ノーヒットノーラン、達成間近のプレッシャー
プロ野球の試合中、先発投手は緊張していた。
今のところ、ヒットもホームランも打たれていない。
あとは、八回と九回を残すだけだ。
ここまでくると、どうしても意識してしまう。
もしかしたら、狙えるかもしれない。「ノーヒットノーラン」という大記録。
投手は長めの息を吐いて、気持ちを落ち着かせようとする。
これまでノーヒットノーランに挑んできた投手たちも、このプレッシャーと戦ってきたのだろうか。
ちらりと周囲を見る。
一塁にランナー。
二塁にもランナー。
三塁にもランナーがいる。
さっきの回も、そうだった。
各塁にいるランナーは、相手チームのユニフォームを着ている。が、どれも昔のユニフォームだ。
彼らはすでに亡くなっている。球界のレジェンドたち。
元いたチームの窮地を救うためか、ああいう形でプレッシャーをかけてきている。
あの三人のランナー、他の人間には見えていないらしい。
そのせいで、投手は孤独な戦いを強いられていた。他の投手たちも、ノーヒットノーランの達成間近になると、これと同じ光景を見てきたのだろうか。このプレッシャーは異常だ。
しかし、記録達成に必要なアウトは、残り六つ。
(とにかく、今は集中しないと)
八回は守備陣の助けもあり、どうにか三つのアウトをとることができた。あとは九回を残すのみだ。
味方の攻撃が終わり、いよいよ勝負のマウンドへと向かう。
すると、やはり出現した。
一塁にも、二塁にも、三塁にも、ランナーがいる。幽霊たちによる、ノーアウト満塁。
とはいえ、さっきの回で経験済みだ。
この状況にも少しは慣れてきたと思うので、
(これなら、いけるかもしれない)
記録達成を確信した時、おかしなものが目に入る。
(何だ、あれは)
相手チームのベンチ前だ。新たな幽霊たちが出現している。
その顔ぶれに、投手はうめいた。
着ているユニフォームは、相手チームのものではない。こちらのユニフォームだ。ただし、どれも昔のユニフォーム。
かつてノーヒットノーランの間近までいったが達成できなかった、そんな大先輩たちが出現していた。いずれも故人である。
大先輩たちが広げている横断幕には、「バーカ、バーカ、お前なんか打たれてしまえ!」と書いてあった。
まさか、こんなものが見えるなんて。
投手は頭痛がしてくる。これが、ノーヒットノーランのプレッシャーなのか。
それでも、そこから先、二つのアウトをとることができた。
(あと一人)
まだ球の威力はある。腕もしっかり振れている。だから、たぶん大丈夫だ。
そして、投球動作に入る。
その瞬間、投手は「あること」に気づいてしまった。もしも、ここでノーヒットノーランを達成できなかったら・・・・・・。
思わず動揺する。自分も死後、あんな風に横断幕を掲げて、未来の後輩たちに嫌がらせをするようになるのか!?
余計なことを考えたために、指先が滑ってしまう。
(しまった!)
はたして、ボールの行方やいかに・・・・・・。
次回は「新商品を考える会議」のお話です。




