ソルンの勘違い
「アダル以外の鳥の獣人? 私は見てない……と思う。ベァーテスは?」
「私も見ませんでした」
私は次にクオを見るが目が合うと首を横に振った。
「いたよ。多分」
店の奥の席からそう声がした。
「ソルン?」
奥の席にソルンが座って骨に付いた肉を囓っている。
「どんな?」
ルーフはソルンに駆け寄る。
「黒い変な羽の獣人」
「変な羽?」
「うん」
「……どう変なの!」
「どう?」
ソルンは首を傾げつつルーフの肩から生えている羽根の先を触る。ルーフの羽は肩から二の腕に掛けて生えていて、肘から先は羽と腕に分かれている。
「鳥の獣人、毛がある。でも毛の無い羽」
「毛の無い羽……蝙蝠族! そいつは今どこ!」
「さあ?」
「領境の町にはいつからいる?」
「ええと……クオが来たのと同じ日」
「貴女は何でその事を知ってる!」
「クオに獣人を助ける手伝い頼まれた」
「私はタリア達が捕まってしまったので、その手助けをソルンに頼んだ」
「だから助けた」
「ハァー……人違いだったけどね」
クオは溜息混じりに呟く。
「人違い?」
「最初にソルンにタリア達が捕まっていると伝えて、『特徴は?』と聞かれたから検問所で捕まった獣人と答えて待っていても釈放されなくて、『どうなった?』ともう一度聞いたら『もう助けた』と答えが返ってきて……」
「私は検問所にいた獣人を解放した」
「でもタリア達はその時はまだ地下の留置所にいた」
「私は獣人を解放した。それが黒い鳥の獣人」
「他に獣人がいるとは思わなかったんだよね……ハハハ」
クオは笑って誤魔化す。
「もしかして私達が一晩地下の留置所に入れられたのは人違いで助ける人を間違えたから?」
「そうかな……ハハハ。ソルンが間違えたから」
「私は間違えてない。クオからは獣人を助ける手伝いとしか言われてない」
ソルンはそう言って頬を膨らませる。
「私は獣人“達”って言ったよね?」
「忘れた」
「そんな事はどうでもいい!」
クオとソルンの遣り取りにルーフが声を荒げる。
『そんな事って……私達は一晩地下の留置所に入れられたのに……』
私はそう思ったが心の中だけで留めて置いた。隣の席で卵料理をまだ食べていたベァーテスも『そんな事』と言う言葉に顔をしかめるが料理を口に運ぶ手は止まらない。
「その獣人はどこに行った!」
「何軒かの料理店に行った」
「そう。大食い」
「いや……それはアダルの店を探してたんじゃ……」
私は思わずそう言ってしまう。
クオもベァーテスもシエルもユズも私の言葉に頷くのだった。




