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花火師アギタの逃走記《ピロウトーク》  作者: 烏賊ミルハ
第一章 ~爆弾男の受難~
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バズビーズチェア③

「さあ行くわよ、生身ども」


 ストゥーブの右眼球が回転し、赤く光りだす。アギタは上着を脱ぎ、地面に敷いてからそこにピロウを寝かせた。臓器は噴き出してこない。


 (横になるのは大丈夫なのか)。


 『暗落椅子バズビーズチェア』。

その能力はあまりにも単純。『座ったりしゃがんだりした人間の胴体の中身を消滅させる』能力。座ることを許さない能力だ。その単純さゆえ、部隊長は勿論、アギタも能力を理解し、姿勢を大きく下げてはいけないという事も理解していた。


 しかし、それが難しい。


 アギタはバーの入り口まで移動し、出てきた部隊長と合流する。店内のストゥープは床に落ちたステーキを拾い、大きな口で飲み込んだ。


「なあ、治安部隊。しゃがむんじゃないぞ?」

「ふん。わかっているさ。それより、俺はどうすればいい? 策があるような事を言っていたが」

「俺が合図したら機械女を牽制しながら逃げてくれ。それまでは――時間稼ぎだ」

「了承した」


 部隊長はアサルトライフルの弾倉を入れ替え、腰に差した水平二連ショットガンに軽く手を掛ける。アギタはハンドマシンガンを二丁構える。


「いくぞ、小僧」

「あいよ!」


 二人が引き金に指をかけた瞬間。


 ストゥープが部隊長の目の前にいた。


「――――っ!?」


「まずはアンタから痛めつけてあげる」


 ストゥープの拳が部隊長の顔面に襲い掛かる。部隊長はバックステップで距離を取り、ストゥープの顔面に銃弾を叩きつけた。アギタも彼女の背後から銃弾を浴びせて応戦する。


「効かないって言ってるでしょ?」

 嘲りながら、今度は蹴りが部隊長の腹を突く。異常な速度に反応しきれなかった部隊長はその一撃をモロに喰らった。が、何とか踏ん張って、膝を曲げるのを回避する。


「なんだ、今のスピードは」

 部隊長は痰を吐く。

 拳とは比べ物にならない程の速度を誇るストゥープの蹴り。部隊長には何がどうなっているのか、全く解らなかった。しかし、後ろから見ていたアギタにはその仕掛けが――そして先程の瞬間移動のような超スピードの種も理解できていた。


 ストゥープが蹴りを放ったその瞬間。彼女のかかとが火を噴いているのが、アギタには確認できていた。


 ストゥープは機械人間サイボーグ

 機動力を上げるために、そして蹴りと拳のスピードをずらし相手を翻弄するために、そして静止した状態からテレポートのごときスピードで一歩目を踏み出すために、かかとに推進装置を仕込んでいても、全くもって不思議ではない。


「さあ、さあさあさあ!」

 アギタの銃撃をものともせずストゥープは部隊長に体術を繰り出す。その弄ぶような動きに、部隊長は銃でガードしながら一歩一歩下がるしかなかった。


「おい、小僧! 時間ってのはまだなのか!?」

「そのまま少しずつ下がってくれればそれでいい! 俺も援護するからなんとか耐えてくれ!」

 アギタはストゥープの推進装置を壊そうと足元を撃つが、あまりのスピードに銃弾は一発も、掠る事さえなかった。


「だんだんつまんなくなってきたわね……そろそろ替え時かしら」

 言うと、ストゥープは今までのような『突き』の蹴りではなく、胸の高さの薙ぎ蹴りを放った。しかし何故か推進装置は使っていなかったので反応は出来る。部隊長は蹴りを上体を引いてスウェーで避けた。


 その瞬間、ストゥープのかかとから刃が伸びた。刃渡り三十センチはあるだろうか。


 しかし刃が在るのはあくまでかかと。刃が部隊長に届くまでには若干時間が在る。

「これくらい……避けれる!」

 部隊長は上体を引きながらそのまま上半身ごと大きく反らした。そしてやってきた刃を顔上五センチで避ける。


しかし。


「いつまで立ってんのよ、生身風情が」


 ストゥープは足を一気に振りおろし、刃の側面を部隊長の顔面に叩きつけた。突然の衝撃に部隊長は耐えることが出来ず――膝を大きく曲げた。


しゃがんでしまった。

「しまっ――――」


 言い切るより早く『暗落椅子バズビーズチェア』は効果を発揮した。部隊長の口から臓器と骨が溢れ出し、消滅する。全てを吐き切った部隊長は、支えを背骨のみとする上体から地面に崩れ落ちた。


 言葉も出なかった。

 アギタは、助けを求めた相手を守れなかった。


 途端、抑え込んできた過去と感情が溢れ出す。白衣の男と闘った時に感じた罪悪感とよく似た、己の無力感。守ろうと思った相手が目の前で凄惨に死ぬ姿を見、アギタは気が狂いそうになる。


 ストゥープは力なく倒れた部隊長の死体を踏みつけ、口角を歪めた。


「ふん。命を大切にしないからそうなるのよ。本当に死にたくないなら、私のようになるのが一番なのに」

 機械化した両腕を広げ、眼球の赤を更に強めた。


「『妄神』『機械人間サイボーグ』。この二つが合わさっても、死の不安はぬぐえない。死にたくない一心なのにね。その努力すらしないアンタらは死んでも仕方がないわ」


「黙れよ」


 アギタはストゥープの頭部に銃口を向ける。

「死の不安なんて死ぬ直前に感じてりゃいいんだよ。生きてる間ぐらい、生きることを楽しんでろよ!」

「今度はアンタね。いいわ。なら死の不安を感じさせてあげるわ!」

「やってみろ! 『爆撃機人ボミングランチャー』ァ!」


 アギタは上空二十メートルに爆弾を召還する。更にもう一度、

「『爆撃機人ボミングランチャー』!」

 先に召喚した爆弾の真下に、もう一つ爆弾を召還する。


 そして、一つ目の爆弾が、まだ速度のない二つ目の爆弾にぶつかり、爆発を巻き起こした。熱風が辺りを一掃する。

 範囲外にいるアギタとストゥーブには何の影響もない。ただ、その威力はストゥープはしっかりと理解できた。

 それが直撃すれば、いくら鋼鉄でも耐えられないと。


「俺の能力は『爆撃機人ボミングランチャー』。頭上に爆弾を召還する能力」

「へえ、御解説どうも!」


 ストゥープが推進装置を使ってアギタの目の前に移動する。


「アンタの能力の弱点は接近戦。それに、あれくらいの殺傷範囲、私なら一瞬で移動できちゃうわよ!」

「そりゃあ重畳」


(だけどな、俺は、今の今まで自分でも気付かなかった能力の利用法を思いついたんだよ。準備さえ整えばあとは簡単だ)

 心の内で得意げにしながらアギタはハンドマシンガンを盾にしガードの体勢を取る。


「はん! そんな壁、無いに等しいわ!」

 ストゥープは腕に仕込んだギロチンでハンドマシンガンを真っ二つにする。そして更に足を胸の高さまで上げ、部隊長にしたような薙ぎ蹴りをする。


 避ければ刃に心臓を切り裂かれて死ぬ。

 刃を避ければ足が降り、姿勢を落とされて死ぬ。

 なら、これしかない。


 アギタは一歩下がって蹴りの範囲から出る。すると、予想通りストゥープの足から刃が飛び出した。


 ストゥープが勝ち誇った瞬間。

「今だ!」


 アギタは、しゃがむと判定されない程度に膝を曲げ、その場で軽く跳び上がった。


 そして、刃がアギタの身体を、腰から真っ二つに切り裂いた。


「んなっ!? な、何してんのよアンタ!」

 ストゥープの言葉に、アギタは笑顔で答えながら上半身と下半身別々に地面に落ちる。上半身は仰向け、下半身はうつ伏せだ。肉体の生理反応で痛みはシャットアウトされている。


「へっ……これは『しゃがんで』ないだろ……?」

「そんな、なんで……」


 空を見上げるアギタの頭上にストゥープが現れる。見下ろすストゥープの顔は、理解不能の事態に、微かながら涙さえ浮かべていた。

「命が惜しくないの? 不死の妄神になったのに。死に怯えず生きる権利が与えられたのに!」

「残念だけど、俺は誰かを守って生きていたいんだ。そう誓ったんだ。それが無い人生には意味がない。意味がない人生を送れる程、俺は強くないんでね……」

「何ふざけたことを!」

 ストゥープは掌底をアギタの顔面に向ける。そんなことなどしなくとも、あと数分でアギタの命は消滅する。

 が、それでもストゥープはこの男を自分の手で始末しなければならないと確信していた。


「アンタは何もわかっちゃいない。死んだら何もなくなるのよ!」

「そうだな。そして、お前は沢山の人間を『何もなくならせて』きた。違うか?」


 アギタの言葉に、ストゥープは一瞬だけ動揺するが、すぐにその迷いを振りきり、眼球を赤く燃え上がらせた。

「――――そう。私は生きるためにたくさんの人を殺した。だから何よ! 生きる覚悟がない人間は生きてたって仕方な」

「『爆撃機人ボミングランチャー』」


 ストゥープの口は、アギタのその言葉で止まった。

 推進装置を逆噴出し、アギタから三十メートルの距離を取る。


「な、なに考えてんのよ! 自殺するつもり!?」

「お前がな」

「何が『お前……」


 瞬間、ストゥープは背後で何かが落ちる音を聞いた。

 紅い目で後ろを見る。


 そこには今にもストゥープを襲わんとする破壊熱風が、至近距離で発生していた。


「まさか頭上ってそういう――」


 爆発。

 それが地面に倒れるアギタの『頭上』三十メートルで発生し、ストゥープの肉体を焼き尽くした。


この事に気が付いたのは、アギタ本人にとってもついさっきの事だった。自分の頭上で二発の爆弾を召還した時に、ふと思いついたのだ。

 アギタの能力は、頭上に爆弾を召還する能力。

 あくまで『頭上』なのだ。

 礫地で爆発地点が少しずれていたのも、頭が完全な真上を向いていなかったと考えれば納得がいく。


 感覚をなくした身体を動かし、頭上に眼をやる。そこには爆発によって撒き散らされた土埃と壊された建物のみがあり、機械人間サイボーグは影も形も無かった。

 死に怯えた『暗落椅子バズビーズチェア』は、死を自覚することなくこの世から消え去った。


 それはある意味では幸福な事といえる。


 「へっ、ざまーみろ……」

 ストゥープを動揺させる為に、あえて身体を真っ二つにする策は成功したが、このままでは自分も死んでしまう。

 だがこの状況も含めて、全てアギタの計算通りだった。


「あーでもやっぱり死ぬかも」

「…………死なせるわけ……ない……」


 消えかけた意識の中で、誰かの声が耳に届いた。胴体の断面の方から聞こえている。バーの方から来た人間だ。しかしそこまでの段階を踏まずとも、アギタには声だけで、それが眠気に満ちた少女であることが解った。

「ピロウ、起きたのか」

「ノンレム睡眠中にあんな……爆音を聞かされたら…………誰だって起きるよ」

「その割には眠そうだな」


 そうは言ったが、実はこのピロウの起床までが彼の作戦だった。


「……アギタ、死にそうだね」

「死にそうさ。あと一分もあれば充分だ」

「……ちょっと……待って……て」


 ピロウはアギタの下半身を仰向けにした。そして上半身を引っ張って下半身と断面を合わせると、上半身と下半身の境界線――断線を親指でなぞる。


 すると『絶対世界オンリーホライゾン』の効果で、指でなぞったところから斬られた跡が消えた。身体を半周すると、今度は仰向けに回転させ、同じように傷をなぞった。


 そして、何事も無かったかのように上半身と下半身は完全に接着した。骨や脊髄や神経、血管の一本一本まで何の支障もなく接続されている。アギタはこれを見越して自分の身体を真っ二つにする計画を実行したのだった。

 アギタは確実に進化している。それを自覚するのはまだこれからの話だが。


「これで、だい……じょうぶ」

「うん。起きてくれると信じてたぜ、ピロウ」


 アギタは起き上がり、腰辺りの存在しない傷をなぞる。今の今まで意識がもうろうしていたのが信じられない程の完治だ。


「しかし、アイツのせいで多くの人間が死んじまった」

 周囲の状況を確認すると、血が在るのはアギタの足元だけだった。大量の死体が散らばる中に、浅黒い赤がない状況は逆に不自然に見えると、アギタは溜息をついた。


「もうこの区も終わりか……」

 静けさの中でアギタはその場に座り込んだ。アギタがピロウと共に逃げた事が、ここまでの状況を創り上げてしまったのだ。大量殺人を行ったのはストゥープだが、原因はアギタ達が創りだした――と、いえなくもない。

 アギタの中に沸々と自責の念が生まれ始めた。

 その時。


「おぉーい、そこの君ぃー」


 遠くから男性の声が聞こえた。声のする方を向くと、子供を数人連れた男性が向かってくるのが見えた。

「生きてる人間がいるのか……?」

「避難命令とか……多分……通報したのも、多分ああいう人たち……」

「そうか、通報した奴がいたな」


 他の建物からも続々と住人が出てくる。どうやらそこそこの人数が避難していたらしい。『暗落椅子バズビーズチェア』の範囲外、だったのだろう。しかし出てきた住人の多くは女性や子供、老人だった。

 (戦える男達はストゥープに挑んで死んだのか)


 主な働き手を失ったバンダニ区は、もう二度と元の形には戻らない。経済的な意味合いだけでなく、死んだ人間の遺族、友などが負った傷も半端ではない。花火祭りがどうこうというレベルではない。他の区との統合、もしくは区そのものの廃止さえ視野に入れられるだろう。


 そう思っていると、ある老婆とその孫のものと思われる会話がアギタの耳に入った。

「ねーねー、イエンザ祭はどうなるの? あたし花火見たいよ」

「そうねぇ。花火屋さんはみんな死――いなくなっちゃったからねぇ」


 まだ事態を飲み込み切れていない孫と言葉の慎重に選ぶ老婆。この状況では比較的自然と呼べる会話だったが、


「――そうか。その手があったか」


 アギタは天啓を得た。


「どう……したの、アギタ」

「ちょっと待っててくれ、多分すぐに済むから」


 ピロウをその場に待たせ、アギタは近くの松葉杖の男に駆けより数度言葉を交わす。そしてすぐにピロウの元に戻った。


「ピロウ、今日はここの区に泊まるぞ」

「だから……なんなの」

「知ってるだろ? 俺は花火師。花火師アギタだ!」


 アギタは誇らしげな笑顔を浮かべ、空を指差した。


「俺がこのバンダニ区に出来ることは一つ――花火を打ち上げるんだ!」





  次回:バズビーズチェア④

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