最期まで
「走れ走れ、逃げるぞー」
「うい」
白い人が近づいてくる。でも足は遅い。
ダァンッ
突如壁が塞がれた。
後ろからは白い人の足音が近づいてくる音が聞こえる。
やっぱりここも理不尽だ。
「あ~、行き止まり」
「終わった‥‥」
「今回は短かったね」
「んなもんだろ」
今回も運がなかったな。いや、運なんて私たちにはない。だってこの遊びをやってること自体がおかしいんだもの。
そうして私たちは白い人の腕に体を突き抜かれて死んだ。
■
「この衣装、めっちゃ普通だぁ」
「だな、ただの私服だ。金でも無くなったんだろ」
「かわいそうに‥‥」
こんな遊びをするから‥‥、とソフリーは呟く。
「でも、そこらへんに車がたくさん転がってるね」
「な、人類でも滅亡したみたいな感じだな」
そう、この場所は、ビルが燃え盛り、空は濁り、道路には車が転がっていた。
「人もいない‥‥」
「そんなもんだ」
とりあえずまっすぐ歩く。と、プブブ、プー‥‥、クラクションの音が聞こえた。
「‥‥あのクラクション壊れてるね」
「え、そこ?普通はどうして鳴ったんだ!みたいな感じゃないの‥‥」
「そんなことないよ」
「‥‥え、なんかすいません」
ソフリーは、むうっと頬を膨らませる。テラスがその頬を人差し指で押す。
「やめてー!」
「めっちゃ柔らかいな」
ウ~ゥ、突如パトカーのサイレンの音が聞こえて来た。
「ほら、パトカー来ちゃったよ」
「俺のせい?」
ピーポーピーポー、ガヤガヤ、プップー
さっきから救急車の音も、人ごみの音も、クラクションも聞こえる。
「あれ?さっきまであそこのビル燃えてなかったっけ‥‥」
「確かに、燃えてたな。そういえば、車も、散乱してなかった———」
ドオオォォォオン
ソフリーとテラスは吹っ飛ばされた。思いきり地面に転がる。
「‥‥っ」
音が大きすぎて鼓膜が破れた。脳に響いて意識が飛びそうになる。
痛みなんて感じるよりも、何が起きたのかが分からなかった。
「おい、ソフリー‥‥あれ」
テラスが指を差した方向を見る。
あぁ、なんてことだ。あれは———学校で見た、化け物だ。
■
「立てるか?」
「痛い」
「無傷だったらそれこそ化け物だろ」
すり傷やら打撲やらでテラス達はボロボロだった。まあ、骨折はしていないみたいなので、不幸中の幸いと言ったところか。
「あの化け物‥‥学校で見た時よりも何倍もでかいな」
「ね、でも背をこっちに向けてるなら好都合。早く逃げよ」
テラス達は走り出した。
■
「あれ?」
「どうした」
「ここ、さっきの場所じゃない?」
‥‥、言われてみれば確かに、俺らはさっき吹っ飛ばされたところにいた。
「どうする?このまま踏みつぶされて死ぬことを待つ?」
「えー、もうちょっと探索してみようよ。なんか見つかるかもしれないだろ?」
諦めの早い奴だな、まだ可能性はあるってのに。
まあ、そりゃそうか、どうせ死ぬ未来しかないんだもんな。
「ねえ、テラちゃん、私考えたんだけどさ。私たちが死ぬたびに別の場所にいるのにはさ、なにか条件があるんじゃない?」
「条件?例えば?」
「例えばね‥‥正規のルートで死ぬと、別の場所にいるとか~」
「‥‥じゃあ、アンさんは‥‥」
「ただの過程だよ。それにアンちゃんは———」
ドォンッ
吹き飛ばされそうになる。慌てて車に掴まり、吹き飛ばされたソフリーをギリギリで掴んだ。
「ぬわぁ」
「お前も耐える努力をしろよ!」
そのままソフリーと共に、車を盾にして隠れた。
「気づかれちゃったね」
「そうだな、逃げるか」
「ここで踏みつけられるのを待っててもいいと思うのになー」
「えー、絶対やだ!そんなの屈辱だろ。出来るなら最後まで抗って死にたいじゃん?」
「‥‥最後まで‥‥抗う‥‥」
そんなこと、考えたことなかった。いつも諦めてたんだな、私。そうだ、君はいつもどんな時も諦めなかった。
なんだかバカみたいだね。ふふっと笑う。
「そうだね、逃げよう。最期まで!」
「‥‥おう!!」
上から見下ろしてくる化け物と目が合う。でも、何故だか怖くはなかった。
■
ソフリーとテラスは走って逃げる。
「ねえ!あそこ、踏切の奥に道あるよ!」
「あそこに行けば別の逃げ道があるか―——」
グシャッ
何かに下半身が潰された。これは、車‥‥?車を投げつけられたのか‥‥。
踏切の上でソフリーとテラスは車の下敷きになっていた。
「う‥‥あ‥‥」
謎に俺もソフリーも意識はある。でも、足は潰れた!どこにも行けない!!
このまま、死ぬのは‥‥。
テラスは思考を巡らせる。ダメだ、鼻血が出てきた。
「ソフ‥‥リ‥‥」
カーンカーンカーンカーン、音が聞こえて来た。
踏切音‥‥!?ここで‥‥!?マズイ、ここは踏切の上、これじゃ‥‥。
列車が見えてきた。血も止まらない。
「はあ‥‥ハア‥‥ね、テラちゃん。私たち二人でやってきた中で一番頑張ったんじゃない?」
フーフー、と息を切らしながら微笑んでくる。
本当に、頑張ったなあ俺ら‥‥。ソフリーの言うとおりだ。
これは間違った死だ。正規の死じゃない。 でも、これでいい、これじゃなきゃダメだ。
あの時、アンさんが言おうとしてたことが分かった気がした。
「あぁ、そうだな、頑張ったよな、さっ——…」
カンカンカンカンカン・・・————
これにて『地獄巡り』は完結です。ありがとうございました。
最期に一つ、あなたの”地獄”は何ですか?




