オルエの強行手段
「待て待て! ルーフはユズの店に向かうと思っているんだ。だから店を変えられると困る」
オルエは慌てた様子で私達の行くてを遮る。
「困るって言われてもね? 別に私達はルーフを待っているとは言ってないし、ユズの店に行くとも言ってなかった。それを勘違いしたのが悪いだけで、私達は好きな店に行っても良いよね?」
クオはわざと分かっていてルーフが追い掛けて来られない店に行こうとしているのだ。
「ユズの店に連れて行く!」
オルエがそう言って私を後ろから抱き上げて背中に担ぐ様にして走り出した。
「タリアを放せ!」
ベァーテスが叫ぶがオルエの足は速い。私を持ち上げて走っているのにクオとベァーテスが追い付けないでいる。私も暴れてるがオルエの背中を叩くだけで走るスピードは落ちない。
「あんまり暴れると服が捲れてその辺の奴等に裸を見られるよ」
そう言われ急に恥ずかしくなって私は捲れ上がりそうな上着を手で押さえる。
「あれ? 昨日の獣人?」
もう直ぐユズの店に着く所まで来て、前から聞いた事のある声がした。
「邪魔!」
オルエが叫ぶが声の主は話を続ける。
「お前、秘密組織の鯱だよな? 仲間の鷹はどこにいるか知ってるか? 早く知らせたい事があるんだ」
その言葉にオルエの足が止まる。
「ルーフの事か?」
「そうだった様な。ルーフって赤鷹の獣人か?」
「そう」
「居場所を知ってるなら呼んでくれ、それか居場所を教えてくれ。私が行ってもいい場所なら」
「もう直ぐここの店に来る。待ち合わせしているから」
「それは丁度良い」
「それよりアンタ誰だ?」
「私? 私はお前達の先輩だな。閃光シエル。元組織センのメンバーの1人」
『そうだこの声。昨日の圧の強い人だ』
オルエに背負われて前の見えない私の頭に昨日の人族の顔が浮かぶ。
「苦しそうだから降ろしてあげたら?」
シエルの言葉に素直にオルエは私を降ろす。
「やっと追い付いた!」
それは丁度ベァーテスが駆け寄って来た時だった。
「卵料理ならここでも良いだろ」
オルエはそう言うとユズの店の戸を開けて私の背中を押して中に入る。
「いらっしゃぃ! おぉ、昨日のぉ。また来てくれたのか嬉しいよぉ」
ユズは笑顔で出迎えてくれる。
「卵料理を何品か頼む……1、2、3、4、5……5人分」
オルエは指を折りながら数えるとそう注文した。
『オルエの指……指だけど何か変?』
私はオルエの指を見て指の間が膜の様な物で繋がっているのに気付いた。
「何だ!」
オルエは私が彼女の手をジッと見ている事に気が付いて怪訝な表情になる。
「初めて見る形の指だったから」
「指?……ああヒレの事か……海で泳ぎ易い様になってるだけだ。これでも生まれは玄海領の海だからね」
オルエはそう言って手を開いたり閉じたりした。




