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6 中庭の昼食

 昼休みの中庭。噴水のそばに置かれた丸テーブルには白布が掛けられ、籠に詰められたサンドイッチや果物が並んでいた。


 エレオノーラが手を振ると、白髪の少年が付き人に伴われて歩いてくる。眩しい光に赤い瞳を細め、少し緊張した面持ちだ。


「こちらへどうぞ。ご紹介しますね」


 エレオノーラが立ち上がる。

「アルベルト・ヴァレンシュタイン王太子殿下、そしてエミリア・ノルトハイム公爵令嬢。……こちらが景綱・オートモ・フォルステン様です」


 少年はきちんと一礼した。

「はじめまして……。景綱・オートモ・フォルステンです。よろしく、お願い、します」


 辿々しい挨拶に、アルベルトは優雅に笑って手を差し伸べる。

「ようこそ、カゲツナ。僕たちはエレナの友人だ。君の居場所を邪魔するつもりはないよ」


 エミリアもにっこりと微笑んだ。

「ご安心くださいませ。異国の方をどうこう言うような下品な真似、わたくしたちはいたしませんわ」


 景綱は驚いたように二人を見つめ、そして小さく、ほっとしたように息をついた。付き人以外に自分の味方はいない――そう思っていた心細さが、今ようやく解けたのだろう。


 エレオノーラはその表情を見ていた。

 彼の赤い瞳が柔らかく揺れ、唇の端がほんの少し上がる。言葉はなくても、それは確かに「嬉しい」と告げていた。


 四人はテーブルにつき、ランチを分け合う。

 エレオノーラはサンドイッチを景綱に差し出した。

「これ、食べてみて。中に野菜とハムが入ってるの。ソースが特製なのよ」


 景綱は一瞬ためらい、しかし小さく頷いて一口かじった。

「……うまい」


 低く澄んだ声でそう呟く。その一言が嬉しくて、エレオノーラの表情がぱっと明るくなる。笑顔の花が咲いた瞬間、景綱の赤い瞳が彼女に引き寄せられた。

 眩しい、とでも言いたげに瞬きをし、ふっと視線を逸らす。


 ――その小さな動きを、アルベルトとエミリアは見逃さなかった。


「ねぇ君の名前、なんだったっけ」アルベルトがわざとらしく切り出す。

「カゲ……ツナ?」

「ケイカナ?」エミリアも首をかしげる。

「景綱、です」少年は真剣に言ったが、ふたりは顔を見合わせて笑う。


「発音が難しいんだよな。カーグでいいか?」

「そうね、カーグ。可愛らしい響きだわ」


 景綱はきょとんとし、ちらりとエレオノーラを見る。

 彼女はスープのカップを持ちながら、くすっと笑った。

「……ふふ、カーグ」


 少年の頬がわずかに赤くなったように見えた。


 ――ほんのわずかに近づいた距離。その小さな積み重ねが、確かな何かへと繋がっていくのだと、エレオノーラは感じていた。

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