第2話 「狂っていたのは私?」
~勇者専門エクスカリバー学園 地下実践場~
「さて君たち、いまやモンスター達は我々の奴隷、家畜、下僕、と完全なる従属関係に値すると断言しよう・・・が、いつ奴らが反旗を起こすか分からない、そのもしもの時に必要なのは君たち勇者だ!」
「「はい!」」
勇者専門学園実践教員、鬼の双剣使いのロベルタ先生は23名の生徒の前で語りかけていた、私含め生徒全員は彼女を恐れているのだろう、自然と良い返事が出た
「えー、勇者になるには戦闘が不可欠だ、だが正直、この平和なご時世にモンスターと戦う機会が中々無いというのが現状であってだな、戦闘慣れしてる生徒は少ないと思う、なので今回この実践は、その戦闘に慣れる為の訓練だと思って真剣に取り組んでほしい!」
「ゴクッ・・・」
生徒のほとんどが緊張している、それはそうだ、私たちがここに入学してから3か月、初の実践なんだから・・・
「まあ、そこまで緊張するな、今回は初めての実践という事だ、手始めにスライムと戦ってもらう、安心しろ3か月訓練した君たちなら簡単に倒せる相手だ」
それを聞いて、生徒たちは胸を撫でおろすかのように安堵をする
私「ローラ・ベルニール」を除いては・・・
最悪だ・・・勝てるとか弱いとかそういう話の前に、私はモンスターとは戦いたくないし・・・誰かの手で傷つくとこも見たくない・・・この実践は私にとって過酷すぎじゃありませんか?
入学する以前にこういう実践があるっていうのは知っていたし、ある程度覚悟はしてたけど、実際目の前にするとツラい・・・
いっそ体調不良ってことで、ここから抜け出すっていう手もあるけど・・・
いやダメだな、ママが知ったらめっちゃ怒るだろうし、ロベルタ先生も怖い、どちらにしよ、この実践を合格しないと「モンスター実践 初級」が手に入らない=次のステップを受けさせてもらえない・・・
無理だ・・・積んだ・・・
ハァー、なんで私はこんな学園に入ったんだろうなー
「浮かない顔してるな、ローラ」
「んっ?あー、レックスかー、相変わらず良い表情してるね」
「当ったりまえだろ!待ちに待った実践だぜ!この俺様の実力をとくとお披露目してやるぜ!あっ、でもスライムじゃ物足りない感じもするな、せめてウルフあたりと戦いたかったぜ!」
「・・・ふーん、そっか」
「おいおい、テンション低いな・・・こっちまで盛り下がるぞ」
「・・・・・・」「・・・・・・・」
「どうせまたいつもの事考えてるんだろ?」
「どうせって言わないでよ、私にとっては大事な事なんだから・・・」
「はいはい、サーセン、サーセン」
彼は「レックス・ロイド」私と同じクラスで剣士を目指している、クラスの中じゃ一番頭も良いし、剣士としてのスキルも高い方だと思う
そんな彼は何かと私に話しかけてくれて、たまに相談相手になってくれる
ちなみに私がこの思想を持ってることをこの学園で唯一、彼だけが知っている
「ねえレックス、私ってやっぱりおかしいのかな?」
「ローラよ、この議論は何回目だ・・・前に結論が出た筈だろう、なんだっけ、そうそうアレだ、「ローラはおかしくないけど、現状どうしようも出来ないので、目をつぶって逃げちゃお作戦」で決まっただろ!
「・・・・結局、それしかないんだよね」
「だから前から言ってるだろ!そのうちこの俺様が最強の剣士となって、いずれはお偉いさんにもなって、モンスターの待遇を変えるような立場になってやるってよ!!だからそれまで待っていてくれよ!!ローラ!」
「ハハ、どんだけかかることやら・・・・でも、アリガトね・・・」
「んっ、今なんか言ったか?」
「・・・・」バコッ
「痛っ!!なんで叩かれたの俺!?」
レックスは本当に良いやつなんだけど、たまに耳が悪くなるのが短所だ
「とりあえずローラ、どうするんだよ?この実践」
「どうするって、そりゃ・・・どうしよう・・・?」
「言っとくけど今日の担当はロベルタ先生だぞ、絶対にモンスター倒すまで終わらせてもらえない筈だ・・・「逃げちゃお作戦」は効かない!!」
「デスヨネー・・・あっ、そうだ!その剣で私を切ってよ!そうしたらさすがに実践は受けれないでしょ!」
「アホか!そんなことしたらローラだけじゃなくて俺も受けれなくなるだろうが!そしたら俺の剣士の夢もパーだ!?」
「ハハハ・・・冗談、冗談だよ」
「・・・・ふう」
「ローラ、なんていうか、そのアレだ・・・この際さ・・・」
「「「1番レックス・ロイド 前へ!!」」」
「って、早速俺かよ・・・いわゆる皆さんのお手本になれってやつか?なーんてな!んじゃ、話の途中で悪いけど行ってくるわ・・・」
「うん・・・」
「・・・・・・・・・」
「あー、やっぱり最後にローラ、本当はこんなこと言いたくはないけどあくまでローラの為に提案させて頂きたいんだが・・・」
「フフ、何よその改まった言い方?」
「これを機にスライムを倒してもいいんじゃないか?」
「え?」
「い、いや、こういう実践が今後何度もある訳だし・・・どんどん敵の難易度だって上がっていくだろうし、正直、今のうちに少しずつでも慣れていったほうが、俺は良いと思う・・・」
「レ、レックス・・・?」
「悪い・・・それだけだ、じゃ、行ってくる・・・」
「・・・・・・・」
レックスはそのまま無言でモンスターが待ち迎える壇上へと上がっていった
私はその彼の言葉で頭が真っ白になり、ただ、彼の後ろ姿を見送ることしか出来なかった・・・
_________________
____________
「うおおおおおお!!!どりゃあああああ」
「すげええええ!レックス!なんて威力なんだ!地面にくぼみが出来たぞ!」
「かっこいい!素敵だわ、レックス様!!」
レックスがスライムを豪快に叩斬った音がした・・・
周りのクラスメイトが盛り上がる中、私一人壁を見つめていた
「「1番レックス・ロイド 合格だ!とても力強い剣さばきだったぞ」
「ありがとうございます!」
「そうだ、言い忘れてたな、実践が終わった者から教室に戻って休憩や自習でも好きな事をしててもいいぞ、ほらレックスも先に戻りなさい」
「えっ、えーと・・・」
レックスは私に視線を送った、その表情は私に対してなのか少し心配そうな顔していた
「レックス?どうかしたか?言っておくが、ここに居てもらってもこれから受ける人のプレッシャーにもなるから、戻ってもらいたいのだが?」
「アハハ、そうですよねー、今戻りますよ、では失礼します」
レックスはそのまま先生の指示に従い、実習場を出ていった、去り際にもう一度視線を送ってきたが、私はおもわず目をそらしてしまった
「それでは次は2番___・・・」 「はい!!」
__________________
____________
「22番 ジョニー・フラン合格だ!僧侶ながらその杖での物理攻撃には流石の私でも驚いたぞ!剣士にシフトジョブしたほうがいいのじゃないか?」
「えへへー、そうですかー照れますねー」
最悪だ・・・これは何かの因果なのか、誰かの策略なのか
よりよってなんで私が最後なのだ・・・
「さて・・・これで最後か、23番 ローラ・ベルニール 前へ!!」
「は、はい・・・」
壇上に上がると目の前にスライムが1体いた、あちらから攻撃してくる気配はまったく見えてこない、それどころか怯えてるようにも見える
無理もない目の前で22体も仲間が殺されたら、誰だって怯えるだろう
「ふむ、ローラ・ベルニール 志望職種「僧侶」・・・志望動機「国で1番の僧侶になって「回復職」として世界中のみんなを自分の手で癒して救ってあげたいから」か・・・とてもスケールがあって素晴らしい志望動機だな」
「へっ!?えっ、なんで私のプロフィール表を!?」
おかしい、今まで実践を受けてた生徒は壇上に上がってモンスターと向かい合ったら、すぐさま先生の合図で勝負が始まっていたのに、なんで今回だけロベルタ先生は、私のプロフィール表を片手に持っているのだ?
なにかマズイ気がする・・・
「そう恥ずかしがるな、夢が大きい事に越したことはない、しかしながら今のスキルではクラスで1番の僧侶になるのさえも難しいと思うぞ、学園で学んだことを日頃から反復的に復習、訓練した方がいいな」
「・・・そうですか、分かりました、ありがとうございます」
やはりなんかおかしい、今そんなこと言うべきか?
「まあお前は勉強態度も良いし、それなりに成績も良い、それにとても優しい性格をしている、良い僧侶になれるぞ、私が保証する」
「・・・どうも」
妙に優しい、その優しさが少し不気味に感じてしまう
「だがしかし、その優しい性格が度を過ぎてしまうと、それは逆に人を傷つける時があるというのをお前は知っているか?」
「えっ?それってどういう・・・」
「さて、そんなローラ・ベルニールに問う」
「お前が救いたいというのは「人間」それとも「モンスター」どっちの?」
ドクン・・・