月食③
「よかったぁ」
と彼女は嬉しそうにつぶやく。
「なにが?」
「んー?陽がよろこんでくれて」
「別に…よろこんでなんかいないし。」
「えー。だって、きれいって言ったじゃん」
よろこんでないというのはきっと嘘だ。
こんなにきれいな月を見れて嬉しいと思っている自分がどこかにいる。
僕と彼女はしばらくただただ月を見つめて過ごした。少しするととなりからシャッター音が聞こえてきた。きっと、持ってきた一眼レフで月の写真を撮っているのだろう。
「っ…眩しい…」
突然のシャッターの光に目が眩む。
「えっへへー。
陽の写真いただき。」
と、彼女が僕を見てにししと笑う。
僕にはため息をつくことしかできなかった。
「なあ。……」
僕はおもむろに口を開く。
「君は…」
「灯」
「っ…あ…灯は、なんで僕を天文部に誘ったんだ?僕じゃなくてもいっぱい人はいただろう?」
「え?うーん。なんか、陽を見たときに、この子だって思ったんだよね。
陽なら、星を…空を好きになってくれるって思った。」
「そっか。」
彼女…灯の言葉を聞いて、僕はなんだか恥ずかしくなった。
それはどうやらむこうも同じだったらしく
「ひっ、陽‼ちょっと上向いて、目を閉じててくれるかなっ」
うわずった声でそう言われた。
「いいって言うまで開けないでね。」
と言う灯の声がなんだか近い。
すっと、前髪を持ち上げられる。
人と目を合わせるのが嫌でずっと伸ばしていた。
まさか、と思った時にはもう遅かった。
ジャキンっ
という音の後、はらはらとなにかが顔に落ちる。
いいと言われる前に僕は目を開けた。
案の定、視界がすっきりしていた。
あったはずのものがなくなっていた。
「おい。なにをした。」
なにをされたか分かっていながらあえて問う。
「なにって前髪を……」
灯の視線が僕の顔に移った途端、灯は言葉を発さなくなった。そしてみるみるうちに灯の顔が赤くなる。月に負けないくらい真っ赤だった。
「やばい…超イケメン。」
真っ赤な顔の灯が発した言葉がそれだった。
イケメン…?
いったい誰のことだろうか。
ここには僕と、灯以外はいない。
「やばい。やばいよ陽‼」
そう言って灯は僕の肩をガシッとつかむ。
人に触られるのが久しぶりな僕の肩はびくっと軽くけいれんした。
「きゃー‼陽ってこんなに格好よかったんだね!なんで今まで顔隠してたの⁇
いやー。前髪切ってよかったぁー」
今、灯の興奮ボルテージはMAXのようだった。
それにしても、イケメンというのは僕のことだったのか?
…それよりだ。前髪がなくなった今、どうやって顔を隠すのかが重要な課題だった。




