↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/81

第20話:学校案内

 昼になり、マリオンたちは寄宿舎の入り口で他のザフィーアのメンバーと合流した。


「なんでそんなに一人だけ、げっそりしてるんだ?」


 サイモンの問いかけにマリオンは、「ずっとサニーの抱き枕にされてたのよ……」と力なく答えた。


 サンドラは「私は三年間、おはようからおやすみまでを通り越しおやすみ中もずっとマリーと一緒の権利を手に入れたのよ? 堪能するのが当たり前ではなくて?」と胸を張っていた。



「ほんと羨ましい……」

「だからその同性特権を見せつけてくるのはやめてくれ。気が狂いそうだ」

「俺と相部屋相手、交換しないか?」

「よしスウェード、昼が終わったら寄宿舎裏に木剣持ってこい。久しぶりに根性叩き直してやる」



 アランが「ほらほら、混む前に食堂に移動しましょう」と手を叩いて皆を促し、移動を開始した。





****


 食堂の入り口には三種の日替わり定食とサンドイッチなどの軽食の見本が並んでいた。


 マリオンが興味深そうに見本を眺めている。


「これが、これから毎日食べる食事になるんですのね」



 マリオンにとっては縁がなかった食事だ。大衆食堂の話はヒルデガルトから聞いていてマリオンも知っていた。おそらくそういった食事なのだろうと、あたりを付けた。


 サイモンが「味は問題ない。素材も料理人も、ちゃんと一流を揃えているからな」とマリオンを安心させるように教えた。


 サンドラが「マリーはどれにする?」と聞き、マリオンが「それじゃあ……C定食にしてみようかしら」と応えた。


「じゃあ俺もCだ」

「私もー!」

「僕もそうします」

「俺は最初からC定食のつもりだったからな?!」


 一瞬で十一人分の昼食が決まった。


 一斉にカウンターに並び、十一人の「C定食!」という斉唱が響き渡る。


 調理職員が苦笑を浮かべながら、それぞれによそった料理をトレイで渡した。



 大きめのテーブルを選んで十一人が座る。


「お母様たちも、こうしてお昼を食べていたらしいですわね」


 マリオンは感慨に耽りながら、自分の前にある食べ物を観察する。


 周囲の皆はさっそく食事に手を付けていたので、マリオンも見様見真似(みようみまね)で食べていく。


 マリオンの食事の様子に気が付いた者から、順に手が止まり彼女を凝視し始める。


 マリオンが視線を感じ顔を上げた。


「……どうなさいましたの?」


 マリオンが隣にいたサイモンに問いかけた。


「いや、あまりに危うい手つきだから、つい見守ってしまった」


 サイモンは言いづらそうに口にした。


 ザフィーアの皆が同意するように頷いた。


「…………」


 マリオンは黙って『遮蔽』の結界を周囲に貼り、視界を塞いだ。



 『遮蔽』の魔術は光を通さない壁を作る魔術だ。これで周囲を囲むと、黒いカーテンで覆われたようになる。


 「外で着替えなきゃいけない時なんかに便利よ?」とヒルデガルトが教えた術式だ。



 サイモンが黒いカーテンに声をかける。


「……なぁマリー。悪かった。もう見ないから、結界を解いてくれ」


「食べ終わったら解きますわ」


 マリオンはつっけんどんに返答した。



 マリオンは結界の中でちまちまと食事を勧めていく。


 周囲はマリオンを見ることを諦め、雑談を始めた。


「そういやトビアスは来てないな。一緒じゃなかったのか?」


「部屋が違うから知らないな。そのうち食いに来るだろ?」


「わざわざ北方国家からグランツに留学するくらいですから、きっと優秀な方なのでしょうね」


「そうですね。生半可な実力で認可されるとは思えません。きっと優秀でしょうね」


「兄上も一緒なら、ザフィーア揃っての食卓が返ってきたんだがな」


「焦らなくても、通常日なら昼食は同じ食卓を囲めますよ」



 マリオンは必死に零さないよう食事を口に運ぶので精一杯で、会話には参加できない。


 そもそも顔を隠して会話をする、というのは難しいものだ。


 なのでただ、聞き耳を立て続けていた。



「レナたちは婚約話は進んでるのか?」


「相手には困ってないけど、お母様がどれにしようか毎日頭を悩ませているみたい」


「うちもそうね。お母様に任せておけば、特に不安もないしね」


「私もお父様とお母さまが頭を悩ませているそうよ」


「お前たちも十三歳、高位貴族ならそろそろ婚約を決めておいたほうがいいからな。あまり悩んでいる時間はないぞ?」


「あら、そういう殿下たちこそ、さっさとマリーを諦めて妥当な相手を見繕った方がいいんじゃない? このままではマリーは”七人の男を手玉に取る悪女”のままよ?」


「そう簡単に諦められるならよかったんだけどなー……釣書を見ても、野菜を見てるのと変わらん」


「お兄様、ドベなんだから真面目に検討した方がいいわよ? マリーは高根の花なのよ」


「ヴァルター、あなたはいいですよね。現在最も勝者に近い位置にいる。あと一押しで落ちるんじゃないですか?」



 マリオンはその一言には反論したくて、嚥下した後、声を上げた。


「――誰が落ちるのですか誰が! あと一押しとかどういう意味でして?!」



「おっと、お姫様がお怒りだ」


「ヴァルターの制服姿に見惚(みと)れていた人間の口から出る言葉とは思えないわね」


(……見惚(みと)れてないもん)


 本人にはそれなりの自覚があるのだが、それを認める気はマリオンにはない。自分の中で否定を続けていた。


「どちらにせよ、マリオン様の提案したゲームセットまであと二年あります。それまでに決定的に心を射止めないといけません。僕はまだ一歩足りてないそうですから」


「そうだそうだ、その間に俺たちが巻き返さないとは限らないだろ?!」


「だからお兄様、圧倒的ドベなんだから諦めましょうよ……」


「その点俺は二位だからな。この点差ならまだ覆す目がある」


「僕たちもこの寄宿生活で着実にポイントを稼ぐつもりですから、二年後は分かりませんよ?」


「そう楽しそうに語るのはやめてくれ。本家の人間が笑顔で語るとろくなことにならん。怖いんだよ」



 マリオンはようやく食べ終わり、ナプキンで口元を拭った後に結界を解いた。



 スウェードが手を叩いて喜んだ。


「お、やっとお姫様が顔を出したぞ」


「……その”お姫様”というのも、誤解を生むのでやめて頂いてもよろしくて?」


 マリオンは、周囲から”お姫様”と認識されてろくなことにはならない、というのはこの約一年の社交場で嫌というほど味わっていた。勘弁してほしいと願っている。


 いくら侯爵令嬢とはいえ血筋はノルベルトの騎士系譜ぐらいだ。決してお姫様を名乗れる血統ではないと理解している。



「午後からは何か予定があるか?」


 マーセル王子の問いかけに、皆が首を振った。


 マリオンは「図書館で自習でもしようかと思います」と告げた。


「まだ授業は始まっていない。自習には早いだろう?」


「グランツを首席で卒業したお母様の娘として、恥ずかしくない結果を残さねばなりません。明るいうちは教養を自習し、夜は魔術の自習をする予定です」


 サイモンが苦笑した。


「肩の力を入れすぎだ。母上からも、お前がやり過ぎないように見張っておいてくれと言われている。今日くらいはのんびりしておけ」


「……まぁ、サイ兄様がそう仰るのであれば。それで、殿下は何か考えがおありなのですか?」


「うむ、サイモンたちに学院内を案内してもらおうと思ってな。ついでに噂の植物園とやらも見ておきたい。いつ使うかわからんからな」


(植物園……男女のいかがわしい密会に使われるというあの場所かしら)


「殿下、そんな場所を使う予定がおありなのですか?」


 マリオンがマーセル王子を白い眼で睨んだ。


「……? 何を勘違いしているか知らんが、あそこは密会の場として定番だ。男女の逢瀬が行われることもあるが、秘密の会合が行われる場所でもある。頻度としては、後者の方が多いくらいだと聞いたぞ?」


(あ、そうなのか!)


 マリオンが顔を赤くして謝罪する。


「失礼しました。ではなにか、話したいことがおありなのですね?」


 マーセル王子が頷いた。


「ああ、北方国家旅行の件で、僅かだが教えてもらえたことを共有しておこうと思ってな」





****


 サイモンが先導して、学院の設備を見て回った。


 音楽室や図書館、魔術鍛錬場や近年新しくできたという武錬場も見ていった。次は水泳場を見に行くらしい。


「父上の改革でな。体を鍛えるカリキュラムも多く取り込まれることになったんだ。体を鍛える必要がない生徒も多いから、現在のグランツは一時間単位の選択科目制だ。割り当てられた教室はホームルームとして使われ、選択科目によって移動することになる。騎士だけじゃなく、魔術師を目指す者にとっても、身体を鍛えて損がない、というのは宮廷魔術師のジュリアス様も推進している事だからな」


 マリオンは僅かな疑問が生まれ口に出した。


「ですが、貴族令嬢が水泳を行うなど、問題が多いのではありませんか?」


「水泳場は屋内で男女別、女子用水着は全身を覆うタイプだ。令嬢が困るようなことにはならないよ。大規模な水魔術の練習に使われることもある」


 学院側も、当然配慮できる限りの配慮は尽くしていた。


 マリオンが実際に見てみると、男女別に建物が解れているのでお互いを視認することは出来ない事が確認できた。


 屋内はきっちり室温管理されているから、季節に寄らず水泳に興じることができる。



「水魔術を使った遊びで、水泳場の端から端まで走り切れるか、というのがある。マリーにはもうできるんじゃないか?」


 アレックスがさっそくやってみせた。


 水をはじく魔術を足に纏い、その状態で走り切る、という遊びだ。バランスを崩すと水の中に身体が投げ出されて失敗と見做される。


「あっという間に疾走するだけの体力か、渡り切るまで魔力制御を行う持久力が求められるわけですわね……」



 マリオンは、ふと悪戯を思いついたので、「私もやってみますわね」と前に出た。


 魔力を水に浸透させ、水泳場の水を真っ二つに割いて道を作り、その真ん中を悠々と歩いて端まで到着して見せた。体力強化術で上まで飛び上がったところで水を元に戻して魔力を抜いた。


 マリオンの強大な魔力を惜しみなく使った力技である。特等級随一だったヒルデガルトでも、プールの水全体に魔力を浸透させることはできない。


 規格外の、馬鹿げた魔力といえる。


「これはルール違反になるのかしら?」


 と、マリオンは微笑みながら振り返った。



 サイモンが引きつった笑みで応えてた。


「うーん、これができるのはマリーくらいだから前例もないし、どうだろうな……」


 少なくとも、水魔術を使って水泳場の端から端まで渡り切る、というのは守っている。


 先ほどの説明通りであれば、歩いて渡ろうが走って渡ろうが構わない。


 アランが「でも、水の上を移動してないからグレーですね」と冷静に突っ込みを入れて来たので、マリオンは誤魔化しの微笑を返しておいた。


(そこまでは考えてなかった)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。