犯人逃走
コンビニ強盗が店を飛び出して、一直線に逃走していく。
遠ざかっていく背中を見ながら、元プロ野球選手の俺は、うっすらと笑みを浮かべていた。
現役を引退したあとは、コンビニを経営している。その店がたった今、強盗に襲われたのだ。
俺はバックヤードにいて、発注業務に集中していた。それでコンビニ強盗に気づくのが、遅れてしまったのだ。
レジにはバイトの女の子しかおらず、彼女はマニュアル通りの対応をしたらしい。お金は奪われたものの、怪我はないようだ。
「オーナー、お願いします!」
蛍光オレンジのカラーボールを、バイトの女の子が横から渡してくる。
命中すると、ボール内部の特殊な塗料が飛び出すという「防犯グッズ」だ。
「任せておけ!」
俺は力強く告げると、勢い良く腕をふる。
コントロールには自信があるのだ。俺が投げたカラーボールは、犯人の背中を直撃した。
ところが、その直後だ。奴が素早く、レインコートを脱ぎ捨てる。
こんな晴れの日に、あんなものを着ているなんて、おかしいとは思っていたが、「カラーボール対策」だったらしい。
しかも、一着目のレインコートの下には、二着目のレインコートだ。
「オーナー、お願いします!」
俺は二球目を投げる。これも命中した。
だが、またもや犯人がレインコートを脱ぎ捨てる。
この瞬間、奴は勝利を確信したに違いない。
レジの中に普段から飾ってあるカラーボールは二つ。もうボールは飛んでこないはず、と思っていることだろう。
しかし、その考えは否定できる。
実は先日、俺はうっかり発注ミスをして、カラーボールを百個も買ってしまったのだ。でも、役に立ちそうでラッキー♪
発注ミスをした時には、「どうするんですか、こんなにたくさん」と、ぷんぷんしていた女の子が、
「オーナー、まだまだありますよ!」
蛍光オレンジのカラーボールを、ノリノリで渡してくる。
俺は投球を続けた。これでも食らえ、これでも食らえ、これでも食らえ・・・・・・。
騒ぎを聞きつけて、警察官が駆けつけてくる。犯人の前に立ち塞がると、ちょっぴり苦笑いをしつつも、簡単に制圧した。
「公然わいせつの現行犯で逮捕する!」
手錠をかける警察官。
犯人は十球以上のカラーボールを食らい、そのたびに身につけているものを脱ぎ捨てていったので、丸裸の状態だった。
次回は「今年の選手名鑑」のお話です。




