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酒呑童子と最後の事件

 その瞬間は唐突にやって来た。 

 探偵事務所の窓をコツコツと叩く音が響き渡る。

「なんでしょう?」

 私が窓に視線を送ると、八咫烏が外で翼をはためかせてボバリングしていた。

「八咫烏……?」

 私は不審に思いながらも、八咫烏の三本あるうちの一本の足に紙が巻き付けられていることに気がついた。私はすぐに誰かからの知らせだと思い、八咫烏を事務所に招き入れた。

「カァー」

 八咫烏は礼を言うように鳴いた。

「どうしたの? サユキ」

 悠斗さんが私の元に駆け寄ってきた。

「いえ……八咫烏が来てまして……何か手紙を運んできたみたいなんです」

「そうなの? 誰からだろう?」

 私達は互いに首を傾げながらも、八咫烏に巻き付いている紙を取った。

 手紙を広げて、私達は書かれている文章に目を通した。

「拝啓 霊能探偵殿

貴殿には初めて手紙を送る。

私は大天狗と申す者だ。彼岸と此岸の均衡を保つ任を閻魔大王より承っている。

唐突な話で誠に申し訳ないが、私から一つ依頼をさせてほしい。

現在、彼岸と此岸の均衡が崩れつつある。両者の境界線である霊脈の乱れが強くなっているのだ。その影響で、地獄の住人達が現世に干渉して来ている。中でも、彼らを束ねている酒呑童子という鬼の怪異が人々に危害を加えている。

この現象を止められるのは霊能者として活動している貴殿だけだ。陰陽師達の占法では歯が立たないだろう。貴殿の霊法だけが頼みの綱だ。

頼む。彼らを止めて欲しい。

私一人の力だけでは、もはやどうすることもできない。

酒呑童子は綾羽市の山奥に根城を築いている。

止められるのは貴殿だけだ。

よろしく頼む。敬具」

 私達はそこまで目を通し、目を見合わせた。

「──どうしますか? 何か、とても大変なことになっているみたいですが……」

 悠斗さんはいつにも増して真剣な表情をしていた。

「ひとまず、赤城刑事に連絡して綾羽市に避難警告を発令してもらう。餓鬼の時と同じ要領だ。山奥には転移霊陣で向かおう。綾羽市の山間地帯には稲荷さんの時や鵺の件で向かっているから、座標は分かってる」

「私も同行します」

「でも……相手は酒呑童子だ。地獄の鬼を束ねている鬼の王だ。閻魔大王でさえ太刀打ちできないんだよ? いくらなんでも危険すぎる」

「大丈夫です。私も、悠斗さんの力になりたいんです。それに綾羽市が狙われているなんて……霊能探偵の助手としても見過ごすわけにはいきません」

「サユキ……」

 私は真っ直ぐに彼の青い瞳を見た。

 私の思いが伝わったのか、彼は小さく息を吐いた後「分かった」と短く口にした。

「それじゃあ、サユキも一緒に行こう。でもサユキに危険が迫る時は、僕が絶対に守る。それだけは譲れない。良いね?」

「はい。それで構いません」

「よし。それじゃあ赤城刑事に連絡してから、山に向かおう」

「はい」

 悠斗さんはスマートフォンを手に取り、赤城刑事に連絡した。



「もしもし。赤城刑事。今少し良いですか?」

「おう。どうした? 何か用か?」

「単刀直入に言います。綾羽市に避難警告を発令して欲しいんで

す」

 彼は何かを察したようだった。

「──何かあったのか?」

「地獄から酒呑童子が鬼達を引き連れて綾羽市にやって来ているんです。既に数件、被害が出ているみたいなんです。これ以上、被害は出したくありません……」

「──分かった。上には俺から伝える。くれぐれも無理するんじゃねえぞ。どうせ酒呑童子を祓いに行くんだろ?」

 どうやらお見通しのようだ。

「ええ。時間がありません。避難警告、よろしくお願いします」

「あいよ。やばかったら連絡してくれ。俺達もすぐに向かう。『霊弾』しか対抗手段がねえが、少しは役に立つだろう」

「ありがとうございます」

 僕はそう礼を告げた。

「それじゃあ、よろしくお願いします」

「おう」

 僕は着信を切り、刀袋を背負った。

 サユキに視線を飛ばす。

 彼女は『封魔刀』を腰に差し、戦闘体制を整えていた。

「よし。それじゃあ行こう」

「はい!」

「零明流霊術・転移霊陣」

 僕は事務所の白石の床に手を置いて、青い陣を展開させる。

 次の刹那、僕達の視界を青い光が包み込んだ。気がついた時には、僕達は木々が生い茂る山奥の中に立っていた。既に、とてつもなく強力な妖気が空気に乗って伝わってくる。

「なんて濃い妖気……!」

 サユキは思わず口を手で覆った。

「酒呑童子の妖気だ。ここまで強いなんて……」

 僕達は身構えながらも山の中を突き進んだ。

 やがて、鬼達が集っている池に辿り着いた。

 池の対岸には大剣を背負った鬼がいた。赤髪に、頭に黒いツノを二本生やした鬼だった。容姿は人間に近いが、異形感が拭えない。頭に生えたツノのせいだろうか。

「何者だ?」

 彼は僕達に気づくや否やそう尋ねてきた。

 とても静かな声色をしていた。

「霊能探偵、白神悠斗です」

 僕は酒呑童子にそう言った。

「霊能探偵ぃ?」

 彼はひょうたんに入った酒をごくごくと飲み干し、「聞いたことねぇな」と口にした。

「また人間が殺されにきたか?」

「僕は霊能者です。そう簡単にはやられない」

「へぇー」

 次の刹那、酒呑童子はパンパンと手を叩いた。それが合図だったのか、僕達の周囲を鬼達が囲った。退路を絶たれた。本気で殺しに来ている。

 僕は小声でサユキに話しかけた。

「ごめん。サユキ。守ると言った手前ものすごく言いづらいんだけど、鬼達を任せても良い?」

 僕は内心申し訳なさでいっぱいだったが、サユキは笑顔で答えた。

「はい。任せて下さい」

「ありがとう」

 僕とサユキは踵を返し、それぞれの敵と対峙する。

「じゃあ霊能探偵さんの力を見せてもらおうかねぇ」

 酒呑童子は大剣を肩に担いでそう言い放った。

「これ以上、人々の被害は出させない」

「それじゃあ俺を祓ってみろよ。できるもんならなぁ!」 

 次の刹那、酒呑童子は大剣を振るった。

 斬撃が池の水を真っ二つに斬り分け、こちらに迫り来る。

「零明流霊術・閉栓結界」

 僕は結界を張って攻撃を受け止める。

 しかし閉栓結界に亀裂が走った。なんて重い一撃なんだ。もし身体に当たって仕舞えば、ひとたまりもない。

 いや、怯えるな。

 霊能探偵としての意地をみせろ。

 僕は霊刀を抜刀し、結界を解いた。

 斬撃は変わらず僕に迫り来る。

「零明流剣術・枝垂柳」

 僕は咄嗟に上段から霊刀を振り下ろし、渾身の力で斬撃を斬った。

「ほお……よく斬った」

 酒呑童子は真っ二つになった池の地面を蹴り、一瞬で間合いを詰めて大剣を振るってきた。

 僕は霊刀を振るって迎撃する。

 霊刀と大剣がぶつかり合うたびに火花が散り、大気が揺れる。

 一太刀一太刀が重い。

 それに予測不可能な太刀筋をしている。

 これは厄介だ。

「おらおら、どうした? そんなもんか!」

「零明流剣術・蒼黒っ」

 僕は剣を閃光の如き速さで振り切って大剣を弾いた。

「ッ!」

 酒呑童子に隙が生じた。

「零明流体術・乱界!」

 僕は左足に霊力を込め、酒呑童子の腹を蹴り飛ばした。

「がは……っ」

 彼は後方に吹き飛び、木の幹に激突する。

「やるじゃねえか……!」

 酒呑童子はすぐに立ち上がった。

 首をコキコキと鳴らし、腕を回す。

「どうやら、本気でいったほうが良いらしい」

 そんな……まだ本気ではなかったというのか?

「受けてみろ!」

 酒呑童子は大剣を上段に構えた。

断裂斬火だんれつざんか

 そして強力な一太刀を振るってきた。

「零明流剣術・八岐頭」

 僕は霊刀から八つの龍の頭を具現化させて迎撃する。八つの龍は斬撃を噛み砕こうと動くが、その強力な一撃の前にことごとく敗北してしまう。

 まずい。攻撃を受けきれない。

 殺される……!

 ──その時だった。

 突如、青白い火玉が宙に浮かび上がり、酒呑童子の斬撃を焼き消した。

「何だと……」

 酒呑童子も驚きを隠せない様子だった。

「全く……世話の焼ける奴じゃな。四代目」

 ふと声が聞こえてきた。その声に聞き覚えがあった。稲荷さんの声だ。

 途端、鈴の音が鳴り響き、僕の眼前に黄金色の九つの尾を持つ妖狐が立ち塞がった。

「稲荷さん……」

「稲荷『様』じゃ。このたわけ」

 稲荷さんは呆れたように息を吐いた。

「おいおい。妖狐が出てくるなんて聞いてねえぞ」

 酒呑童子は稲荷さんを見るや否やニヤリと不敵な笑みを溢した。

「面白くなってきたじゃねえか!」



 私は悠斗さんと酒呑童子との戦場から離れ、数体の鬼と激戦を繰り広げていた。

 私は片手に『封魔刀』。もう一方に氷の刀を持ち、二刀流で鬼達を斬り刻んでいた。

「このっ……雪女如きが調子に乗りやがって!」

 鬼のうちの一体が金棒を振り下ろしてきた。

 私はそれを身体を捻ることで回避し、金棒と鬼の体躯の隙間に入り込み、その赤い皮膚を斬り裂いた。

「ぐあっ……!」

 鬼は血を吐いて倒れ込む。

 私は炎刀と氷刀を握りしめ、他の鬼達を睨みつけた。

 鬼達は筋骨隆々な体躯をしていたが、数多の怪異や霊を相手にしてきた私にとって、彼らは強敵ではなかった。

「死にたい奴からかかってこい。まとめて祓ってやる」

 私はそう言い放った。

「雪女めがっ……!」

 鬼達は四方八方から一斉に襲いかかってきた。

「封魔・花蓮咲かれんざき

 私は炎と氷の刀を振り切り、全方位の鬼達を全て斬り伏せた。

「ギャッ」

 鬼達は短く悲鳴を上げ、黒い塵となって消滅していく。

「ふぅ」

 私は敵の気配が完全に消滅したことを確認した後、妖術を解き、『封魔刀』を納刀した。

「悠斗さん……っ」

 私はすぐに彼の元へと駆け出した。



 酒呑童子と稲荷さんの間合いに木の葉が落ちた。

 次の刹那、両者は同時に間合いを詰めた。

「おらぁ!」

 酒呑童子は大剣を振るう。

火焔蓮華かえんれんげ

 稲荷さんは青白い火玉を操り、斬撃を確実に焼き消していく。

「どんな理屈してやがる……!」

「どうした? そんなものか? 地獄の凡夫が調子に乗るから、我に攻撃が届かないんじゃよ」

「なめやがって!」

 酒呑童子は猛攻を仕掛ける。

 稲荷さんはそれを全て回避し、彼の腹に手を添える。

「──焼き尽くせ」

 次の刹那、彼の体躯を火炎が包み込む。

「ぐああああっ」

 酒呑童子は悲鳴を上げる。

 効いている。

 流石は神に部類される稲荷さんだ。

 その実力は並大抵のものではない。

「こんの野郎っ」

「まさか、こんなものではないだろうのぅ? もっと楽しもう」

「調子に乗るな!」

 酒呑童子は全身を焼かれながらも太刀を振るった。なんて生命力だ。しかし、その攻撃も稲荷さんには通用しなかった。稲荷さんは剣を避けると同時に大剣を掴み、そのまま酒呑童子の体躯を持ち上げて池に叩きつけた。

「ぐあっ……」

 酒呑童子は短く声を上げる。

「つまらないのう……全く興が乗らん」

 強い。稲荷さんが強すぎる。

 いや、何を感心している。白神悠斗。

 このまま稲荷さんに酒呑童子を任せて良いのか?

 大天狗から依頼を引き受けたのはお前自身なんじゃないのか?

 僕がやるんだ。

 僕が酒呑童子を祓う。

「──稲荷さん」

「なんじゃ?」

「酒呑童子は、僕が祓います」

「ほう……」

 稲荷さんはニカっと笑った。

「良いじゃろう。後のことは主に任せよう」

 彼女はそう言って酒呑童子から背を向けて離れた。

 そして木にもたれかかり、僕を見つめる。

 僕は霊刀を杖代わりにして立ち上がり、酒呑童子と対峙する。

 酒呑童子は池の中から飛び出し「はぁはぁ」と

息を整える。

「くそ……あの妖狐、調子に乗りやがって!」

「次は僕が相手だ」

 酒呑童子は僕を見るや否や、鼻で笑った。

「お前じゃあ相手にならねえなぁ」

「やってみないとわからないだろう? 良いからかかってこいよ」

「──良いぜ。ぶっ殺してやるよ!」

 酒呑童子は妖術でひょうたんを召喚し、酒をぐびぐびと飲み干した。

「回復回復!」

 奴は肩を回し、僕に向けて大剣を構えた。

「──行くぜ」

 次の刹那、酒呑童子から強力な一太刀が放たれる。

「零明流剣術・朧桜・横凪」

 僕は水平に斬撃を飛ばし、奴の斬撃を真っ二つに斬り分けた。

「なにっ──」

「零明流剣術・──っ」

 僕は駆け出し、瞬時に間合いを詰める。

「朧桜・灯篭」

 下から上へ太刀を振るい、奴の腹に切り傷を与える。

「ぐあっ……」

 酒呑童子はゆらゆらと体勢を崩すが、大剣を地面に突き刺して耐え忍ぶ。

「このガキ!」

 酒呑童子は再び太刀を振るってくる。

 僕はそれを霊刀で迎え撃つ。

 霊刀と大剣がぶつかり合うたびに火花が散り、大気が揺れる。

「零明流体術・乱界」

 僕は彼の腹に蹴りを放ち、酒呑童子を吹き飛ばして強制的に間合いを確保する。

「零明流剣術・居合・──っ」

 そして霊刀を納刀し、強力な一太刀を浴びせる。

「宵影」

「がはっ……!」

 酒呑童子の体躯に大きな切り傷を負わせる。

 しかし、まだ祓えない。

 こうなれば、僕の全霊力を込めた一撃を放つしかない。

 僕は再び霊刀を納刀し、抜刀術の構えをとった。

「はぁはぁ……」

 酒呑童子は息を整えながら、大剣を構える。

「来いよ。霊能探偵」

「零明流剣術・奥義・──っ」

 次の刹那、僕は閃光の如き速さで抜刀し、渾身の一太刀を放った。

天穿神荷大蛇あまうがつかみなりのおろち!」

 斬撃は巨大な大蛇の形を帯び、酒呑童子に向かって接近する。

炎源斬禍えんげんざんか

 酒呑童子は剣技を振るって迎撃する。

 しかし大蛇は大剣を噛み砕き、酒呑童子に迫る。

「なんだとっ……」

 次の刹那、酒呑童子の体躯に大蛇が噛みつき、畳み掛けるように斬撃が浴びせられる。

「ぐああああっ」

 酒呑童子は黒い塵となって消滅した。

「はぁはぁはぁはぁ」

 僕は霊刀を地面に突き刺して全体重を預けた。

 勝った。祓えた。稲荷さんの助力あってこそだったが、どうにか祓うことができた。

「まあ、まずまずと言ったところじゃな」

 稲荷さんは僕の様相を見てそう言った。

「悠斗さん!」

 声が聞こえてきた。サユキの声だ。恋人の声だからだろうか。とても安心する。

「サユキ……」

「あれ、稲荷さんもいる……」

「久しいのう、サユキ」

「──て、悠斗さん! 大丈夫ですか?」

 サユキは僕の頭を膝に乗せて支えてくれた。

「どうにか酒呑童子を祓えたよ……ただ霊力を使い切って……カラカラだ」

「鵺の時と同じですね。デジャヴです」

 サユキは笑ってそう言った。

「確かに、そうだね」

 僕も笑って返した。

「そうだ……大天狗に依頼完了したって伝えないと……」

「それなら我が伝えておこう」

 稲荷さんはそう言った。

「稲荷様……そういえば、どうしてここに?」

 サユキは稲荷さんにそう尋ねた。

「なぁに、ただの気まぐれじゃよ。我はいつでもお主達を見ておる。今回はたまたま手を貸しただけじゃ。彼岸と此岸の均衡を守る任を受け持っているのは何も大天狗だけじゃないからのう。我も神の端くれ故、そういう任を任されているのじゃ。しかし全く、地獄のことは閻魔にしっかりと管理してもらわねば困るのう。今度苦情を入れておくか」

 稲荷さんはカッカッと笑った。

「用事も済んだことじゃ。我はこれにて去る。後のことは任せるぞ。四代目」

「はい……助けてくれてありがとうございました」

「礼はいらん。主は早う一人前にならんか。雛黒に誇れるようにな」

「ええ……そうですね」

 稲荷さん踵を返して、ひらひらと手を振った。

 そして次の刹那、鈴の音が聞こえたと思った時には稲荷さんは消

えていた。

「行ったみたいですね……」

「うん。ありがとう。サユキ。もう膝枕大丈夫だよ」

「そうですか? 私はもう少しこのままでも大丈夫ですよ?」

「流石にずっと膝枕されているわけにもいかないからね。霊能探偵としてのプライドさ」

「分かりました。辛かったら、いつでも言って下さい」

「うん。ありがとう」

 僕は立ち上がり、身体を伸ばした。

「さて、帰るとしますか」

 サユキは「はい」と満面の笑みで答えた。

「霊力も回復したことだし、転移霊陣使うね」

 僕は霊刀で円形に地面をなぞり、青い陣を形成した。

「零明流霊術・転移霊陣」

 青い光が視界を包み込み、次の瞬間には、僕達は探偵事務所の室内に立っていた。

「ふぅ……」

 僕はソファにもたれかかった。

「流石に疲れたね」

「そうですね」

 サユキは笑って答えた。

「コーヒー、淹れますか?」

「──お願いしても良い?」

「はい。勿論です」

 サユキはすぐにキッチンに向かっていった。数刻後、彼女は熱々のコーヒーを持ってきてくれた。

「どうぞ」

「ありがとう。助かるよ」

 僕はカップに手をかけ、コーヒーを口に運んだ。

「うん。やっぱりサユキの淹れてくれるコーヒーは美味しいよ……疲れた身体に沁みる……」

「ふふ、そう言ってもらえて何よりです」

 彼女は微笑んでそう言った。

「サユキは疲れてない? 鬼達を任せちゃったから、申し訳なくてさ……一緒にくつろごうよ」

「それじゃあお隣に座っても良いですか?」

「うん。良いよ」

「ありがとうございます」

 サユキは静かに僕の隣に座った。

「今日は本当にありがとう。サユキがいなかったらどうなっていたことか……」

「そんな、私、役に立ちましたか?」

「サユキはいつも役に立ってくれてるよ。僕なんかには勿体無いぐらいの助手だよ」

「そう言ってもらえると、なんだか嬉しいです」

 サユキは頭を僕の肩に預けた。

「私……悠斗さんと出会えて良かったです。もし悠斗さんにあの路地裏で出会えてなかったら、今頃餓鬼に殺されていましたよ。きっと」

「僕もサユキに会えて良かったと思ってるよ。おかげで霊能探偵として活動できたからね。色んな怪異や霊と関わることができたし、色んな事件を解決することができた。僕一人だったら、きっと無理だったと思う……」

「悠斗さん……」

「だから、僕の助手になってくれてありがとう。サユキ。これからもよろしくね」

「こちらこそです。これからもよろしくお願いします」

 サユキは笑ってぐりぐりと頭を押し付けてきた。

 僕はそっと彼女の顎に手を添えてキスをした。

「え……悠斗さん今……」

「頑張ってくれたから、ご褒美。嫌だった?」

「嫌じゃないです。とっても嬉しいです」

 サユキは笑ってそう言ってくれた。



 そして酒呑童子を祓ってから二ヶ月の時が流れた。

 僕達は相変わらず、事件事件の毎日だ。

「サユキ、この資料、向こうの棚に閉まっておいてもらえる?」

「はい。わかりました」

「ありがとう。助かるよ」

 彼岸と此岸の均衡を守る。その為に霊法を振るう。零明流は霊力が一定以上備わっていれば、誰でも使用可能である為、『禁忌の霊法』と呼ばれているが、師匠同様、僕はこの霊法を誇りに思っている。これからも数多の邪悪な怪異や霊と対峙することになるだろう。それでも僕はこの力を振るう。彼岸と此岸の均衡を守る為に。そして何よりも、困っている依頼人に手を差し伸べる為に。

 ふと、事務所の扉が開いた。

 依頼人だ。

「あの……ここって怪奇事件専門の探偵事務所ですよね?」

 黒髪を束ねた女性だった。

「そうですよ。何かご依頼ですか?」

「はい……良いですか?」

「勿論です。こちらのソファにどうぞ」

 僕は依頼人をソファに通した。

 今日も僕達は依頼人に手を差し伸べる。

 それが霊能探偵だ。 

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