誕生日 (3)
「シルバーの誕生日はもう明後日だし…明日にはプレゼントを買いに行かないとなぁ」
ぽつりとつぶやきながら、リオは掌の上でじゃらじゃらと鳴る硬貨を小袋に戻す。
そのまま小袋の口をきゅっと結び、机の引き出しの中にしまった。
そして椅子の背にもたれると、考えるように天井を見上げる。
「……あの人、何が好きなんでしょう」
取り敢えず、第一に魔石細工がくるのは間違いない。
でも彼自身が職人であるのだから、それを贈るのはリオとしてはなかなかに勇気がいるので却下だ。
他にシルバーが好きなもの……甘いもの、とか?
アルジェンテにいた時もそうだが、フィニアン邸にきてからも、度々焼き菓子を美味しそうに頬張っている姿をみかけた。
……いや待てよ。
確かつい最近、カールかハイラムがケーキをどうとかこうとか言っていた気がする。
となると、甘いものも被るから一旦なし、か。
と、いろいろ考えているうちに、意外と自分がシルバーのことを知らないことに気づく。
「私って、2年近くも一緒にいるのにあんまりシルバーのこと知らないのかも」
よくよく思い返してみれば。
シルバーが王宮で働いていたこともジャックが言わなければ知らなかったし、なぜわざわざ王都からテータムへやってきてアルジェンテを開いたのかも知らない。
案外、何も知らないんだな。
一緒に過ごす時間は多いはずだが、シルバーは自分のことをほとんど話さないし、リオもまた、そうした話を積極的に聞き出すようなタイプではない。
それにーーー自分だって、異世界から来たことを打ち明けられずにいるのだ。
自らは過去に秘密を抱えたまま、相手の過去だけを暴こうとするのは、どうにも気が引けるというのが本当のところなのかもしれない。
……結局、臆病なのだろうな、自分は。
わずかに気分が沈みかけてしまったリオは、軽く頭を振り逸れた思考を元に戻す。
今はシルバーの誕生日プレゼントを考えないと。
あの人、欲しいものとかなんか言ってなかったっけ。
………駄目だ。
あの人が欲しいと言うのは、いつも決まって魔石細工のための道具とかだった。
流石にそれは高すぎてリオが買うことはできない。
いくら働いて収入を得たと言っても、桁が違う。
では魔石細工に使う白爛石はどうだろうかと思うも、自分に石の目利きはできないのですぐに諦めた。
薄暗い部屋で、ランプの明かりがゆらゆらと揺れる。
リオは腕を組んで、うんうんと悩んだ末に、小さく息を吐いて椅子から立ち上がった。
「……少し、情報収集に行きますか」
***
「……シルバーの、好きなものぉ?」
「はい」
まずは一人目。
夜更けに突然、シルバーの好きなものは何かと部屋を訪ねてきたリオに、カールは首を傾ける。
しかしすぐに「ああ」と声をあげ、その問いの訳に思い当たったようだった。
「明後日はシルバーの誕生日だったねぇ〜」
その言葉に、さてはこの人、自分で言っておいて忘れていたな、とリオは思う。
カールは片手を口元に当ててうーん、と首を傾げる。
「シルバーがねぇ…食べ物だったら甘いものとかが好きだけどぉ…ハイラムがケーキを用意するとかなんとか言ってたからねぇ〜」
「カールも何か用意すると言っていましたよね?」
「そういえば言ったね〜…んーこれから考えるよぉ」
「……そうですか」
……やっぱり忘れていたな。
なんなら、これからプレゼントを用意するリオと状況は一緒である。
のんびりと、いつも通りマイペースな調子のカールに、リオはもはや何も言うまいと相槌を打つに留めた。
そんなリオに、カールは口元に当てていた手をパッと放しながらからりと言う。
「まあ、何でもいいんじゃない〜?あいつは、案外何でも喜ぶと思うけどぉ」
その言葉に、今度はリオが片手を顎に当てる。
…そう、だろうか。
………。
いや、そうは思えない。
あの気難しい職人が、どんなものでも「ありがとう」と素直に受け取る姿など、リオにはどうにも想像できなかった。
だからと言って、拒否するようにも思えないが、少なくとも、気に入らないものだったら眉をひそめるくらいはしそうだ。
……なぜだろう、こちらの姿の方が簡単に想像できる。
結局、カールからは有力な情報を得られなかったリオは、次のターゲットの元へと足を運んだ。




