第26話:天運
甘い匂いが鼻について、マリオンは目を覚ました。
目を開けると、マリオンは知らない場所にいた。
手は後ろ手に縄で縛られているようだった。今回は猿ぐつわはされていないようだ。
辺りを見回すと石造りの構造物の中――目の前には、大きな石碑がある。
「目が覚めましたか。申し訳ありません、乱暴なことをしてしまって」
マリオンが声に振り向くと、水着から服に着替えたトビアスが居た。
「ここはどこ?」
「古代遺跡の中心部ですよ」
付近に人の気配はない。少なくとも、この石碑の周囲に居るのはマリオンたちだけのようだった。
「私をここに連れてきて、どうするつもり?」
「あなたに古代遺跡の解析をしてもらおうと思いましてね。ぼくらにとっては何の変哲もない遺跡だが、あなたには違うものに見えているんじゃないですか?」
マリオンはトビアスの目を黙って見つめた。
――彼の精霊眼は、魔力を見ることができないようだ。
マリオンの目には、石碑を薄く纏うような青色の魔力が見えていた。
うっすらと感じるその魔力は、どこか豊穣の神や愛の神に通じるものがあった。
(多分、古き神ってやつの力だよね、これ)
黙っているマリオンに、トビアスが再び語りかけて来た。
「私は古代魔法の謎を知りたいだけです。ファルケンシュタイン侯爵が使えると噂される、古代魔法の使い方をね」
「……そんな噂、初耳ね」
「ぼくらの周囲の噂です。知らなくてもしょうがありませんね」
トビアスは薄く笑った。
「秘密を知れば、あなたには使えるの?」
「少なくとも、ある人は使うことができるようでした。私が使い方を聞いても、”お前には無理だ”と言うだけでしたけどね」
(ある人――帝国の生き残りである、古代魔法の使い手の事かしら)
トビアスが言葉を続けた。
「古代魔法を使うためには条件が必要らしいんですが、”それはもう失われたから、知るだけ無駄”だそうです。”ファルケンシュタイン侯爵が全て消してしまった”と。彼が私に教えてくれたのは、それくらいでした。術式を知っているだけでは、使えないものなのでしょうね。いくつか資料にあたりましたが、そこには神への祈り方しか載っていませんでした」
古代魔法は神への祈り。だがその前に、神の気配を捕まえる必要がある。それをしなければ、ただ祈るのと変わらない。
神の気配を捕まえるためには、神の気配を知る必要がある。
マリオンが二人の神と会わされたのは、その為だ。だが他の人間があの場所に行く方法など、彼女は知らされていない。
マリオンはあの石碑からは神らしき気配をなんとなく感じるが、それを感じることのできないトビアスには、神の気配を知る事はできないだろう。
「あなたが古代魔法を使えるようになる方法なんて、私も知らないわ」
「では、あなたが知ることをすべて話してくれれば、それでもいいです」
甘い匂いが鬱陶しくマリオンにまとわりついてくる。
「……この匂いは何? とても臭いわ」
「……仲良くなるおまじない、なんですけどね。どうやらあなたには効果がないようだ」
トビアスは残念そうに肩をすくめた。
「……みんなは無事なの?」
「ユルゲン様が居たんです。あの程度の輩なら、時間をかければすべて切り捨ててしまうでしょう。多分全員、無事ですよ」
「あいつらは何者?」
「言ったでしょう? おそらく教会の手のものです。噂を知る人間が、あなたをこっそり捕まえようとでもしたのでしょう」
そこに嘘はなかった、ということだろうか。
「なぜ私たちは待ち伏せをされていたの?」
「あれは多分、地元の人間でしょう。洞窟に入っていくのを見られていれば、道なりに進んだ先で待ち受けるぐらいはできたのでしょうね。あの洞窟はいくつも出口があるようでしたし」
「あなたにとっても予定外の事故だった、ということ?」
「そのとおりですが、結果的にあなたを手に入れることは出来ました。ユルゲン様をどうやって振り切るか頭を悩ませていましたが、不幸中の幸いってところですね」
ユルゲンや皆がこの場所を突き止められるかは分からない。
トビアスは神の気配を感じ取ることは出来ないようだが、彼の前で神の力に頼るのは危険な気がした。
だがマリオンが使える魔術は、まだ大して種類が多くない。この縄を火炎で焼き切っても、彼の身体能力ではあっさり捕まってしまうだけだろう。
(どうやって逃げよう……)
「――ふぅ。どうやらあなたは、何も話してくれる気はないようだ。ここに居ても無駄ですね。連れて帰ることにします」
そう言うとトビアスは、マリオンの傍に腰を下ろした。
「私をみんなの元に戻してくれるの?」
トビアスはにやりと笑った。
「まさか。別の安全な場所に連れ帰って、あなたが全てを話すよう手を尽くすだけです――酷い目に遭うと思うので、そんなことをしたくはないんですけどね。だからここで話してもらいたい。今ならあなたを、私の独断で逃がすこともできる。連れ帰ってしまったら、そんなことはできなくなってしまいます」
その瞳に、嘘はないように思えた。
「……優しいのね。その優しさで、今すぐ私を解放してくれてもいいんじゃない? 今なら、あなたのことは秘密にしておいてあげる」
トビアスが楽しそうに笑った。
「おや、交換条件ですか? それなりに魅力的ですが、今後あなたから古代魔法の秘密を聞き出す機会は訪れなくなるでしょう。私は古代魔法を諦めるつもりはないんです。残念ながらね」
トビアスがふと気が付いたかのように、大きな毛布を取り出してマリオンの肩から被せて来た。
「その格好は目の毒です。一晩は一緒に過ごさねばなりません。きちんと隠しておいてください」
言われてみれば、マリオンは水着を着たままだ。下着同然の姿を彼に晒していたことに、彼女は今更気が付いた。
「……紳士なのね。かなり刺激的な格好だと思うのに、よく手を出されなかったものだわ」
「我慢するのに苦労しましたよ。これでも年頃の男子ですので」
再びトビアスが肩をすくめ、ひょうきんに笑った。
マリオンも思わず笑みを返す。
「あら、こんな慎ましい体型でも、あなたの食指が動いたのかしら?」
「あなたは充分魅力的ですよ。だからきちんと気を付けていてください」
そう言うとトビアスは、座ったまま眠り始めたようだった。
――彼が眠ってしまえば、縄を焼き切って逃げることができるだろうか。
だがなんとなく、マリオンが立ち上がった瞬間に彼が目を覚まして捕まってしまう。そんな気がした。
夜が明ければ、彼は安全な場所とやらに、マリオンを連れて移動するだろう。
その道中で逃げる隙があればいいのだが。
マリオンが、なんとか逃げる隙はないか、考えてからどれくらい経っただろうか。
トビアスがふと顔を上げ、立ち上がった。
(やっぱり、目を瞑っていただけなのね)
トビアスは周囲の気配を探っているようだったが、諦めたようにため息を吐いた。
「どうやら、この場所が見つかってしまったようです。不本意ですが、もう移動しなければなりません。移動中で気が変わったなら早めに言ってください。向こうに着いたら、あなたは死ぬまで責め苦を受けます」
そう言ってマリオンを肩に担ぎあげたトビアスが、遺跡の通路を駆けだし始めた。
(死ぬまで責め苦……それは嫌だなぁ)
いくつかの角を曲がっていったところで、トビアスの足が止まった。
「挟まれましたか」
「そういうことだ。マリオンを下ろせ」
マーセル王子の声が通路に響いた。
現れたのは、前からマーセル王子、サイモン、アラン。
後ろからヴァルター、アレックス、スウェード、アミン。
トビアスは無言のまま、マーセル王子を見つめている。
「聞こえなかったのか? マリオンを下ろせ」
「聞こえていますが、お断りします」
「この人数相手に、マリオンを担いで勝てると思っているのか?」
突然、甘い匂いが強く漂った。
マリオンは、むせかえる匂いに思わず、顔をしかめる。
そしてトビアスが静かに告げた。
「マーセル王子とサイモン、アランの足止めをしろ。殺しても構わん」
その言葉と共に、背後に居たヴァルターたちが剣を抜いてマーセル王子たちに斬りかかっていった。
マーセル王子たちも即座に剣を抜いて対応している。
その突然の様子に驚き、マリオンは声を上げた。
「ヴァルター?! なにをしてるの?!」
だがその声が聞こえないかのように、ヴァルターはサイモンと切り結んでいるようだった。
その様子を確認したトビアスが、別の方向に走り出す。
「待てトビアス!」
マーセル王子の声が通路に響いた。
****
「あの四人に何をしたの?」
マリオンは肩に担がれながら、トビアスに質問を投げつけた。
「仲良くなるおまじない、と言いました。ちょっとした魔道具でしてね。軽く使えば相手の心を捕らえ、警戒心を薄める効果が望めますが、強く使うと術に囚われた相手の意志を奪い洗脳することができます。しばらくの間、彼ら四人は私の傀儡ですよ。効果が切れた時の副作用が強いので、できれば使いたくなかったんですが」
(そんな強烈な魔道具なんて聞いたことないわ……)
「古代魔法を応用して作ったものらしいです。人間が抵抗することは無理だ、と言われていたんですが、何故あなたには効果がないのでしょうね」
(そんなこと、こっちが聞きたいぐらいよ)
通路の奥に出口が見えた。
此処を出てしまえば、死ぬまで責め苦がマリオンを待ち受ける。
ヴァルターとアレックスが相手だ。いくらサイモンとアランでも相手をするのは厳しいだろう。マーセル王子なら尚更だ。
いくら責め立てられようと、マリオンが知ってることは少ない。それを証明する手立ては、彼女にはない。彼女が解放されることはないだろう。
(神に頼るか――)
目を瞑り、神の気配を探ろうとした時。
マリオンは突然、床に放り出されていた。
何が起こったかわからず、辺りを見回す。
薄暗がりで剣を押し付け合う、マーセル王子とトビアスがそこに居た。
「マリオンを返してもらうぞ」
「そうはいきません」
二人は何度も剣を打ち合わせていく。
両者の力量はそれほど隔たりがないように見えた。
(マーセル殿下、いつのまにこんなに強くなってたの?!)
何合目かの打ち合いで、トビアスの上半身が浅く切りつけられた――マーセル王子が優勢だ。
またしばらく打ち合っているうちに、だんだんと形勢がはっきりとしていく。
「――くっ!」
トビアスがマリオンに鋭く何かを投げつけた。
それに素早く反応したマーセル王子が、マリオンの前に走り込んできてそれを弾き飛ばしていた。
気が付いた時、トビアスの姿はなかった。
「……逃げられたな」
マリオンが床に転がっている物に目を落とす――木彫りの人形。それは真っ二つにされていた。紫色の魔力を纏っているようだったが、それは次第に薄まり消えていった。
(さっき投げつけられたのはこれだったのかな)
或いはこれが、彼の言う”仲良くなるおまじない”の魔道具だったのかもしれない。魔力が消えた今、マリオンは、洗脳されていたヴァルターたちが元に戻っていることを祈った。
「大丈夫か、マリオン」
「――ええ、問題ないみたい」
マーセル王子の手を借りてマリオンが立ち上がる。
床に放り出された時に打ち付けた以外、痛めた箇所はなかった。
マーセル王子にマリオンは、後ろ手の縄を解いてもらった。
「……サイ兄様とアラン様は?」
「アレックスとヴァルターを抑え込んでもらっている。あまり長くはもたないだろう。急いで戻る」
そしてマリオンは、また肩に担ぎあげられてしまった――こんどはマーセル王子に、だが。
「アミン様とスウェード様は?」
マリオンは肩の上から尋ねた。
「俺とサイモンでなんとか気絶させた。サイモンに”後を追え”と言われたから厚意に甘えた。実際、アレックスとヴァルターを相手にするほどの力は、俺にはないからな」
元の場所に戻ると、まだ四人は打ち合っているようだったが、次第にアレックスとヴァルターの動きが鈍っていき、サイモンとアランに気絶させられていた。
サイモンが安堵の笑みを浮かべながらマーセル王子に語りかけた。
「どうやら、無事取り戻してくれたみたいだな」
「なんとかな」
疲れたようにマーセル王子が応えた。
マリオンは肩から降ろされ、三人が気絶した男子たちの様子を見ていった。
「なんとか、大した怪我もなく取り押さえられたか」
「なにをされたんだ? こいつらは」
マリオンはトビアスから聞いた魔道具の話を三人に伝えた。
マーセル殿下の顔が険しい。
「古代魔法を転用した魔道具――帝国の生き残りか」
マリオンは頷いて応える。
「魔道具らしきものを殿下が破壊していたわ。きっとそれで魔道具の効果が切れたのね――ユルゲン叔父様は?」
「あいつは教会の勢力の方を調べると言っていた。そっちにマリオンが捕らえられている方がヤバいからな。残った俺たちがトビアスを追った。あいつなら遺跡にきてるんじゃないかと思ってな」
マリオンは辺りを見回した。
「護衛の魔術騎士は連れて来てないの?」
サイモンが苦笑を浮かべた。
「マーセル殿下は、こっそり抜け出して来てるんだよ。どうしても連れていけと聞かなくてな」
マリオンは呆気にとられ、マーセル王子の目を見つめた。
「なんでそんな危険なことをしたの? あなたは王族なんでしょう?」
責めるように尋ねた。
だがマーセル王子の目は、マリオンの視線を力強く跳ね除けた。
「惚れた女一人守れないで、国民を守ることなどできるか――それに、俺は第二王子だ。なにかあっても兄上が居る。国に不安はない」
「だからって、殿下の身になにかあっていいわけじゃないでしょう?!」
「……前回は何の力にもなれなかった。今回こそは、お前を助ける手助けがしたかったんだ」
(そんな自分勝手な理由で?!)
「そんな我儘……王族失格じゃないの?」
「お前を守るために必要ならば、王族の座だろうと捨てられる」
マリオンはその力強い言葉に怯み、なんと返したらいいのか分からなくなった。それでもなんとか言葉を探し、それを返す。
「……そんな価値、私にはないよ」
「お前がそう感じなくとも、俺はあると感じている」
マリオンには、それ以上の言葉が見つけられなかった。
その真っ直ぐな視線を受け止めきれずに、目をそらしてしまう。
「結果論だが、俺がついてきたことでトビアスからお前を取り返せた。俺が居なければ取り逃がしていただろう。魔術騎士に相談しても、あいつらは俺の外出に同意しない。俺の選択は、間違っていなかったってことだ」
マリオンが覗き見たマーセル王子の顔は、小さな子供のように無邪気に輝いていた。
天運、という言葉がある。天から与えられた運命、という意味だ。
マリオンはその天運をマーセル王子に感じていた。
彼は国を、人々を導く運命を持つ人だと。
マリオンは、はぁ、と力なくため息を吐いた。
「しょうがない人よねほんと。せっかく王の器を持っているのに、一人の女の為に簡単に捨てようとなんてしないで」
「言っただろう? 俺にとってお前にはその価値がある、と」
マリオンは憤っていた――この人はまだ何もわかっていないとでも言うのか。この人が持つ資質は大きく偉大で、得難いものだと感じていた。それはきっと、これからこの国に必要になるものだ。
マリオンは顔を上げ、マーセル王子の目を見据えて口を開く。
「それじゃあ国の為にならない、と言ってるのよ。あなたはきちんとオリヴァー殿下を乗り越えて王になって。それを目指してよ」
マーセル王子は”兄を乗り越えて見せろ”というマリオンの言葉に何かを感じたのか、少しの間考えるように黙った。そうして再びマリオンに言葉をかけてくる。
「……お前が俺の傍に居てくれるなら、それも出来る気がしてくるな」
「私が居ないとできないっていうの? 困った人ね」
「俺は兄上が王を継ぐべきだとずっと思ってきたからな。だが隣にお前が居て叱咤激励してくれるなら、兄上を超えた王になってもいい」
「わっがままー! どんだけ我儘なら気が済むの?!」
「俺は王子だからな。傲慢なんだ」
にやり、と不遜な笑顔でマーセル王子は応えた。
――ああだめだ、本当にこの人には、私みたいな人間が付いていないといけない気がする。
マリオンは、いつの間にか浮かんでいた微笑で応えた。
「本当に、しょうがない人ね」
マリオンたちは笑みを浮かべ合い、見つめ合っていた。
こほん、と咳払いの後、サイモンが声をかけた。
「いちゃついてるところ悪いんだが、みんな目を覚ましたぞ。世も明ける頃だ。移動しよう」
「いちゃ?! それは違いますよお兄様?!」
マリオンは慌てて否定したが、サイモンは哀愁の漂う顔で、目を覚ましたみんなの介抱を始めた。
マリオンは顔が真っ赤になっていた。その顔をマーセル王子がニヤニヤと眺めている。
「違うってばーーーーっ!」
マリオンの声は、静かに通路に木霊していった。
****
宿に帰ったマリオンたちは、女子たちと手分けして気絶していた男子たちを介抱していた。
どうやら洗脳の副作用らしく、頭痛が酷いらしい。みんな青白い顔をしている。
戻ってきたユルゲンは、マリオンの無事を確認して胸を撫で下ろしていた。
マリオンはトビアスから聞いた話をユルゲンに伝えていた。
「――わかった。こちらの情報と整合性が取れているな。教会の奴らも、不確かな噂で大きく動くことはないはずだ。常に魔術騎士を傍に置いていてくれ。それなら海水浴をしていても構わないよ。トビアスの行方は追ってみるが、間に合うかは分からないところだな」
そう言って再びユルゲンは宿を出ていってしまった。
三日後になると、男子たちも回復して外に行きたがるようになっていた。
マリオンは言われた通り、魔術騎士の傍に座り込んで、海水浴を楽しむ皆を眺めていた。
海の中からマリオンに振り向いたマーセル王子が、彼女の元に駆け寄ってきた。
「マリオンは水に入らないのか?」
「魔術騎士たちの前で水着になる度胸なんて、私にはないの」
レナやララ、サニーは「護衛でしょう? 遠目だし、別に気にならないわ」と言って男子たちと海水浴を楽しんでいた。
マリオンは魔術騎士の傍から離れられない。遠目という訳にはいかないし、魔術騎士が近づけば彼女たちも水着を諦めてしまうだろう。
マリオンは自分一人の為に彼女たちから楽しみを奪う気にはなれなかった。
なのでこうして、木陰で海風に当たりながら、遊んでいる皆を眺めている。
「ちょっと隣いいか」
そういってマーセル王子がマリオンの隣に座り込んだ。
「どうしたの? 遊び疲れた?」
「いや、お前の隣に座りたかっただけだ」
またマリオンの顔が朱に染まった――どうしてこの男は屈託もなく、こんな恥ずかしいことが言えるのか。
心地よい海風で火照った顔を覚ましていく。
マリオンは、潮騒をしばらくマーセル王子と共に聞きながら過ごしていた。
「……みんなと遊びに行かなくていいの?」
「お前が隣に居れば、それで十分楽しいからな。それに魔術騎士も、護衛対象が固まっている方が仕事はしやすいだろう」
マリオンたちはそうして、夕暮れまで二人で海を眺めていた。
十日後になるとオリヴァー王子が合流し、一週間ほど皆で海水浴を楽しんだ。
マリオンとマーセル王子は相変わらず、二人で離れて海で遊ぶ皆を眺めている。
時折、何人かがマリオンたちに振り返り手を振ってくるので、それに手を振って応えていた。
オリヴァー王子も、ようやく羽を伸ばせた喜びからはしゃいでいるようだった。
マリオンがぽつりと呟いた。
「……王族になると、こんな生活になるのかな」
「そうだな。どうしても自由に行動することは難しくなっていく。だから隣に、一緒に居るだけで幸福を感じられる人が欲しくなる」
――私が必要なのだと、言われた気がした。
マリオンは返す言葉を見つけられず、ただ静かにその言葉を噛み締めていた。
胸に湧いてくる充足感に戸惑いを感じながらも、こうして二人で過ごした時間が悪いものではなかったことを、思い返していた。
「お前はどうだ? こうして二週間ほど一緒に海を眺めていて、楽しかったか?」
「そうね。少なくとも、退屈ではなかったわ」
――素直になれず、言葉を濁した。
だけどその言葉にすら、満面の無邪気な笑みが返ってきた。
「そうか、それはよかった」
マリオンたちは二人並んで潮騒を聞きながら、最後の一日を終えた。




