第7話:大魔術師の弟子(2)
「お前、さっきから何をしてるんだ?」
「ふぇ?」
鍛錬に熱中していたヒルデガルトの背後から、ジュリアスが声をかけた。
虚を突かれたヒルデガルトの口から、だいぶ間抜けな声が漏れ、それを恥じた彼女の顔が朱に染まった。
(ちょっと恥ずかしいわ……)
直ぐに立ち直ったヒルデガルトが説明を開始する。
「あっと、えーとね、砂時計を、逆さまに落としてる、というか持ち上げてる? のよ」
……まだまだ説明慣れには程遠いようだ。
説明されるまでもなく、ジュリアスも知っている。
魔術初級者が行う鍛錬の一つである。
手で触れられない砂を、魔力で動かすだけのシンプルなものだ。
「ふーん……」
目新しい要素を見つけられなかったジュリアスは、それだけ返事をするとヒルデガルトの横に乱暴に腰を下ろし、彼女の観察を始めた。
「――えーと、なんでしょう?」
困惑するヒルデガルトに、ジュリアスが応える。
「気にするな。俺は居ないものと思え」
(……いや、気になるでしょ)
「気にするな」
ヒルデガルトがため息を吐くが、ジュリアスは構わず観察を続けている。
(……仕方ない。集中集中!)
ヒルデガルトが先程までと同じ様に鍛錬を再開した。
砂時計の中の砂を一粒魔力でつかみ取り、周りを崩さないようにゆっくりともちあげていく。
その速度を維持したまま、持ち上げた砂粒は反対側に張り付けて固定する。
そしてまた次の――
「おい」
何かに気づいたジュリアスが、ヒルデガルトに声をかけた。
(んー、集中したいのに)
ヒルデガルトが砂を動かしながら、嫌々言葉を返す。
「なにかしら?」
「砂を一粒ずつ動かしてるのか、これは」
通常の砂時計鍛錬とは違うやり方である。少なくとも、ジュリアスの知る鍛錬法ではない。
通常は砂を纏めて持ち上げるのが砂時計を使った鍛錬法だった。
――砂を一粒掴む。それは、魔力の強さに比例して難易度が飛躍的に上がる技だ。少なくとも特等級の魔力保持者がおいそれとできる技ではなかった。それに密かに驚愕していた。
「そうよー」
のんきな返事が返ってくる。ヒルデガルトはその異常性にまったく気づかずに行為を繰り返していた。
ヒルデガルトはぺたり、と今度の砂も天井に張り付けた。それを固定してまた次の砂粒へ魔力を伸ばしていく。
「まさか、下の砂は固定していないのか?」
「そうよー。下の砂山は崩れないように、優しく砂粒を持ち上げるの。崩れたらやりなおしだから、邪魔しないでね」
――それがどれほど繊細な魔力制御を要求されるのか、ヒルデガルトに自覚はない。見ているジュリアスだけが、正しく難易度を認識していた。
ヒルデガルトはぺたり、ぺたりと砂粒を天井に固定していく。
「……まさかと思うが、天井に張り付いた砂粒、一つずつを制御してるのか?」
「え、当たり前じゃない。一度掴んだ砂粒は魔力でつかみっぱなしよ? 先に進むほど掴む量が増えるから、大変なの。いいところだから邪魔しないでね」
魔力で掴む砂が増えるほど、意識を振り分ける先が増えていく。
数百、数千という対象に意識を振り分け続けるのは、途方もない集中力を要求される。
砂を一粒掴み、砂山を崩さないように持ち上げる繊細な作業と並行して、数百数千の対象へ意識を維持し続ける――ヒルデガルトがやっているのは、異常な鍛錬法だった。
「……」
ジュリアスは背中に冷や汗をかきながら「果たして自分がこれをできるのだろうか」と自問自答していた。
少なくとも、自分より魔力の強いヒルデガルトがやっているのだ。やってやれない道理はないはずだ。だが全く自信が持てなかった。
ただ黙って成り行きを見守ることにした。
ぺたり、ぺたり……沈黙の中、砂時計の砂粒は全て天井に張り付いていった。ヒルデガルトは額の汗を拭うと一息入れた。
「……ふぅ! やっとワンセット終わったー!」
そう言ってヒルデガルトは魔力で掴んだ砂を手放し、軽く砂時計を振った。砂はみるみると下に零れ落ちはじめた。
すべてが零れ落ちるまでの三分間が、彼女に与えられた休息時間だ。
――それは鍛錬の消耗度から言えば、無いに等しい時間とも言えた。
「ワンセットって……何回繰り返す気だ?!」
ヒルデガルトの一言で、ジュリアスは更に驚愕に襲われていた。
これだけ過酷な鍛錬を何度も繰り返す――正気の沙汰ではなかった。
ヒルデガルトが振り返り、笑顔で応える。
「何回って言うか……最近の午後は、ずっとこれだけを、夕食の時間までよ?」
「五時間近く?! 何故魔力が尽きない?!」
通常の魔術師なら三十分も魔力制御を繰り返せば魔力が尽きる。
途中三分間の休憩など、過酷な鍛錬による消耗に比べれば微々たるもの。
なのにヒルデガルトはこの過酷な鍛錬を五時間続けていると言ってのけたのだ。
ヒルデガルトは顎に指を当てて、どう教えたらいいか、言葉を選んでいく。
――少しずつ、説明することに慣れてきたようだった。
「魔力ってね。きちんと制御してあげると、びっくりするぐらい長持ちするの。まぁそれでも最後の方はきついんだけど、そうなったら精神力の勝負ね。気合と根性で乗り切るのよ!」
満足な答えを言えたことに、ヒルデガルトはにっこりと微笑んだ。
だがジュリアスは納得できず、呆然とした。
「なんでそんな……日課だろう? 毎日命をすり減らすような真似をしているとでもいうのか?」
――こんな過酷な鍛錬で魔力が尽きれば命を削るのは間違いない。毎日そんなことをしていれば、たちまち寿命を食い潰してしまうだろう。まさに狂気の沙汰だ。それを理解していないのであれば、自分が止めてやらなければならないとさえ思った。
「やだなぁ、魔力が尽きる直前になったら切り上げるわよ? 私だって命を削りたくないし。でも、なんどもギリギリまで制御する訓練を続けていくとね。少しずつ魔力の総量も増えていくみたいなの。だから今は、最初の頃よりだいぶ楽よ?」
ジュリアスには理解できなかった。毎日命懸けのチキンレースをしていると、当たり前のように宣言された。正気だとは思えなかった。何がそこまで彼女を追い立てているというのか――
「そろそろ、この鍛錬も簡単になってきたから、次の課題を探さないといけないわね」
――彼女の更なる言葉は、ジュリアスから考えることを放棄させるに十分だった。
「三セット目終了~」
ふぅ、と息を吐きながらヒルデガルトは砂時計を振った。
彼女が気が付くと、いつのまにかジュリアスはどこかへ消えていた。ヴォルフガングの姿も見えない。
「まぁいっか」
ヒルデガルトは気にせず、砂が落ち終わるのを待つと、再び砂粒を魔力で掴み始めた。
はぁ~、と息を吐いて砂時計を振る。今日何度繰り返したかわからない動作を、また行う。
辺りは夕闇に包まれ、従僕が庭の灯に火を灯し始めた。冬の夜は早い。もうじき夕食時だろう
(このくらいからきつくなってくるのよねぇ)
そろそろ砂が落ち切る。
(さて、もう一回――)
ヒルデガルトの横に、再び乱暴にジュリアスが腰を下ろした。その音と振動に、ヒルデガルトは我に返る。
彼女が振り向くと、ジュリアスが真剣な顔で砂時計を持って居た。
「あれ? ジュリアス様?」
「……俺もやります」
そう言って手に持った砂時計を芝の上に置き、ヒルデガルトと同じ鍛錬を開始した。
ゆっくり一粒ずつ魔力で掴み、天井に張り付けていく。
――今まで、ヴォルフガングと共に練習していた。先程ようやく砂一粒を掴めるようになって、ヒルデガルトの元に戻ってきたのだ。
ジュリアスはヒルデガルトを認めた。認めた相手を侮るような言葉遣いは、彼には出来なかった。
彼の言葉遣いが変わったことに、ヒルデガルトはまだ気が付いていない。
ただ、子馬鹿にしていた鍛錬法を一緒にやろうとするジュリアスの姿に驚いていた。
(どういう心境の変化なのかな?)
ヒルデガルトには理解できなかったが、微笑ましい気分になって笑みが零れた。
「ふふ」
「――なにがおかしいんですか」
笑われた事にカッとなり、ぽとり、とジュリアスの魔力から砂が零れ落ちた。落ちた砂は山を崩していく。
「あ、崩したー。そうなったら最初からやり直しですからね?」
ジュリアスはキッとヒルデガルトを睨みつけた――そんなことは重々承知だ。
「あなたが笑うから落としたじゃないですか!」
ジュリアスは思わず、抗議の声を上げた。
「……さっき、散々話しかけてきたのは誰でしたかね~?」
にこり、と微笑んだヒルデガルトに何も言えず、悔しそうに顔を歪めながら並んで一緒に砂粒を掴み始めた。
「あっ、ずるしちゃだめですよ。天井に張り付いた砂粒を、まとめて持ち上げるのは反則です」
「急いで天井に張り付けちゃだめですよ。ゆっくり時間をかけて持ち上げるんです。最初に砂山から持ち上げた速度のまま、天井まで運ぶんですよ」
「はいそこ、端っこが崩れました。やり直しです」
ヒルデガルトは横目で様子を見ながらジュリアスにダメ出しをしていく。
最後の方になると、ジュリアスは自分の髪の毛をぐしゃぐしゃにかき混ぜて唸った。
(――わかっている! わかっているんだ! だが何故だ!)
「なんでこっちの様子を見る余裕があるんですか! あなただって、もう四時間以上ぶっ続けでヘロヘロじゃないですか!」
我慢できずにジュリアスが叫んだ。辛いのは同じはず――いや自分以上のはずなのに、なぜそんなことができるのか。全く理解できなかった。
「余裕がないことを何度も経験していくと、その中から余裕を作り出すコツがわかってくるんですよ?」
ヒルデガルトは汗だくになりながらも平然と答えた。その姿に、改めてジュリアスは驚愕を覚えていた。
再び砂時計に向き合い、無心で鍛錬を続ける。
お互い汗だくになりながら砂を持ち上げ続ける。
単調で単純な作業だが、だからこそ集中力の訓練になると、ヒルデガルトは直感で理解していた。
「集中力、つまり精神力を鍛えていくと、魔力の回復速度が上がります。これを繰り返していれば、それだけ魔術の持続時間が伸びるんですよ?」
「それは知っています! だがこんな単純作業をよく飽きもせず繰り返せますね!」
そんなことは魔術理論の基礎だ。ジュリアスだって十分知っているし鍛錬もしている。だがヒルデガルトがやっているのは常軌を逸しすぎていた。
ジュリアスの我慢は限界を超えつつあった。もう砂時計を見るのも嫌になっている。思わずヒルデガルトの横顔を睨んだ。
そんなジュリアスをあざ笑うかのように、ヒルデガルトは平然と鍛錬を続けながら言葉をかけた。
「すぐに音を上げるへっぽこ精神だから、魔力が尽きやすいんですよ。鍛錬が足りないだけです」
「へっぽこ?!」
ジュリアスが言われたことのない単語だ。なんと反論したらいいのか、ジュリアスには言葉が見つけられなかった。言葉を探し続けるが、反論したくてもできずにいた。
そんな風に口をパクパクとさせているジュリアスが、ヒルデガルトの視界の端に捕らえられていた。
仕方がないので、ヒルデガルトは助言を与えることにした。
「魔力が尽きかけたら、そこからは体力と精神力の勝負です。私はあまり体力を鍛えたくないので、精神力を重点的に伸ばしているに過ぎません。ジュリアス様は男の子なのですから、体力を伸ばすのもひとつの手ですよ?」
「俺も、運動は苦手なんです……」
むすっとした声でジュリアスは答えた。
――そんなことも、当然分かっている。できるならとっくにやっている!
(畜生! 負けて居られるか!)
ため息を吐いて気分を切り替えた後、ジュリアスは再び砂時計に向かいあった。
「……あなたは、なぜ体力を鍛えたくないんですか?」
ジュリアスも、少しずつ鍛錬をしながら会話をする余裕を作れるようになったので、問いを投げかけた。
先程のヒルデガルトの発言で、ひっかかっていた点だ。”敢えて鍛えていない”と彼女は言ったのだ。
ヒルデガルトは笑顔でそれに応える。
「私の夢は、可愛いお嫁さんになることです。ムキムキに鍛えたら、私の理想像からかけ離れてしまいますもの」
ぽとり、とジュリアスの魔力から砂粒が零れ落ちた。
――今、彼女は何と言ったのか?
「あ、落ちましたね。最初からですよ」
ヒルデガルトからの冷静な指摘が飛んだ。
ジュリアスは呆然と言葉を返した。
「お嫁さんが夢って……じゃああなた、なんでこんな苦しい鍛錬をやってるんですか? それだけの魔力と技術を、なんのために磨いてるんです?」
――そんななんの変哲もない夢に、こんな狂気の沙汰の苦行など必要ないではないか。全く理解ができなかった。
「何の為? んー……そうですね、自分の為、ですね」
平然とヒルデガルトは応えた。”何を当たり前の事を聞いているのだろう?”とでも言わんばかりの表情だった。
ジュリアスにはやはり理解できず、目をしばたたかせた。
「できる努力を怠って後悔したくない。望んで得た力ではないけれど、持ってしまったからには、生まれる責務を精いっぱい果たすことができようにしておきたい……ご存じでしょうが、私は元平民の孤児です。それが理由で侮られるのは構わない。覆しようもない事実ですから。でも、できる努力を怠って侮られるのは自分を許せません。私だけならまだしも、お父様やその一族にまで汚名が及ぶようなことがあったら、私は一生自分を許せなくなります。だから、私は自分にできることを精一杯やる。ただそれだけです」
――ヒルデガルトの誇り高い言葉が、ジュリアスを打ちのめした。それはまさに自分の為に行われていた。己が許せる己である為ならば、狂気の沙汰であろうとやり遂げてみせる。そんな覚悟の表れだった。
ジュリアスの身体から、気負いが抜けていった。
――自分がこれまで背負ってきたものの、なんと軽薄だったことか。特等級? 魔術の天才? それがどうした。なんとつまらない言葉だったのだろう。本当に誇り高いとは、矜持を持つとはどういうことか、思い知らされていた。
「……でも、夢はお嫁さんなんですよね」
ジュリアスがぽつりと言った。その言葉に、”あなたの夢が叶うといいですね”という想いが籠ってしまった。言ってしまってから、ジュリアスは少し気恥ずかしくなった。そんなの、自分の柄ではない。
だがその思いが通じてしまったのか、ヒルデガルトが元気に応える。
「そうですよー。これも絶対諦めませんからね! 可愛いお嫁さんになって、温かい家庭を作るんです!」
ぺたり、ぺたりと砂粒を張り付けながら、ヒルデガルトは笑みを口に乗せ力説した。
そんなヒルデガルトの横顔を、ジュリアスはしばらく眺めた後、また自分の砂時計に向き合い始めた。
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『そうですよー。これも絶対諦めませんからね! 可愛いお嫁さんになって、温かい家庭を作るんです!』
少女の横顔は力強かった。絶対に諦めない、不屈の意志が轟轟と燃え滾っていた。口にしている言葉は可愛らしいのに、なんと力強いのだろうか。
(俺より強い魔力を持って、これだけ魔術を巧みに操れるのに、なりたいのはお嫁さん、か。まるで普通の女の子のような――高位貴族でこれだけの実力だ。貴族社会で這い上がろうと思えば、頂点まで上り詰めることも不可能ではないだろうに)
ヴォルフガングと同等の魔力を持ち、ヴォルフガングを凌ぐ可能性を持つ魔術師なのだ。彼と同じ地位――魔術師の最高峰まで上り詰める可能性は高い。
(そしてこれから先、この子を待ち受けてるのは、望んでもいない、貴族社会の汚泥のような世界だ――でも多分、それらも全部理解していて、それでもなお、夢を諦めていないんだろうな)
ジュリアスにとって、少女の横顔は眩しすぎた。慢心していた自分の鼻っ柱を叩き折ったこの少女は、自分が足元にも及ばないほどの力強さを内に秘めていた。完敗だと思った。なにひとつとして、及ぶところを見い出せなかった。
(せめて、この子が望む相手と結ばれる未来を掴み取れるように――その手助けをできる自分に、俺はなりたい)
新たな決意を胸に、ジュリアスは砂時計と向かい合った。
(――まずは並ぶ。そこからだ!)
二人の様子を遠くから眺めていたヴォルフガングは、満足げに微笑んでいた。
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ヒルデガルトはジュリアスを見送り、夕食と入浴を済ませてから午前の教養講義の復習を行っていた。
「お嬢様、初めてお会いした貴族令息のご感想は、いかがでしたか?」
ウルリケが不意にヒルデガルトに問いかけた。
普段なら黙って控えているだけのウルリケがこうした事を問うのは、とても珍しかった。
「そうねー……」
ヒルデガルトは指を顎に当て、天井に目を走らせる。
(どんな……どんなだったかな?)
「最初は随分傲慢な子だなって思ったけど、最後の方は、とても素直に話をしてくれたと思うわ」
ヴォルフガングの計算通り、ヒルデガルトがジュリアスの余計なプライドを粉々に砕いた。
素直にさえなれば、ジュリアスは本来、心優しい魔術に真摯な青年なのだ。
「このまままっすぐ努力を続けていれば、お父様にも劣らない、偉大な魔術師にだってなれるんじゃないかしら?」
ヒルデガルトはにっこりとウルリケに微笑んだ。
その顔を伺い見たウルリケが、ぼそりと呟く。
「初手は好印象、ということですわね……」
その一言は幸い、ヒルデガルトの耳には届かなかったようだ。
「ん? 何か言った?」
「コホン――いえ、なんでもありません。それで、ご友人にはなれそうですか?」
ひとつ咳払いをした後、再びウルリケが尋ねた。
再びヒルデガルトが、天井に目を走らせながら応える。
「そうねぇ……まだそれほど多く言葉を交わしたわけじゃないから、解らないかな。でも、なんでそんなことが気になるの?」
ウルリケは言葉に詰まり、「えー」とか「あー」とか唸った。なんとか誤魔化そうとしていたが、観念したように口を開いた。
「……これから度々、お嬢様と顔を合わせることになる方です。もし、険悪な関係になるようであれば、差し出がましくも私の方から旦那様に一言申し入れようかと」
それを聞いたヒルデガルトが楽しそうに笑った。不安など一抹も感じてない、と言わんばかりだ。
「だいじょーぶよ! 魔術の講義はお父様もご一緒なのよ? そんな関係になったら、きちんと距離をとってくださるに決まってるわ」
(ウルリケったら、心配性なんだから……でも、ありがとう)
ヒルデガルトは心の中でお礼を述べてから、再びノートに向かいあった。