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19 秘密の訪問

 フォルステン邸の応接間。

 景綱は驚きと戸惑いを隠せぬまま、何度もエレオノーラを振り返った。

 頬を赤らめた彼女が「なんとなく、気恥ずかしくて訪問のこと、言えなかったの……」と告げると、ますます赤い瞳が揺れる。


 気まずい空気をほぐすように、クレメンス・フォルステン伯爵が朗らかに笑った。

「まぁまぁ。若い者には色々あるさ。今日は、侯国での話をきちんと詰めよう」


◇◇◇


 やがて景綱が席を外した時。

 クレメンスはティーカップを皿に戻すと、改めてエレオノーラに視線を向けた。


「エレオノーラ嬢、景綱に良くしてくれていると報告を受けているよ。ありがとう。私からもお礼を言わせてくれ」


 突然の言葉に、エレオノーラは少し驚き、慌てて首を振った。

「そ、そんな……。わたしなんて、大したことは……」


「いやいや。あの子が学園で孤立せずにやれているのは、君のおかげだろう」

 クレメンスは目を細め、遠い記憶を語るように続けた。


「ある日、帰ってきた船の船長が震えながら報告してきたんだ。

 “大変な素性の子どもを乗せてしまった、大金も受け取ってしまったが、あまりにも子どもが可哀想で引き受けてしまった”とね。


 私も慌ててエドワード殿下と、そこのアウル様に相談したんだ。

 そうしたら二人とも気軽に“養子にしてやればいいじゃないか”なんて言うんだよ。まったく、人ごとだと思って」


 アウレリウスは苦笑し、短く肩をすくめた。

「ははは。でも、いい子だし、養子にして良かっただろう?」


 クレメンスは笑いながらも、軽く首を振った。

「結果論だろ? この異国人差別がまだまだ残る王国でやっていけるのかと、心配していたんだ。

 でも……どうやら杞憂だったみたいだな」


 伯爵は柔らかな声で結んだ。


「――これからは、君次第だね」


 その言葉は穏やかだったが、確かな重みを帯びていた。

 エレオノーラは胸の奥で静かにその響きを反芻した。

 もしも、前作「王女と侍従の記」を読まれている方がいたら違和感があると思いますので、補足します。


「王女と侍従の記」に登場したクレメンス・エルドリッジとクレメンス・フォルステンは同一人物です。彼は子爵家嫡男でした。より大きな商船を持つフォルステン伯爵家のご令嬢とご縁があり、子爵家は弟に譲り、クレメンスが婿入りして伯爵になった形です。番外編で書こうと思った設定でしたが、没にしてしまったので、宙ぶらりんに……。

 景綱の後ろ盾になるにあたって、爵位はそれなりに高くないと景綱が大変そうだなと思って設定だけ生かしました。

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