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9

 


 翌朝、朝のお勤めが終わった蘇芳さんを捕まえて宿坊で昨晩の考えを報告すれば、彼は神妙に聞き入ったあと、にこやかに笑った。


「上々上々。そこまでよく辿り着いた」


 彼の口ぶりに私と多門は彼がそこまで知っていたということを知る。

 どうしてそこまで情報を小出しにして私たちを試そうとしているのか疑問だけど、取り合えずは正解だったようだ。


「ではこれから行くとするか。なに、そう遠くはない。車で二時間ほどだ」


「二時間って……」


 運転することになるであろう多門が不服そうに呟いたので、私が挙手して運転役に立候補してみたけど敢え無く却下されて、結局はこの場に居ない瀬人さんに運転させようということで決着をした。

 蘇芳さんはこれから雑事が少々あるとのことで、出発は十時になった。


 私たちは身支度を整えてお呼びが掛かるまで宿坊で待つ。

 多門はお役目仕様の黒いスーツに白シャツ細い黒ネクタイ。

 その格好で寺院にいると葬儀社の人のようだ。

 長い髪は後ろでゆるりと結わえて、彼曰く赤い紐がワンポイントだそうだ。

 そして私はいつもの白い着物。

 このまま棺桶に入っていてもおかしくはない。と自分で考えて、自嘲する。

 玉彦は外へお役目に出る際にも着物だけど、澄彦さんはスーツのことが多い。

 なので私もスーツの方が良いなと玉彦にアピールしてみたけど、今のところは却下され続けている。

 基本あればこそ、だそうで彼の目には私はまだまだのようである。


 予定時間の十分前に呼びに来た瀬人さんに先導されて、駐車場にやって来た私たちはそこで初めて蘇芳さんと瀬人さん以外の僧侶を目にした。

 大きな寺院だから二人だけってことは無いだろうと思っていたけど、あまりにも気配が無かったので頓着していなかった。

 三人の若い僧侶は瀬人さんに黙礼すると、そそくさと門の内側へと帰って行く。

 瀬人さんも私と同じくらいの年齢だけど、彼らはそれよりも若かった。


 廃寺に向かう途中で蘇芳さんにそのことを聞けば、彼らは他のお寺の跡取りだそうで修行中の身であるそうだ。

 そして瀬人さんも他のお寺の跡取りで、あと数年後にはそのお寺に戻るのだという。


 ちなみに蘇芳さんの寺院は誰が継ぐのかと聞いてみる。

 蘇芳さんも南天さんと同様、家族の存在を私に感じさせない様にしているのではないかと思ったけれど、彼は正真正銘の独り者だった。


「え、そうしたらあの寺院はどうするんですか」


「ふむ。良い質問だ。嫁御殿。あそこはな、血縁で繋ぐものではない。才能で継ぐ」


「え……」


「仏教を知っているか」


「は?」


 唐突な質問に頭が真っ白になった。

 お寺があってお坊さんが居て、お経を唱える。

 お葬式だと大体仏教のお坊さんってイメージだけど。


 素直にそう答えると、蘇芳さんはそうだろうという感じで頷く。


「では宗派があるというのは知っているか」


「ま、まぁ、色々とあるのは知っていますが、どう違うのかは良く解りません……」


「ふむ。宗派によって違いがある。それが解っていれば良い。簡単に言ってしまえばな、その宗派の垣根を越えて造られたのが私が居る寺院なのだ」


「垣根を越える?」


「左様。各宗派の寺院に持ち込まれる解決できない物事を扱っている」


「それは……もしかして」


「ま、想像の通りだ。実はこういう寺院は全国各地に存在しているが、檀家を抱えていないために不審がられることがあり、修行僧の受け入れを隠れ蓑としている」


「檀家さんは必要ないんですか」


「寺院の経営は各宗派からの寄付金によって成り立っている。では何故寄付金が集まるのか。そういう類の物事を自身の宗派内で収めることが出来ないからである。そして私のような奇特な才を持つ僧侶は数少ない。そこで各宗派が才を持つ僧侶を集め、こうした寺院を任せている。よって血で継ぐのではないのだ。才能がある者のみが跡を継ぐことが出来る。才能無くば寺院に必要ない」


 私はこの時、蘇芳さんは澄彦さんとはある意味対極にいる人なのだなと思った。


 代を重ね血を重ね、その力を連綿と受け継いでゆく正武家と、ただ一代に芽生えた才能を咲かせて才能の種を残すことなく消えてゆく。

 種を残したとしても才能が無ければ寺を継ぐことは出来ず、他の者が継いでいく。


「なぁに悲観することはない。死ぬまで職を失わぬということは有り難いことよ」


 そう蘇芳さんは言うけれど、何となくしっくりこない。

 子を残すことだけが全てではないけれど。

 助手席の多門は今、この話をどういう思いで聞いているだろうか。

 彼もまた清藤の血は残さないと決めていた。


 そうこうするうちに私たち四人を乗せた車は田舎道をガタゴトと進み、村の外れにあるお寺の前に到着したのだった。



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