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風の精(スプライト)  作者: 花一匁
一章 風と学院
24/42

風 ⅩⅩⅢ

遅くなってしまいすみません


ⅩⅩⅢ 風と護衛





レイと繋がってから三日が経った

すでに鎖は解けている。つまり、ミオの命令が実行される日ということだ

朝早く起きたミオはレイが無事なことを確認する


「レイ、短い間だったけど、楽しかったよ」


まだ眠っているレイは反応しない


「私はレイに近づきすぎたらいけないから……ゴメンね」


彼女は己の役目を理解している

レイの中でミオの存在をこれ以上大きくしてはいけない


「これからは私が守る。まだ力は弱いけど、陰から守るから」


離れるのは辛い。出来ることならずっと一緒にいたい


「だから、絶対に死なないで。昔みたいに一人で走らないで」


自分がいたからレイは傷ついた。そして、責任を押し付けて逃げた

その罪は消えない。でも一緒にはいれない。また同じことを繰り返してしまうから


「貴方には仲間がいる。例え信用や信頼がなくても、今だけは仲間。どんな形であれ、仲間だったら頼らなくちゃダメだよ?それが利用だったら、あとでちゃんと謝る」


彼には仲間がいる

だが、彼女にはいない

孤独な戦いを続けているミオには仲間はいない。頼れる人も、またいない


「さようなら。私の最初で最後の愛しい人」


すでに荷物は纏めてある。後は、棄てるだけ


(せめて、レイともう一回くらい。一緒に戦いたかったな)


それが唯一の心残りだった

でも、もうその思いにすがることは出来ない


「行くのか?」


「……起きてたの?」


「ん。今起きた」


寝ていたところを起こしてしまったようだ

でも、レイは引き留めようとはしない。意志はあっても、命令の前には逆らえない


「これは私自身で決めたことだから」


「ミオ」


「なに?」


「いつでも、破棄は出来るから」


引き留めることは出来ない彼は待ち続ける


「その時が、来るといいね」


引き留めてほしい彼女は自分から戻ることは出来ない


「「さようなら」」


二人の声が重なる

互いの想いは、届かない距離にまで延びきっていた


ミオが出ていくと、レイは起き上がり、寝る直前まで考えていたことをもう一度思い出す


(ここから先、ミオはアルバート・ハイドに狙われる。でも、相手は派閥。一対一だと地形によっては負ける)


どんな場所でも負けることはないが、風が通り難い場所では不利な立場になる

それに、ミオを排除するなら人目に付かない場所を選ぶはず


(博士が協力者でない今、早急に動いた方がいいか……)


ウィーと魔力供給リンクを繋ぐために魔力を送ろうとするが


「ん?……練れない」


魔力を練ろうとするも何かに邪魔されて消えてしまう

考えられる要因は――


「ニールセン・ヴィヴィオの力、か……」


とんだ誤算だった

魔力が練れなければ満足に魔法を行使することも出来ない

これではミオを守れない!

博士がいれば何かしらの手を打ってくれただろうが、無い物ねだりしても仕方ない

初めて相談する相手がいなくなった


(でも、独りじゃ……ないよな)


掛けてある制服の内ポケットから手のひらより少し大きなビンを取り出す


「お願い。独りにしないで……」


人と接するは嫌いでも、孤独にならないように生きてきたレイにとって、そばに誰もいないのは初めてだ


「……あれ?」


ビンの中に、白い光と一緒に四つ折りにされた手紙が入っていた

レイが寝てる間に誰かがこのビンに触ったのだろう

白い光と手紙をビンから出して内容をみる


『レイへ

 レイ、この子にもそろそろ名前くらいあげないとダメだよ。

 レイは親なんだから……

      ミオより』


ミオからレイへの手紙

その手紙を見たときレイは手紙を握りしめ、壁を殴った


「ミオだって……ミオだって、この子の親だろ!親は、二人いてこそじゃないのかよ!」




タリア・シュリアは生徒会長権限を使って男子寮にいるはずのレイに会い来た

職権乱用だがどうしてもレイに会う必要があった

レイがどうやってニールを制御したのか、生徒会として知る必要がある。いや、それは建前、一番は――


(私が、あの人のこと知りたいから)


「会長、どうしてここに?」


「あれ、フェリシモさん」


呼ばれた方を見るとミオ・フェリシモが男子寮から出てくるところだった

ミオ・フェリシモには前から目を付けていて、十二星座スターズではないがその実力から生徒会に引き入れたいと思っている一人だ

そういえば、保健室に来たときもレイと一緒にいたような……


「おはよう。どうしたの?」


「私は、その……」


素直にレイの部屋に泊まっていた。とは言えない


「レイ君の部屋にいたのね?」


「!?何故、それを……」

「昨日一緒にいたじゃない。どんな関係なの?」


タリアにしてみればただの好奇心。だが、ミオからすれば傷を抉られる感覚

レイとはどういう関係?

相棒?仲間?協力者?幼なじみ?友達?親友?敵?味方?

わからない。レイとどういう関係なのか、答えられない。答えられないなら、話題を逸らそう


「タリア会長はレイと同じチームですよね」


「え、えぇ、そうよ。よく知ってるわね」


「わかりますよ。タリア会長もレイも有名ですから」


それに、ニールセン・ヴィヴィオもまた、違う意味で有名だ。チーム“風”の情報は勝手に入ってくる


「そう。レイ君は、部屋にいる?」


「いますよ。多分、泣いてます。早く行ってあげてください」

(私には、その権利はない)


「貴女は行かないの?」


「はい」


即答

自分でもこんなに早く答えられるとは思わなくて少し驚いてしまう


「タリア会長は彼の仲間なんですから、早く行ってください」


レイに対して冷たく扱っている。でも、今レイがどんな状態かが気になり、他人を使う

矛盾、している……


タリアは不思議そうな顔をしながらミオの隣を抜けてレイの部屋に向かう

その背中を見ながら、聞こえるように言った


「レイを独りにさせないで……」




部屋の中でうずくまる。淋しさを紛らわすために……

横では白い光がレイの周りをくるくると飛んでいる


「ありがとう。でも、大丈夫」


その声に抑揚はない


「学院に、行かないとな」


最近顔を出していない“風”にも行かないといけない

白い光をビンに戻して制服の内ポケットにいれる


「レイ君!」


さあ行こうと思って玄関のドアノブに手を掛けようとしたとき、勝手に開き、タリアが中に入ってくる

思わぬ人物の登場にレイは驚いた。だが、それが見知った顔だと気づくと、タリアに抱きついた


「ちょ、レイ君!?」


「……………」


慌てるタリアにレイは何も言わずにただ抱きつく。まるで、子供のように

タリアは戸惑いながらもこの状況を他の人に見られてはまずいと思い、後ろ手にドアを閉める


「……ゴメン。少し、このままで」


何も言わずに頷いてレイを受け入れる

レイの背中にそっと手を当てて頭を撫でる。子供をあやすように、優しく

どれくらいの時間をそうしていただろうか。暫くしてレイはタリアから放れる


「ゴメン。ありがとう」


「う、ううん。それより早く行こ!」


恥ずかしさを隠すためにタリアは学院に行こうとするがレイに服を引っ張られて止まる


「タリア、頼む。今は独りにしないでくれ……」


「レイ君、いったいどうし――」


そこまで言葉が出掛かってミオの言葉を思い出した


『レイを独りにさせないで……』


彼は今、人を求めている。いつもは人を避けるのに。もしかして、一人が怖い?

だが、それを問う気にはなれない。もしそれが本当だったら、どう接していいのかわからなくなってしまう

それなら、聞かずに受け入れてしまえばいい


「レイ君、大丈夫。レイ君は一人じゃない。私が、私たちがいるからね」


「お願い……俺を、置いていかないで」


タリアも分からないわけではない。人に離されることの恐怖。その事により生まれる孤独感

絶対にレイを独りにさせてはならない


「大丈夫だから。私はレイ君から離れないよ」

(あの子が言った泣いてるは、こういう意味だったんだ……)


「…………母上みたいだ」


「なに?」


小さすぎて聞き取れなかったレイの言葉

だがレイは、何でもない、と言ってタリアから放れ、学院に行こうと促した

すでに授業は始まっているようで寮の中には人はほとんどいない。これならば誰かに見られる心配もない

タリアは思った。もし、今こんな所を人に見られたら周囲はどんな反応するだろうか


(やっぱり、恋人同士に見えるかな?あ、でも、今は授業中だから人に見られる可能性は低いよね)


「タリア」


(でも万が一ってこともあるし。それに私今、男子寮から向かってるからそう思われちゃうのかな?)


「タリア?」


(もしそう思われたら、私とレイ君は――)


「タリア!」


「ひゃぅ!」


いきなり手を掴まれて思わず変な声を出してしまった

慌てて取り繕うとしたが、その前にレイが話し出す


「タリアは今日どうするの?」


「えっと、どうしようかな。レイ君が嫌じゃなければ一緒にいたい、かな?」


「え?」


言ってから自分は何を言ってるんだと頭を抱えたくなる。そんな事になれば生徒たちに余計変な誤解を生ませることになる


「あ、だからレイ君が嫌じゃなければだから」


タリアは忘れていた。普段のレイなら、断っていたかもしれない。だが、今のレイは人を求めているのだ


「いる」


「へ?」


「一緒にいたい」


ぎゅっと少し強く、そして痛くない程度に手を握られてタリアは言葉を撤回できなくなってしまった


「ダメ……か?」


「ダメじゃないよ!でも、その……生徒の目があるかな~って気づいて」


淋しそうな顔をするレイを放っておくわけにも行かず、タリアはどもりながら提案する


「だから、みんなでいよう?久しぶりにチーム“風”のみんなを集めて、ね?」


「ん」



昼休み

タリアの召集によりフィレとニールは屋上にやってきた

タリアはレイと一緒に授業を出ずにずっと二人で動いていた


「ニール、体は大丈夫か?」


「……平気。ありがとう」


「あれ? 学院長から聞いたけど、あの時でニールちゃんとレイ君の契約は成立したんじゃないの?」


「……?」


ニールには何かよくわかっていなかったがレイは寝返りをうって少し考えてから、ああ、と言って話す


「別にただ血を抜いただけだから」


「違うの?」


「あくまでもどちらかが等価を払うほどの思いがないと意味ない」


再び寝返りをうつ


「レイ、あまり動かないで下さい。ちょっとくすぐったいです」


「ん。何かスッキリしない」


「人の膝を枕にしといて失礼だと思います」


「そっちに関してじゃない。何か、スッキリしない」


「どうしたの?」


「何か、やらないといけないことがあるはずなんだけど、思い出せない」


「だったら歩いたらどうですか?心も幾分かスッキリすると思いますよ?」


「ヤダ。……独りは、嫌だ」


レイはここでどこかに行ったらまた独りになるんじゃないかと不安でたまらなかった


「……レイ、妖精は?」


「ウィーはいない。ニールとの血が混ざって魔力が練れない」


「……ごめん」


「いや、謝らなくてもいい。始めたときにはこうなると思っていたから」


「……………」


「ちょっと、歩きたいかも」


でも、取り残されるのが怖いから動き出せない

レイは起きあがることもせず、ただただ空を眺めている


「大丈夫だよ。私たちちゃんといるから」


「本当?」


「うん。でも午後の部が始まるまでには戻ってきて」


レイは頷いてフィレの膝から起き上がると学院内へと戻る

レイがいなくなり、先ほどから気になっていたことをタリアに聞く


「レイの様子おかしくないですか?何かあった、ですよね?」


「……おかしい」


やはりレイの態度がおかしいことに気づいたようだ

だが、説明したくてもタリア自身もよくわからない。ただ、レイが独りになるのを怖がっているということだけを教える


「それなのに、レイを一人にしてよかったのですか?」


「人に打ち明けられない秘密というものは必ず存在するわ。それが信用や信頼のない人には絶対に教えない。レイには一人で考える時間が必要なの。私たちはそんなレイをただ待つ、それだけ」


フィレとニールはレイの出て行った屋上の扉をただただ見ていた



屋上から中に入ったレイは何の目的もなくただうろついているだけだった

歩いているといつの間にか特別棟まで来てしまった


「迷った」


どうしようかと思っていると、廊下の窓から屋上に伝っていけば戻れると思い至り、窓を開けようとしたとき一つの空き教室が突然開き、中からケガをしたミオ・フェリシモが青い顔をして出てきた

ミオはレイの存在に気付き、動きが止まった。レイもまたミオの体にある傷が気になりじっと見てしまう


「ミオ、その傷……」


「な、何でもない!」


それだけ言ってミオはすぐに走ってどこかに行ってしまう。後を追うべきか考えたが、レイはミオに近づけない。それなら、と思いレイは窓を開け放ち外の出っ張りを利用して屋上まで上がる

すっきりしていなかった気持が少しだけ晴れた。レイはミオのことを守る。それを忘れていた。自分のことに意識を向けすぎていて忘れていた

屋上まで上ってくると、待機していたタリア達が驚いて振り向く


「レイ、どこから上がってきてるの」


「……非常識」


「もしかして、迷った挙句、とかですか?」


「ん」


レイが頷くと三人はため息を吐いた

レイはそんな事より、と言いながら


「頼みがあるんだ。俺に、力を貸してくれ」


頭を下げて頼み込んだ

その行動に三人はまた違う意味で驚いた。レイが頼ってくるのも初めてで、それが頭を下げて、と来た。よほどのことなのだと思ったのか、何故か理由を聞く


「助けたい人がいる。でも俺一人じゃダメなんだ。だから、力を貸してくれ」


「……だれ?」


「ミオ・フェリシモちゃん。でしょ?」


レイが答える前にタリアが推測――ほぼ確信していた――した人物の名前を出す


「何で、知ってるんだ?」


「だって、今朝会ったもの。レイの友好関係はそこまで広くないから、そこくらいかなって」


今朝会ったというところが気になるが、今はそんなことを気にしている場合ではない


「今俺はちゃんとした魔法は使えないんだ!このままじゃミオを死なせてしまう!」


手を強く握りしめる。爪が皮膚にくい込み、血が流れでる


「……わかった」


「ニールちゃん?」


「……私、レイに救われた。恩、返す」


あの時レイがいなければニールの体は破裂してこの場にいなかった。まだお礼も言ってないので恩を返すのがニールにとっての礼だ


フィレもまた同意だった。あの時レイに助けてもらわなければ奴隷か売女として飛ばされていた。そして学院に入ってからもレイに助けてもらった


「私もお手伝いします。それが犯罪に手を染めることでない限り、できる範囲で」


「ちょっと待って」


だがそこでタリアが待ったを掛ける。相手が誰で、どんな理由か、それがわからない限り手を貸すことはできない


「ミオ・フェリシモちゃんは優等生よ。それなのに、一人じゃ対処できない相手っていったい――」


「生徒会、アルバート・ハイド」


「ハイド会長が?何でまた」


そこでレイは言葉に詰まった。相手が〈派閥〉であることは言えない。かといって言い訳も出てこない


「私たちに言えないこと?それだったら、私は力貸せないよ」


突き放すような言い方になってしまうが、正当な理由がないなら生徒会長として協力することができない

それでもレイは答えない。適当な理由を言ってもタリアなら簡単に調べをつけられるだろうから


「簡単には話せない。俺はまだ信じているわけでもないんだ」


「仲間、なのに?」


「形だけだ。俺はただ利用しているだけにすぎない」


こう言ったら独りになる。でも、真実は絶対に話せない。言ったら、協力してくれるかもしれないけど、そうなったら後戻りはできなくなる。それこそ、地獄まで


「それじゃあ、私は協力できないわ」


「そうか」


「……レイ、私、一緒に行く」


「勿論、私も行きます。例えそれが利用でも、レイは私の恩人ですから」


今回は珍しく長くなりました

まあ、これが続くわけではありませんが……

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