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第7話:祝賀会

 ――ある夜のレブナント王宮。


 その日は東方国家の安定の要である、三国間不可侵条約締結を祝う大規模な夜会が催されていた。



「やあヒルデガルト。久しぶりだね」

「エシュヴィア公王! お久しぶりでございます!」


 エシュヴィア公国からは公王が。



「ヒルデガルト様! お久しぶりです!」

「久しいな。今はファルケンシュタイン侯爵、だったか」

「お久しぶりです、アンナ王女、アウレウス国王」


 アウレウス王国からはアウレウス王とアンナ王女が。



 陛下とアウレウス王、エシュヴィア公王に私が混じり、談笑を繰り広げていく。


「我が国の穀倉地帯をファルケンシュタイン侯爵に任せたところ、突然大豊作に恵まれてな。嬉しい悲鳴という奴だ」


 陛下が笑顔を輝かせて語っている。


「ほぅ、ファルケンシュタイン侯爵は神からも愛されていると見える。今度、是非我が国にも恵みを分けてもらえないかな?」


 エシュヴィア公王がそれにのっかり笑っている。


「神をも魅了するとは、ファルケンシュタイン侯爵は人たらし、いや神たらしだな」


 アウレウス王も豪快に笑っていた。


 私は何も言えず、ひきつった淑女の微笑で佇んでいた。



 それまでは「今年はあまり収穫が見込めないかもしれない」と言われていた状態から、私が領地を譲られた六月以降、急に畑に活力が湧いてきて一転しての大豊作である。巷では「なにか魔術か魔法を使ったんじゃないか」とか「創世の神のご加護だ」とまで言われていた。


(イングヴェイが喜ぶから毎朝お祈りしてただけなんだけど、どうやらそれが豊作につながるみたいなんだよね……)


 もちろん神から直接干渉はできないが、人々の祈りに対する報いとして豊穣を与えることができる――本来はそういう神なのかもしれない。



 今夜は他の東方国家からも殆どの国家元首が集まり、実に盛大な夜会となっていた。


 そして「あのアウレウス王の首を縦に振らせた」と、私は各国の元首たちからもその手腕を褒め称えられ、お礼を言われていた。好戦的だったアウレウス王国さえ落ち着いてくれれば、東方国家群の脅威は北の帝国のみになる。内政にも、より力を入れることができるのだ。


 東方国家群の元首たちに囲まれる私はとても目立っていたらしい。その後も「これからは私の派閥に与したい」という貴族たちも挨拶に来るなど、忙しい夜を過ごしていた。



「すごい人気ね? さすが私のヒルダね!」


 クラウも挨拶周りを済ませて私に顔を見せに来た。


「忙しすぎて目が回りそうよ?」


 私は苦笑で返す。人が多すぎて、顔と名前を覚えるのも一苦労だ。


 ベルトはそんな私の横でニコニコと上機嫌に笑っている。


「ヒルダがやっと大勢の人に認められて、実に誇らしい気分ですね」


「本当に、追いかける方の身になってください。今やあなたは、宮廷魔術師の中で最大の派閥を持ってるんですよ? 俺の派閥の中からも、あなたに宗旨替えする奴まででるし」


 ジュリアスは不満げな口調だ。だがその顔にはやはり、ベルトの笑顔と同じ誇らしげな色が現れていた。


 クラウはふふんと得意げな顔で語る。


「ヒルダは宰相であるルドルフ様の義妹、そして四方守護軍であるお父様たちと親しいのよ? 政界と軍部に太いパイプを持つようなものね。さらに殿下や私とも近しいし陛下の覚えもめでたい。この上に東方国家群元首からも好感を得ている。影響力が大きいのは当り前よ?」


 クラウと共に来ていた殿下も笑いながら語りだした。


「これだけの影響力と派閥だ。もうヒルデガルトの発言を軽視できる奴は国内にいない。既に次期筆頭宮廷魔術師確定なんて噂まである。だがその分、自分の発言や行動には気を付けてくれよ?」


 私は疑問を口にする。


「そんな噂があるんですか? だって、筆頭宮廷魔術師のカストナー侯爵はまだお若いですよね?」


 八年前、お父様から若くして筆頭宮廷魔術師を受け継いだカストナー侯爵は、今はまだ四十代前半だったはず。お父様は五十歳を機に、早めに引退したと言っていた。それならば、カストナー侯爵が引退するまでまだまだ時間がある。その間に、先輩の宮廷魔術師が功績を上げることもあるだろう。”確定”だなんて噂が出るには早すぎる。


 殿下が頷きながら応える。


「だがカストナー侯爵は凡才だ。執務は如才なくこなせるが、華々しい功績はない。ヴォルフガングのように知略や魔術に長けている訳でもないしな。そこに新進気鋭で華々しい功績を上げたヒルデガルトの登場だ。世代交代を予感させるには十分だろう? 次にお前が華々しい功績を上げれば、父上がお前を筆頭に引き上げる可能性は結構あると踏んでいる。元来、筆頭宮廷魔術師は国王の懐刀的ポジションだ。そういった意味でも、ヒルデガルトの方が相応しいと言える」


 確かに、私には神託や古代魔法という反則技がある。国王としても頼りになるのかもしれない。


 だがそこには反論したい。


「わたくしは、筆頭宮廷魔術師ならジュリアスの方が相応しいと思っておりますけれど。わたくしよりも幅広い分野に通じておりますし、視野も広い。いつもわたくしのフォローばかりさせてしまっているので埋もれがちになってしまっているのが申し訳ないくらいですわよ? 直感型で行動してしまうわたくしに、そのような地位は過分ですわ」


 ジュリアスが大きなため息を吐いた。


「もう、俺の人生はあなたのフォローをして回るものだと諦めてますので、そこは気にしなくて結構ですよ。あなたに足りていない部分を俺が補えばいいだけだ。多分それが、一番、国の為になる」


 殿下が頷きながら「それには俺も同感なんだ。あとはヒルデガルトが納得するだけだな」と笑っていた。




 私たちが談笑しているところに、ひょろっとした黒髪の男性が近づいてきた。


「ファルケンシュタイン侯爵、条約締結おめでとう。見事な功績だったね」


「カストナー侯爵! ありがとうございます」


 パスカル・フォン・カストナー侯爵――現在の筆頭宮廷魔術師だ。宮廷魔術師を統べる人なので、本来なら上司にあたるのだが、私とジュリアスは殿下直属なので例外である。なので、あまり人となりを知る機会もなかった。


 カストナー侯爵は柔らかい笑みで語りかけてくる。


「君の事は期待しているよ。既に、私の次を噂されているみたいだしね」


「そんな! カストナー侯爵はまだお若いじゃありませんか! まだまだこれからではありませんか?」


 カストナー侯爵の顔にわずかな自嘲の笑みが乗る。


「……私は見ての通り、平凡な男だ。私より相応しい者が居なかったから、ヴォルフガング様から地位を譲り受けた。ただそれだけの男だよ。より才能に恵まれた若者が居るのなら、席を譲るのはやぶさかじゃないさ」


 それからいくつかの言葉を交わし、カストナー侯爵は私たちから離れていった。



「……覇気のない方ですね」


 私はぽつり、と感想を述べた。


 殿下が頷いた。


「そうだろう? 無害だが、益も特にない。厳しいことを言ってしまえば、国家運営の邪魔にならない。ただそれだけの男だ。国難が続く状況で傍に置いておくには、ちょっと心許ないな」


 確かに、前回の国難だった古代遺跡問題を話し合うお茶会には呼ばれていなかった。前筆頭宮廷魔術師であるお父様が居たとはいえ、国王の懐刀を務める現役筆頭宮廷魔術師が除外されていたというのは、それだけ陛下からの信頼がない、ということなのかもしれない。





****


 夜会の終わりも近づく頃、殿下から「父上がお前を呼んでいる」と言われ、大きな軍議室の前に来ていた。


 夜会はまだ、もうしばらく続くはずだ。不思議なタイミングの呼び出しだと思った。




(なんでこんなところに?)


 兵士たちが守る重厚な扉を開け、中に入る。


「え?!」


 そこには陛下とユルゲン兄様、それに向き合う様に東方国家群の元首たちが居並んでいた。その顔はみな、真剣なものだ。


 驚愕で固まる私の背後で、重厚な扉が閉められる。


 陛下が私に振り向き「ファルケンシュタイン侯爵、君の席はこちらだ」と、陛下の隣を示した。


 訳が分からないまま、示された位置に座る。


(これはどういう状況?)


 陛下が声を上げる。


「これで揃ったな、では本題に入ろう――ユルゲン、始めてくれ」


 ユルゲン兄様が立ち上がり、手に持った書類に目を落としながら、いつものマイペースな口調で語りだす。


「ええと、まずですね。そう遠くないうちに、ペルペテュエル帝国が東方国家群に対して軍事行動を起こす、というのは確かな筋の情報で確認済みだそうです。その兆候も我が国の諜報部が察知しています」


 元首たちがざわつき始める。


「確かな時期や動員規模は分かりませんが、帝国は強力な新兵器を今回用いてくる。これも、確かな筋の情報らしいです。どういったものかは未だ定かではないですが、大火力の携行型火砲の類が濃厚ではないか、と諜報部の報告にあります」


(ユルゲン兄様が言う”確かな筋”って、もしかして神託のこと?!)



 どうやら今のユルゲン兄様は、一人の書記官としてこの場に居るようだ。語り口調がどこか他人事である。


 普段なら書類など用いずに会話する兄様が、書類を読み上げる姿も珍しい。この場に居る元首たちに、自分が諜報部であることを隠しておきたいのだろう。


 だがそれならば、なぜユルゲン兄様がこの場に居るのかが分からなかった。通常の書記官を、司会進行に連れて来ればよいのではないだろうか。



 ユルゲン兄様が言葉を続ける。


「ですので、東方国家群全体として帝国の南下をどう防ぐのか。それを今のうちから方針を打ち出しておきたい。今回はそういう趣旨で集まって頂いてます。もちろん、我がレブナント王国はそれを全面的にバックアップしていきます」


 ユルゲン兄様が言い終わり、着席した。それと共に陛下が発言する。


「現在、帝国領と東方国家群の国境は、隣接する三国の連合軍で防衛している。だが、それで防ぎきるのは難しいだろうと、私は考えている。何か意見のある王は述べてもらえないだろうか」


 室内のざわめきが大きくなっていく。元首たちは近くの元首と顔を見合わせ、意見を交換し始めた。



 ――なるほど、祝賀会にかこつけて元首たちを集めて、こっそり会合の場を設けたのか。


 確かに、帝国の密偵がどこに潜んで居るか分からない。これだけの人数を集めれば当然目立つ。こちらの動向を帝国に察知されるのを嫌った、ということか。


(……なんか無茶苦茶重要な会議だと思うんだけど、なんでただの宮廷魔術師である私がここに呼ばれたんだろうか)


 理解不能である。


 筆頭宮廷魔術師であるカストナー侯爵の姿もない。本来なら、私が座る席に居るべき人物だ。



 アウレウス王が挙手をし、発言した。


「その帝国の新兵器は、どの程度の脅威になるのか。予想はついているのか?」


 陛下が厳しい表情で応じる。


「東方国家群全軍と我が国の戦力を半分。これだけ合わせてもいくつかの国家が、最悪の場合、半数の東方国家は帝国の手に落ちる。その程度の脅威になると予想している」


 相当な動員規模だ。それでも防ぎきれないと、陛下は告げた。元首たちのざわめきが大きくなり喧騒に代わっていった。


 どの元首も厳しい顔だ。特に帝国領に隣接している国の元首たちは、自分たちの滅亡を宣告されたに等しい。蒼い顔をしている。



 エシュヴィア公王が挙手し、発言した。


「何か、対抗手段はないのか?」


 陛下が厳しい顔のまま、それに応える。


「あるといえばある。だが、ないといえばない――その対抗手段を持つ者が、使うことを躊躇っていてな」


(……ちょっと陛下?)


 嫌な予感がする。


 エシュヴィア公王が質問を重ねる。


「その対抗手段はどういったものなのだ? 帝国の新兵器に対抗できるほどのものなのか?」


 陛下が一転して、少し楽しそうな顔でそれに返答する。


「貴公らは、三年前のシュネーヴァイス山脈古代遺跡暴発事件をご存じだろうか」


 エシュヴィア公王は頷き「ああ、なんでも遠く、平野からもその金色の火柱が見えたそうだな。古代遺跡の恐ろしさを、世に知らしめた事件だ」と答えた。


 陛下がちょっと困った笑顔でそれに応える。


「これは我が国の国家機密なので、他言無用で頼みたいのだが――実はあの古代遺跡暴発事件は、とある魔術師の魔法を、我が国が隠蔽工作したものだ。隠蔽された真実は、一人の魔術師が魔法一つで、我々には傷一つつけられぬ古代遺跡を跡形もなく消失させた、というものだ」


(陛下ーーーーーーーーーーーっ?!)


 私はポカーンとしながら陛下をガン見していた。頭の中は真っ白だ。


 これだけの人数相手に、国家元首自ら国家機密を漏洩したのだ。前代未聞だろう。



 いつの間にかざわめきが止んでいた。元首たちの視線が陛下に注がれている。


 エシュヴィア公王が震えながら確認を取ってくる。


「そんなことが……人間に可能なのか?」


 陛下は実に楽しそうに頷いた。


「実際に成し遂げたのだから、認めるしかあるまい? この中には、消失した古代遺跡跡地を調査した王もいると思うのだが?」


 エシュヴィア公王が陛下に尋ねる。


「今回、その魔法を帝国相手に使うことはできぬのか?」


 陛下がその発言を受け、楽しそうに私を見た。


「……できぬのか?」


 私は思わず立ち上がり、陛下に叫んでいた。


「できるわけないでしょー!! あれだって命懸けだったんですよ?! 魂の消滅を覚悟した一発だったんです! もう一度やれって言われてもできませんよ?! それにあんな大火力、人間の軍隊相手にぶっ放したら軍隊丸ごと蒸発し――あ。」


 慌てて自分の口を塞いだが、気づいた時には遅かった。


 元首たちの視線が私に注がれていた。



 アウレウス王が目を瞠って口を開いた。


「今、軍隊が丸ごと蒸発する、と聞こえたが……そんな冗談みたいな魔法を、ファルケンシュタイン侯爵が使えると、そう言ったか?」


 私は目をそらした。


「……き、聞き違いじゃないですかね? わたくしは何も言っておりませんわよ?」


 陛下がニコニコと元首たちに問いかけた。


「ファルケンシュタイン侯爵の”軍隊が蒸発する”という発言を聞いた者は挙手をしてくれ」


 次々に手が挙がっていく。


 ……どうやら、この場に居る全員が聞き取っていたらしい。


 エシュヴィア公王が私に尋ねた。


「君は、そんな魔法を本当に使えるのか?」


 エシュヴィア公王の眼差しを受け、嘘を言う訳にもいかず、私は観念して渋々答えた。


「……使えますが、先ほど述べたように同じ出力で放つことはできませんよ? あれは本当に死を覚悟した一発でしたので。次も命があるとは限りません」


 エシュヴィア公王が重ねて尋ねる。


「では、どの程度の出力なら安全に放つことができるのだ?」


 私は正直に「それは私にもわからないところです」と答えた。


 陛下が私に提案する。


「ファルケンシュタイン侯爵。どこまでなら安全なのか、確認してみればよいのではないか?」


 私は顔をしかめてそれに応える。


「どうやって確認するんですか? 試し打ちでも、失敗したら私は死ぬんですよ?」


「どこまでなら安全か、知ってるものが居るだろう? 君のよく知るその者に今、聞いてみてくれ」


(……陛下?)


「まさか陛下……今ここで”アレ”をやれと、そう仰ってます?」


 陛下は楽しそうに、黙って頷いた。


 私はがっくりと机に両手をついて脱力していた。


(国家機密ってなんだろう……)


 陛下の「どうした? 聞かぬのか? 東方国家の命運がかかった会合だ。是非今、聞いて欲しい」という言葉で、私はもう自棄になった。


「わーかーりーまーしーたー! 聞けばいいんでしょーっ!!」


 一声叫んだ後、目を瞑り、乱暴にイングヴェイの気配を手繰り寄せ語りかける。



(ちょっとイングヴェイ! 聞こえてる?!)


『ぶはははははははははは!!!』


 突然の爆笑を聞かされて一瞬、私の頭が停止した。


 しばらく爆笑が続いた後、楽しそうなイングヴェイの言葉が続いた。


『ああ、見ていたからね。わかってるよ。今の君なら、前回と同じ程度の出力に耐えられる。魂の格が上がったからね』


(――えっ! でもあんな大火力を人間の軍隊に向けたら、人間どうなっちゃうの?!)


『そうだな……一万人ぐらいなら、一瞬で蒸発するんじゃないかな』


(なにそれこわい)


『私の破壊の権能そのものだから、仕方ないね。あとは君次第だ。頑張りたまえよ?』



 私はゆっくりと視線を壁にそらし、両手の人差し指の指先を、胸の前でつんつんと突合せつつ、小さな声で述べた。


「えーと……一万人ぐらいなら一瞬で蒸発させる、程度の威力で撃てるそうです」


 今度はさすがに陛下も驚いて声を上げた。


「一万人?! 一個師団を一瞬で消滅させられるというのか?!」


「なんか……そうらしいです……」


 東方諸国の元首たちも呆然としていた。それはそうだろう。そんな魔法、普通は理解の範疇にない。


 人間が使える魔術や魔法は、せいぜい数人から数十人を対象としたものだ。それが常識だ。



 アウレウス王がゆっくりと私に尋ねた。


「今のは、何をしていたのだ? 誰に聞いたのだ?」


 陛下が楽しそうにそれに応える。


「これも我が国の国家機密なんだがね。彼女は古き神と会話ができるんだ。貴公らを信用して話したのだ、他言無用で頼むぞ?」


 国家元首自らの機密漏洩連発である。頭痛を覚えて、眉間を指で押さえてしまった。



(そうか、神託や古代魔法をばらす予定があったから、書記官をユルゲン兄様が務めてるのね……)


 おそらく秘密会合の議事録としても、当たり障りのない範囲しか形には残すつもりがないのだろう。それを即興で判断し適度に濁すのも、ユルゲン兄様なら容易たやすい。



 エシュヴィア公王が震える声で呟いた。


「……古き神々の叡智、か」


 陛下が頷いて応える。


「今回、帝国が用いる新兵器に使われているのも、古き神々の叡智だ。ならば、同じ叡智で対抗するのが最も有効だろう。――あとは、術者が使う気になってくれれば、今回の問題はとても簡単に片が付くと思うのだが……どうにもその気になってくれそうになくてね」


 苦笑を浮かべてこちらを流し見る陛下に、私は噛みついた。


「陛下?! 一万人消し飛ばせるなんて聞いたら、尚更人間相手に使えるわけないじゃないですか! いやですよそんな人間兵器みたいな扱い! 第一、国家機密ばらし過ぎじゃないですか?! なんでそこまでばらしちゃうんですか!!」


 陛下は笑顔で私の言葉を受け流した。


「だって、こうでもしないと君、今回は使ってくれないと思ったからね。東方国家群五十万人の命運を、君が握ってるんだよ?」


「う゛!! それを言われると痛いんですが……だからって限度ってものがあるでしょう?!」


 私と陛下のやりとりで、揶揄われている訳ではないと理解したのだろうか。元首たちの表情が真剣なものになっていった。


 その元首たちの様子を確認した陛下は「見ての通り、頑なでね。大きな力を持つことの意味を、よく理解した女性だ。だからこそ、力を使うことを躊躇っている――どうか、彼女の説得を助けて欲しい」と告げた。


 エシュヴィア公王が私に語りかける。


「君がどういう人間なのかは、私はそれなりに分かっているつもりだ。無暗むやみに力を振り回す人間ではないこともな。だが君は、それ以上に力を使うことを躊躇っているように感じる。それはなぜだろうか。聞かせてくれないか」


 私は少し考えてから、エシュヴィア公王をまっすぐ見つめて応えた。


「……帝国兵だって同じ人間です。家族も、愛する人間もいる。その兵を愛する人たちも。それを虫けらのように消し去ってしまうことができる力を恐れるのは、当然ではありませんか? 人間には過ぎた力なのです」


 次いで、アウレウス王が私に語りかけてくる。


「だが君が動かねば、最低でも東方国家数万人の命が失われる。それでもなお、力を使うのを躊躇うのかね?」


 私はアウレウス王を見据えて応える。


「敵の命より味方の命の方が尊い――そういった考え方は、わたくしにはできません。どちらも同じ命です。わたくしがこの力を使ってしまえば、それは”互いが命を懸けて生存を競う戦い”ではなくなります。相手を一方的に蹂躙するだけの、ただの殺戮となるでしょう。そのような真似は、わたくしにはできないのです」


 元首たちの眼差しを真っ向から受ける。それでも私の気持ちは揺ぎ無かった。

 


 陛下が私の横で、元首たちに語りかける。


「……彼女がどんな人間なのか、これで貴公らにも理解してもらえたのではないかな。その上でどうやったら彼女に力を貸してもらえるか、共に考えてもらえないか」


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