7 不器用な賛辞
午後の特別閲覧室。
先日のランチから、いとこ同士の三人の集まりに、景綱も自然と加わるようになっていた。
静けさの中で紙をめくる音だけが響く。アルベルトは分厚い史書を開き、エミリアは小さなノートに几帳面な字で書き込みをしている。
その向かいで、エレオノーラはスケッチブックを膝に広げていた。窓から差し込む光を頼りに、淡々と鉛筆を走らせる。
白髪の少年――景綱が、興味深そうに隣へ腰を下ろした。
赤い瞳がじっとスケッチブックを覗き込む。
「……それ、君が描く?」
「えぇ。……まだ途中だけれど」
景綱は少し考え込むように言葉を探し、短く口にした。
「……良い。線……生きてる」
たどたどしいその言葉に、エレオノーラの心臓が跳ねた。
「せ、線……?」
「うん。生きてる、みたい」
真っ直ぐに告げられて、顔に熱が集まる。エレオノーラは思わずスケッチブックを閉じ、胸に抱え込んだ。
「……ありがとう」
小さく呟いた声が震えていた。
アルベルトは本から目を上げ、エミリアと視線を交わす。
ふたりは声を出さず、しかし口元に笑みを浮かべて頷き合った。
――それは、春の兆しのように甘酸っぱい空気だった。
その日から、放課後の特別閲覧室はいつもの四人の居場所になった。
本をめくる音、走る鉛筆の音、たどたどしい賛辞や短い会話。
そんな些細な出来事の一つ一つが、少しずつ彼らの距離を近づけていった。




