日本一の裏側で
「試合が終了するまで、この部屋からは出ないでください」
和室の中央には掘りごたつがあり、その中へと五人は足を入れる。
すでに内側は、快適な温度に保たれていた。
「みなさまは選ばれた方々です」
改めて指摘され、五人はそれぞれの反応を見せた。
当然だという顔の者もいれば、謙遜する者、まったく表情を変えない者もいる。
「それでは、最終確認をさせていただきます。このゲームの賞金は一〇〇万円」
これから始まるゲーム、その結果次第で、一〇〇万円を手にできるのだ。
ただし、ここにいる五人で、賞金を奪い合うわけではない。
五人は運命共同体だ。自分たちにできるのは、「テレビを見ること」と「応援すること」。
これからプロ野球の二チーム、『サボテンズ』と『ハニワーズ』が、「日本一」の称号を賭けて試合を行う。
で、この部屋にいる五人は、『サボテンズ』の熱狂的なファンだ。厳しい選抜試験をくぐり抜けてきた者たち。
ゲームマスターが説明を続ける。
「みなさまが応援されているチーム、『サボテンズ』が試合に勝利した場合、賞金を贈呈いたします」
五人で一〇〇万円だ。均等に分けるなら、一人二〇万円になる。
和室の中には金庫があり、扉の開いた状態になっていた。
そこに、本物の一〇〇万円が運ばれてくる。
そして、その一〇〇万円を中に収めると、金庫の扉は閉じられた。
五人の応援している『サボテンズ』が試合に勝利した時、この扉は再び開くことになる。その際、自分たちは賞金を手にすることができるのだ。
「さらに、副賞もございます。そちらにつきましては、試合終了直前にお知らせする予定なので、お楽しみに」
事前に知らされていなかった情報に、五人は目を輝かせる。『サボテンズ』が勝てば、今の一〇〇万円だけでなく、他に副賞ももらえるのか。
「逆に、『サボテンズ』が試合に敗北した場合、みなさまにはペナルティーがございます」
こちらについても、試合終了直前にお知らせするという。
そんな話を聞いても、五人の表情は明るいままだった。これから始まる試合、自分たちの応援している『サボテンズ』が、必ず勝つに決まっている。
だから、どんなペナルティーかなんて、気にする必要はない。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
ゲームマスターが退室していく。
途端に、五人は少しだけ緊張を緩めた。
といっても、和室の中には、複数のカメラが設置されている。この状況に慣れるには、もうしばらく時間がかかりそうだ。
これは、テレビのドキュメンタリー番組。
怪しげな闇の組織が主催するような、「デスゲーム」ではない。身の安全は保証されている。
この番組では、こことは別に、もう一つ部屋が用意されているそうだ。で、そっちの部屋には、『ハニワーズ』の熱狂的なファンが五人いるらしい。
もしも、今日の試合で『ハニワーズ』が勝利したなら、一〇〇万円を手にできるのは彼らの方だ。
しかし、その心配は不要だろう。
なぜなら、絶対に『サボテンズ』が勝つからだ。一〇〇万円はもらったも同然。
掘りごたつの正面には、大きなテレビが置いてある。
まだ試合は始まっていない。
この間に五人は、部屋の片隅にある冷蔵庫へと、視線を移した。
「あれってさ・・・・・・入ってるんだよね」
中身については、事前に説明されている。
「とりあえず、今の内に確認しておきましょうか」
五人は冷蔵庫の前に集まると、わくわくしながら扉を開いた。
まず目に飛び込んできたのは、大量の缶ビールだ。大きな値札シールが、どの缶にも貼ってある。
事前の説明にあった通りだ。この部屋での飲食は有料。冷蔵庫に入っているものは、「フタをあけた時点」で料金が発生する。
ビールの他にも、発泡酒や清涼飲料水、ミネラルウォーターがあった。
さらに、その奥には・・・・・・。
「これが、事前の説明で強調していたやつか」
日本酒、五万円。
ワイン、一〇万円。
シャンパン、三〇万円。
それぞれ一本ずつ、冷蔵庫の中に入っている。
この三本、安くはない。
が、賞金は一〇〇万円だ。『サボテンズ』が勝てば、余裕で黒字になる。
ならば当然、
「これ、試合の展開次第では飲んでもいい、ってことですよね?」
今回の企画、応募要項に書いてあったのだ。番組が求めている人材は、『サボテンズ』の熱狂的なファンであること。そして、お酒が大好きであること。
ここにいる五人が、『サボテンズ』の熱狂的なファンというのは間違いない。
だが、熱狂度だけを競うなら、さらに上を行く人物が一人いる。『サボテンズ』のファンなら誰もが認める、ファンの中のファンだ。
しかし、その人はお酒が飲めないので、今回の選抜試験を受けていない。
片や、ここにいる五人は、全員がお酒を飲むことができる。飲兵衛だ。
だったら当然、番組側は期待しているだろう。ここにある日本酒やワイン、シャンパンに、五人が手をつけることを。
「どうしようか?」
負けた場合は、自腹になるのだ。
試合前からいきなり三〇万円のシャンパンをあけた方が、番組的には盛り上がるに違いない。
けれども、その金額の自腹となると、さすがに躊躇する。
「もうしばらく我慢しましょうか」
高額のお酒たちに、しばしの別れを告げる五人。
そういうわけで、それぞれ缶ビールを一本ずつ取ると、掘りごたつに戻った。
酒の肴になりそうな料理を、各自一品ずつ、部屋に備えつけの電話で注文する。
今のところ、料理でも高級路線は避けておくことにした。どんちゃん騒ぎを始めるのは、『サボテンズ』の勝利がほぼ決まってからでいい。
番組スタッフが料理を運んでくるタイミングで、ちょうど試合が始まった。
五人はビールを飲みつつ、料理を味わいながら、テレビに向かって応援する。
序盤に早くも、『サボテンズ』のチャンスが来た。
五人の応援にも力が入る。
その直後に、待望の先制点だ。
「この試合、もらった!」
さらに、追加点が入る。
五人は迷わず、日本酒をあけた。
これが福を呼び込んだのか、『サボテンズ』が満塁ホームランを放つ。
五人は狂喜乱舞した。これで六点差。
五万円の日本酒に続いて、一〇万円のワインもあける。完全に楽勝ムードだ。
ところが、その回の裏に、『ハニワーズ』が反撃してくる。
まさかの満塁ホームランが飛び出した。
「おいおいおいおい!」
「もうワインあけちゃったよ!」
とはいえ、まだ二点リードしている。
が、次の打者にも、ホームランを打たれた。一点差に詰め寄られてしまう。
試合の勝敗がわからなくなってきた。
もしも、『サボテンズ』が負けたら、十五万円以上の自腹になる。
こんなことなら、日本酒とワインをあけなければ良かった。
そう後悔しても、もう遅い。
「ひとまず、料理の注文は抑える方向で」
「柿ピー以外は禁止?」
「いや、まだ勝っているんだし、そこまで節約しなくても・・・・・・」
相談の結果、唐揚げを注文した。
しかし、次の回だ。『ハニワーズ』の攻撃中。
届いたばかりの唐揚げが、五人の口から同時に、ポトリと落下する。
相手の連打で、ノーアウト満塁。
五人は阿鼻叫喚の一歩手前だった。こうなると、一点差のリードなんて紙クズのよう。
一万円札が何枚も、お空の彼方へ飛んでいく。そんな映像が、頭の中で再生されまくる。
「お前ら、日本一になりたくないのか!」
テレビの中にいる『サボテンズ』の選手たち、彼らに向かって必死に叫んだ。
「代えろ! そのピッチャーはもう駄目だ!」
「監督、この試合を捨てる気か!」
そんな叫びが届いたわけではないだろうが、ここで『サボテンズ』がピッチャーを交代する。
「よしよし」
厳しい場面だが、中継ぎエースを出せば、何とかなるはず。試合終盤まで温存しておきたかったが、この展開では仕方がない。
が、コールされたのは、別の投手だ。
「違う、そいつじゃない!」
「やめとけ! 絶対に打たれる!」
「あーあ、クソ監督のせいで、大事な試合が滅茶苦茶だよ!」
ところが、予想に反して、この交代は大成功だった。ノーアウト満塁にもかかわらず、相手に一点もやらなかった。
大ピンチを切り抜けて、しかも、まだリードしている。安心すると同時に、笑顔を取り戻す五人。日本酒とワインで、楽しい酒盛りを再開だ。
どんちゃん騒ぎをしていると、番組スタッフがやって来た。
「差し入れです。監督の顔写真です」
スタッフが持ってきたのは、A4サイズのカラー写真で、額縁に入っていた。勝った試合のあとに撮ったもののようで、監督は自信満々の表情をしている。
それを部屋の目立つ場所に飾ると、その前で五人は正座をした。
深々と頭を下げる。
先ほどは「クソ監督」などと、大変失礼なことを言ってしまい、本当にごめんなさい。あなたは偉大です。このまま日本一へと、我ら『サボテンズ』ファンをお導きください。
そんな内容を、五人で唱和する。
「じゃあ、さっきの反省は、このくらいでいいか」
正座をやめると、掘りごたつへ戻り、試合観戦を再開する。
すでに次の回に入っており、またもや『ハニワーズ』の攻撃中だ。直前の『サボテンズ』は、三者凡退だったらしい。
ここで『サボテンズ』が、ピッチャーを交代する。
さっきの回は継投がうまくいったし、この回も大丈夫だろう。
ところが、そんな望みは数分で砕け散った。
相手チームの快音が止まらない。
交代したばかりの投手が連打されて、あっさり同点に追いつかれた。
さらに、逆転のランナーがホームに帰ってくる。
それを目にした直後、五人の一人が無言で立ち上がった。
監督の顔写真を壁から引っ剥がすと、裏返しの状態にして、部屋の隅に放置する。
他の四人から、反対の声は出なかった。
クソ監督の采配ミスで、逆転されてしまったのだ。このくらいは当然。
なおも『ハニワーズ』の猛攻は続き、三点差をつけられてしまう。
五人は怒りを込めて、ビールの空き缶を握り潰した。
この三点、ここまでの試合展開を考えると、絶望的な点差に思える。
もう一つの部屋では今頃、『ハニワーズ』のファンが、三〇万円のシャンパンをあけているに違いない。
「あーあー、つまんねー」
「チャンネルを変えたいけれど、それは番組のルール上、駄目なんだっけ」
「だったら、いいものがありまーす。こっそり持ち込んでおいて良かった」
「おっ、『UNO』じゃん」
「やろう、やろう」
野球観戦そっちのけで、五人は『UNO』を始める。
「最後の一枚になった時に言うやつ、『UNO』じゃなくて、別のにしようぜ。今年のオフに補強したい、『他球団の選手』でどうよ」
「お、いいね。ぜひとも、いい中継ぎを数人、補強してもらわないと」
しばらく遊んでいると、番組スタッフがやって来た。
「これは没収します」
五人はブーイングをしたが、番組スタッフは意に介さない。
代わりに置いていったのが、将棋セットだ。
五人は「崩し将棋」を始める。
山積みになった将棋の駒を、指先で自分の方へと寄せていく遊びだ。この時、音を立ててはいけない。
そうやって十分少々。
ガタッ!
大きく山が崩れた。
が、誰も気にしない。この時、五人の視線はすべて、テレビの方へと向いていた。
ついに出たのだ、『サボテンズ』主砲の一発!
強烈な打球が一直線に、外野スタンドへと突き刺さった!
しかも、嬉しいことに、ホームランが着弾したのは、『ハニワーズ』ファンが大勢いる場所だ♪
それまでの鬱憤を晴らすべく、五人は応援を再開する。
「ここから反撃だー!」
「たかが二点差! 追いつき、追い越せー!」
「『ハニワーズ』の投手をボコボコにしろー! 八ーつー裂ーきーだー!」
「ハニワは古墳に埋まってろ!」
もはや、「崩し将棋」などどうでもいい。
五人は声を張り上げて応援する。
ファンとしての勘が告げていた。
ここが勝負どころだ。出し惜しみしている余裕などない。
今はただ、全力あるのみ! ファンの声で、『サボテンズ』を後押しするのだ! 日本一へと駆け上がれ!
さらに、二人の選手が出塁した。
とはいえ、その直後にツーアウト。
この場面で、代打がコールされる。
ベンチが送り出したのは、若手の一人だ。シーズンの打率は一割弱。
「違う! そいつじゃない!」
五人は同時に叫んだ。もっと打てる選手がいるだろうに、どうして、こいつなんだ!?
テレビに映る監督に向かって、思いつく限りの罵声を吐きまくる。
が、数秒後に快音が飛び出した。ボールは外野スタンドへと吸い込まれていく。
まさかのホームランだ!
三人の選手が立て続けに、ホームベースを踏んでいく。
これで三点追加だ! ついに追いつき、追い越した! 一点のリード!
「ざまーみろ、『ハニワーズ』! 身のほどを思い知れー!」
華麗な逆転劇に興奮した五人は、やんややんやの大喝采だ。
少し落ち着いてくると、一人が言う。
「あ、やべ。あと一点まで迫ったところで、俺たち『UNO』って言ってねーよ♪」
他の四人もにこやかだ。
「あははは。ホントだ、言ってない♪」
「ホームランでの三点追加だし、言う暇なんて、ほとんどなかったでしょ♪」
これが勝っている側の余裕である。
ああ、『ハニワーズ』のファンがいる部屋に、今の最高の気分を自慢してやりたい♪
五人は監督の顔写真を再び飾ると、その前で土下座をした。
「さっきは色々言って、ごめんなさい」
よし、反省終了♪
新しい缶ビールを冷蔵庫から出して、五人は乾杯する。食べ物も追加注文だ。
とはいえ、さすがに学習しており、高いメニューは避けておく。まだ試合が終わったわけではないのだ。リードは一点。高いメニューもそうだし、このタイミングで、三〇万円のシャンパンをあけるのは危険すぎる。
ビールを飲みながら、一人がつぶやいた。
「試合が終了した瞬間に、シャンパンをあける。それって、ありなんだっけ?」
番組スタッフを呼んで、確認しておく。勝利が見えてきた今、こういうことは重要だ。
「ゲームセットのあとでは駄目ですね。アウトです」
「じゃあ、ゲームセットと同時は?」
「それも駄目ですね。番組のルール上、同時はアウトとみなします。ですが、ほんのわずかでも、ゲームセットの前ならセーフです」
五人は顔を見合わせてうなずく。
つまり、試合終了まで残り一アウトになった時点で、シャンパンを用意。
相手選手が打ち損じた瞬間に、栓をあければセーフだ。これでいこう。
そして試合は、九回裏まで来た。
一点差で『サボテンズ』がリードしている。あとは、スリーアウトをとるだけだ。
固唾をのんで見守る五人。
この大事な場面で、ゲームマスターがやって来た。
「それでは、副賞を発表します」
そう言えば、そんなものがあったな。五人は思い出す。
「試合終了までに飲食した分が、すべて無料になります」
ゲームマスターの言葉に、部屋の空気が一変した。
「じゃあ、ここにあるワインや日本酒も?」
「『サボテンズ』が勝った場合は、無料になります」
「じゃあ、これから三〇万円のシャンパンをあけても、無料になる?」
「試合終了前でしたら、無料になります」
思いがけない副賞に、五人は大喜びする。この部屋での飲食分を、賞金の一〇〇万円から払わなくても済むのだ。
「やったね、一人二〇万円ずつの山分けだ。『サボテンズ』のファンで、本当に良かった♪」
「で、負けた場合のペナルティーですが」
ああ、そう言えば、そんなものもあったな。勝っている今、正直どうでもいい。
「もう片方の部屋の飲食代を、番組に対して払っていただきます」
つまり、試合に負けたチームのファンは、自分たちの飲食代に加えて、相手チームのファンが飲み食いした分まで、自腹を切らなければならない。
「それ、最高じゃん!」
こっちの飲食代が無料になるだけでなく、『ハニワーズ』のファンに押しつけることができるのだ。
「というわけで、料理に関しては、現時点で注文を打ち切らせていただきます」
「えー、伊勢海老とか、アワビとか、神戸牛とか、注文させろよ」
これに対して、ゲームマスターは穏やかな口調で、
「相手も同じプロ野球ファンです。情けをかけるべきかと。それに、まだ一点差です。ここから逆転される可能性も」
「ないっ! 絶対にないっ!」
きっぱり断言する五人。
「とにかく、料理は駄目です。安くて美味しい柿ピーであっても、駄目です」
「じゃあ、飲み物は」
「どうぞ、ご自由に」
そう言うと、ゲームマスターがつけ加える。
「ただし、大事なことをお忘れなく。大勢のプロ野球ファンが現在、この番組を見ています。あまり、やりすぎない方が」
「でもさ、そいつらのほとんどって、リーグ優勝できなかった球団のファンでしょ?」
五人の一人が笑いながら立ち上がる。
カメラの一台に顔を近づけると、
「うぇーい、見てるー? こっちは今、最高の気分! そっちの気分、どんな感じー?」
これでむかつく奴は、もう片方の部屋、『ハニワーズ』ファンの映像を見ていればいいのだ。
この番組は、そういう番組のはず。日本一を争う舞台で、負けているチームのファン、その絶望ぶりを、リアルタイムに見て楽しむ番組!
「あのさ、この副賞とか、ペナルティーとかって、『ハニワーズ』ファンの部屋も知っているの?」
「はい。もう一人のゲームマスターが現在、こちらの部屋と同じ説明をしています」
じゃあ、向こうの部屋では今頃、お通夜同然になっているに違いない。
「『ハニワーズ』の方って、日本酒とかワインとかは、どんな感じ?」
手帳を開きながら、ゲームマスターが答える。
「えーとですね・・・・・・両方とも、あけていますね」
歓声を上げる五人。バカめ、ざまーみろ。
「ひょっとして、三〇万円のシャンパンも」
「そちらには手をつけていません。その前に、『サボテンズ』が逆転したので」
ちっ、惜しい。シャンパンをあけていたら、最高に面白かったのに。
「ですが、伊勢海老とアワビを注文していますね」
「うわー、かわいそー♪ さいこー♪」
「しかも、二つずつですね」
五人は爆笑した。バカが調子に乗るから、こういうことになるのだ。
「良かったね、美味しい物を食べることができて。でも、自腹だけどね♪」
今の説明の間にも、試合の方は進んでいる。
すでにツーアウトだ。
「じゃあ、このシャンパンで、とどめといこうぜ!」
とはいえ、一塁にランナーがいる。
ここでホームランを打たれるようなら・・・・・・。
したがって、シャンパンの栓をあけるのは、ギリギリまで待つ。
相手選手が打ち損じるのを、全力で祈った。
最後のアウトが成立する、その直前にシャンパンをあけるためには、三振よりも、高々と上がる外野フライの方がいい。
そして、その願いは現実になる。
五人は一斉に立ち上がった。
どう見ても、ホームランになるには飛距離が足りない。これなら、センター定位置のすぐ前だ。
勝った!
このタイミングで、素早くシャンパンをあける。三〇万円追加でフィニッシュ!
ところが、そこで信じられないことが起こる。
センターの選手が落球したのだ。
「うぎゃあああああああ!」
部屋中に轟く大絶叫。
落としたボールへの対応が遅れている間に、『ハニワーズ』の一塁ランナーが生還する。この土壇場で同点に追いつかれ、五人は発狂寸前だ。
ここでゲームマスターが告げてくる。
「まだ試合中ですので、飲食代に三〇万円が追加されます。でも、この試合に勝てばいいんですよ。さあ、明るく元気に、『サボテンズ』を応援しましょう!」
そのあと、少しだけ申しわけなさそうな顔をして、
「ところで、そこのカメラに向かってもう一回、さっきの『うぇーい』をやってもらいたいのですが。たぶん視聴者さんたちが見たがっていると思うので。これは、そういう番組ですから」
次回は「伏線」のお話です。




