首を傾げる
プルルルル...。
突然、ネヒターの携帯に電話がかかってきた。
私はこの世界にスマホのようなものがあることを初めて知った。固定電話は知ってたけど。
「はい。もしもし。ネヒターです。あ。そうですか。はい。はい。失礼します」
「何の電話やったん?」
不思議そうにネヒターを見つめるアスターニー。私も何の電話か気になった。
「ブランガン捕まったって」
「あれ?神出鬼没じゃなかったの?」
私はぽろっと思ったことが口に出た。
「僕もそう思うよ。なんか面白みがないよね。神出鬼没って何だったのさ」
ネヒターは同じことを思っているようだ。
「どうやって捕まったんや?」
「それ私も知りたい」
「なんか、電話をくれた人が言うには、自ら交番に来たらしい」
「自首?自首やんそれ」
「いや。別に自首しにきたわけじゃないらしいよ」
「どう言うことなん?」
アスターニーは一周してしまいそうなくらい首を傾げている。
「なんか、交番の人が言うには、交番の扉開けて入ってきた時の第一声が『あの件についての新しい情報入手しました』だったらしいよ」
頭の中で情報を整理した。
「ということは、ブランガンはまだアスターニーに容疑がかかっていると思ってて、自分に犯人の容疑がかかっているとも知らずに、警察にホラを吹こうとして交番にのこのことやってきたってこと?」
「シオリの言う通りだ。そう言うことになるね」
私はアスターニーと目があった。思っていることは同じだ。
私たちはネヒターの方を見て言った。
『アホじゃね?』
するとネヒターも強く頷きわたしたちを見て言った。
「紛れもないアホだ」
いいのか?この事件。こんなふうに幕を閉じて。
「なんだ。ブランガンがアホすぎて面白みがないじゃない」
「シオリは被害者なんやから、喜ぶべきやと思うんやけど」
「あなたにはわからないと思うけど、いろいろあるのよ。いろいろね」
アスターニーは首を傾げていた。伝説のナンパ師は察しが悪い。
* * * * *
数日後。犯人はブランガンで確定した。犯行動機も前、ネヒターが言っていたことと同じだった。
嘘の噂を流すことはこの国では重罪に当たるので、結局、禁錮10年の判決が下された。
「いやー。よかったですよ。犯人が捕まって。ねぇ、シオリさん」
唐揚げを片手に、お店にやってきたニコライさんはニコニコしていた。
「疑いが晴れてよかったです。私生活にも影響があったと思いますし」
「影響ねぇ...。仕事が少し減ったねぇ。悪い噂が出るとすぐに関係を断ち切って、私関係ないですよアピールする会社はすぐ噂を信じてしまうということだから、そこからの仕事の依頼を引き受けるのはやめようと思うよ。ハッハッハッ!」
随分とご機嫌だ。私もこのくらい割り切れた人になれたらな、なんてニコライさんを見て思った。
「じゃあ。疑いも晴れたことだし、これからもよろしくね。じゃあ!」
「はい!ありがとうございました」
ニコライさんはいつも通り、片手をひらっとあげてお店を出て行った。久々のニコライ式あいさつにテンションが上がった私がいた。
* * * * *
「ベラさんがニコライさんの噂を話した日から、お店やってなくて少ししょんぼりしてたけど、誤解を解くためにいろいろしてたって聞いて納得したよ」
「ほんと大変だったんだから」
久しぶりにサーシャを見たけど、やっぱりかっこいいな。改めてどれだけかっこいいかを思い知らされる。
「まあ、噂って知ってたからそこまで気は病まなかったけど」
「ニコライさんは常連さんだけど、お客さんとそんな関係を持つことはないよ」
「...そうか」
「そういえば、少し前にサーシャに腹パンしたこと覚えてる?」
「あぁ、あったね。覚えてるよ」
「あの時、周りのお客さんギョッとしてて面白かった」
「そりゃこの国の皇子だからね」
「あんた、サーシャ様殴ったことあんの?」
サーシャの背後からベラがぬっと出てきた。
「おお!ベラだ!久しぶり」
「久しぶりじゃないよ。皇子に何してんの」
「僕は気にしてないからいいよ。何なら今言われるまで忘れてたし」
「本当に皇子なんですか?」
「本当に皇子なんです」
この2人のやりとりが面白くて、謎にツボった。
「あんた笑いすぎだよ」
「ベラだって笑ってるじゃん」
「僕と・・・・のに」
「ん?今なんか言った?」
私とベラがツボってる間にサーシャがなにかボソッと喋ったような...。
「ううん!何でもない!じゃあまた来るね」
「うん!また明日」
サーシャはそのまま振り返りもせずに帰って行った。
「ベラ。さっきのなんて言ったかわかる」
「私も聞き取れなかったわ」
「なんて言ったんだろう」
私たちは首を傾げた。




