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第19話【日光耐性を持つ吸血鬼軍】1

 始まりは我が国から他国へ戦争を仕掛けたことだったらしい――――。

 〝らしい〟というのは、仕掛けた当の国側に覚えがないからだ。

 

 我がアルテア王国は小国ながらも、北の大国ハルベムテとは長年友好関係を築いていた。それもこれも吸血鬼との共存協定を結んでいる強国という位置づけだからこそであった。

 小国に似つかわしくない程の武力を持ち合わせ、かつその吸血鬼とは平和に暮らし、管理も行き届いた珍しい国というのが他国からのイメージだろう。

 その昔この地を吸血鬼の始祖が支配していて、それに対抗していた人間たちの歴史があったからこそなのだが、始祖ゆかりの地という理由で未だに吸血鬼が多く暮らしている。

 

 ほかの国の共存協定は様々だが、吸血鬼と友好関係を築き上げるほどの国家はリスクを考えるとあまり存在しない。

 もちろんアルテア国と同じような協定を結んでいる国もあるが、ほとんどが人間に有利なものであるため賛同する吸血鬼が少ないこと、そもそも数を減らしている吸血鬼にとっては不平等だと不安視する声も多く他国をけん制するほどの戦力としては(いささ)か弱い。

 

 そんな珍しくも畏怖の対象である我がアルテアが、わざわざ大国ハルベムテに戦を仕掛け、既に戦いの火ぶたが切られてしまったという。

 何かの間違いだと抗議の文書を何度も送ったがそれに関する返事はこず。

 

 結局数日前届いたハルベムテからの勧告書には「今すぐこちらへの攻撃を止め降伏するべし。さもなくば報復として侵略することも辞さない」と書かれており、アルテアに戦う意思がないことを示すため前線にはすぐに白旗を上げろと命令をだしたはずなのにいつまで経っても実行されていないというのだ。


「一体どういうことだ? ブラックフォード聖騎士団長はまだ戻らんのか」

 

 国王の一喝に青い顔で混乱する大臣たち。

 

「それが……騎士団は国民を逃がすために前線でハルベムテ軍を食い止めているようでして……ブラックフォード聖騎士団長はそれの指揮を()っているようです」

「……ならば仕方あるまい……。王都の住民たちの避難はもう終わっているのか? まだ残っている者には城を解放して構わん。備蓄もこういう時だからこそ出し惜しみせず配給するように」

「はっ」

 

 王都から出て行く民たちも多く、大混乱を極めている。

 普通の戦であれば共存協定にのっとり国内の吸血鬼たちの力を借り、夜だけでも戦力として使えるのだが今回は話が違う。身に覚えはないがこちらが最初の侵略者側なのだ。

 そのため諦めず抗議の文書を送りつつ抵抗はせず全面降伏という形を取ろうと考えているが、既に報復として侵略を開始しているハルベムテ軍が素直に退()いてくれるかどうか分からない。

 今こそ我が国の吸血鬼を防衛のための兵士として使うべきか、専門家であるブラックフォード聖騎士団長に判断を仰ぎたいところだがそれも叶わないとなると、かなり難しい状況だった。

 

(本来は吸血鬼たちが勝手をしないよう、聖騎士団の管理の元成せる制度なのだが……)

 

 城に残っている大臣や宰相たちも皆一様に混乱を極めている。

 頭を抱えたくなる状況のなか、穏やかな声がひとつ響き渡った。

 

(おそ)れながら……国王陛下、発言をお許しいただいても?」

 

 その場に召集されている貴族の一人、金色の美しい長髪に右眼の泣き黒子(ぼくろ)を持つ、彫刻のように美しい顔をした吸血鬼が微笑んでいた。この危機的状況に似つかわしくない笑みで。

 

其方(そなた)は……」

「クリストファー・レヴァイン、爵位は公爵を賜っております」

 

(レヴァイン公爵……確か吸血鬼のなかでは最高権力を有する(いにしえ)の――――)

 

 滅多に表舞台に姿を現さない貴族で、一番始祖吸血鬼に近いという力の強い吸血鬼だと聞く。国王の父やその父のいくつもの代にわたり恐れられていたが、ほとんど表には出なかったので今になりこうして自ら発言をするという行動が恐ろしく思った。

 しかし拒否は出来ないだろう。吸血鬼たちの最高権力者なのだから。

 

「よい、申してみよ」

「ありがとうございます」

 

 クリストファーはにこやかに微笑み顔を上げた。

 

「現在ハルベムテ軍の侵攻具合をみるに、遅くても明日には王都へ戦火が広がるでしょう。ブラックフォード聖騎士団長もいない今、我ら吸血鬼を使うことも難しいとお見受けします。そこで、私が新たに創った日光耐性を持つ吸血鬼軍を使うのはいかがでしょう?」

「……日光耐性を持つ……だと?」

「はい陛下。本来の吸血鬼は太陽光ですぐさま灰となりますが、私が開発した兵士は日光耐性を持つため人間の兵士以上の戦力として活躍します。それを目の当たりにすればハルベムテ軍の戦意を削ぐことも容易いでしょう」

 

 その話が本当で、戦火において味方であるというなら確かに頼もしい提案だが、まだリスクが不明な段階でいつの間にか日光耐性を持つ吸血鬼などという後々驚異になりそうなものを創っていたというのは聞き捨てならない。

 だがこの危機的状況の中そうも言っていられないだろう。ここは一旦ハルベムテ軍には引いてもらい、原因を突き止めつつ正式に謝罪の場を設けねばならない。

 

「しかしその指揮は誰が執るのだ? 王都に残っている聖騎士団は少ないのだぞ。まさか吸血鬼である其方(そなた)自らと申すつもりか?」

 

 クリストファーはにぃ、と口を歪ませて笑った。

 

「もちろんです陛下。私は半吸血鬼(ダンピール)。日光の(もと)、見事指揮してみせましょう」

 

 その言葉に会議室中ざわめきが走る。聞き慣れない存在だが確かにいてもおかしくはない。

 だが同時に、日光で殺せない吸血鬼の存在に恐怖する人間が多かった。

 

「へ、陛下……! そんな恐ろしい者に指揮を任せてしまったらいざという時に我らで対処が出来ません! まずはブラックフォード聖騎士団長の帰還を待つのが賢明かと!」

「そ、そうですよ! 日光を恐れない吸血鬼だなんて……本当に大丈夫なのですか?」

「おい人間共、我らの公爵を愚弄(ぐろう)する気か! 助けてもらう立場で起こってもいない被害妄想をするな!」

 

 段々険悪な雰囲気で騒がしくなるなか、早馬の一報が届く。

 

「た、大変です……! ハルベムテ軍の一団が王都まで迫っているとのこと!」

「なんだと!?」

 

 さすが大国というべきか、予定よりかなり早かった。

 伝令は持っていた文を宰相に渡し、ブラックフォード聖騎士団長から連絡があったことを知らせた。

 

「ハルベムテ軍から足止めをくらっている……か」

 

 どうやら民たちの避難のため殿(しんがり)を務めていたエイブラハムの一団は、王都を目の前にしてハルベムテ軍から足止めをくらっているらしい。まるで聖騎士団を王都に帰還させまいと狙いすましたかのようにターゲットにされているようだ。

 

(なんなのだこれは――誰かの手のひらで踊らされているのか?)

 

 アルテア王国最大戦力である聖騎士団がいない今、今ある戦力でどうにかするしかない。とはいえクリストファーの言う日光耐性を持つ吸血鬼軍を早速動員するにも不明な点が多くリスクが大きい。

 

(考える時間が――足りない)

 

 刻一刻と迫る侵略で今できる対処はもう既にやっている。その上でこのまま降伏して素直に応じてくれるのか……。要求を一方的に無視し、こちらが何度も攻撃してきていると判断している相手に――。

 

「私の吸血鬼軍の導入については、どちらでも構いません。しかし国の危機という状況の中、すぐにでも行使出来る力があるのです。民が目の前で殺されていくのをただ指を咥えて見ているか、リスクがあったとしても必ず退けられる驚異的な力を使うか……ご判断は陛下にお任せいたします」

 

 にっこりと穏やかな笑みを湛え一礼するクリストファーをただ青ざめた顔で見ていることしか出来なかった。

 


 

 その後ハルベムテ軍が王都に到着し戦火が広がり続け、逃げ遅れた民たちの悲鳴があがる。

 王は最後まで判断を迷っていたが、容赦なく殺されていく民や兵たちの惨状に耐えられず結局クリストファーの指揮のもと日光耐性を持つ吸血鬼軍を導入する許可を与えてしまった。

 

 その力はとても驚異的で、太陽の下戦いながら喉元を喰らい血を飲み干すその様は敵のみならず味方までもを畏怖させ戦意を削り、ハルベムテ軍はいち目散に撤退していった。

 生き残った民や兵士が勝利に喜んだのも束の間、すぐに獲物を求め味方であるはずの人間を襲おうとする理性のない吸血鬼軍。

 

「止まれ」

 

 ひと言で従ったそれらはまるで獰猛な野生の獣のようで、いとも簡単に操っているクリストファーに皆が恐怖した。

 

 そして皆が悟ったのだ。

 日光耐性を持つ吸血鬼を従えるダンピール相手に、逆らうことなど不可能だと――――。

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