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夏子さんと井戸端会議に花を咲かせていると、小学四年生になった希来里ちゃんが午前だけだった学校が終わって帰って来た。
小さい頃の愛らしい日本人形のような姿で、学校ではモテモテらしい。
そんな希来里ちゃんは縁側に座る私を見つけると、赤いランドセルを揺らして駆け寄ってくる。
そして膝に飛び乗った。
「こら、希来里!」
「ただいま! 比和子様!」
娘を叱る母親の言葉を無視して、希来里ちゃんは私に抱き付いた。
お日様の良い匂いがする身体を抱きしめて頭を撫でると増々くっついて来て可愛い。
希来里ちゃんは小さい頃、私のことをお姉ちゃん、玉彦のことを玉ちゃんと呼んでいたけど稀人になる竜輝くんに窘められてから、比和子様玉彦様と呼ぶようになってしまったので残念である。
あれだけお祖父ちゃんたちに玉ちゃんは駄目だと言われていても変えなかったのに竜輝くんに言われて改めるあたり、希来里ちゃんの竜輝くんへの恋心は継続中らしい。
「あ、お母さん。あとでよっちゃん家に遊びに行くから!」
「はいはい。その前にそこから降りなさいよ。ごめんね、比和子ちゃん」
「ううん。大丈夫。希来里ちゃん、よっちゃん家で何して遊ぶの?」
希来里ちゃんの可愛らしさに微笑んでいると、答えに顔が引き攣った。
「こっくりさん!」
「……え?」
「こっくりさんだよ! 十円玉で色々教えてもらうの!」
「そ、そう……」
一瞬、こっくりさんをする希来里ちゃんたちの背後に、揚げを食べつつ適当に十円玉を動かす御倉神を思い浮かべてしまった。
御倉神って一応狐を眷属にしている神様だから無関係ではないよね。
名もなき神社の宮司を務める叔父さんの娘がこっくりさんをすれば、結構本格的なものが降りて来そうな気がするんだけど、大丈夫なんだろうか。
私の心配をよそに希来里ちゃんは膝から降りて、着替えに部屋へと行ってしまった。
「今ね、学校で流行ってるみたいなのよ」
「大丈夫なの?」
私がそう聞くと夏子さんは肩を竦める。
確かに私の小学生の頃にこっくりさんとかエンジェル様とかした覚えがある。
小町と一緒に何度かやったけど、十円玉や鉛筆はテコでも動かなかった。
けれど他の女の子のグループは動いたって言いながらキャアキャア騒いでいたっけ。
あの時は凄く羨ましかったけど、よくよく考えれば誰かが動かしていたんじゃないかって思う。
「光次朗叔父さんは知ってるの?」
「うーん、一応ね。でも良い機会だからって放って置けっていうのよ」
「良い機会……」
「変だと思うでしょ?」
「うん」
「でもね、お義父さんもお義母さんも同じこと言うのよ。あれよ、ほら、田舎のしきたり。暗黙の了解ってやつよ」
夏子さんは呆れたように言ってグラスを下げる。
私が中一の夏休みに鈴白村を訪れたとき。
お祖父ちゃんの家へと向かう途中でお祖父ちゃんから村の中で入ってはいけない場所や触れてはいけないものなど教えてもらった。
今にして思うとそれらは正武家の管轄する鎮めや祓いの場で、無暗に入ると本当に怖い目に遭ったり祟られたりしてしまう場所だった。
この五村の大人たちはそれを暗黙の了解で受け入れているけど、子供はそうじゃない。
駄目だと言われれば逆らいたくなるし、怖いもの見たさで行ってしまうこともあるだろう。
そこで痛い目に遭って、改めて正武家の存在が特異なものとして刻まれる。
だから、良い機会なのか……。
近々面倒な案件が持ち込まれるだろうことが予想出来て、私は苦笑いを浮かべてしまった。
お祖父ちゃんの家から玉子を貰って帰ると、丁度昼餉の時間で台所で玉彦と遭遇した。
台所では須藤くんと多門がお膳の準備をしていたので、邪魔にならない様に玉子が入った籠をテーブルに置く。
籠の中身を覗いて玉彦が久しぶりにプリンが食べたいと言ったので午後から作ろうと思う。
「じい様は元気だったか?」
「畑に出てたよ。夏子さんと希来里ちゃんには会ったけど。あ、そうだ。玉彦ってこっくりさんしたことある?」
牛乳があるか冷蔵庫の扉を開けて中を確かめながら何気なく訊くと、背後で三人の気配が何故か固まる。
何だろうと思って振り向くと、三人は私を凝視していた。
「え、なによ」
「お前、今さらその様なもの信じているのか」
「比和子ちゃーん。あれは低級霊が集まってくるだけだよ」
「あ、でも上守さんがするなら御倉神来るんじゃない?」
散々な言われように眉を顰めると、三人は動き出す。
そりゃあ私だって信じてる訳じゃないけどさ、この鈴白でこっくりさんをすれば何かとんでもないモノが出てくるんじゃないのかなって思っただけなのに。




