第23話 山への道
海賊パンの噂が落ち着いたある日、ガルドが真面目な顔で店に現れた。
「ヴァルス、相談がある」
「何だ?」
「お前、強くなりたいか?」
ヴァルスは手を止めた。リラも黙って聞いている。
「…どういう意味だ」
「この前のダンジョン、覚えてるか? お前は自分のやり方で戦った。でも、それだけじゃ足りない。もっと強くならなければ、次は命を落とすかもしれない」
ガルドの言葉は、ゆっくりとヴァルスの胸に刺さった。
「俺が知ってる場所に、訓練に適した山がある。険しいが、そこで鍛えれば、お前の戦い方も変わる」
「なぜ、そこまでして教える?」
「お前は騎士だ。それに…」ガルドは少し間を置いた。「借りがある」
あの日、彼を救ったのはヴァルスのパンとリラの励ましだった。その恩を、彼は自分のやり方で返そうとしている。
「行くか?」
リラが尋ねる。ヴァルスはうなずいた。
三日後、三人は店を離れた。
ブロガーに店を任せ、セレナとレンには常連客への対応を頼む。普段と変わらない日常が、少しだけ静かになる。
「行ってくる」
ヴァルスは店の看板を見上げた。『魔王のパン屋』。自分の店だ。
山は、王都からさらに北。馬で三日の道のりだった。途中、いくつかの村を通り過ぎ、日が暮れる頃にようやく麓の宿に着く。
「ここからは、歩きだ」
翌朝、ガルドに連れられて三人は山道を登り始めた。道は険しく、ところどころ崩れている。
「訓練は、ここでするのか?」
「まだ先だ」
さらに登る。空気が冷たくなり、息が白く染まる。
「何がいるんだ?」
「熊。狼。それに、時々魔物も」
リラが顔をしかめる。
「楽しみだな」
「楽しみじゃない」
ヴァルスとリラの会話を、ガルドは無視して先を急ぐ。
夕方、ようやく開けた場所に出た。小さな広場。周りを木々に囲まれ、中央には古びた小屋があった。
「ここが、訓練場だ」
ガルドが中を開ける。ほこりをかぶっているが、寝泊まりできる状態だった。
「準備はいいか?」
「何の準備だ?」
「明日から、地獄を見る」
ガルドは真面目な顔で言った。リラは笑い、ヴァルスはため息をついた。
夜。外は冷え込んでいた。リラが薪を集めて火を起こし、ヴァルスは持参したパンを温める。
「寒いな」
「山だからな」
「明日は何をするんだ?」
「知らん。でも、楽しみだ」
リラはワクワクした様子で言う。ヴァルスは、少しだけ後悔し始めていた。
「なあ、ガルド」
「何だ」
「お前は、どうしてここを知ってるんだ?」
「昔、訓練した場所だ。師匠に連れられてな」
「師匠?」
「もう、死んだ」
それ以上、彼は話さなかった。ヴァルスも聞かなかった。
火の光が、三人の影を揺らす。
明日から、ここで訓練が始まる。
<システム通知>
新規クエスト解放:山岳訓練
ガルドの提案で、山での訓練が始まろうとしている。
目的:訓練を乗り越え、新たな力を得る。
報酬:新スキル、ステータス上昇、ガルドとの絆。
解説:「強くなることは、楽しいことだけじゃない。苦しみもあれば、痛みもある。それでも、乗り越えた先にしか見えないものがある。」




