今日は総力戦でいく
序盤から相手チームに先制された。
なおも満塁なので、先発を早々とあきらめる。監督は投手交代を告げた。
昨日までの六試合は、三勝三敗だった。今日の試合に勝利したチームが、今年の日本一になる。
試合前のミーティングでは、選手たちに伝えていた。「今日は総力戦でいくぞ」と。
監督は帽子を取ると、グラウンドに向かって一礼する。
それからベンチの裏へと下がっていった。
すぐに場内アナウンスが流れる。
「監督の交代をお知らせします」
予想外のことに、野球場の観衆はどよめいた。
リーグ優勝を果たしたチームの監督が、日本一を決める試合中に交代?
しかし、これこそが、今日の試合に勝つための秘策だった。
プロ野球には、さまざまな監督がいる。攻撃的な作戦を得意とする監督もいれば、守備的な作戦を得意とする監督や、選手を鼓舞するのがうまい監督もいる。
それで球団上層部は考えたのだ。監督を一人に固定するのではなく、試合の状況に合わせて、監督を交代させるという秘策。その場面で最適と思われる人物に、チームの指揮を任せるのだ。
当然ながら、反対の声は少なくなかった。
監督が一人なのには、ちゃんと理由があるのだ。日々の試合で、ころころ監督を交代させていては、味方ベンチが混乱する。
だが、今日の試合に限っては、他の試合と違うのだ。悲願の日本一がかかっている。
すでに球団上層部は覚悟を決めていた。この試合に勝つためなら、できることは何でもするつもりだ。今日は総力戦でいく!
場内アナウンスのあと、ベンチの奥から新しい監督が登場した。
捕手出身の監督で、打者の読みを外す配球術に長けている。いくつかの弱小チームを率いて、戦力以上の結果を出してきた人物だ。
この監督交代が成功する。
一球ごとに細やかな指示を送り、これ以上の点数を相手チームに与えることなく、満塁のピンチを切り抜けた。
そのまま試合が進んでいく。味方はなかなか点を取ることができない。
五回が終了したところで、
「監督の交代をお知らせします」
球団上層部は勝負に出た。攻撃的な作戦を得意とする監督を、この場面で投入する。
これがずばり的中し、ついに同点へと追いついた。
後続の打者が倒れたため、一気に逆転とはいかなかったものの、試合を「ふり出し」に戻すことができた。
ところが、その直後だ。相手チームにホームランが飛び出した。
まさかの伏兵による一発。この選手はプロになってこれまで、ホームランを一本も打っていなかったのに・・・・・・。
ランナーが二人いたため、いきなり三点差になってしまった。
小さな油断が招いた致命傷。日本一になるのは、もはや叶わぬ夢なのか。
いや、まだだ。最後まであきらめない。
こんなこともあろうかと、最強の切り札を用意していた。
それを今こそ使う時!
「監督の交代をお知らせします」
ベンチの奥から登場してきたのは、中学生の女の子だった。
彼女には試合開始から今まで、別室に待機してもらっていたのだ。
なお、この女の子はファンの一人にすぎないので、野球の采配については、ずぶの素人だ。
しかし、彼女には圧倒的な「実績」があった。この女の子が球場で観戦した試合は、これまで全勝しているのだ。十点差から逆転した試合もある。
まさに守護神。最後の砦だ。
ここから先、ぜひとも監督として、ベンチという特等席から観戦してもらいたい。
たかが三点差だ。彼女の力を持ってすれば、この逆境、きっと跳ね返せるはず。
そして始まる味方の反撃。
日本一に向けて、ここから奇跡の大逆転が始まる・・・・・・?
次回は「大雨」のお話です。




