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17

 


 正武家屋敷の離れ、当主の間。


 そこには当主の澄彦さん。

 次代の玉彦。

 そして神守の私。

 稀人である南天さん、豹馬くん、須藤くんが其々後方に控えている。

 そして多門は入り口の襖の前で本殿の巫女見習いである香本さんと姿勢正しく座っていた。


 座敷の中央より僅か後方に低頭する人間が三人。

 高田くんと主任の相沢さんと、そして部長の栗林さん。

 栗林さんは恰幅がよく、低頭しているのも少し辛そうだ。


「上げよ」


 当主の声が掛かり三人が頭を上げると、私は思わず目を見開いてしまった。

 三人が当主の間に入った時に私は目を伏せていたので気が付かなかったけれど、三人の横顔でも分るくらいに頬が窪み、蒼白くなっていた。

 彼ら揃って病気になりましたっていうくらいに同じ窶れ方をしている。

 そしてぼんやりと身体を囲うように薄黒い靄が掛かっている。

 何度も経験しているのでもう見慣れた靄になっているそれは、その人に良く無いものが憑いている時だ。


 先ほどの玉彦の話と総合させると間違いなく地獄穴の怨念なんだろう。

 五郎丸という本体は地獄穴から出られないため、手先となっている死んだ者たち。

 地鎮祭で暴れていたのは彼ら。

 相変わらず当主や次代には視えていないらしく平常運転だったので、間違いない。

 小さすぎる禍は彼らには視えないので稀人が確認して祓っていたのだ。

 ちなみに須藤くんははっきりとは視えないけれど、聴こえるそうである。

 高校時代に岸本先生の微かなピアノの音色を彼が聴くことが出来たのは私の耳が悪かった訳ではなくて、彼のそういう能力が発現し始めた兆候だったらしい。


「して、本日はどのような用件か。地鎮祭は延期すると報告を受けているが」


 彼らを見れば現状は解り切っているのに澄彦さんは何食わぬ顔で尋ねた。

 三人を代表して口を開いた栗林さんから、今回の計画に関わる社員たちが不可解な現象が頻繁に見舞われていると聞いて、やっぱり、と思った私は斜め下に視線を流した。

 栗林さんから話を聞いた澄彦さんは神妙に頷いてるけど、解決する気があるのか微妙である。


「では本日は土地開発の件ではなく、正武家に祓いの依頼ということか」


「……はい、左様です」


「そうか。うむ。断る。以上だ」


「……はい?」


 思わず栗林さんは澄彦さんに聞き返した。

 それはそうだろう。

 まさか断られるとは夢にも思っていなかったに違いない。

 けれど澄彦さんはそれ以上問答する気は無く、さっさと南天さんを促して奥の襖から退出してしまったのである。

 そこでようやく私は当主の考えが読めて、口元が引き攣った。


 朝餉の席で澄彦さんは私と玉彦に忙しくなると言っていたのは、自分が忙しくなるではなく、私たちが忙しくなるという意味だったのか。

 あの時点でもう全てを丸投げするつもりだったんだ。

 だから玉彦は尻拭い云々と言っていたのか。


 当主が退出して一旦場は解散となった。

 そして改めて惣領の間で仕切り直しとなったのであった。




「上げよ。正武家次代、玉彦である。先ほどの件であるが、この度の計画を白紙に戻すならば引き受ける。それ以外の条件は断る。それで良いか」


 惣領の間にて、前置き無しに次代が三人にそう告げると、彼らは顔を見合わせて沈黙する。

 今回の計画は一大プロジェクトで、この場で分りましたと返答は出来ないのだろう。

 これまでに調査等で初期投資が掛かっている上に工期は遅れに遅れてしまって損害が出ているだろう。


「い、一度社に持ち帰っても宜しいでしょうか」


 栗林さんがそう言うと、次代は首を横に振った。


「我らも暇ではない。本日のみ時間がある」


 嘘ばっかり。

 のほほんととんぼ塚を探しに行ったり、私と五村を散策する時間はある癖に。


「それでも持ち帰るというならばそうするが良い。次にまみえるのは半年後か……。それまでみな無事に生きていると良いが」


 不可思議なことを信じていない人間からすれば、何を馬鹿なことをと笑うかもしれない。

 しかし彼らはもう、現在進行形で被害を受けているので笑うどころの騒ぎではないだろうに。

 しかも状態を見れば逼迫しているのは明らかで、背に腹は代えられない。

 でも会社という組織が関わっている以上、勝手な判断は出来ない。

 八方塞の彼らに苦渋の決断を迫るのは酷な気もするけど、正武家からすれば温情、なのだろう。

 五村を侵害する者に対して排除する訳ではなく手を差し伸べるのだから。


 次代の言葉を受けた三人はもう顔を見合わせることもしないで、項垂れて畳だけを見つめていた。

 私は疲れ果てた高田くんの横顔に、胸が痛む。

 そんな三人の様子に無表情の次代は痺れを切らしたらしく、音もなく立ち上がった。

 まさか当主同様断ると言って立ち去るのかと思いきや、そこはやっぱり私の知っている玉彦らしく。


「本日しか時間は無いが、まだ日は暮れぬ。暫し休憩とする」


 そして玉彦は私に目を合わせると、行くぞと促して惣領の間を出たのだった。

 彼らはこの休憩で会社に指示を仰ぐだろう。

 そこでどのような回答が出されるのか、私の想像通りになれば良いけれど。



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