻撃は無駄だとわかった。推進装置や銃器などの複雑な機構を持った部位への攻撃が無駄なら他の部位への攻撃はそれより無駄だろう。表皮を打ち破ることは考えない方が良い。


 それならば内側への攻撃はどうだろうか。

 指と爪の間や、口や、尻の穴。一旦入り込めばそれは内側の機構への攻撃と直結する。しかしその部位への攻撃は非常に難しい。指と爪の間は機械化の際になくなっているだろう。尻の穴も同じ。そして口は基本閉じられているため狙う事は難しい。


 他の、内側へと侵入できる可能性の高いルートは一つ。

『眼球』だ。

 開閉する上、表面にライトの機構をもっているので表皮も薄いものと思われる。


 あとはどうやって当てるかだが、相手がこちらの動きに注目している状態では銃弾は盾に阻まれる。しかし目がこちらを向いていなければ弾は当たらない。


 そう言った思考の末、アギタは『跳弾』を利用することにした。

 ビットレイの盾は凸面状だ。内側は凹状になっているはずで、それならば内側に弾を当てればうまい具合にビットレイに跳ね返るだろう。


 問題は盾のどこに当てればビットレイの目にピンポイントで当たるかだが、この問題はすぐに解決した。

 ビットレイがやってくる前、血を吐きながらも意識を持っていたピロウは、アギタとハーウェイが作戦を話しているのを聞いて、体の不調をおして、


「……『預界音マザートーン』……が、あれば…当てる位置が予感……できる……」


 消えそうな声でそう言った。

 アギタは決して味方を犠牲にしたりなどしない。直接の犠牲でなくとも、作戦に参加したせいでこれ以上体調が悪くなることはアギタは絶対に許さないだろう。

 ただし、それは本人の覚悟がない場合だ。

 本人がやりたいと言っているのなら、その気持ちはできるだけ通してやるのが、またアギタの性格だ。


 あとは当初の作戦通り。ハーウェイの足を切断してアギタと同じ身の丈にし、あたかもアギタが死んだように見せかける。そして発砲音でビットレイを釣る。本当なら死んだふりをしているハーウェイがわざと指を動かして死んだふりであることを気づかせる予定だったが、機械人間サイボーグの高機能でその手間が省けた。

 そして今この瞬間。

 目を潰したと言ってもそれ以外の知覚センサーがないとも言い切れない。他の機能をメインに切り替えている間はそう長くない。

 行動は直進以外にありえなかった。


 『接近して目に銃口を突っ込んで内部を破壊する』。


 残忍ではあるが、アギタが打てる有効打はそれしかない。


「まだです! まだ私には盾が――」

 ビットレイは叫ぶが、ある事実に気づいたのか、言葉はすぐに止まった。

 それの事実をアギタは知っていた。

 否、見えていた。

 ハーウェイが透明の盾を掴んで動かせないようにしているのだ。


「まさか捕まれて……!」

 ハーウェイが切られた足の断面を無理やり立てて重心に安定感を持たせている。常人であれば痛みで泣き叫ぶところだが、生粋の戦士であるハーウェイにとっては唸り声さえあげない。


「お前がバランスを崩してから何瞬あったと思ってんだ。ハーウェイは勢いを失ったわけじゃない。むしろ速度は増してる。そんな状態で半秒でも止まっていたら捕まれるに決まってるぜ」

 ここまでが計画。

 あとは目玉を再度撃つだけだ。もし能力を解除されて盾を消されてもその場合はハーウェイがビットレイを襲う。徹甲榴弾には充分警戒をはらうように言っているので逃す心配はない。


「これで終わりだ!」


 アギタはビットレイに向かって走り抜ける。

 全速力で呼吸もせずに。

 標的へと近づいていき、


「……上出来ですね。相手が私でなければという意味ですが」

 ビットレイが呟いて腕を後ろに伸ばす。


 と、アギタは『何か』にぶつかった。


「なッ……がッ」

 鋼鉄より堅い、決して自分が動かせないとわかる強さ。

 目の前には何もないのに、自分の身体は何かに触れている。

 (これはまさか『盾』?)

 それはないはずだ。透明の盾はハーウェイが抑えている。いまや彼を止める障害はなにもない。

 だというのになぜ。

「……ははは。やはり奥の手はとっておくものですね」

 アギタが戸惑う中、ビットレイは静かに笑う。


「私の能力は『双盾王ストリーキング』。私以外には見えない盾を『二つまで』召還する能力」

「二つ……!?」


 驚愕するより、何故、とアギタは疑問を持った。

 最初から盾を二つ出しておけば展開は幾らか有利になるというのに。防御用と回避用とに使い分けられるというのに。

 この最悪の事態に立つまで、彼女は二つ目の盾を奥の手として隠し続けていたというのか。


「貴方の攻撃は決して届きません。決して、です」

 ビットレイは顎を上げてアギタに視線を送る。

 青い光を放つ、割れた義眼。

 しかし、


「目は……見えていないのか……?」

 アギタは思わず口に出していた。

「残念ながら見る機能は失われてしまいました。両目ともです。ですが、音で貴方の位置は理解できます」

「くっ……」

 アギタは眉間にしわを寄せ、一歩下がって目の前にあるはずの盾に向けて引き金を引く。盾の破壊は不可能だろうが、少なくとも盾を一つ制すことは出来る。

 今のビットレイを銭湯不能にできるのはハーウェイしかいない。

 そのような意図を汲みとったのか、ハーウェイは掴んだ盾を上に弾いて一気に踏むこむ。

 足の断面をわざと潰して前に傾け、身体を撃ち出すようにして前に進む。毎回全力で飛び上がるような進み方なので体力を使うが、その分歩数の割に進める距離が大きい。


「たとえ盾が二つあったとしても『三重フィスト破拳フィート』の能力は防げない。残念だったな」

「防ぐ必要があるのでしょうか」

 迫るハーウェイ相手に、ビットレイは表情を変えず言う。


 今のビットレイには推進装置は使えない。たとえ足を切られた状態であっても、ハーウェイの機動力と『三重破拳フィストフィート』があれば肉薄ぐらいは可能だ。


 思ったその時、ビットレイの膝から銃口が現れ一発の銃弾をハーウェイの足元に撃ちこんだ。しかしハーウェイも馬鹿ではない。

 もしそれが徹甲榴弾であれば『三重破拳フィストフィート』を使わねばならない。

 しかしそうすると身体が浮いている状態での能力発動になってしまうので、体の制御が出来ずに次の手を打たれてしまう。それ以前に自分を殴るための動作をしている間に推進装置のクールタイムが終わってしまう。


 故に、ビットレイは跳び上がった。


 高跳びではなく、走り幅跳びのように前に進むことを目的とした渾身のジャンプ。肉体への負担は大きいが、これで一気に徹甲榴弾の爆発域を抜け出してビットレイの下へ行ける。

 空中でハーウェイは背骨を逸らし腕を振りかぶる。

 しかし。


「私の移動機能が推進装置スラスターだけだと、まさか本気で思っているのですか?」


 先と変わらない表情でビットレイは呟く。

 瞬間、ビットレイの身体が宙を舞った。

「はぁッ!?」

「何っ……」

 驚く二人をよそに、ビットレイはアギタを中心とした円を描くように移動する。

「いや、中心は俺じゃなくてまさか……」


「盾を中心に移動したのを、最初に貴方達は見たはずでしょう?」

 ビットレイの言葉で、アギタは、ビットレイが倒れた姿勢から半円を描いて移動したのを思い出した。ビットレイが来るまでの間にハーウェイと話したことではあったが、作戦に気を取られて完全に失念していた。


「そしてたった今、クールタイムは終了しました」


 『双盾王ストリーキング』解除、と。

ビットレイが口にするやいなや半円の軌道から外れる。

 と同時にハーウェイの着地地点に数発の銃弾が穿たれた。ハーウェイの動きをけん制する為だろうか。しかしそれだけではハーウェイの動きは止まらない。

 引き続き宙を飛びビットレイの身体がアギタの真上に到達した瞬間に、推進装置起動の音がアギタの耳に届く。


 アギタに影が落ちる。その影から伸びる一本の細い影は刃だろう。


 本能的に視線が後方に動く。

 そこには、落下しながら刃を振りかざしアギタを後ろから切らんとするビットレイがいた。


 今から逃げられるはずがない。一歩二歩動いても刃からは逃れられない。

 思考だけが高速で回転する。

 そして。


「うおおおおおお!」

 アギタは本能的に叫び、首に回されたピロウの腕を掴み、力任せにピロウを投げ飛ばした。

 ピロウが刃の範囲内から飛ばされる。



 そして、アギタは背中を一直線に斬られた。

 勢いよく血が噴き出す。



「アギタああああああああ!」

 ハーウェイが叫ぶ。

 着地し次第すぐ『三重破拳フィストフィート』を発動してアギタとピロウを迅速に回収し、この場から一旦撤退することが、この場での最善策。


 ハーウェイはそう思い、短くなった足を伸ばしてなるべく着地を早めようとする。

 その瞬間、ハーウェイは一つの疑問点に至った。


 一発目の、ハーウェイがジャンプする原因となった徹甲榴弾が爆発しないのだ。撃った本人が爆発のタイミングを決められるわけでもなし、また不発という可能性もないだろう。


 そうすると答えは一つ。

 (一発目は徹甲榴弾じゃない?)

 なら、ビットレイが言っていた『残り一発の徹甲榴弾』は一体どこにあるのか。この窮地で使っていないということはあるまい。


 (いや、ある!)

 地面に放射された数発の銃弾。

 ハーウェイの着地前に撒かれた弾丸。

 もしその中に徹甲榴弾が混ざっているとすれば……


「『三重フィストフィ――――」

 地面に埋められている徹甲榴弾の爆発を利用して能力を発動するために腕を真下に伸ばそうとするが、腕は既に振りかぶられている。


 能力発動が間に合わない。


 そして地面が爆発し、小規模な爆風と爆熱と破片とが無防備なハーウェイに襲い掛かった。

 短くなった足が膝まで削られる。


「がぁああああああ!!!」


 振り上げた腕を爆風が包み込み『三重破拳フィストフィート』が発動可能な状態になったが、今の状態で発動しても全く意味がない。


 絶対防御の能力者にダメージを与えるには、能力発動前に攻撃を与えるのが最善。

 たとえどのような能力を持っていたとしても不意打ちには対応できない。


 『双盾王ストリーキング』を使わせてから対処したアギタとハーウェイ。

 『爆撃機人ボミングランチャー』を使わせない状況下で、『三重破拳フィストフィート』を使わせる前に攻撃を喰らわせたビットレイ。

 その違いは明白であった。

 アギタは背中から血を噴き出しながら力なく倒れ、ハーウェイは足を切ったのと突然の爆発で肉体が限界を迎え、何もできずに地に落ちた。

 投げ出されたピロウは、血液量の二十パーセントを失ったうえ小さな体をおして作戦に参加したため全く動くことが出来ない。

 周囲の野次馬はいつの間にか離れていた。

 唯一動けるビットレイが、腕から刃を出してアギタに向ける。


「貴方達は実戦経験が圧倒的に不足しています。貴方はまだしも、ハーウェイ青年はこの前妄神となったばかり。ジェンツを倒したのも貴方のサポートがあったからこそ。本当に未熟な人間です」

「く……っそ……」


 アギタは背中の痛みに歯を食いしばりながら、倒れた時に手元を離れたハンドマシンガンに手を伸ばす。

 銃身に手が届きそうになる。


 が、伸ばした腕がビットレイの刃に突き刺さされ、腕が地面に縫い付けられる。


「諦めてください。私は貴方を、ジェンツとストゥープの二人分、そして任務の弊害である貴方の命の一回分。計三回殺します。一つの命でそうするのは難しいでしょうが、その分苦しめるので覚悟してください」

「お前は……何なんだ」

「何度でも言います。私はライマイン直属機械部隊『七騎ボディーズ』が一人、絶壁のビットレイ。使命ではなく復讐の為に、貴方がたを惨殺します」

「そう……か。ならそれでいい。身の危険を感じたからってお前の仲間を殺したんなら、惨殺されたって三回分殺されたってしょうがないよな」


 アギタは重い内容を軽く言った。しかしそれは策を練るための時間稼ぎではない。

 今まで殺してきた人間たちを思い出す。


 白衣の男。その彼の部隊。ストゥープ。ジェンツ。

 その他にも自分の実力が至らないせいで治安部隊長やテテイ村の村長を死なせてしまった。


 それらの罪を、いつかどこかで裁かれることはアギタ自身も薄々気づいていた。

 今がその時、なのかもしれない。


「抵抗の意味もない、か」

「その通りです。貴方はここで死にます」

「みたいだな。だから俺の最後の願いを聞いてほしいんだけどさ」

「聞くだけならいいでしょう。ただし最後に吐く台詞は叫び声で、貴方の願いには決してなりません、よ」

 言い終わると同時にビットレイは突き刺した刃を腕ごと回転させて肉を抉った。


 全身に鋭い痛みが走り、アギタはさらに強く歯を食いしばる。

 しかしアギタは話すのを諦めない。


「それじゃあ話すぞ。お前が攫おうとしているピロウだけどな、血液の二十パーセントを失っているんだ」

「そう……なのですか」

「ああ。ピロウに死なれちゃ困るだろう。だから、『輸血』をお願いしたい」

「輸血?」

 ビットレイは首をかしげる。

「そう輸血だ。俺もやろうとしたんだけど、血液型がわかんないのと輸血方法が思いつかなくてさ。血管とかよく知らないし」

「それを、私にやれというのですか?」

「お前が血管に詳しいとは思っていない。だがお前にはその『機械の精密さ』がある。高い判断能力と合わせれば、輸血ぐらいはなんとかなるはずだ」


 アギタの提案に、ビットレイは少しだけ考えるそぶりを見せる。


「……もし、私が輸血の手伝いをするとして、血液はどうするのですか?」


 そして静かに口を開いた。


「そこに散っている血は使い物にはなりません。貴方の味方をする一般人もいません。なら、一体誰が」

「ピロウの血液型はな、B型らしいんだ」

 丸で独り言のようなアギタの話口に、ビットレイは不審そうにアギタを見る。

 その冷めた目線にアギタは鋭い眼光で返し、



「実はな、俺もB型なんだよ」



 覚悟を決めた。





  次回:ストリーキング⑧

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