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第21回 伊弦さん、歓迎会(女子会?)です。

 


「歓迎会?と体育祭の打ち上げ?」


 泰時の歓迎会なら、九月にやった筈だ。

 同時に伊弦の歓迎会でもあるそうなのだが、何らかの手違いで伊弦は呼ばれなかったらしい。

 それなので、改めて開くという事になったとの事。


「うん、女子だけの集まりなんだけど、いづちん大丈夫?」


 そう言って来たのは、サイドを編み込みをした瀬能由美子だった。


「あ、うん。だけど、会費いくら?」

「歓迎会だから、杠さんの会費は要らないのよ」


 隣にショートカットの爽やかそうなボーイッシュの新田結花が立つ。


「そうそう、体育祭では、女子のMVPだしね」


 由美子を挟んだ反対側には、ポンパドールのロングヘアーが特徴の内藤沙織里が立っていた。

 彼女とは、あまり話した事がない。

 まあ、それを言ったら大半の女子と、あまり会話らしい会話をしていないが。


 断る理由はない。


 ただより美味い飯は無し。

 違う。タダより高いモノは無い?


 その三人以外はというと、矢部薫、仲谷華恋委員長、相馬姫乃など、他3名で、クラスの女子17人中、伊弦を入れた10人が参加するらしい。


 残りの7人は部活の都合や、習い事などの関係で来れないらしい。


 オッシャレ〜なカフェみたいなので無ければ良いなぁ、と思っていたが、場所はホテル内のレストランらしい。


 一気に行きたい気が半減した。

 緊張しそうだ。


 ホテルでパーティとか、明治や北条兄弟から、話だけは聞くが、そんな煌めかしい場所、自分には不似合い過ぎる。


「今週末の土曜、午後5時からの予定ね」

「えっと服装は?ドレスコードって言うんだっけ?」

「うーん、部屋着じゃなければ大丈夫」


 微妙な返答だ。


「良ければ、私と一緒に放課後デパートで洋服選びでもする?」


 よく話した事もない内藤沙織里の提案に図々しくも伊弦は頷いた。


「あ、うん。でも高いのは無理だから」


 慌てて付け足す。


「予算どれくらい出せそう?」

「出せても一万円」


 由美子と結花が顔を見合わせる。


 それが精一杯の金額だ。


 彼女達からしてみたら、余りにも低い予算設定なのかもしれない。

 彼女達の話題からして、靴だけでも、軽く二、三万を超える物を履いてたりするのだ。

 全身コーディネートだと十万は超えるだろう。


「そう。頑張って探してみるわ」

「ええぇぇ、羨ましい。さおりんに私も選んで欲し〜い」

「由美、今回の主役は杠ちゃんなんだし。遠慮しとこうね〜」


 そんなわけで、金曜の放課後は、デパートで洋服選び、土曜の午後は歓迎会(女子会)と体育祭の打ち上げとなった。


 金曜日。

 沙織里は、あまり自分の事を喋らないが、服の事となるとよく喋った。オシャレな感じで値段的にも買えそうな代物をきちんと見て、選んでくれる。

 店に入る度に何故か沙織里に注目が集まる。

 どうやら彼女は、知る人ぞ知る、ファッション雑誌のモデルをやっているらしい。

 何着か見て、試着していく。

 というか、着せ替え人形にされた。


「まだ、着るの?」

「とりあえずは、候補は絞られてきただろうけど、もっと良い物があったら、後悔するかもよ。あとブラストラップとかも可愛いの買いたいけど予算が……」


 そこのデパートで新しく入った店で服を選ぶと、またもや鏡の付いた試着室に押しこめられた。

 伊弦はそこでふと異常に気が付いてしまい、グループトークで発信する。

 ミラーがおかしいのだ。

 念の為その店の他の試着室も見るが、やはり違和感を感じた。

 沙織里は中々着替えない伊弦を訝しんだ。


「ごめん、この洋服ちょっと」


 洋服には罪がないが、そう言って試着室に入るのを拒んだ。


「あら、気に入らなかった?じゃ、次の店に行こ。あと、出来たら髪の毛何とかしない?」


 沙織里に演技をしているような気配はない。

 東条桂季とワクワク感が隠せてない南条清香が、入れ違いにその店の試着室に洋服を持ってカップルで入って行く。


 そして、後日その店は経営者が逮捕されたとかで、無くなってしまったわけだが、伊弦はその後の事は知らない。

 結局、その日はそれ以上の変わった事柄なく、沙織里があの店に入った事以外で、怪しい様子は見られなかった。




 土曜日。


 女子生徒が複数いるし、食べるだけなら問題はないだろうと判断したが、当日行ってみると話がだいぶ違っていた。


「ごめ〜ん。合コン頼まれてたの忘れちゃってて、急遽ね。今日は丁度よく女子だけだったし、セッティングしちゃった」


 参加している男性はみな一流大学の学生だった。

 そして、意外な事に、知ってる青年がいたのだ。


 イケメンで、雰囲気が何処か他の人と違っていた。

 他の大学生とは少し印象が異なる。


 藤堂(とうどう) 剣聖(けんせい)


 一月ほど前に電車で偶然助けられて、以降たまに “ トーク ” でやり取りをする関係だ。

 ネット上のやり取りで良いところは、顔を見ない為、変な緊張をせずに話せる事だ。


 お互いにお互いの存在を知って、ギョッとした。


 自己紹介を一通り済ませた後で自由な移動となる。


「伊弦ちゃん?」

「剣聖さん」

「あら、藤堂様と杠さんはお知り合いですの?」


 相馬姫乃が割って入る。


「えっと、相馬さん。先月電車で助けて頂いた事がありまして」


 伊弦が隠さずに答える。


「そうでしたの」


 剣聖も何か有名な人とかなのだろうか?


「あのさ、相馬さん、俺にサマは付けなくていいよ。君達のようなお金持ちでもない、ごく普通の大学生なんだから」


 剣聖が苦笑する。

 今度は伊弦が問う番だった。


「あ、私は、金持ちじゃないよ。えっと、相馬さんも剣聖さんの知り合いとか?」


 答えを聞く前に少しだけ怒っているかのような内藤沙織里が割って入る。


「ちょっと失礼、伊弦を借りるわ」



 腕を引っ張られレストルームへ。


「髪の毛〜。せっかく私が洋服を選んだんだから、髪の毛をもう少しちゃんとしてよ。私のセンスが疑われるでしょ」

 そう言って、中途半端に長い伊弦の前髪を器用にも斜めに編み込んでいく。

 最後に耳の後ろを通過して、ピンで止めた。


「ま、こんなもんね」


 沙織里が自分の腕前に満足して、不敵な笑みを浮かべた。


「おお!髪の毛がスッキリしてる!凄い。自分では出来ないので、ありがとう」


 そう言って伊弦が仕上がった編み込みに感心して指で触れていると、沙織里はドヤ顔を作り、その後、微妙な顔をした。


「由美子がまた暴走したみたいね。変な奴が居ないとは限らないから、気を付けてね」


 元の場所へ戻ると、服装は同じ筈なのに、先程と皆んなの見る目が違った。

 髪形で印象がだいぶ変わったようだ。


「伊弦ちゃん、可愛くなったね」


 そう言って、剣聖が寄ると、他の男子も寄ってきた。


「さっきの子だよね。劇的ビフォーアフター」


 他の男子も話に加わる。


「なんだ、それ?」

「知らない?まぁ、俺は偶にしかテレビ見てなかったから、何とも言えないんだけど」

「『なんていう事でしょう〜』ってか」

「素の顔は可愛いかったんだね」


 身内以外に可愛いと言って貰える経験があまり無くて、どう対処すれば良いかわからずに、慣れない事から緊張で顔を赤らめて、何とか声を出した。


「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」


 その様子がまた彼等のお気に召したようで、会話が増えるが、困ってしまった。


「高校生なんだよね。何年生?」

「あ、みんな瀬能さんと一緒の、1年生です。えっと…」


 聞き返した方がいいのだろうが、名前を覚えていなかった。


支倉(はせくら)、僕の名前は支倉(はせくら) 龍一(りゅういち)。覚えてくれると嬉しいな」

「あ、ボクは、ボクは、永田(ながた) 海斗(かいと)、剣聖と同じ大学2年生」

「俺は3年の……」


 伊弦は別に見知らぬ男性複数との交流を求めているわけではない。


 無料飯(ただめし)に釣られて来ただけだ。


 って、それもどうかと思うが。



 内藤沙織里や、矢部薫、仲谷華恋に助けを求めようとするが、彼女達は彼女達で銘々に話に夢中となっており、気が付いてもらえず。


 近くにいた剣聖と思いっきり視線があった。

 彼は伊弦と夜中に “ トーク ” をしていた間柄で、伊弦が付き合う人の範囲が狭く、コミュ症気味だとわかっている。


 伊弦が目線で助けを求めているのが分かったようだ。


「ハイハイ、そこまで。伊弦ちゃん、ちょっとおいで、前に話してた事なんだけど」


 と、割り込んで入ってくれた。


「ふぁー、助かった」


 ホッと一息を吐くと、剣聖が苦笑した。


「お疲れ様、どうやら、そちらは合コンだって、知らされてなかったようだね」

「そうですよ。私の遅れた入学歓迎会だか、女子会で、体育祭の打ち上げも兼ねてって聞いてたけど」


 蓋を開けてみれば何とやらだ。


「そりゃまた、騙されたな。中々やるね、伊弦達の幹事は」

「剣聖さんは?」

「俺は欠席のヤツが出たんで、急遽人数合わせで呼ばれた」

「なるほど」


 何気に飲み物を手に取って飲む。


「あっ、それは…!」


 剣聖が止めに入った。


「ん、味がおかしい」


 飲み慣れない味に、伊弦の味蕾は、微かな苦味を捉えたようで、美味しいと思わず、変な味と判断した。


「そっちに置かれているのは、お酒だよ」

「へぇ、じゃあやめておく」

「そうした方がいい。未成年なんだし」


 なんだか、少し気分が悪くなった気がした。

 クラクラと眩暈がして、ガンガンと頭痛がする。

 立って居られない。

 思わず、しゃがみ込む。


 貧血かもしれない。


 アルコールの廻りが早いのか。


 同じく、酒を飲んでしまった大学生が、不意に倒れて、異常に気が付き、女子達が悲鳴をあげた。


 それを境に非日常に、切り替わったようだった。



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