第28話 金の瞳の男
あの男が初めて店を訪れてから、一週間が過ぎた。
彼はその後、二度ほど姿を見せたが、どちらも長居はしなかった。パンを買い、少し話し、立ち去る。それだけだった。
「なんだかんだ言って、悪い人じゃなさそうだな」
リラがカウンターでパンをかじりながら言う。
「そうみたいだな」
ヴァルスはオーブンの前で新しいパンの試作を続けている。粉の配合を少し変え、発酵の時間を調整する。頭の中は、パンのことでいっぱいだった。
「おい、聞いてるのか?」
「聞いてる。悪い人じゃないんだろ」
「…まあ、そういうことにしておく」
リラは笑い、もう一つパンを手に取った。
その日も、店にはいつもの顔が集まった。
ブロガーは新しい棚を運び込み、「これでパンの種類をもっと並べられる」と得意げに言う。セレナは「別にパンが食べたいわけじゃない」と言いながら、今日もスイートパンを三つ買う。レンは黙って銀貨を置き、三つ持ち帰る。ガルドも遅れてやってきた。
「お前、最近また強くなったんじゃないか?」
ガルドがヴァルスを見て言う。
「そうか?」
「なんとなくだ。前より動きが安定してる」
「パンを焼いてるだけだ」
「…それが一番お前らしいな」
ガルドはパンを買い、店を出ていった。
夕方。店の客が少なくなった頃、あの男がふらりと現れた。
金色の瞳。変わらない服装。彼は無言でカウンターに座り、銀貨を置く。
「いつもの」
「かしこまりました」
ヴァルスが焼き立てのパンを差し出すと、男はそれを受け取り、しばらく黙って見つめていた。
「…最近、変なことはないか?」
「変なこと?」
「ああ。例えば、見慣れない人が店の前を通るとか」
「特に」
「そうか」
男はそれ以上聞かず、パンをかじった。
「うまい」
「ありがとうございます」
「…また来る」
彼は立ち上がり、店を出ていった。リラが首をかしげる。
「何だったんだ、今の質問?」
「わからない」
「でも、気にするな。変な奴ではなさそうだし」
ヴァルスもうなずいた。確かに、彼は悪い感じではなかった。
夜。店を閉めた後、ヴァルスは一人でカウンターに座っていた。
今日も一日が終わった。新しいパンの試作はもう少し続きそうだ。でも、焦る必要はない。
彼は窓の外を見た。ダンジョンの外は暗い。だが、その暗闇の中にも、いつか星が見えるかもしれない。
<システム通知>
新規実績解除:穏やかな違和感
金の瞳の男は、何かを探しているようです。でも、それは悪いことではないかもしれません。
報酬:+50 EXP、称号「見守られる者」
解説:「誰かに見られている。それは時に、見守られていることと同じだ。」




