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第26回 伊弦さん、モテ期到来?

 十一月六日木曜日、文化祭の前日。

 伊弦は、宣伝役の着ぐるみで、文化祭二日目の午前中の三時間、前田と共に校内を廻る事が決まっていたので、初日の七日に御園麻里と一緒に回る約束をしていた。

 

 休み時間にクラスの男子に文化祭を一緒に回らないかと、誘われる事が増えていたが、それほど親しくない男子生徒よりも、麻里と二人で回った方が気楽だったので、友達と既に約束をしてある事を告げて、断っていた。


 ちなみに初日は生徒と、保護者、学校関係者のみで、二日目の土曜が一般公開日となっている。


 翌日の文化祭を前にして、昼休みの視聴覚室に手紙で呼び出しを受けた。


 前からあったその呼び出しは、手書きではなく、印刷された手紙で、ロッカーの中や、机の中に入っていて、イジメかと、内心ビクビクとしながら、何度も手紙を無視していた。


 だが、今回は直接、男子生徒から、絶対に来るようにと伝え渡されたのだ。

 いつまでも逃げ回るわけにはいかないと、腹をくくって行ってみると、そこには見覚えのある顔が混ざっていた。

 それは以前に、伊弦の机の中に魔女コスプレの衣装を入れた犯人達であった。


 伊弦は、その数人の男子生徒達に囲まれた。

 女の子に囲まれる経験は嫌な経験として何度かあるが、 男子生徒達に囲まれるのは、これが初めてである。


「杠さん、お願いだから、アニ研部の為に、あの衣装を是非着て欲しい」


 そう言って提示されたのは、前にも見た事があるアニメか何かのコスチュームだった。


「漫研部からも、この通り、お願いする!」


 アニ研と漫研部は似たり寄ったりの雰囲気の部活なのだが、何故だか二つに分かれて存在している。

 その二つの部が、協力し合い、伊弦に助力を求めていた。


「アニ研にも漫研部にも女子いるよね?」

「確かに我々の部活内には腐女子はいる……が(会話はした事がない)、あいつらと杠さんでは違う」

「ゆうちゃんファンなら、杠さんしか認められない」

「ウチの部の姫はやる気満々であるが……」


 漫研とは違い、やってくれそうな女子生徒がアニ研にはいそうだが、歯切れが良くない。


「魔法少女ゆうちゃんが出来るのは、杠さんしかいない!!」

「ウチの部のゆうちゃんファンは、杠さんのコスプレしか認めない」


 なんだか皆、目が血走っている気がしてならない。


「そんなに似てたんでしょうか?」


 こんなに、根暗とか、陰気とか、陰口を叩かれている私が、漫画だか、アニメのキャラコスプレなんて、して良いものなのか。


 伊弦は少年漫画が好きで、漫画やアニメに否定的ではないが、知らないキャラのコスプレをするのには抵抗があった。


「俺は君の神コスプレを保存して壁紙にしている!」


 どどん と、携帯やタブレット、ノートパソコンの壁紙を各々見せつけてくる。


「そ、それは体育祭の仮装競争での……」


 ボンデージとゴスロリが混ざり合っているような妙に露出度が高い魔女衣装に身を包ませた伊弦が写っていた。


「この表情も、ゆうちゃんに一致している」


 漫画の一場面を横並びにして映し出す。

 アニ研はアニメの一場面を出してきている。


「ゆうちゃんをやれるのは、杠さん、君しか認められない!」

「僕達はもう、目覚めてしまったんだよ」

「我が部の姫は確かにあざと可愛いが、ゆうちゃんコスプレを地でいけるのは杠さんしかいない。というか、()さんだから、名前からして、ゆうちゃんでイイし」


 それに対して、漫研部が茶々を入れる。


「お前らは、三次元の女を姫とか言っているから、真のゆうちゃんファンとは言えない」

「ゆうちゃんに対して冒瀆だ」


 アニ研部が、軽く漫研部を睨む。


「とにかく、ゆうちゃん信者を広める為にも、似ている杠さんにやって欲しいんだ」


 何やら内輪揉めもあるようだが、押せ押せで来られても、困る。


 なにせ伊弦はその作品のファンでもなければ、その作品を一度も見た事がないのだ。

 格好だけ真似するにしても、露出度が高く、恥ずかしい。


「やってくれないか、ゆうちゃん!」

「髪もきちんとゆうちゃんカットしてさ」

「君はゆうちゃんになる為に、生まれて来たんだ」

「そう。ゆうちゃんは僕の嫁なんだから…いずれ…ふひひ」

「いやいや、俺の嫁だから」

「そういう邪な事を言えば、ゆうちゃんに引かれるだろうが、これだからアニ研のやつらは」


 ブツブツと何やら呟く部員が出ている。

 何を言っているのかわからない。

 文化祭との繋がりもわからない。


「まず、私はアニ研でも漫研でもないですし」


 とりあえず断る。


「そこをなんとか」

「三時間だけでも」

「ウチの部活の成功は君にかかっているんだ」

「ゆうちゃんの同人誌、ゆうちゃんコーナーを成功させて、あの腐女子達にギャフンと言わせてやるんだ!」

「杠さんは、二日目の午前中だけ、クラスの宣伝担当だろ?それ以外の時間で…ハッ、着ぐるみじゃなくとも、これなら、目立つし…宣伝ならこの格好でもいい筈だ」


 アニ研の部長は、コスチュームを待つ手を震わせて、名案を思いついたかのように握りしめた。


「見る者が見れば、同士は気が付く筈です」

「隊長!ワシが1年4組の実行委員に掛け合って来ます」


「えっ?」


 実行委員に意見をするという事は、もしその意見が通ってしまったら、伊弦の着ぐるみは着ぐるみじゃなくなり、そのコスプレになるという事である。


「ヨシ!行って来い」


 瞬時に走って行く部員の後姿を呆然として、伊弦は見ていた。


「えぇー?!」


 そして話を聞いた4組の男子実行委員は、協力をする事に抵抗を示さず、即決で伊弦を売っていた。




 放課後は、放課後で、中庭にある人物から “トーク ”で呼び出しを受けていた。


 その相手は、2年の兵衛(ひょうえ)皐月(さつき)だ。


 文化祭の件で話があるとか、書いてあったが、初日に御園麻里と回るという事は以前に話していて、兵衛の話とは、もしや麻里の事なのかと考えていた。


 南条清香は、類稀な美女だが、御園麻里もまた、群を抜いた清楚系美人なのだ。


 男子生徒達は、その二人との接近を狙って、伊弦と意図的に親しくなろうとしている可能性がある。


「やぁ、(ゆずりは)ちゃん」

「珍しいですね。兵衛先輩から直接の呼び出しは」


 トークで挨拶やコメントを貰う事は多いが、兵衛からこういった呼び出しを受けたのは初めてだろう。


「トークで、文化祭一緒に回らないかと、簡単に断られそうだったから、さ」

「麻里ちゃんは……そうですねぇ。でも、そんな搦め手で行くより、やっぱり直接誘った方がいいかと思いますよ?」

「はい?」


 兵衛が不思議な顔をした。

 タレ目で優しげな顔が困惑をしている。

 伊弦もそんな兵衛を見てきょとんとした。


「直接誘ってるんだけど?。初日は、御園さんと回るんだよね?だから、二日目の午後なら伊弦ちゃんは空いてるよね?」

「へ…?」


 なんだか、私が誘われてるみたいな言い方だな…と、伊弦は言われた内容が頭に入って来なくて間が空いた。


「御園さんと回るのは初日。空いてる二日目をオレと一緒に回らないか?」

「ふ、二日目はクラスの宣伝活動が、あるんですよ。着ぐるみ着てっ…て、変更があって、着ぐるみじゃないかもしれないけど」

「それは午前中の三時間だけって聞いてるけど?午後なら空いてるよね?」

「あ、汗臭いですよ?着ぐるみですよ?」

「さっき、変更があって着ぐるみじゃないって、言ってたし、シャワーを浴びる時間くらい待てるよ」


 何と無く気恥ずかしくなって、色々理由をつけて断ろうとしたが、敵もさる事ながら、逃げ道を封じてきた。


 二日目は、一般公開日だ。

 何時とは聞いていないが、伊弦の知り合いである藤堂剣聖も、伊弦の様子を見に来るという予定だった。


 藤堂剣聖の方は、あの毒アルコール事件(集団アルコール中毒?!と週刊紙にも記事で取り上げられた)後も警察の事情聴取や、大学からの呼び出しや、サークルの解散(剣聖の所属サークルではないが)、マスコミの取材などもあって慌しい二週間を過ごしていたらしい。


 その事件に関わった女子と言えば、名家の子息令嬢が多く通う、名門私立高校で、未成年でもあり、アルコール摂取での入院した生徒が居なかった為、マスコミは完全にシャットアウトされていた。


「二日目は、何時だかわからないけど、知り合いが来る予定なので」


 うん、嘘ではない。


「ふぅん?それ、彼氏?」

「違います」

「じゃあ、その人が来る前でも、帰った後でも、デートしよう」

「で、でぇと?!」

「決まったね。俺は明日は文化祭実行委員の関係で忙しいから、明後日は宜しく」

「えっ…」


 兵衛はそう言って、先に中庭を去って行った。

 強引だった。


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