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何故かどんよりとした昼餉の席である。
澄彦さんはいただきますを宣言して一言も話し出さないものだから、正武家の奇妙なお約束通り誰も会話しない。
食事の席では当主、不在の時には次代が話し出さないと会話をしてはならないという奇妙な決まりがある。
なので俯いて黙々と箸を進める澄彦さんが口を開かないと静まり返る。
今朝のことが尾を引いている私は身体を小さくさせる。
何となく申し訳が無くて。
隣の玉彦を見ればいつも通り姿勢正しく食事をしていて、増々後ろめたさに拍車がかかる。
何とも味気ない食事が終わり、澄彦さんは徐にお膳を横にずらす。
そして私の前へ座り直して頭を下げた。
突然の行いに私の湯呑みを持つ手が震える。
なんだろう。
子供が出来ないなら離縁してくれとでも言うのだろうか。
正武家が第一の当主だから、考えられないことではない。
「朝は大変心ないことを口にしてしまいました。ごめんなさい」
「え?」
「比和子ちゃんは何も悪くないんだ。悪いのは息子なんだ」
「いや、あの、澄彦さん。とりあえず頭を上げてください」
「本当不甲斐ない息子で申し訳ない。原因は息子の『けがれ』にあると竹さんが教えてくれた」
「け、がれ……?」
穢れ……。
成り行きを見守っていた玉彦が目を見開いて澄彦さんに詰め寄る。
澄彦さんの肩を掴んで起き上がらせるとどういうことだと迫った。
「けがれだよ。けがれ。気が枯れる方の気枯れだ」
呆れたように言う澄彦さんの言葉に玉彦の気が削がれて、二人揃って正座から胡坐へと組み替える。
私だけ会話についていけてない。
でもどうやら私が考えた穢れではなさそうである。
青ざめる玉彦の隣に座って、握り拳を作った彼の手に自分の手を重ねる。
「父上……」
「お前、あの目覚めから身体の不調は無かったのか?」
「特に何も変わりは……」
「まぁ元々有り余ってた気だからなぁ。最近揺らぎも全く無かっただろ」
「はい」
「まぁ、そういうことだ」
「……承知しました」
やっぱり二人の会話についていけない。
何となくしか理解できないけど、要するに玉彦のお力がまだ完全に満たされていないということなんだろうか。
あれからもう半年も経っているのに。
玉彦はスッと立ち上がるとそのまま座敷を出て行ってしまう。
思いつめた表情に後を追って良いのか戸惑うと澄彦さんに制止されて、浮かせた腰を戻した。
「澄彦さん……」
「大丈夫大丈夫。ただの気枯れだから。息子も初めての経験だから思うところもあるんだろう」
「澄彦さんも経験されたことあるんですか?」
「うん。それこそあれだよ。月子と、ね。息子を作ったとき」
澄彦さんは苦笑いをして懐から扇子を出すと煽ぎ出す。
いつか私が予想した通り、揺らぎが収まる理由に当てはまっていた。
子供が出来れば揺らぎが収まる。それは正武家のお力を子供に分け与えること。
分け与える前は二人分のお力を玉彦は抱えている訳で、一人分の余剰な力は揺らぎとして現れ、私を通して発散されていた。
でも今は、一人分のお力しかない。
発散させるほどの余剰分が無い状態。
ということは、子供に分け与えるべきお力が、ない。
だから授からない……。
「どうしてそんなことに」
「素戔嗚だよ。あんなの普通の力じゃ呼び出せない。息子の総量までもすっからかんにさせて長期の睡眠を必要とさせた。比和子ちゃんの眼で強制的に眠らせなかったら死んでただろう」
「そんなことって……」
「人ひとり生み出す程の力を贄にしなければならないほどの力を欲した息子への戒め。だと考えてくれて構わない。愚かな行いだがそうでもしなければ大国主は止められなかっただろう。でも流石にこれは厳しいなぁ」
『誰から』の戒めなんだろう。
正武家がそうなるようになっている五村の意志だろうか。
彼への戒めというのなら、私のものでもある。
あの時、玉彦は私を護ろうとして素戔嗚を呼び出してしまったんだから。
……また一人で責任感じて塞ぎこみ始めているんじゃないかな……。
「とにかく再び揺らぎが始まれば元通りだよ」
「それっていつですか」
私の質問に澄彦さんはしばらく考え込んで首を傾げる。
「わからない」
「わからない?」
「僕の揺らぎは月子が息子を宿した時に無くなってしまったんだ。それ以降揺らぎは一度も無い」
「それじゃあもしかして玉彦もそうなるかもしれないってことですか!?」
「流石にそれはないだろう。ないはずだ。そうでなければ困る」
澄彦さんはそう言ったきり黙り込んでしまった。




