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第22回 伊弦さん、合コンからの人助け。

 

 先に倒れている男子大学生と親しくしていたであろう他の男性が動き、声を掛けている。


「早川!どうした?!」


 それを皮切りに、別の男子大学生も倒れた。


「お、おい。永田!大丈夫か!?」


 しゃがみ込んでいる場合ではない。

 誰かが、率先して指示を出さないとだ。


 同級生の女子達は遠巻きにして、それを唖然として見ている。


 唐突に複数人が倒れて、どうすれば良いのか分からないんだろう。


 その女子の近くにやはり呆然とした、先程会話をした青年が伊弦の目に入った。


「支倉さんだっけ?救急車を呼んでくれる」


 伊弦が声を張り上げる。


「えっ、僕が? 何て言えば…」


 名指しされて、動揺し、狼狽している。


「俺が、電話するから」


 代わって、剣聖が携帯を耳に当てた状態で反応した。


 彼は伊弦が言う前に電話を掛けて、向こうが取るのを待っていたようだった。


「仲谷委員長、ストレッチャーが通れるように、お願いします。瀬能さんはホテルスタッフに説明して、新田さんは念の為AEDを借りて来て」

「わかったわ」


 仲谷華恋は、気持ちをすぐに切り替えて両扉を開けて、周りのワゴンを動かしていく。


 新田結花も動き、瀬能結花は、困惑した。


「どう説明するの?」

「とりあえず料理はまだ誰も食べてないと思うから、急性アルコール中毒の可能性で倒れて、救急車を呼んだとでも伝えて」


 気持ちが悪い中、倒れた男性へ向かう。


 伊弦は脂汗が出て来るのを感じた。


「早川さん、早川さん!返事出来ますか? 今、救急車を呼んでますからね」


 声を掛けて、揺さぶり、軽く肩を叩いて、更には痛みを加えてみて、注意深く様子を見る。

 スマホのアナログ表示時計を見ながら、倒れた大学生の手首に触れる。

 脈を取る。


 呼吸は浅く、乱れている。

 体温は自分も、同じように熱っぽく上がっている気がする。


 伊弦が付き添っている大学生にお願いした。


「倒れた人を、とりあえず左側臥位…左を下にして、寝かせて。他の人にも同じようにして、吐く人もいるかもしれないから口元を下に。倒れた際に頭を打ったりなどして、外傷がないかどうかも、確認願います」


 倒れた男子大学生側にいた青年が、頷き慌てて言う通りにした。

 他の学生も、それに習って動いていく。


 伊弦は、明治に電話を掛ける。


『どうした?伊弦』


 一瞬、急性アルコール中毒と頭によぎったが、即座に違うと頭を切り替える。

 酒が出されてから、そんなに時間は経過してないように思えるし、彼らはお酒に慣れている様子だったのだ。


「…毒薬を盛られたのかも…胃洗浄の準備を、場所は東都ホテル30階のレストラン。傷病者は今のところ男性4名、患者は増える可能性あり、意識レベルJCS200。救急車を手配中」


 吐き気を催しながらも、余計な混乱を与えないように小声でそう答えた。


 自分の気のせいか、緊急事態による緊張のせいか口の動きが悪い。


 彼にはそれだけで通じる筈だ。


 しかし、相馬姫乃には聞こえてしまったようで、青い顔をしてこちらを見ている。

 彼女に、大丈夫だと、安心させるべきだろうが、しかし今の優先順位は、明治との連絡である。


『了解、伊弦は?』


 伊弦は少ししか摂取してないのに、それでもかなり体にダメージがあり、参った。


「私もソフトドリンクと誤って一口飲んでしまったけど、大丈夫」


 先に飲んでしまっていた大学生達の命が危ぶまれる。


「AEDを借りて来たわ。これ、いつ誰が使うの?」


 新田結花が、伊弦の元に持ってくる。


「心肺停止をしたらよ。一応、胸骨圧迫をして、拍動が無いようなら、使う事にするわ」


「複数心肺停止の人が出たら?」

「もしそうなったら、救急車が来るまで、他の人にもやって貰う!私だって、そんなに体力はないから。交代して貰わないと持たない。1分間に100回のテンポで心臓マッサージをする。AEDは、予備のパットが1組は入っているかも知れないけど、……そうならない事を祈るしかない」


 そうこうしているうちに倒れた大学生の顔色が変わった気がして、胸に耳を当てる。


 心停止をした男性に、伊弦は蘇生を試みた。

 AEDを使う事なく蘇生出来たが、予断を許さない状態だ。


 何台か路上に救急車が止まった。

 連絡してから、7分位だろうか、最初に倒れ、一度心停止までした大学生を運び込む。


 救急隊員が伊弦を名指しして、一緒に乗り込む。


「どうして、杠さんが」


 新田結花が、指示を出していた伊弦が、現場から離れる事の不安から、口を衝いたようだ。


「伊弦ちゃんも、一口飲んでしまって具合が良くないんだ」


 剣聖がそれとなく宥める。


「他にも救急隊員が来ているから、もう大丈夫だよ。女の子達みんなは、お家の人に連絡するなりして、一度、帰宅した方がいいよ」


 まだ助かった訳では無いが、彼女達を安心させる為にそう言っている事が、伊弦には分かった。


 伊弦は病院で待っている明治と落ち合う。


「念の為の確認だが、彼等に与えるのか?解毒剤を(・・・・)

「これで死んだら、同級生の子達も寝覚めが悪いでしょ」


 伊弦の顔色が運ばれた時から比べたら、回復傾向にあり、少しずつだが良くなってきている。

 今は、毒を盛ったでたろう、犯人の事は置いといて、彼らの回復を優先する。


「相変わらず、伊弦の体質は奇跡としか呼べないな。誰にでも全血可能な血液もそうだが」


 血液は数少ないが、全世界で二桁台だが同じような存在は確認されている。

 黄金の血液やら、幻の血液と呼ばれるそうだ。

 それは稀血だが、最悪な事に、輸血をされる側に回ると、誰からも貰えない。


 そして、それ以上に変わっていたのは、タダの通常の血液との違い。母が幼き頃にかけた呪いという、非科学的な事で、毒では死ねない、死なない血液を持っている。


 母の全呪力と引き換えにして得たのであろう、特殊な血液。


 それは抗体が出来るのが異常に早い、免疫機能がすぐに働くと言えばいいのか、毒の中和剤が体の中で作成されるとでも言えばわかって貰えるだろうか。


 ただ、それにも欠点はあるのだが。


 今迄はそうだったが、これからもそうだとは限らないし、強過ぎる毒に対して、絶対に死なないのかと言えば、試す訳にはいかないので不明だ。


 幼かった伊弦に対して、数種類の毒で大人が死んだのに対して、伊弦は死ななかったのは確かで、そして、その特殊抗体が出来るのは、あくまでも伊弦の体の中にある時だけなのだ。


 つまり、血液単体では、誰にでも全血輸血が可能だが、最初から、解毒という機能は付いてこない。


 伊弦が、毒を受けないと、解毒剤にはならないのだ。


 明治や他の研究者達が、その特殊抗体だけを取り出し、万能薬が出来ないものかと、調べたのだ。


 何に対しても効果のある万能薬、もし出来たとしたら、何兆、何千兆、何京、という金額どころではない、世界の全ての富を得ると言っても過言ではないだろう。


 菌、ウィルス、体内に作られた毒も、何とか出来る可能性がある。理論上病気で死ぬ事は無くなるのだから。


 しかし、現実はそう簡単に行かなかった。


 伊弦の体にある時だけその抗体作成が有効で、その毒を飲むなり、打たれるなどして、初めて解毒剤が出来、そして体から離れた血液は解毒としての持続時間、効果も時間と共に、消えていく。

 特殊な薬としての効果は、不思議な事にタイムリミットがあったのだ。


 最初の頃は採血してすぐ冷凍保存すれば、効果も保存されるかもしれないと考えられていたが、そうはいかなかった。冷凍された血液は、ただの血液に戻り(とは言っても、稀な血液なのだが)解毒剤としての力を発揮する事は無かった。


 まず、伊弦の中で作られるまでの時間があって、それは普通に考えれば、驚異のスピードなのだが、それから伊弦の血液を採り平均30分から1時間は、解毒剤として効果が期待出来、利用できる。

 時間の長さは毒によって違うし、伊弦は毒の効果で体内で解毒剤が出来るまで苦しみを味わう事になる。

 そして血は、抜かれると失われたままで、不自然に増える事はない。

 自然と体内で血が作られるのを待つしかないのだ。


「4人か、400ずつ与えたとしたら1600……。追加でまた来られでもしたら、伊弦の方が失血で死にそうだな。とりあえず、1600抜くぞ。そして、お前には自己血輸血だ」


 事故に合えば他人から血が貰えない伊弦は、大きなリスクを負っている。

 故に、定期的に伊弦の血液を採り、保存している理由なのだが、伊弦は、その血液の使用に関して、西条家に全て判断を委ねている。RH陰性の血液が不足した場合も、全血が必要となった場合には、西条家の判断を経て、伊弦の血液が使われる。

 人の生死がかかっているので、稀血の事故者が出た場合など、使用は仕方がない事で、わかってはいる筈だが、明治はそれを腹立たしく感じているようだ。


 西条家としての判断と、明治の持つ感情は別である。


 RH陰性や、ボンベイ型のOとか、自分の血が珍しいと分かっているなら、自分の為にも、前もって採血し、保存しておけと明治は思っている。勧めても採血しない、献血しない人間に、何故、伊弦の血を分けてやる必要があるんだと。


 今回でのケースはそれとは違い、解毒剤としての使用で抜かれる血なのだが、明治は血をあげる事を好ましくは思っていない。


「明治、顔が険しくなってるよ」


 伊弦が苦笑した。


「すまん。この万能抗体が、増産出来たら良かったのに。取り出して暫くするとまるでゴーストかのように……」

「はいはい。いつかは出来るかもね」


 患者の家族との交渉は明治や、他の大人がやる。

 助かる確率は上がるが、情報規制をされた限られた量の貴重な解毒剤(・・・)なので、それなりに高値となる。


 ただではやらない、というのがポイントらしい。


「そうだ。研究で血液以外の伊弦の体液も採りたい」

「体液?」


 伊弦は不安になって聞き返す。


「ああ、唾液や、尿などに、何らかの変化があるのか」


 伊弦は知っていた。

 こんな時の明治は引かない。


「今?」

「今。本当なら尿道カテーテルがいいんだが」

「ううぅ。トイレでの採尿で勘弁して下さい」

「仕方ない。伊弦を買い上げたかったが、柚子葉さんも百合さんも、譲ってもくれなければ、売ってもくれなかったからな」


 伊弦は冗談なのか本気なのか分からない明治の発言に、苦笑いするしかなかった。


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