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花火師アギタの逃走記《ピロウトーク》  作者: 烏賊ミルハ
第一章 ~爆弾男の受難~
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ストリーキング⑥


 砂漠の中心で取り残されたビットレイは全身の機構をフル活用してハーバー町に帰還していた。


 目的の少女――ピロウが『閃血輪サークリング』という能力を使って光の輪を召還してその上を移動した。その輪はハーバー町にまで伸びアギタらもその方向に移動したため、町に戻ったと考えていいだろう。あのハーウェイとかいう大男と合流するための行動といえる。


 問題は、他にも『預界音マザートーン』という能力を使っていた事だ。

 ジェンツの視覚情報を見るとハーウェイの腕を繋げていたため、そのような能力も持っているはずだ。


 能力が三つ。それが一人の少女の身体に収まっている。


 能力の複数所持など、ビットレイは机上の空論としてしか聞いたことがない。もし少女がそういった存在なら、自身の所属するライマインがピロウを躍起になって追いかけるのも納得できる。能力開発者としては能力を三つも持つ実験体をそう簡単に――たとえどれほど難しくとも逃してもいいとは決して思わないはずだ。


 (そういう事情を知っていて、アギタという少年はピロウを匿っているのでしょうか)


 いやそれはない、とビットレイは心の内で否定した。

 『閃血輪サークリング』の発動一回目の時、アギタは未知と遭遇したような顔をしていた。恐らくアギタも『閃血輪サークリング』の存在を知らなかったのだろう。


 そうであるならば、アギタはピロウの希少性を知らないまま彼女を匿っているということになる。

 その行動は、ビットレイにとってはまさしく『善』である。そのアギタを殺すビットレイは果たして善だろうか。


 復讐という面で見ればビットレイは善だ。だがアギタが純粋に、実験体にされる少女の逃亡を手伝っているという面で見ればビットレイは善といえるだろうか。

 かつて殺した一家の記憶が甦る。


「……決まっています。私が善です」


 口に出して自分の決意を確立させる。

 ビットレイはまだ自分の価値観が確立しておらず、通常は単独で活動する妄神の中でもより個々での立ち位置が確立された機械人間サイボーグの中でも他人とのつながりを強く求めている。


 その証拠に、『七騎ボディーズ』の中でも復讐を積極的に働こうとしたのはビットレイだけだ。二番手はジェンツであるが、より慎重に移動していたのはビットレイの方だ。それにセイヴの事を思い出すなど、同じ境遇の『七騎ボディーズ』について考えることも他のメンバーに比べると多い。


 そして何より――これは本人が気づいているかはわからないが――通常であれば迅速に殺すべき対象であるハーウェイを気紛れでも見逃したことは、地味ではあるが特にビットレイの性格を表している。

 殺人で人格を壊されたアギタと同じで、今までの拠り所を自分の手で壊さざるを得なかったハーウェイとも同じ。

 どこか不安定な自分を、ビットレイは無意識化で知っているはずだった


 そんな目を背けたい事実に蓋をしているのは任務という『絶対』。

 何も考えずに、ただこなすだけで他人の正義と同調できる絶対の概念。

 その任務にビットレイはしがみついていた。


 そのはずなのに、今のビットレイは復讐を第一目標にしている。仲間を想った気持ちが義務を超えたと言えば聞こえはいいが、本人の自覚なく、頼っていたものから手を放しかけていると考えると、それは『迷い』以外のなにものでもない。

 もちろん彼女に自覚はない。




 ビットレイはハーバー町に入ると、推進装置で大きく飛び上がり町を一望した。推進装置の勢いは強く、一回で建物を超えるぐらいの跳躍は出来るのだ。


 すると、突然町中から銃声が聞こえた。

 音の方向を向くと、一つの血だまりが視界に入った。


 中心には革のジャンパーを着た男が一人倒れている。血だまりは徐々に広がっていき、その周りに野次馬が集まり始めている。

「あのジャンパーはアギタ少年のものですか」


 体を少し休ませてから、再度使って地面に急接近する。

 おおよそ人間には耐えられない速度で着地を果たしたあとビットレイは血だまりのもとへ向かう。


 刃を振りかざし野次馬を払う。極近の凶器を見て蜘蛛の子を散らすように消えた人々の中心に、アギタと思われる死体があった。服装だけでなく身体の大きさからもそう判断できる。上半身をかぶさったジャンパーは片腕を完全に覆い、もう片方の腕も手しか見えていない。


 どうして銃で撃たれたのか。誰に撃たれたのか。


 ビットレイはそのような疑問を――――抱かなかった。


「こんな小細工で私を騙せると思わないでください」

 ビットレイは膝から銃口を出す。


「銃声の直後にここまで血が流れるわけがありません。それに指がほんの少し動いています。耳を澄ませば聴覚センサーが呼吸音を捉えます。端の血の色が少しだけ濃いのは、最初に誰かの血を撒いて全てがあなたの血であると錯覚させるためでしょうか。死んだふりなど、機械人間サイボーグの前では無意味ですよ」


 機械としての能力の全てがビットレイに、目の前で倒れているアギタが生きている事を知らせてくれている。隙をついて何とか殺そうという算段なのだろう。


 念のため『双盾王ストリーキング』を発動し、自分にだけ見える盾を真上に展開する。


 手を使わずとも超高速で動かせるこの盾は自分を中心とした三メートルの円の上でしか動けない。ハーウェイはそのことに気付いていたようだが、すでに徹甲榴弾による対策で問題ない。徹甲榴弾は残り一発しかないのでむやみに使うことは出来ないが。


 倒れているアギタが指をわずかに動かす。


「動くのですか。まぁ、死んだふりなど私には通じませんからね。抵抗しないでくださいね。なるべく苦しませて殺したいのです」


 ビットレイがそう言うと、次は頭をもぞもぞと動かし、

「『爆撃ボミング』……『機人ランチャー』……」

 と、ビットレイにぎりぎり届く声量で言った。

 しかし彼女は慌てない。


「貴方が街中で『爆撃機人ボミングランチャー』を使えるわけがありません。テテイ村ですぐに爆弾を使わなかったのも、まわりを巻き込みたくないからですよね。唯一の例外は、周りに人がいないとわかっていて、十分なスペースが確保できていたストゥープとの戦いのみ」


 ビットレイはアギタの特性を完璧に理解していた。爆発マニアで、でも人々の事を一応は考えている。そんな男が周りを犠牲にするようなことはしない。

 もしそのような状況があるとすれば、犠牲になる相手がそれを了承した場合のみ。


「さあ、まずは四肢を完全に破壊しましょう」


 膝の銃に弾がセットされる感覚。


「まずは一発」


 銃弾がアギタの肩めがけて放たれる。


 その瞬間に倒れているアギタの腕が地面に突き立てられる。避けるつもりなのだろうが、寝た姿勢から動ける範囲などたかがしれていた。ビットレイは次に撃つべき位置を思考する。


 肩に当たる弾を避けた場合の回避位置を。

 しかし予想に反しアギタはその場を動かない。


 それが第一の衝撃。

 第二の衝撃はその直後に訪れた。

 当初の予定通り銃弾はアギタの肩に迫り。


 肩に直撃し。

 あらぬ方向に弾かれた。


「何……」

「『三重フィスト破拳フィート』」


 アギタは、ハーウェイの能力名を口にした。腕を突き立てた直後に銃弾を弾かれるという現象も『三重フィスト破拳フィート』そのものだ。


「まさか貴方は――」


 言い終える前にアギタだと思われていた人間は片腕で体を持ち上げ、腕を砲台にしてビットレイに向かって飛ばした。地面からの反比例はないものの、体が持ち上げられる勢いそのものは重力の影響はない。

 何ものにも邪魔されない速度でアギタと思われていた人間はビットレイに急接近する。その勢いで、上からかぶされて上半身を覆っていた革のジャンパーが取れる。


 そうして晒された顔は、アギタではなくハーウェイの顔だった。


 その展開はビットレイにとって全くの予想外だった。


 ただ服装を似せているだけなら、変装している説も仮説の一つに存在しただろう。そう考えなかったのは身長がアギタと全くの同じだったからだ。一般人が協力するとは思えないので、アギタの革のジャンパーを着たアギタと同じ身長の人間といえばアギタしか有り得ないはずだ。少なくともハーウェイと間違えるほどの巨体ではない。


 それなのになぜ彼女は間違えたのか。

 混乱する思考の中で、風にはためくハーウェイのズボンを見る。


 そこには、脛から先を切断された足があった。


 (まさか……!)


 ビットレイはハーウェイの腕を見る。

 腕の長さ、筋肉のつきかた共にアギタのものとは違う。それがわかっていれば入れ替わりにも気付けたはずだ。


 (まさかそのためにジャンパーを着るのではなく『被せていた』……!?)


 ジャンパーを被せられて誤魔化されたのは腕だけではない。

 筋肉質の屈強な肉体もジャンパーの下にあってはアギタのそれと判別が困難だ。死んだふりや無駄に多い血も、入れ替わりトリックから目をそらさせるための要素といえる。


 (生身にしてはよくやった、なんてストゥープなら言うのでしょうね)


 ビットレイは仲間を思い出して混乱する心を押さえつけ、冷静に盾を前方に動かす。

 直後、盾に衝撃が走る。


「ぐっ……う……」

 ビットレイの身体が後ろに動かされる。

 通常の攻撃であればそれで終わるのだが、『三重破拳フィストフィート』の影響で勢いは衰えない。

 勢いの止まらない攻撃に抵抗もできず、盾と共にビットレイの体は後方へ吹き飛んだ。

 盾を押して続けているだろう、『三重破拳フィストフィート』は発動されたままで盾を押す衝撃は止まらない。盾を横に動かそうにも真っ正面からの衝撃で動かせない。


 (このままではどこまでも行ってしまいますね)

 その事実はビットレイにとって良いものではない。


 そう思ったビットレイは、足の推進装置で後方へ一瞬だけ加速した。

 盾とハーウェイの手が少しだけ離れる。

 あとは盾を上に避難させてから鉄甲榴弾でハーウェイを浮かせ『三重破拳フィストフィート』が切れた瞬間を狙って仕込み刃で切り刻む。


 策を立てた瞬間。

 体のバランスが崩れる。


 片足が何か穴のようなものに嵌ったようだ。ビットレイはその穴が何なのか解っていた。それもそうだ。


その穴は、彼女が徹甲榴弾で創った穴なのだから。


 (こんなものを利用するなんて、さすがは今まで何人も妄神を撃破した人たちですね)


 頭では分かっていても身体は動けない。

 体のバランスを戻そうとしたまたその時。


 後方から前方に向かって銃弾が駆け抜けた。

 その銃弾は盾の凹面である内側に当たり、すぐに跳ね返されビットレイに向かう。


 (跳弾ですか……!)


 盾の内側の光沢で後方を確認すると、五メートル後方でピロウを背負ったアギタが引き続きハンドマシンガンを撃ち続けていた。

 なにも慌てることはない。身体を動かす暇はないが推進装置なら関係ない。機械人間サイボーグをそこそこに知るものならそう思うことだろう。


 故に、ビットレイは足の推進装置を使――えなかった。


 (まさかアギタ少年は『クールタイム』に気づいていたのですか)


 そう。推進装置にはほんの一瞬ではあるが、発動から次の発動の間には最低限必要な間があるのだ。


しかし、ビットレイ自身にはその事実を匂わせる行動をしていない。

 断じて、決してない。これは自信をもって言えることだ。

 そうなると、アギタは他の機械人間サイボーグからその欠点を見い出した、ということになる。


 (しかしそんな挙動など一度も……)


 はっ、と。

 ジェンツとハーウェイとの組み合いが思い出された。


 あの、ジェンツはハーウェイが襲ってきたときに、一瞬ジェットエンジンに身を任せて空振らせてから推進装置で再接近した。

 もしクールタイムがなければ、ジェットエンジンなど構わず推進装置で前後運動するだろう。


 (いえ、でも、本当にそれだけで?)


その事実だけでは心もとないにもほどがある。ただの気まぐれかもしれない。意図的に隠しているのかもしれない。

 アギタという男はそういった不安を振り払って、推進装置の使用直後を狙ったというのか。

 しかし、アギタはビットレイを始めとする機械人間サイボーグに弾が効かないことを知っているはずだ。


 (いや、もしかして)


 (もしかしてアギタ少年は『あれ』までわかりかけているのですか!?)


 身体は動かない。思考だけ動いている。

 その棒立ち同然のビットレイに銃弾に当たる。反射を計算したのか弾のほとんどは顔に直撃した。


 そしてそのうち二発が、眼球を直撃した。


「ぐっ……あああああああああ!!!」


 ビットレイは声を上げる。しかしそれは痛みからではない。

 大事な視覚を潰されたという事実。


 そして鋼鉄の機械人間サイボーグの中で『唯一脆弱な部分』を狙われたという事実。


 (これが……アギタという少年なのですか)



 ビットレイは、アギタの恐ろしさを身に染みて思い知った。


 (こうなったら……『奥の手』を使うしかありませんね)




  次回:ストリーキング⑦

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