第28回 伊弦さん、文化祭です②
またもや遅くなりました。
なんとか役割を果たして、伊弦は見知った顔の人達から惜しまれながらもコスプレから制服に着替える。
撮影会はNGと前田が言ってくれたおかげで、アニ研やら、漫研の部員達がぶーぶーと文句を言ってたが、伊弦はスルーする事が出来た。
前田が、肩の荷が下りたかの様に安堵の溜息を吐いてた。それを横目で見て伊弦は、嫌いな自分と離れてホッとしたのだろうと、思っている。
タイミングが合わず、 宣伝の役割をしていた午前中に、藤堂剣聖がクラスの方に来ていたらしく、クラスに残っていた女子は完全に浮足立っていた。
彼は外見が良いだけではなく、紳士的といった感じの物腰の柔らかい人物だから、当然といえば当然なのだろう。
残念な事に伊弦とは丁度入れ違いになってしまったようで、会う事は出来なかったが、一人だけ病院に行った伊弦へとお見舞い出来なかったからと、何やらプレゼントを置いていってくれていた。
中身はまだ見ていないが、トークにて、入れ違いで会えなかった事に対する謝罪と、プレゼントのお礼を書いて送る。
お昼をこれから食べに行こうかしたところで、兵衛 皐月がやって来た。
「杠ちゃん、迎えに来た。着替え前に来てコスプレ見てみたかったけど、もう着替えも済んでるのか」
世の中には、変わった人がいるものだな〜、と伊弦は兵衛を見る。
伊弦は顔にはあまり出てないが、困惑していた。
デートって本当にするの?誰が?
これはやっぱり、タチの悪い冗談で、揶揄われてたりするとか。
第一、デートってリア充がするものじゃなかったっけ?
麻里ちゃんや、清香先輩なら兎も角。
将を射んと欲すればまず馬を射よ。
美少女である友人の麻里狙いでは無いのなら、もう一人の絶世の美女とも言える南条清香と接近したい為に、兵衛が伊弦に絡んで来ているのかもしれないと、推察する。
伊弦は、常日頃から、北条兄弟から女らしくないと言われ、男兄弟のように過ごしていた為に、自分が女の子として見られているとは、頭になかった。
「迎えに来た?」
同じ教室にいた泰時ボソリと呟き、眉を寄せる。
一気に雰囲気が悪くなっていくが、泰時本人は意図せず、無意識だ。
「あー、今行く。でも、まだお昼がまだなんだけど」
伊弦はそんな泰時を気にする事なく、返事をした。
「良かった。一緒に食べに行こう」
兵衛皐月は蕩けそうな笑顔を作った。
興味津々のクラスメートを放置して、伊弦は席を立つ。
どんな事でも、世の中、勇気と経験が必要だと、心に言い聞かせる。
デートだと身構え、緊張もするが、死ぬワケではない。
飲食系を巡り、聞かれた事に答える。
ただ、それだけだった。
「何を食べる?」
適当に入った休憩所でタコ焼きや、焼きそば、フランクフルトや、唐揚げなど、購入した物を広げる。
「適当に半分づつにすればいいんじゃない?あっ、お金払うよ」
「お金はいいよ。こういう時は奢らせて」
「ん、そう?ありがとう。分けるね」
そう言って適当に分けていく。
とりあえずお腹に何かを入れたかった。
奢るというなら、素直に奢って貰う。
変に譲り合うのは、時間の無駄に思えるからだ。
サクサク取り分けて、食べ始める。
その様子を兵衛は、しばし眺めていた。
「なにか?」
「いや、俺って意識されてないなぁ」
何を言い出すんだか。
「どういう意味?」
「杠ちゃんは、自然体だね。悪い意味じゃないよ」
そう言って、微笑む。
ようやく、食べ終えて人心地ついた頃、兵衛が不意に言葉を紡いだ。
「杠ちゃんさえ、良ければ付き合わない?」
「へ?」
「重く考えなくて良いよ。お試しでいいからさ」
「お試し……」
伊弦は、考えた。
結婚はこの先一生出来ないとしても、付き合うくらいなら、何の問題もないんじゃないかと。
脱喪女!
散々、女らしくないなどと、揶揄った北条兄弟を見返すチャンス。
北条兄弟を狙っていると思われるのも、無くなるだろう。
お試しなら、すぐに付き合うのも辞められるだろうし。
「今すぐじゃなくても…」
「乗った!」
長く続くとは思わないが、コレが最初で最後の機会かもしれないのだ。
「は、早いね」
兵衛からすると、断られても仕方ないと思っていたようで驚きの表情を浮かべていた。
「気を変えられても困るから」
「じゃ、今日から、恋人って事で、よろしく」
兵衛が握手を求めて腕を伸ばした。
「うん、よろしく」
伊弦が握手仕返すつもりで、手を取ると、そのまま兵衛は腕を引いた。
伊弦の体勢が崩れ、兵衛の胸に飛び込む。
兵衛は伊弦の頭に、軽くチュッとキスをした。
「!?」
びっくりして、伊弦は身を固めたが、兵衛は悪戯が成功したかのように笑って見せた。
慣れない激しいスキンシップに、伊弦は早まったかもと内心動揺し、後悔をした。
出会って数日の男性とお付き合いって、やっぱり無理だと、やめようと思ったが、兵衛があまりにも嬉しそうな表情をしていたので、言い出せなかった。
その日は、その後お化け屋敷や、巨大迷路などをして、兵衛皐月とは、別れた。
文化祭が終わって、教室の中を生徒が後片付けをしている。
「どうだった?初デートは?」
そう聞いてきたのは泰時だった。
慰労として、お茶やジュースを配っていたようで、泰時は伊弦にスポーツドリンクを渡してきた。
「よく、デートだって、知ってたね」
「前田から聞いた」
飲み物を受け取り、開ける。
伊弦は、泰時が揶揄いに来たのだと予測し、ニヤリと笑い構える。
「ふふふふふ。期待を裏切って悪いが残念ながら、成功だったよ」
「……へぇー、楽しそうで何より。しっかし、兵衛先輩は、見る目ないなぁ。2年には清香さんや、1年では御園麻里がいるのに、他にも美人、可愛い系っているのに。なんでわざわざ伊弦なんかと」
「私の隠された魅力に気付いたんだろね〜」
ドヤ顔をする。
「まぁ、物珍しかったんだろな。一度くらいは、(デートに)付き合ってみるかみたいな?」
「ぐふっ。よく分かったなぁ」
スポーツドリンクを危うく吹きそうになった。
「あっ?」
「お試しで付き合う事になった」
「はあ?」
「えっ?知ってて言ったわけじゃないのか。一度くらいはって」
「……。付き合うって、彼氏彼女として?」
「それ以外に何があるんだ?」
「へぇ。良かったな。これを逃したら、一生男と縁がないかもだし」
そう言った泰時の顔からは、一切の表情が消えていた。
揶揄うにしても、喜んでくれるにしても、もっと何か反応があっても良いんじゃないかと思うのだが、伊弦には、読み取れなかった。
「まぁな。お試しだから、出来る事だよな」
伊弦は苦笑いをした。
長く続く事は無いだろうと予想をしながら。
「俺、まだ、飲み物配るのが残ってるから、もう行くわ」
「ん。また」
伊弦が手の平をひらひらと振るが、泰時は、見えていないかのようだった。
関係のない話。
バイト君が就職などで、居なくなり、仕事日数が増えた。どこも人手不足なのかな。
Hが、二次でようやく合格、おめでとう。
Mの遅刻回数が134回突破。おそろしい。




