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第二次日露戦争  作者: 畠山健一
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20/25

樺太攻略作戦5

 中国海軍あらわる


 第三護衛隊群はサハリン1・2施設の沖合に配置され、海上を抑えている。そこへ突如として三十隻を超える大艦隊が出現した。

 レーダーに大型艦のグループが捕らえられていたが、彼らは気にも留めなかった。ロシアの太平洋艦隊は壊滅し、北方艦隊はムルマンスクに留まったまま動きはない。敵の脅威は去り、そこは海自の支配する海域だった。

 防衛省では緊急会議が招集され、遠方にいる関係者はオンラインで参加した。

「中国海軍?間違いないのか?」

 防衛大臣はオンライン参加しているイージス艦「みょうこう」艦長へ問いただした。

「間違いありません。中国海軍の北海艦隊と思われます。大型駆逐艦十五隻、フリゲート艦十七隻が確認されています」

「で、彼らの目的は?」

「無線交信で我々は中国艦隊へ退去するよう通告しました。中国側の返信ですが・・・サハリンプロジェクトのロシアと中国の契約に基づき、技術者を含む要員の上陸を要求しています」

「契約とはどういうことだ?」

「運営権が中国企業へ譲渡されたと言っています」

「馬鹿な・・・サハリンを渡すまいと、ロシアは中国を巻き込むつもりだ・・・中国も利権に飛びついたということか」

「彼らにどう返信しましょう?」

「上陸は許可できないと伝えろ」

「大臣・・・」

 統合幕僚長が口をはさんだ。

「中国海軍は武力で威圧するでしょう。ご承知の通り、我が護衛艦隊の四分の三が黒海に向い、戦力比で我々に不利です。至急彼らを呼び戻すべきでは?」

「黒海作戦を中止しろと言うのかね?」

「その作戦を主導したものが、不幸にして死亡しました。中国海軍の介入を知れば、彼も中止を進言したでしょう」

「他の者の意見は?」

 防衛大臣は海上幕僚長の顔を見た。彼は一瞬躊躇したが、言葉を選ぶように答えた。

「統合幕僚長の意見はごもっともですが、それまでの数週間を持ちこたえるのは難しいかと・・・米海軍へ支援を要請してはいかがでしょう?」

 すると防衛副大臣が異を唱えた。

「それはかえって状況を複雑にします。中国も引き下がれなくなるでしょう」

 防衛大臣は一層頭を悩ませた。

「どうしたものか・・・呉の軍師殿が生きていたら何と言ったかな」


 護衛艦「しらぬい」の艦橋が慌ただしくなっていた。急に呼び出された艦長は不機嫌な顔で艤装員長に尋ねた。

「何事だ?」

「司令部から緊急命令です。北上して第三護衛隊群へ合流せよ、と」

「何だって?また無意味な地上砲撃でもしろと言うのか」

「違います・・・中国海軍が現れました。大艦隊のようです」

 あらましを聞いた艦長は、すぐに艦長室に戻って幕僚長に報告した。

「・・・そういうことで、本艦は全速で現地に向かっています」

「面白くなってきたじゃないか。今度は奴らを怒らせてみるか?」

「冗談はやめてください。この件で防衛省はかなり浮足立っているようです」

 幕僚長は手帳にメモ書きを始めた。単なる英数字の羅列で、艦長には全く意味が分からない。

「何を書いているんです?」

「緊急指令コードだ。私は潜水艦隊に直接指令を出すことができる。近くに第二潜水隊群の五隻がいるはずだ」

「あなたは死んだことになっていると言われました。そのコードは有効なのですか?」

「私が本当に生きている限り有効だ。そういうシステムになっている。これは限られた一部の者しか知らない最高機密だ」

「では私は見なかったことにしましょう。で、五隻の援軍ですか?相手は三十隻を超える大艦隊ですが・・・それにしても、今まで傍観者だった中国が何故突然動いたのでしょう?」

「ロシアの要請だろう・・・」

 書き続けながら幕僚長は言った。

「中国とてロシアとの友好関係の建て前上、無視するわけにはいかない。それよりも日本が勢力を広げるのを阻止したいはずだ。問題は彼らの本気度だ・・・」

 幕僚長は書き終わったページを引きちぎって艦長へ手渡した。艦長は急いで電信室へ向かった。


 日中双方の艦隊はお互い引き下がるわけにもいかず、にらみ合い状態が続いている。艦船の数では中国側が日本側の倍以上と圧倒している。中国側は駆逐艦とはいえ、一万トンを超えるものもあり、日本側より大型艦が揃っている。

 第三護衛隊群はサハリン沿岸を背後に、前面を中国艦隊に抑えられ、追い詰められた状況にあった。

 強気になった中国艦隊は、さらに高圧的な態度に出た。

「貴国は我が国の資産を不法占拠している。地上部隊及び全ての艦船の即刻退去を要求する。応じなければ総力を挙げて実力を行使する」

 交信内容は防衛省の会議室にも中継されている。

「空自はいつでも出撃できます」

 オンライン参加していた航空幕僚長が発言した。統合幕僚長は慌ててたしなめるように言った。

「中国と戦争を始めるつもりか?冗談じゃない、ロシアだけで手一杯だ」

「引き下がれとおっしゃるんですか?ここを手にするのにどれだけ犠牲を払ったかお忘れですか?連中のひと言で引き渡すなんて・・・」

「そんなつもりはない」

 防衛大臣は即座に否定したが、中国との戦争は論外だと思っている。

「ともかく相手は大軍だ。刺激しないようやんわり拒絶し、時間を稼いで様子を見るしかない。本当に攻撃してきた時は・・・覚悟を決めるしかない」

 それはもうひとつの戦争の始まりを意味していた。

 早朝から始まった日中のにらみ合いは膠着状態のまま既に正午を過ぎていた。

「貴国とロシアの契約なるものを我々は把握していない。今、本国と照会している」

「みょうこう」艦長は適当に交信して時間を稼いでいた。しばらくして中国側から回答の催促があると、更に間をおき、間の抜けた返信をした。

「本国の政府は契約を把握していない。我が国の首相が貴国の国家主席へ問い合わせるだろう。一週間か一か月かかるか分からない」

 業を煮やした中国艦隊は、とうとう最後通告をしてきた。

「議論の余地はない。全ての地上部隊と艦隊の退去に一時間の猶予を与える。一時間後に我々は実力を行使する」

 その時、一隻の海自護衛艦が中国艦隊の背後から接近していた。「しらぬい」艦長は幕僚長を艦橋へ案内した。

 将官の姿を見た艤装員長たちは慌てて敬礼した。

「このお方は訳あって正体を明かせない。軍師殿とお呼びするように」

 艦長の紹介に隊員たちは不思議そうな顔をしながら一礼した。幕僚長も敬礼で応えた。

「優秀な君たちと仕事ができて光栄だ」

 ひとこと言うと幕僚長は双眼鏡で中国艦隊を観察した。

「連中に発光信号で呼びかけることにしよう」

「発光信号ですか?」

 艤装員長は驚いて問い返した。

「こちらに注意を向けさせる。最後通告を送るのは我々だ」

「分かりました。それで内容は・・・」

「貴国の艦隊は包囲されている。三十分以内に退去せねば全艦撃沈する」

 モールス符号を用いた発光信号が中国艦隊に向けられた。数隻がくるりと向きを変え、「しらぬい」と対峙した。

「見ろ、たった一隻の我々をあざ笑っているか、大口をたたく我々に腹を立てているかのどちらかだ」

 面白そうに言う軍師を除き、艦橋の隊員たちは緊張の顔で見守っている。

 十五分が経過した時、中国艦隊は何かに気付いたように、動きが慌ただしくなった。横に広がっていた艦隊が密集しはじめ、円陣を組むような隊形になっている。

「軍師殿・・・一体何が始まろうとしているんです?」

 艦長はその異様な光景を見ながら尋ねた。

「中国海軍の弱点は対潜能力だ。探知能力が劣っていることを彼らも知っている。今、潜水艦が意図的に探知されたところだ」

「潜水艦がここへ?あなたが命じた例の五隻ですね・・・しかし中国の連中がここまで慌てるとは・・」

「探知能力の低さ故に使えるトリックだ。潜水艦からばらまいた改造囮魚雷をコントロールすることで、連中は五隻ではなく五十隻に囲まれていると信じ込んでいる」

 中国艦隊にまた動きがあった。単縦陣体形になったかと思うと、全速で一方向に向っている。

「そう、そっちの方角だ。素直な連中だ。包囲の輪にすきまを作っておかないと逃げてくれない。長引くとトリックがばれる危険性もあるからな」

 幕僚長は、まるで中国海軍と潜水艦の試合の解説者のようになっている。

 中国艦隊は一直線になって南へ向かって行った。そしてそのまま見えなくなった。一部始終を見守ってた第三護衛隊群は、ホッとしたように戦闘配置を解除した。

 日は沈みかけ、長い一日が終わろうとしていた。

「ロシア太平洋艦隊の大半が、深夜の潜水艦隊の攻撃で撃沈されたことも彼らは知っている・・・我が海自の優秀な潜水隊群の存在は、当分の間中国への抑止力になるだろう」

「呉の軍師」は最後の解説をして艦橋を後にした。

 中国海軍はその後二度と現れなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] どうせなら中国海軍を全滅させるほうが良かったけど
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