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「お久しぶり、比和ちゃん。元気だった? 名字が同じだったから遠い親戚かなって思ったけど当たってた」
「あ、うん。お久しぶり……」
「転校してずっとここに?」
「う、うん。そうだよ」
「そっかぁ。ここ自然が一杯で良いところだよねー」
「うん」
高田くんはぐるっと周囲を見渡したけれど、そこにあるのは山山山で確かに自然は一杯だけれど退屈で、良いところだとは言い難い。
「比和子」
何気ない会話の合間に玉彦がそっと私の背に手を回す。
その仕草を見た高田くんは、私から玉彦へと視線を移す。
何とも言えない雰囲気の中、私は玉彦を見上げて微笑んだ。
「私ね、結婚したんだ。私の旦那様の正武家玉彦さん。玉彦、彼は私の同級生で高田くん」
玉彦の名字を聞いた高田くんと彼の上司と思われる三十代半ばのオールバックの男性がしっかりと頭を下げた。
そして玉彦は黙礼だけする。
これだけで何というかもう、力関係が如実に表れてしまった感じがする。
私の友達ではなく、正武家と不動産会社の関係が。
頭を上げた高田くんはすっかり営業スマイルになってしまっていた。
「比和ちゃんが結婚したって須田に聞いてたけど、まさかこんなとこで会うとは思わなかった」
「守くんに聞いてたの?」
「僕のところに招待状が来てなかったのはショックだったよ」
「いや、だってそれはさ」
「あはは。ごめんごめん。普通はそうだよね。でも遠慮しないで送ってほしかったよ。実は……」
そう言って高田くんは内ポケットから名刺入れらしきものを取り出して私の目の高さに掲げる。
それは高田くんが小さな子を二人抱っこして、後ろで女性が笑っている写真だった。
「え、うそっ!?」
「マジマジ。大学んときに授かり婚したんだ。長男三歳、長女二歳! 奥さんは超美人だろ!」
「いや、美人だけどさ! マジかー。先越されたー」
高田くんは家族の写真をしまうと、次に名刺を取り出して玉彦に両手で差し出した。
玉彦は名刺を受け取ると一瞥して胸ポケットに差し込む。
「話は上守から聞いている。父の澄彦が会うと言っている。本日これからならば時間があるがどうする」
「ぜひ、よろしくお願いします!」
もう少し言い方ってもんがあるでしょうに、と玉彦を肘でつつくと取って付けたように口を開いた。
「妻が世話になった。今後ともよしなに頼む。夏子、昨晩は騒がしてしまいすまない。それとこれを神棚に」
「あっ、はいはいー」
私たちのやり取りを眺めていた夏子さんは慌ててサンダルを引っ掛けて玉彦から御札を受け取る。
そして意味あり気に私に目配せをすると、中へと引っ込んだ。
「では後ろから付いて来い。案内する」
さっさと身を翻した玉彦は振り返りもせずに車の運転席に収まった。
私は高田くんたちに一礼してから乗り込む。
「もっと愛想よく出来ないわけ?」
「なぜ必要がある」
言われてみるとそうだけど、私の友達なんだしフレンドリーとまではいかなくてもさ。
せっかく玉彦を私の友達に紹介できるのに、これじゃあ玉彦の印象が最悪じゃん。
段々と顔が俯きだして、玉彦の指先が顎を支えた。
「この場合、どの様な態度が正解だったのだ」
「正解とかそんなの無いけど、私の旦那様が非常識に思われるのは嫌だなぁって」
「……そうか。これからは気を付ける」
「言っとくけど私が嫌なんじゃなくて、玉彦がそう思われるのが嫌なんだからね」
「俺は別に頓着せぬが」
「私は嫌なの! だって確かに非常識だけど、そればっかりが玉彦じゃないんだから!」
「……お前、さらりと何ということをいう」
溜息を吐いた玉彦はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。




