優勝パレードに参加してみませんか
ある球団がリーグ優勝をして、日本一も達成した。
その優勝パレードを間近に控えた時期、監督の出演するCMが話題になっていた。
「みなさんも優勝パレードに参加してみませんか」
なんでも、パレードの最後尾を走る車両の上部に、特殊な全方位カメラを設置。そうやって撮影した映像を用いて、優勝パレードを「仮想空間で体験できる」というものだ。
球団ファンクラブの会員だけが、このサービスを楽しむことができるそうで、
「選手たちとほぼ同じ目線で、優勝パレードを体験できます!」
CMを見て興味をもった人は、思いのほか多く、球団には新規会員の申し込みが殺到した。
ただし、このサービスを受けることができるのは、一つの会員番号につき一回のみ。
自宅のテレビやパソコンで楽しんでもいいのだが、せっかくだからと本拠地球場に行き、最先端の設備が整った専用ブースで体験したい、というファンも少なくなかった。
そんな中、ある男が悩んでいた。
他球団の選手で、所属しているチームは今シーズン最下位だ。これまでのプロ野球人生において、優勝とは縁がなかった。当然、優勝パレードも未経験だ。
その選手は不安になってくる。ひょっとして、自分は優勝パレードを一度も体験しないまま、現役を引退することになるのかも・・・・・・。
そう考えると、このチャンスは見逃せなかった。ライバル球団のものとはいえ、選手目線の優勝パレードを、仮想体験できるのだ。どんなものなのか、ぜひとも試してみたい。
妻に相談して、自分の代わりに、新規会員に申し込んでくれるよう頼んでみた。
こうして別人名義ではあるものの、ファンクラブの入会手続きが済んだ。
この時点で、すでに実際の優勝パレードは行われており、仮想体験のサービスは始まっている。
さっそく自宅の大型テレビで試してみると、
(やべぇ!)
始まって数秒で、ものすごく興奮してきた。
大きな道の両側には、たくさんの人がいる。誰もが満面の笑みだ。
彼らの歓声を全身に浴びながら、道の真ん中を車に乗って進んでいく。ライバル球団のレプリカユニフォームが、かなりの頻度で目に入るものの、それ以外に不満はない。
ただ一言、こいつは最高すぎる!
あの球団の選手たちは、これを実際に体験しているのか。優勝を目指すモチベーションに大きな差がつくのは、当然だと思った。
こんな優勝パレードを、もう一回体験してみたい。たとえ仮想空間でもいいから。
しかし、妻の会員番号は、すでに使ってしまった。
かといって、さすがに他球団の選手が、ライバル球団のファンクラブに入会するわけにもいかない。ゴシップ誌にでもすっぱ抜かれたら、色々と面倒なことになりそうだ。
男は悩んだ末に、一計を案じることにした。
ネット上に匿名で、次のような書き込みをしまくったのである。
あのパレードで、超有名人の○○○○がいるのを見た!
もちろん、「でまかせ」だ。
だが、すでに多くのファンが、あのパレードの仮想体験を済ませている。基本的に一人一回のサービスだ。あとから言われても、確認のしようがない。
そして、男が期待した通り、この書き込みは、大勢の模倣犯を生み出した。
世界的な大物から、あまり売れていないお笑い芸人まで、さまざまな人物の目撃情報が上がった。中には、「幽霊を見た!」とか、「ものすごいイケメンを見た!」というものまである。
けれども、すでにサービスを使い切っている者には、確認のしようがないのだ。それだけに気になる。たぶん「でまかせ」だとは思うものの、自分の目で真偽を確かめたい。
そう考えたファンの数は、決して少なくなかった。非常に多くの要望が、球団へと殺到する。「一回だけとは言わずに、何回でも体験できるようにして欲しい」と。
こうなっては、球団側も拒否しづらい。プロ野球選手でもなかなか味わうことのできない優勝パレード、その希少性を感じて欲しいと、一人一回にしていたのだが、ここにきて回数制限を取っ払った。
こうして、最初に「でまかせ」を書き込んだ選手は、妻の会員番号で何回でも、仮想空間での優勝パレードを楽しむことができるようになった。
なお、後追いで書き込みを行った模倣犯の中には、プロ野球十二球団の選手たちが結構な人数、含まれていたとか、いないとか。
めでたし、めでたし。
次回は「野球場のバイト」のお話です。




