誕生日 (2)
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ーーー時は、リオがカールと話をした夜まで遡る。
愚直なまでに魔石細工に一途になれるシルバー達を羨ましいと。
間延びした口調でもなく、普段のカールらしくない憂いを帯びた姿に、リオが動揺を隠せずに戸惑う中で。
「あ、そういえばさぁ、リオちゃん」
あの時、あからさまに話題を変えようと口を開いたカールは、続けてこう言った。
「もうすぐシルバーの誕生日なんだけどぉ、」
その言葉に、リオはフリーズした。
それまでの話やカールの様子など、気になることは全て見事に一気に吹き飛んだ。
空っぽの脳内で、ただカールの言葉を反芻する。
たんじょうび、誕生日。
誕生日…誰の…シルバーの??
シルバーの誕生日。
ーーーーーーが、もうすぐ!?
「えっ、もしかして知らなかった??」
目を見開いて硬直してから、すぐに焦ったような顔をしたリオの様子に、カールも僅かに目を瞠った。
そんなカールに、リオは恐る恐るといった様子で尋ねる。
「シルバーの誕生日って…冬白の月の17日、ですよね?」
「あ、なんだぁ。知ってたんじゃん〜」
リオの言葉に、カールは軽く息を吐いて笑った。
しかし、リオの顔にはいまだに焦燥の色が残っている。
「今日は、何日ですか」
「9日だねぇ」
カールの答えに「うわあぁぁあああ…」とリオは頭を抱えて情けない声を漏らした。
そんなリオを見て、カールは「もしかしてシルバーのやつ誕生日忘れられてたの〜?あははっ最高ぉ〜」と腹を抱えて笑い始める。
ちなみにカールの言う通りである。
すっかり忘れていた。
…いや、本当にどうして忘れていたんだ。
急に王都へ来たり、ナッシュの依頼の件でバタバタしたりと色々余裕が無かったとはいえ。
これは、流石に酷い。
「どうしよう…もうすぐシルバーの誕生日なのに……何も用意してない」
去年は……そう、シルバーの誕生日を知らなかったから何もできなかった。
夏の終わりに、くだらないことで口喧嘩をして、
ーー『いっつも餓鬼餓鬼ばっかり言いやがって……私は、この夏に20歳になったんです!餓鬼じゃありません!!』
ーー『俺は冬に25になったぞ!てめぇより歳上なんだ、てめぇのことを餓鬼と呼んで何が悪い!!』
ーー『なんですか、その意味分かんない理由!………つーか、冬に誕生日だったなら早く言えよ!!』
ーー『はあ?何でそこでキレるんだ、おかしいだろうが』
ーー『おめでとうを言うことも、祝うこともできなかったじゃないですか!!』
その時にシルバーの誕生日を知ったのだ。
ちなみに、シルバーもこの時初めてリオの誕生日を知ったらしい。
あの日から、次こそはちゃんとシルバーの誕生日を祝ってやろう、と決めていたのである。
いつもお世話になっていることには変わりないのだから、何かをしたいと思わないわけでもない。
「まあ、そんなに頭抱えなくてもぉ、明日が誕生日なわけじゃないんだしさ〜。何か用意するにしても8日もあれば時間は十分でしょぉ?」
「……そうですね」
カールの言う通り、まだ幾日か猶予がある。
当日に慌てるよりは、事前に気づけただけマシだと思おう。
そう考え直して顔を上げたリオに、カールは満足げに頷くと、「僕も何か用意しよぉ〜」と言いながらどこかへと去っていった。
そんなカールを見送り、リオは何をプレゼントしようかと悩み始める。
あの人が欲しがりそうなものってなんだろう。
……………というか、待て。
私はプレゼント以前に、お金を稼ぐ必要があるのでは…?
気づいてしまった重大な問題に、リオは再び頭を抱えて1人呻いた。
これまでシルバーのもとでアルジェンテのお手伝いをしていたリオは、自分で稼いだお金というものがない。
普段の生活費やら必要経費は全てシルバーが稼いだお金から出ている。
しかし、シルバーのプレゼントを買うのに、シルバーが稼いだお金を使うのはどう考えても違うだろう。
「まずい……この世界にも短期バイトってあるかな」
まずは働き口を探して。
プレゼントを何にするかは、誕生日までの数日の私の稼ぎによるな。
と、あれこれ考えていたリオにふいに声がかけられた。
「こんな所で頭を抱えてどうしたんだ、リオ」
声をかけてきたのはハイラムだった。
そしてリオは事情をハイラムに説明して、働き口を相談した所。
それなら昼間にフィニアン工房で手伝いをしてくれと頼まれ、給料もかなり好条件の働き先をゲットしてしまった。
とはいえ、それだけでは心許なかったため。
以前、冗談だったとは思うが「うちで働かないかい?」と言ってくれたタウニーにも頼んでみた所、夜は酒場で働かせてもらえることになった。
ーーーーこうして、リオはシルバーの誕生日までに、なんとかそれなりのお金を得ることができたのである。
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