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第11話:ゲームスタート

<改稿告知>

全体の一人称文体から三人称文体への改稿をかけました。

物語の内容は変わってませんが一人称では描けなかった描写が増えてます。ジュリアスの心情とか。客観的なヒルデガルトの様子とか。


「よくなった」「とくにそうおもわない」「わるくなった」などは感想頂けると今後の参考になります。


改稿告知の為にこの話だけ予約投稿解除して投稿します。


第4章だけ一人称文体のままですが外伝だからいいかなって思ってます。






 ――二月半ば。



 男子たちは、午前中は剣術の鍛錬に充てようと相談の結果決まった。遊びではなく真面目に体を動かし始めたのだ。


 一時間ほどランニングや筋力トレーニングに充てた後は、昼まで様々な相手との組み合わせを試していた。


 ヒルデガルトの雷が落ちてから、王子たちを含めて皆が我儘を言うことはなくなり、マリオンやサイモンは胸を撫で下ろしていた。


 マリオンの体調を慮ったのもある。また我儘を言って、マリオンに魔術行使などさせないようにしているのだ。



 女子たちも、いつまでもぼーっとしている訳にもいかないだろうと話し合い、ヒルデガルトの許可をもらった後、午前中も魔力鍛錬を行うことになった。


 マリオンの精神力の限界は概ね三時間ぐらい、と分かったのだが、「ヒルデガルトが見ていない間は、皆と同じ三十分置きの休憩を取る」という約束で許可が出た。


 女子三人がマリオンの周囲で常に見張り、彼女がやり過ぎないように監視するような毎日だ。


 彼女たちだって、友が死に掛けるなど二度と見たくないのだから当然である。



 この頃になると、マリオン以外の女子たちも砂粒を掴めるようになっていた。


 ただ、やはり天井に張り付けた砂粒を維持したまま次の砂粒を拾っていく、ということを繰り返すのはまだ難しい。


 十粒も張り付けると零してしまう。そしてまた最初からやり直すということを繰り返していた。




 レナが砂時計に向かいつつ、「あれから点数に変化はあったの?」とマリオンに語りかけた。


 マリオンは「特にイベントもなかったんだもの。変化はないはずよ?」と応えた。


 午前中の鍛錬中は、マリオンもこうして会話に対応することができるようになっていた。


 三十分という短い鍛錬時間に加えて、マリオン自身も鍛錬に慣れて余裕が生まれたからだ。


 ララが残念そうなため息を吐いた。


「――ふぅ。せっかく七人もの男性から好意を寄せられてるっていうのに、もったいないわね。……そうだ、直感じゃなくマリーがきちんと考えた上で、あの中に好みの男子はいるのかしら。これは聞いたことがなかったわね」


 マリオンは苦笑いでそれに応える。


「理性で考えて、ってことかしら。そういうことだと、私は前から高貴な血筋に嫁入りしたかったの。だからマーセル殿下かアラン様、ということになるわね。他の子は伯爵令息ばかりで、今より格下になってしまうもの」



 ただ、最近はその願望は希薄になってきたようにマリオンは感じている。


 「できればそれが望ましい」と未だに思ってはいるが、嫁入りよりも自分を磨くことに彼女の興味が移っているようだ。


 ”今は嫁入りを考えるよりも先に、どうやったら魔術の腕を上げられるのか”、そう言ったことを多く考えるようになっていた。


 マリオンもファルケンシュタインの女である。果たせる責務があるならばそれを果たしたい、そう思えるよう教育されてきている。



 サンドラが「オリヴァー殿下は理性で考えても圏外なのね」と笑っていた。


 マリオンが「それはしょうがないじゃない? 直感があそこまで警告する方を選ぶのは、理性でも嫌だわ」と応えた。


 レナが「どうしてそんなに高貴な血に拘っているの?」と尋ねる。


 マリオンは澄まし顔で理想を語る。


「我がファルケンシュタイン侯爵家に、高貴な血筋の跡取りを入れたいのよ。サイ兄様の後に、高貴な方と私の間に生まれた子供を養子に出して家を継いでもらうか嫁がせるの。そうすれば、ファルケンシュタイン侯爵家に足りないものはなくなるわ。場合によっては、二つ目のファルケンシュタイン公爵家になるわね」


 ララが「あなたは今の家が大好きなのね」と笑っていた。


 マリオンが微笑んで応えた。


「それはそうよ。敬愛するお母様とお父様が興した分家ですもの。できることなら立派な家系に育てたいわ。家を立派に盛り立てるのも、貴族の責務の一つでしょう?」


 サンドラが「でも、あなたの心を射止めた人が高貴な血筋じゃなかったらどうするの?」と尋ねた。


 マリーは少し考えてから応える。


「それはその時になってみないと分からないわね。恋愛なんてしたことがないから、自分の心がどう動くか、だなんて予想できないもの」


 三人が意外そうに「あら、初恋もまだなの?」と聞いた。


 マリオンが呆れ顔で応える。


「当たり前じゃない? 私の周囲に居る同年代の異性なんて、サイ兄様以外居ないんだもの――そういう意味では、初恋はサイ兄様なのかもしれないわね。兄様より素敵な男子を見たことは、今までないんだもの」


 ララが苦笑を受けべながら「ほんと、重度のブラコンよね――でも、しょうがないか。私も似たようなものだし」と言った。


 レナも「確かに高位貴族の令嬢って、よほど家族ぐるみで親しい付き合いをしていない限り、グランツに通うまで縁がないものね」と笑った。


 高位貴族の令嬢は原則、箱入り娘である。両親も愛娘として慈しむと同時に、家の為に嫁がせなければならない。悪い虫は排除するのが原則だ。


 幼い頃から嫁ぎ先候補となるような友人が居た場合は、家族が見守る中で交友させることになる。



 ファルケンシュタイン侯爵家に通ってくる――そんな家は、この女子三人組くらいだった。


 そういう意味ではこのザフィーアがマリオンにとって初めての男子との邂逅ともいえる。それはこの場に居る女子全員に言えた。



 マリオンが気づいたように言葉を投げかけた。


「そういえば、みんなはザフィーアの男子をどう評価しているの? 射止めたいような男子は居るのかしら? ――これは今まで聞いてこなかったわよね?」


 サンドラはため息を吐いて語った。


「私は親の決める相手に嫁ぐだけよ。レナやララもそう。良家の男性にアプローチはしてみるけれど、それは恋愛とは程遠いものになるでしょうね」


 ララは「でも夫婦愛なんて結婚してからでも育めるものらしいから、私はそこまで悲観はしていないわね。婚約期間中にも絆は育めるものだし」と語った。


 その点にはレナやサンドラも同意見だった。両親を信頼している証だろう。


 家の為に酷い男をあてがわれる事はない。そう確信しているのだ。


 事実、彼女たちの親は娘を犠牲にしてまで家の格を上げようとするタイプではない。


 娘の幸せの為に相手を選んでいく。そんな良い親たちだ。



 レナは「そもそも、ザフィーアの男子はマリーに好意を持っているんだもの。それを横取りするほどの相手となると、そこまでの男子はいないわね」と笑っていた。


 サンドラも「あなたとあの七人の誰かがくっついたとして、残りの男子から誰かを選べと言われても確かに困るわね――結局、私たちも恋愛初心者には変わりないってことよ」と苦笑を浮かべた。


 同じ高位貴族令嬢、男性との縁など今までろくにないのは一緒。恋に恋するお年頃、ということだろう。


 グランツに通う間に巡り合えれば、と一縷いちるの望みを託すだけなのだ。


 彼女たちも家柄目当てに目の色を変えるタイプではない。自分を見て愛を与えてくれる相手を探しているのだ。


 そういう意味では、高貴な血筋を狙うマリオンが一番俗っぽいとも言えた。



 マリオンがしんみりと語る。


「グランツで良縁に巡り合えるといいわね」


 女子三人は「そうね、そんな素敵な出会いが待って居れば、人生に楽しみも増えるわね」と苦笑していた。


 ほとんど叶わぬ望みである。


 巷の貴族令嬢の例に漏れず、自分たちも親の決めた縁談に身を任せるのだろう、と諦観しているのだ。





****


 ――三月も半ばを過ぎる頃。そろそろ春の訪れが辺りに漂い始めていた。



 ザフィーアの魔力鍛錬は順調に進み、ヒルデガルトは「みんな、凄い進歩をしてるわよ?」と褒めていた。


 ヒルデガルトの教えはヴォルフガング直伝だ。「基礎を徹底的に磨くわよ? 魔力制御は基本にして奥義。決して疎かにしてはいけないわ」が口癖になっていた。


 自らがその教えに従い結果を残してきた実感があるからこそ、言葉に力がこもっている。



 大きなイベントこそなかったが、寝食を共にしていくうちにザフィーアの絆は深まっていった。


 既に互いを異性として見ていない。同性同然の仲間として結束している。


 唯一の例外はマリオンで、男子たちは引き続き彼女に熱い視線を送っている。


 マリオンはその視線が奇異の目ではないと散々言い含められた結果、戸惑いつつもその事を受け入れていた。


 当初こそ男子を含めた集団の共同生活に不安を持っていたマリオンだったが、彼女も彼女なりにすっかり打ち解けたと言っていい。


 身分の差も、王子たちが「俺たちの間に敬語なんていらん」と言い出し、子供たちは素で会話するようになっていった。




 オリヴァー王子が昼食後の紅茶を飲みながら語りだした。


「ザフィーアの縁は不思議だな。俺が猫を被らずに済む友を得られたのは、僥倖と言えるのかもしれないな」


 オリヴァー殿下の素は、マーセル王子と同じ王族らしい尊大な態度だった。


 柔らかい物腰は「あれは宮廷に居る連中から身を守る護身術、みたいなものさ」と笑って語っていた。


 マーセル王子もこれには最初は驚いていたくらいだ。家族の前でも徹底して猫を被っていたのだ。


 マリオンはオリヴァー王子に「王族ってそんなに大変なものなのですか?」と尋ねた。


「そうだな、第一王子ともなれば、それなりに私を狙うものは増える。悪意を隠して接近し取り入ろうとしてくる輩がね。そういった連中から身を守りたかったんだ――もっとも、ヒルデガルトやジュリアスがそういった連中を早々に潰してしまうから、そこまで苦労することはないよ。だが下手にろくでもない奴らと縁を持っても後が面倒だから、徹底して居ただけだ」


 臆病なオリヴァー王子らしい理由だ。もっとも本人にその自覚はないだろう。賢く立ち回った、と思っている。



 マリオンは以前、ヒルデガルトに言われたことをふと思い出し、それを尋ねた。


「他の貴族とは違う、王族が背負う責務とはなんなのでしょうか」


 オリヴァー王子が優しい笑顔で応える。


「領地を持つ貴族が領民の人生を背負う様に、王族は国家国民の人生を背負う。彼らがより幸福になる道を選択し続けなければならない。それは時に、苦渋の決断を迫られることもある。国内だけじゃなく、国外とも利害関係が生まれ、彼らの幸福も考えねばならない時もある。背負う命が多くなるほど、それは肩に大きく圧し掛かってくる。そしてそうやって増えた敵対者から、命を狙われる機会も増えるんだ――王族の伴侶となる者も、同じ覚悟が求められるよ。そんな覚悟を持つことが、マリオンにできるかな?」


 マリオンは俯いて考え始めた。


 言われたことを理解したのだ。



 ヒルデガルトがマリオンに足りないものがあると言っていたのは、そういった覚悟だ。


 貴族の責務とは詰まる所、領民の人生をより良い方向に導くもの。そして王族は国民すべてが対象となる。


 王族の伴侶は、王族を名乗る者として恥じることがないだけの覚悟を持つべきなのだ。



「……まだ私には、そんな大勢の方の人生を背負う覚悟は持てそうにありませんね。それを背負えると言い切れるだけの自分には、まだ成れていない。私はこれから弛まぬ研鑽を経て、それを言いきれるようにならなければいけませんね」


 マーセル王子がマリオンに優しく笑いかけた。


「その年齢でそれが理解できているなら、王族の伴侶の資格を持っているようなものだ。俺たちはまだ未熟で幼い。成人するまでに、相応に自分を磨けば良い」


 ララが楽しそうに会話に参加してきた。


「あら、伴侶の資格があるというのなら、殿下のどちらかがマリーと婚約することになるのかしら? クラウディア様なら、殿下たちがそう望めば今すぐにでも頷いてくれると思うのだけれど」


 スウェードがそこに割り込んだ。


「ちょっと待ってくれ! さすがに殿下の婚約者になったマリーに懸想するのは不敬になる! 俺たちにも機会くらいくれよ?!」


 レナが楽しそうに突っ込みを入れた。


「あらお兄様、まだ勝ち目があると思ってるの? 今の所、三十点未満の男子に目はないんじゃないかしら?」


 オリヴァー王子がそれに悲しい眼で応えた。


「それを言われると俺にも目がないことになるな――なぁマリオン、どうやったら俺は三十点以上になれると思う? 直感でいい。教えてくれないか?」


 マリオンが苦笑しながら応える。


「直感に頼るまでもありませんよ。オリヴァー殿下が不穏な野望を捨て、今の平穏を維持するような国家運営を目指すようになるだけで良いはずです。殿下はサイ兄様に並ぶ完璧超人。本来は欠点らしい欠点など無い方ですからね」


 オリヴァー王子も苦笑で返した。


「国をより大きく、より豊かにしたい、と考えるのは、それほどいけないことなのだろうか」


 マリオンは微笑んでそれに応える。


「他国の国民の人生を踏みにじってまで目指すものではありませんね。共存共栄、それでいいじゃありませんか。我が国は充分豊かな国です。他国の領土を欲する必要などありません。せっかく争乱のない世になったのです。再び戦火を巻き起こし、我が国や他国の兵士の命を消耗する行為に手を出すなど、敢えてする事ではありませんよ。兵士たちの命は、この平穏を守るために使われるべきです」


 マリオンの答えに、オリヴァー王子は俯いて考え込んだ。


 マーセル王子も微笑みながらオリヴァー王子に語りかけた。


「俺は兄上なら、その野望を捨てられると信じている。その誘惑を断ち切ることができるはずだ。そうすれば王太子は兄上になる――俺が立太子するような未来が来ないことを願っているよ」


 マーセル王子は実兄であるオリヴァー王子を敬愛している。


 彼を補佐して国を運営する未来を思い描き、とても無邪気な笑顔で楽しそうに語るのだ。



 オリヴァー王子が顔を上げ、微笑みを浮かべながらマリオンの目を見つめた。


「そうだな。俺の隣でマリオンがそうやって諫めてくれるのであれば、きっと俺はそんな王になれるだろう――ということでどうだろう? 国家の為に、俺と婚約してみないか? 夫を躾けるのも妻の役目だと、母上も常々口にしているぞ?」


 今度はマーセル王子が待ったをかけた。


「いくら兄上とはいえ、マリオンをそう簡単に譲ることはできないな。俺は兄上の未来を応援してはいるが、それはそれ、これはこれだ」


 サンドラがヴァルターに話を振った。


「ヴァルター様は高順位にいるけど、殿下たちと争ってマリーを落とす気概は持ち合わせているのかしら? せっかくの高ポイントがもったいないわよ?」


 ヴァルターがはにかみながら応える。


「そりゃあ僕だって、できればマリオン様の心を射止めたいと思っているけどさ。殿下たちとアラン様以外は伯爵令息だ。マリオン様の望む高貴な血筋じゃないからね。そこで躊躇ってしまうのは否めないかな」



 最近のヴァルターからは、かなり弱気な態度が抜けて来ていた。少なくとも、挙動不審に陥ることはなくなっていた。


 気心の知れた友人たちとの絆を育んでいるうちに、彼にも自信と矜持が芽生えたのだ。


 友に恥じない己であろうとする心を持ち始めていた。友より優れる領域を持つ自分が弱腰になる、それは友を侮辱するに等しい行為だと気づいたのだ。



 マリオンは少し楽しい気分になり、微笑みながらある提案をした。


「あら、私を振り向かせることができたなら、きっと私は高貴な血筋には拘らなくなると思うわよ? ――そうね、分かりやすく期限でも設けましょうか。オリヴァー殿下がグランツを卒業するまでに私の心を射止める男性が現れたなら、私はその方と婚約を結びましょう。誰も射止めることができなかったなら、私は殿下たちのいずれかとの婚約を受け入れる。殿下のうちどちらが私の婚約者になるかは、陛下やクラウディア王妃殿下、そしてお母様に委ねましょう。ちょっとしたゲームね?」



 期限は今から最大三年間、オリヴァー王子がグランツを卒業するまで。


 それまでにマリオンの心を射止めた男子が現れたら、その時点でマリオンはその人物を伴侶と認め婚約をする。


 仮にこの場に居ない男子が心を射止めた場合でも、ヒルデガルトが当主を務めるファルケンシュタイン侯爵家からの婚約打診だ。この国で断れる家はまず居ない。ヒルデガルトと縁続きになるメリットはそれほど強力なのだ。話は直ぐにまとまるだろう。


 誰も射止められなかったらオリヴァー王子かマーセル王子と婚約する。どちらがより相応しいかは、フランツ国王やクラウディア王妃とヒルデガルトが相談の結果決める。


 ただし、二人の王子が共に途中で心変わりした場合、このゲームは無効となるだろう。その場合はマリオンが地道に嫁ぎ先を探すことになる。


 ゲームのルールを纏めると以上となる。



 ララが呆れた顔でぼやいた。


「マリーあなた、この二か月ですっかりお姫様が板に着いたわね。十二歳で高位貴族令息七人を弄ぶだなんて、とんでもない悪女に見えるわよ?」


 マリオンは口を尖らせて不満を述べた。


「ララたちにも原因はあるんだからね? ああも毎日、私が好意を持たれていることを言い含められていたら、納得せざるを得ないじゃない? それに、王家に嫁ぐ資格があると言われたなら、私はそれまでに相応しい自分を磨き上げるだけ。誰も私の心を射止めることがなければ、私は夢を叶えるために王家に嫁ぐ。私にも、殿下たちにもメリットのある取引よ。他の男子も最大三年間の猶予が与えられる、とても公正なゲームね」



 アランが苦笑を浮かべて口を開いた。


「十二歳にして七人の男心を弄ぶ悪女か。大叔母上にはない逸話になりそうだ。きっと社交界でもマリオン嬢は話題になるでしょう。風当たりは、強くなりますよ?」


 アランはこの状況をやはり楽しんでいた。ヒルデガルトへの興味は相変わらずだが、最近はマリオンへの興味もだいぶ増してきたようだ。



 マリオンは澄まし顔でそれに応える。


「あら、みんなが私を諦めてしまえば、私は悪女にならなくて済むわよ? 私だって悪女だお姫様だ、なんて、好き好んで言われたい訳じゃないもの。私みたいな女はさっさと諦めて、もっと素敵な女性を探した方が建設的なんじゃないかしら――みんな物好きよね。私のどこがそんなに良いんだか」


 マリオンは精霊眼で破壊された自尊心を修復できていない。今だ劣等感に苛まれたままだ。自分に好まれる価値を見出せないでいる。


 女子たちに言い含められ続けたから、渋々事実を認めたに過ぎない。


 目標だった王子たちに言い寄られたのは喜ばしいと思ってはいるのだが、実際に好意を寄せられて気後れしているのだ。


 お姫様プレイなど不本意甚だしいが、好意を寄せられてしまったものはしょうがない、と開き直っているだけだ。



 普段は無口なアレックスが珍しく会話に参加してきた。


「俺たちの親は元々、ヒルデガルト先生に好意を持っていた人間ばかりだ。そしてマリオンはヒルデガルト先生の若い頃にそっくりらしいからな。好みを受け継いでるんだろう」


 子供たちの視線がサンドラに集まり「あー、なるほど」と口々に納得していた。


 見つめられたサンドラは「私の身体が”マリー大好き!”と叫んでいるのは確かね。みんなもそうなのかしら?」と平然と視線を受け止め、カップを傾けていた。





****


 ――その日の夜、臨時女子部屋。



 マリオンはいつものように抱き枕にされつつ、暗闇の中で考えに耽っていた。



 このザフィーアでの出会いは得難いものに思えた。


 彼らとの絆は二か月間で確かに育まれている。


 そしてマリオン以外は全員がグランツに通うことになる。オリヴァー王子以外、全員が寄宿生だ。



(私はグランツに通うべきなのだろうか)


 マリオンは最近、それを考えることが増えた。


 昼間宣言したゲームで勝者が居なければ、マリオンは王家に嫁ぐことになった――王子たちが三年間心変わりをしなければ、の話だが。



 王族の伴侶に魔術の腕が求められることはないが、より相応しいものとして証を立てる意味で、グランツを卒業することが多い。


 二か月の鍛錬を経て、マリオンはこの魔力を生かした道を模索できる可能性が見えて来た。


 王子たち以外が勝者になった場合にも、グランツでの経験は無駄にはならないだろう。



 だがマリオンの魔術の腕でエリート養成機関であるグランツを卒業できるのかは、自信がなかった。


 ヒルデガルトが勧めるように、教養のみを修め他家に嫁ぐ――そんな道はまだ残されている。


(困ったときの神頼み、でもしてみるかな)


 マリオンは愛の神の気配を手繰り寄せ、語りかける。



(――愛の神様、ちょっと進路相談してもいいですか?)


『ええいいわよ?』


(私はお母様の勧める道と、みんなと同じグランツに通う道、どちらを選んだ方がいいと思いますか?)


『私から言えることは一つだけ。人との縁は大切にした方が、あなたの幸福につながるということよ。あなたがこの試練を乗り越える為にも、縁は大切にした方がいいわね』


(神の試練ってやつですか? あれはまだ続いてるんですか?)


『この試練を突破した時、あなたはあなたの求める愛を手に入れるでしょう。でもそれが”今のあなたが思っている愛”なのかどうかは、これからのお楽しみね』


(私の求める愛ってなんなのでしょう?)


『言ったでしょう? それはこれからのお楽しみよ。あなたはこれからいくつかの愛を知っていくことになる。その中からきっと、あなたの求める愛が見つかるわ』


(何人もの男性から愛を捧げられるってことですか? その中から選ぶことになるということですか? なんだかそういうのって、好きじゃないんですけど)


『あら、もう既にそんな状態になってるじゃない。あなたのお友達が恋を愛に育てていけば、自然とそうなるわよ?』


 それはつまり手遅れ、ということである。


(私に選ばれなかった男性はどうなるんですか?)


『その想いを引きずって生きるか、切り捨てて別の愛に生きるか――人間の普遍的な愛の姿よ。気に病むようなことではないわ』


(私にはまだ、そこまで割り切ることはできないですよ)


『大丈夫よ。愛に不器用なヒルデガルトにもやれたことだもの。あなたにだってできるわ』


(ほんとかなー……でも愛の神様のいう事だから、きっとそういうことなのでしょうね)


『あなたがどの愛を選ぶことになるのか、楽しみに見守らせてもらうわね』



 どうやらマリオンは、男心を弄ぶ悪女の道を選ばねばならないらしい。


 そして愛の神は、そんなマリオンの恋愛模様を見て楽しむつもりだ。


(本当に女性の味方なんだろうか……)


 いささか疑問である。


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