コーヒーとシャワー
夜。
僕は探偵事務所のオフィスで報告書をまとめていた。
「悠斗さん、資料の整理終わりました」
サユキが僕の近くにやってきてそう言った。
「ありがとう。助かったよ」
僕は笑って返した。
「他に何かやることはありますか?」
「それじゃあコーヒーを淹れてもらっても良いかな? 昨日から徹夜してるから、カフェインを摂りたいな」
「わかりました。すぐに準備しますね」
「ありがとう」
彼女はすぐにキッチンに向かっていった。数分後、濃厚なコーヒーの香りが漂ってきた。サユキが湯気のたった熱々のコーヒーをカップに注いで持ってきてくれた。彼女はそれを僕のデスクにそっと置いた。
「どうぞ」
「助かるよ」
僕はカップに手をかけ、コーヒーを口に運んだ。途端、ほんのりとした優しい苦味が口の中に広がる。とても美味だ。
「ふぅ……」
僕は程よくリラックスし、サユキに「ありがとう。美味しいよ」と礼を告げた。
彼女は満面の笑みで「お口にあってよかったです」と答えた。
サユキのコーヒーを飲んで気合いを入れ直し、僕は再び報告書の作成に励んだ。
そして全ての報告書を書き終えた時には時刻は深夜一時を回っていた。
サユキはもう眠っただろうか。報告署の作成に没頭していた為、オフィスに彼女の姿がないことに気が付かなかった。
「うーんっ」
僕は身体を伸ばして疲れをほぐす。
「シャワーでも浴びるか……」
僕は事務所の二階にあるシャワールームに向かった。事務所が開設されている建物は二階建てになっている。一階にはオフィスとキッチン、そして依頼人を通す応接室があり、二階には寝室とシャワールームがある。僕達は普段オフィスで仕事をし、二階の寝室で眠りにつく。サユキが探偵助手になってからというもの、それがルーティンになっている。
僕は脱衣所で服を脱ぎ、シャワールームの扉を開けた。
意識が朦朧としている。頭がボーッとし、思考がまとまらない。昨晩から徹夜をしている影響が出ているのだろう。さっさとシャワーを浴びて寝てしまおう。
僕がシャワールームの中に入った次の刹那、「え……?」と声が聞こえてきた。聞き馴染みのある声だった。サユキの声だ。
「──ん?」
僕は頭を叩いて意識をはっきりとさせる。
そして浴槽内を見やると、そこには裸で湯船に浸かっているサユキの姿があった。
その光景を見た途端、頭の中の霧が一気に晴れ渡るのを感じ取った。
「あ……ごめん!」
僕はすぐに扉を閉めようとした。
しかし彼女は浴槽から飛び出し、僕の腕を掴んできた。
「大丈夫なので……気にしないで下さい」
「いや……流石に気にするって……」
「悠斗さんもシャワーを浴びにきたんですよね?」
「うん……でも意識が朦朧としてて……脱衣所にサユキの着物があるのに気づかなかった……本当ごめん」
「全然大丈夫ですから……悠斗さんもお疲れですよね? もしよかったら、一緒に入りませんか? お風呂」
彼女は耳まで真っ赤になりながらそう提案してきた。
「えーっと……」
いくらを初夜を終えたからと言って、流石に年頃の男女が一緒に風呂に入るのはどうなのか?
そんな思考に陥る。
しかし彼女は潤んだ瞳で僕を真っ直ぐ見てくる。
その圧に、僕は負けてしまった。
「それじゃあ……一緒に入っても良い?」
「──はい!」
彼女はぱあっと表情を明るくし、満面の笑みで答えた。
僕は心臓が爆発しそうなほどドキドキしながらシャワーを浴び、サユキが入っている浴槽に足を入れた。
「えっーと、それじゃあ、失礼します……」
「はい……」
僕は彼女と向き合う形で湯船に浸かる。
風呂に入っているためなのか、はたまた全裸状態の恋人の姿を見て興奮しているのか、顔がとても熱い。おそらく僕の頬は真っ赤に紅潮していることだろう。
「ほんとごめんね……サユキが入ってるのに気づかなくて……」
「謝らないで下さい。私は悠斗さんと一緒にお風呂に入れて嬉しいですよ?」
「そう?」
「はい!」
「それなら、よかったです」
「あの……せっかくなので、キス……したいです」
彼女はそう言ったのち、顔を真っ赤にして俯いた。
「もし、悠斗さんが良いなら……ですけど」
彼女の桃色の唇が口付けを待っているようだった。
僕は理性を保つことができず、彼女の肩を掴んでその唇を口で塞いだ。
「んう……ん」
サユキは声を漏らす。
長いキスを終えた後、僕達は額を合わせた。
「サユキ……愛してる」
僕は彼女にそう告げた。
彼女は驚いたように目を見開いたが、すぐに嬉しそうに笑った。
「私も愛してます」
そうして、僕達は再びどちらからともなくキスをした。




