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誤解を招きそうなので始めに言っておこうか。
俺は暴力が嫌いだ。
だって、痛いではないか。そんなのは嫌だ。
俺は争いを好まない。つまりは平和主義者なのだ。
だが、おれはこの教師という皮を被った極悪非道の便所虫を叩きのめさねばならぬ。
これは神が与えた啓示だ。ちなみに神は俺だ。
さて、これは暴力が嫌いという言葉と矛盾しているか?
答えは――否だ。
なぜならば俺は我慢をすることが何よりも嫌いだからだ。
確かに暴力は大嫌いだ。
しかし、それ以上にこいつを殴るのを我慢することが無理な話なのである。
「おい…ま、待てよ。ち、近づくんじゃねーぞぉぉ」
俺の只ならぬ様子を感じたのか、ハゲ教師が慌て始める。
ふん、今頃この俺の恐ろしさに気づいたか。
だが時すでに遅し。貴様は仙人の恐ろしさを知るがよい。
腕をぐるぐると回しながらゆっくりとハゲとの距離を縮めていく。
「待て待て待て! わかっているのか? 俺は教師だぞぉ? お前みたいなガキが俺を殴ったらどうなるか…分かっているんだろうなぁあ!」
「先生わかりません」
「いやいやいやいや!」
「そのへんにしなよ、太郎」
誰の声か。振り返らなくともわかる――由佳子だ。
「先生もあんまり太郎を怒らせないでください。こいつを怒らせるとどうなるか。
知らないわけでもないんでしょ?」
由佳子は家畜を見るかのような一瞥をハゲに送ると俺の前に立ちふさがる。
「由佳子、そこをどこがよい。俺はそいつを殴らねばならぬ」
「ばーか。頭冷やせ。あんたの可愛い弟子たちに汚い血を見せる気か」
汚いって、おい! というハゲのつっこみは無視しつつ、弟子たちの顔色をうかがう。
3人ともくっつき合い、不安そうな面持ちで俺を見ていた。
はぁ…――まだまだ、俺も修行が足りぬな。
「よし。ハゲ先生帰ってよし」
「先生、あんまり周りに色々喋っちゃ駄目ですよー。どうなっても知りませんから」
「えー…」
言い忘れたが、由佳子の実家はこのあたりの大地主だ。
敵に回したら最後。この町では生きていけない。
結局、ハゲは顔を真っ赤にして帰って行った。