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 高田くんの上司の名前は、相沢要さんと言った。

 そんな彼は正武家の離れにある控の間に通されると、座敷を見渡して口をぽかーんと開けていた。

 高田くんも正武家のお屋敷が小高い山の上にあることは知っていたようだったけど、その敷地の広さに驚いていた。


 玉彦は松梅コンビを従えて澄彦さんの所へと行ってしまったので、私は控の間で彼らを相手にしている。

 そして気軽に話が出来るとばかりに、二人は私に質問を重ねた。


「え、お屋敷ってここだけじゃないの?」


「うん。ここの他に当主の母屋と、私が住む玉彦の母屋があるよ。あと他にも色々あるよ」


「マジか。つーか比和ちゃん、すごい玉の輿じゃん」


「世間的にはそうだけど、普通のお屋敷だよ」


「いやいや普通じゃないって。だってさっきの旦那さん着てたの、どこだかのブランドの新作じゃん」


「そうなの?」


 だいたい着物以外の洋服は誰かが買ってきて衣裳部屋に放り込まれている。

 玉彦の場合は澄彦さんの買い物のついでになることが多い。


「そうなのって……。たった数年で浮世離れし過ぎじゃない?」


「え、あんまりこの村から出ることないからさ。世間に疎くなってるのは確かかも。あはは」


 私の様子に高田くんは苦笑して隣の相沢さんを見る。

 すると相沢さんはゆっくりと立ち上がって、座敷の柱まで歩くとそこに手をついて天井を見上げた。


「『いつの』年代の建築なんだろう。見たことも無い天井をしてるぞ」


 二人揃って見上げてみたけど、私には全然解らない。

 でも高田くんは立ち上がって腕を伸ばした。


「確かに年代のわりに『高い』ですね」


「高い?」


 座ったままの私を見下ろした高田くんはしゃがみ込んで私と目を合わせる。


「昔の人は背が低かったでしょ? だから建物もね、城ではない限り、横に広いけど高さはそんなになかったはずなんだ。でもこのお屋敷は……最初から高さを考えて造られてる。しかも見た目を重視したものではなくて実用的っていうか……」


 私はそこまで聞いて目を逸らした。

 きっと私が知らないだけでこのお屋敷には正武家のお役目の為に何かが施されている。

 黒塀の壁の中に御札が埋め込まれている様に、お屋敷の造りにも何か意味がある。


「比和ちゃん?」


「あ、うん。私まだここに来て五、六年くらいだから良く解んないや」


「五年?」


「うん」


「その時ってまだ高校生じゃない?」


 言ってからしまったと思った。

 でももし高田くんが澄彦さんの望み通り正武家に関わる人間になるのならば隠しておく必要もない。

 澄彦さんが本気で高田くんをと望めば、五村の意思は少なからずそう動いてしまうだろうから。


「あー、あのね。実はね玉彦とは中一の時に将来の約束っていうかそういうのしててね、高二の時に婚約してそのままこのお屋敷に住んでるんだー」


「……いつの時代の話だよっ!」


 尻餅をつくように座り込んだ高田くんは信じられないと頭を振った。


「強制的だったの?」


「ち、違うよ! ちゃんと玉彦とは遠距離してからだもん」


「でもそれって中学の時だろ?」


「そうだけど、でも私玉彦のことずっと大好きだったし婚約だってここに住むことだって自分で決めたし」


「……まぁ比和ちゃんがそういうならそうなんだろうけど。でもここら辺の村って、ちょっと閉鎖的過ぎないか?」


「それは、色々と事情があるんだよ」


「どんな?」


 真っ直ぐに見つめられて私は言葉に詰まった。

 どこまで話していいのか解らない。

 それに話したところで信じてもらえるのかどうかも微妙だった。

 言葉を探す私に助け舟を出してくれたのは、相沢さんだった。


「やめとけ、高田。こういう界隈には暗黙のルールがあるんだ。詮索をすると痛い目に遭うぞ」


「でも相沢主任……」


「円滑に契約を進めるためには見て見ぬ振りも必要なことだってあるんだ。……そうでしょう?」


 私は問い掛けられて頷くしかなかった。



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